「どうした、眠れないのか?」
ベースの屋上で星空を眺めている、小柄な後姿に声をかけた。
「あ、お兄ちゃん。
…うん、緊張、してるのかも。」
振り向いて、少し恥ずかしそうに微笑む少女。
俺達は明日、この<<スカービ渓谷>>で、<<EUST>>と戦う。
そしてそれは、少女の初陣となる。
緊張するなと言っても、まぁ無理ってもんだろうな。
少女の横に立ち、同じ星空を仰ぐ。
「大丈夫だ、俺が教えた事を実践出来りゃ、必ず戦果は上がる。
1ヶ月間の訓練を思い出せよ。」
「………うん。」
暫くの間、乾いた風の音だけが辺りを包んでいた。
心地良い静寂を破り、気になっていた事を少女に聞いた。
「後悔、してないか?
…<<ボーダー>>になった事。」
「…(ふるふる)。」
そうだった.
大切な物を守る為に<<ボーダー>>となり、戦場に立つ事を少女は選んだ。
自分が死ぬかも知れない事も、誰かを殺すかも知れない事も。
全てを覚悟した上での選択だった事を、俺は知っている。
「………済まん。」
少女の決意に対して礼を欠いた事を詫びる。
「ううん、…お兄ちゃん、優しいね。」
「俺がか?」
「うん、優しいよ。
(…でも、わたしにだけじゃなくて、きっと、誰にでも優しいんだよね。)」
「何か言ったか?」
「ううん、何も…。」
少女が体を預けてきた、そのまま抱き止める格好になる。
「全く、甘えん坊だな。」
「お兄ちゃんにだけだもん…。」
パジャマ姿の少女を抱きしめると、細く華奢な体が震えていた。
この子が明日、戦地に趣く。
そんな現実を、改めて突きつけられた気がした。
「お前は独りじゃない、俺が居るし、仲間が居る。
俺達はお前を信じる。
だから、俺を信じろ、仲間を信じろ、俺達が信じる自分を信じろ。」
少女の短い髪を手で梳きながら言う。
「…うん。」
再び、静寂が辺りを支配する。
「もう、大丈夫、だよ。」
少女はもう、震えてはいなかった。
俺の腕の中から、少女がゆっくりとその体を離す。
俺の頬に暖かく柔らかい感触が……へっ?
「えへっ、奇襲成功、かな。
お、おやすみなさい、お兄ちゃん(ぱたぱたぱた)。」
真っ赤に染まった頬を両手で押さえながら小走りで去っていく少女の後姿を見送った。
あー、その、……俺は今、一体どんな面してるんだ?
最終更新:2010年02月14日 17:27