オペレーション0214

隊長室の前で深呼吸し、端末から呼びかける。
まだ、ちょっとだけ緊張する。
「あの、少女です、報告書をお持ちしました。」
「あぁ、入ってくれ。」
中ではベテランさんが煙草を咥えていたけど、私が部屋に入ると慌てて火を消した。
そんなに気にしなくてもいいのに。
「お待たせしました、どうぞ。」
最近は勉強を兼ねて、私が戦闘後の報告書を作ってるの。
報告書を作る事で、その時には気付かなかった事が色々判るんだって教えて貰った。
「少女の報告書は判り易くて良いな。
 以前、熱血に作らせた事があるが、アレは酷かった。」
難しい顔をして報告書を書いてるお兄ちゃんを想像して、ちょっと笑っちゃった。
首をぽきぽき鳴らしながら報告書を読むベテランさん、そっと背後に回って肩を揉んだ。
「おいおい、そんな事はしなくても…済まんな、デスクワークは肩が凝っていかん。」
広い背中、きっと、お父さんってこんな感じなんだろうな。
「俺を…恨んではいないか?」
「…?」
「俺が何人かの候補の中から君を選んだ、その所為で君は、ここで戦争をさせられている。」
「…いえ、皆さん親切にして下さいます、…わたし、この隊に来れて、良かったです。」
「そうか……楽になったよ、ありがとう。」
ベテランさんの前に回って、小さな包みを差し出す。
「これは?」
「…あの、チョコレートです、今日は…」
「あぁ、2月14日だったな、有り難く頂くよ。
 熱血はブリーフィングルームに居たな、早く持って行ってやれ。」
その言葉に、顔が赤くなっていくのが自分でも判った。
…ベテランさんの意地悪。

ブリーフィングルームには、クールさんとナルシーさんと少年君が居た。
スナイパーの位置取りについて、少年君に講義してるみたい。
クールさんは、最初は怖い人と思ったけど、そうじゃなかったの。
あまりお話しした事はないけど、いつもみんなの事を気にかけてる、とても優しい人。
ナルシーさんは、何でも知ってるし何でも出来ちゃうすごい人。
チョコレートの作り方も、ナルシーさんに教えて貰ったの。
少年君は、いつもにこにこしてて、みんなから可愛がられてる。
わたしも、少年君みたいに笑えたら良いのにって思う。
「…何か用か?
 …………これは?」
「チョコレートですよ、クール君。
 有難う御座います、少女さん。」
「ボクにもですか?
 嬉しいなぁ、あ、来月にちゃんとお返ししますね!」
ナルシーさんと少年君は喜んでくれてるみたい。
クールさんは、困ってるのかな?
「…済まんが、甘い物は余りな。」
「ご安心下さい、クール君のは甘さ控えめのビターチョコですから。」
「どうしてナルシーさんが知ってるんですか?」
「さて、どうしてでしょうね?
 (ぽりぽり)うん、美味しいですよ、頑張りましたね、少女さん。」
「あ、あの、ナルシーさんのおかげです。」
「少女さんの手作りなんですか?
 凄いや、ありがとうございます!」
「…そうか、ならば、受け取らん訳にはいかんな。
 ……有難う。」
「そう言えば、肝心の熱血君は何処に行きましたか?」
「…機体の構成を変えてみるとか言ってたな。
 シミュレータールームじゃないか。」
「少女さん、頑張って下さいね!」
もう、みんなしてからかうんだから。

シミュレータールームからお姉ちゃん達が出て来た。
「あら、少女さん、ごきげんよう。」
「あ、もしかして、シミュレーター空くの待ってた?
 ご免ね、占拠しちゃってて。」
「でも、面白いデータが取れたわ。
 また連携パターンを増やせるわね。」
お嬢お姉ちゃんとまじめお姉ちゃんは親友なんだって。
時々すごいケンカをするけど、次の日にはまた一緒に朝ごはん食べてるの。
インテリお姉ちゃんはすっごい勉強好きで、わたしの勉強も見てくれるんだ。
みんなをモデルにしたマンガを描いてるんだけど、ナイショにしてるんだって教えてくれた。
可愛く描いてくれるのは嬉しいけど、その、…エッチなのはいけないと思うの。
「お姉ちゃん達、えっと、これ、…いつもありがとう。」
「まぁ、私達にですの?」
「へぇ、手作りなんだ、有難う、少女ちゃん。」
「あーもう、可愛いんだから!
 あんな馬鹿兄貴なんて放っといて、私のお嫁さんになってよ!」
「抜け駆けはさせませんわよ、インテリさん。
 少女さんは、私と結婚するんですの。」
「いい加減にしなさい、二人とも。
 少女ちゃん、本気で困ってるわよ。」
「じゃあ間を取って、私達三人の嫁って事で。」
「それでしたら異存はありませんわ。」
「ん~、まぁ、それなら良いかな。」
えっと、あの、…ど、どうしよう?
「ふふ、冗談よ、安心してね。」
「折角ですから、お茶を淹れましょうか。
 良い茶葉が手に入ったんですの。」
「でも、少女ちゃんを引き止めちゃ悪いわ。
 少女ちゃん、兄貴ならハンガーに行ったわよ。」
「ふふふ、御武運を。」
「頑張ってね。」
むー、お姉ちゃん達まで。

ハンガーでは、整備班の班長さんとオペ子さんがお話してた。
搬入物資の打ち合わせかな?
班長さんは整備班の偉い人で、いつも大きな工具を持ってるの。
このハンガーで寝泊りしてるんだって。
オペ子さんは<<GRF>>の人で、戦闘の時は戦況を伝えてくれるの。
綺麗で落ち着いててお仕事も出来て、大人の女性って感じ、憧れちゃうな。
「あの、これ、整備班の皆さんでどうぞ。
 いっぱい作ったんです。」
「俺達にかい?
 有難う、少女ちゃんの機体は念入りに整備するからな。」
「えっと、オペ子さん…」
「私にも?
 有難う、少女ちゃん。
 …ここでの生活には、もう慣れた?」
「はい、あの、皆さんに良くして頂いてます。」
「そう、素敵な笑顔が出来る様になったのね。
 …少女ちゃん、
そっと抱き寄せられた。
「こんな下らない戦争なんかで死んではダメ。
 絶対に生き延びるのよ。」
「………はい。」
「そりゃ、<<GRF>>職員の台詞じゃないよな。」
班長さんが笑いながら言った。
「熱血を探してたんだろ?
 機体構成で煮詰まってたからな、屋上じゃないかな。」
お兄ちゃんは考え事する時、屋上で寝転がって空を眺める事が多いの。
「はい、行ってみます。」

階段を上がって、屋上に続く扉の前で立ち止まる。
どうしよう、ドキドキしてきちゃった。
大きく深呼吸して、ヘアバンド代わりのバンダナを触ってみる。
いつかの訓練の時に、髪が邪魔にならない様にってお兄ちゃんがくれた、迷彩柄のバンダナ。
私の1番の宝物で、出撃の時には必ず持って行く大切なお守り。
お姉ちゃん達は「センス悪い」って怒ってたけどね。
…うん、落ち着いてきた。
鞄に1つ残った包みを確認する。
お兄ちゃんの為に作ったチョコレート。
みんなへの「好き」とは違う、特別な「好き」を込めたチョコレート。
お兄ちゃんは鈍感さんだから、わたしの気持ちには気付かないと思うけど。
インテリお姉ちゃんは、「兄貴のは鈍いを通り越して『愚鈍』ね。」って言ってたっけ。
今はまだ、気付いて貰えなくてもいいの、…側に居られるだけで幸せだから。
でもいつか、この想いをちゃんと伝えるんだ。
もう一度、深呼吸する。
…よし、覚悟完了!
扉を開けて屋上に出る、思ったとおり、お兄ちゃんは寝転がってた。
まだわたしに気付いてないのかな?
もしかしたら、機体構成を考えてて、そのまま寝ちゃったのかも。

目標を確認、これより作戦行動を開始します!

【つづき】
0314の罠~包囲網~




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最終更新:2010年03月08日 00:25
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