「ふん、楽な仕事だ」
味方が前にも後ろにも。なんと温い仕事か。
対岸へGAXエレファント掃射。敵に頭を上げさせなければ良い。味方もなかなか頼もしい。続々と川を越えて敵地を猛進している。
敵も温い。榴弾でも撃ってくれば悪足掻きくらいにはなろうに。
「温い……温過ぎる。こんなものか」
確かに最前線ではないが、それにしたって抵抗が弱過ぎる。まぁ、安全に稼げるなら、良いことだろうが。
―陰?動いて……上空!?
遅かった、何かに取り付かれた。頭上から、何かが裂ける異音―
「温いんだよ。後ろだからって、気ぃ抜いてさ?」
輸送機の機長に酒を奢る約束をしたのは無駄では無かったようだ。
上空からの奇襲。機長には大分無茶を言ったが、結果戦果を挙げてみせれば、お偉方も文句は言わんだろう。
ヘビーガードタイプの首筋に、深々と突き立てたデュエルソードを逆手で掴み、そのまま盾にする。
だらりと下がった右手を退けて、エレファントのトリガを握り、そのまま引き絞る―
エンフォーサーが踊った。装甲を巻き上げ、緑色の奔流を吐きながら。
オーバーヒートしないよう、慎重に、しかし苛烈に弾丸を対岸に、敵の団体の背中に送り込む。
残弾は気にしない。どうせ人のだし、囲まれたら置いて逃げる。
対岸からの通り雨は、ヘビーガードに隠れてやり過ごす。
逃した敵は、挟撃する形になった味方に任せる。任せられるくらいの数はいるはずだ
他の場所から伸びていた対岸への火線が止んだ。気付かれたな。思っていたより撃てた。後は味方との合流を優先する。
が、その前に死に体のハードポイントからサワード・コングを剥ぎ取り、左肩に担ぐ。デュエルソードと交換だ。どうせ、使わないだろ?
狭い路地に入り込む。今、渡河するのは蜂の巣にしてくださいと言ってるようなものだ。
シュライクが目の前に飛び込んできた。出会い頭にアサルトチャージャーで突っ込む。姿勢は低く、右肩口でその腹をカチ上げる様に。
壁に叩き付けたシュライクの頭に、サーペントを半マガジン程叩き込む。これで充分。後方からロックオンの警告。
シュライクが飛び出てきた小道に逃げ込む。追ってきた火線の跳ねさせた石片が装甲に跳ねる。
その先にはヘビーガード。
「っ!チッ!」
咄嗟に飛び退く。迷わずそいつにコングをぶち込む。爆発。その成果を確認する暇なく横っ腹からまたシュライク。
予備の弾なんて無い、ただの鉄筒になったコングを投げ付ける。払い除ける隙に肉迫。やることは同じだ。サーペントを突き付けて―
躱した、いや、銃身掴んで逸らしやがった。弾丸は何もない空間を裂く。
相手の銃口がこちらを向く前に、懐に全身で飛び込む。左手に火器は無い、が、だからどうした。いちいち考える暇は無い。
左手でシュライクの顔面を鷲掴みに。サーペントを離し、相手の背中に手を伸ばす。その手に掴むのはデュエルソード。
バキンとハードポイントが異音をたてる。どうせ人様のだ。気にせずソードを引っこ抜き、押し退けると同時にそのまま胸へと突き立てる。
「っ、フッ!」
息をついた瞬間、ディスプレイが走査線に覆われる。白い砂嵐。ECMっ!?
衝撃。重力の方向が変わった。晴れたディスプレイの向こう、零距離にヘビーガード。
―装甲剥がれて、火花散ってんじゃないか!無理すんなよ!?
火器もソードも無い。向こうさんも同じの様だが、喜べるもんじゃない。ヘビーガードとの取っ組み合いなんざ、やってられるか!
カメラが黒く塗りつぶされる。いや、頭部を握られた。ヘビーガードに上をとられてる。良くない。
ブーストどころかアサルトチャージャーでも、これをひっくり返す程の推力は得られないだろう。
頭を掴んでいる指の間から見えたヘビーガードの頭を掴み返す。左手で掴んでいる腕をどうにかしようとする。が―
びくともしねぇ!?地力が違いすぎるか!?
ギシギシという音。頭部が軋む音か?冗談っ!?
傍らに倒れたシュライクからデュエルソードを引き抜き、刃先をこちらにまっすぐ、振りかぶるのが、見えた。
「チッ……諦めどきって、そういう事か?」
―嫌だね。せっかく、そうだ、せっかく見つけたんだ。彼女を。
また会えるとは限らない。また話せるとも限らない。だけど、手放しでそれを諦めるのは、嫌なんだよ!
生きるさ。泥臭くても、なんでも。
突き落とされるソードを右腕で横殴りにする形で受ける。腕は無惨にやられたが、切っ先はずらせた。
降りて来た柄へ左腕を伸し、掴む。再び振り上げようとするあちらと、振り上げさせまいとするこちら。クーガーとヘビーガードの力比べ。結果は見えているが、悪足掻きにはなる。
コクピットは警報に包まれ、機体は頭部と左腕の軋みを伝えてくる。
どれだけ無様でも、誰かがくれば、どうにかしてくれる『かも』しれない。
誰もこないかもしれない。来たところで見捨てられるかもしれない。ここには、友軍と敵軍はいても、味方、仲間と言えるものはいない。
それでも、一握りのお人好しが来る方に、今の俺は賭けたい。いや、賭けた―
何かが、横に―
火花が散った。
ヘビーガードが腰から真っ二つになり、転がる。傍らには
ティアダウナーを振り上げた、白いシュライク。
「は、ははっ……」
つい、笑いが漏れた。そのシュライクと通信を繋ぐ。
「ありがとう。助かった」
『別に、私のしたいようにしただけですわ』
聞き覚えのある声が、俺が誰かに言った様な覚えのある台詞を吐く。
「助けてやった、って顔しても良いんだぜ?」
『そ、そんなことしませんわよ!?』
クーガーを立ち上がらせる。サーペントを拾い、左のハードポイントへ。それからヘビーガードが拾ったデュエルソードも貰っておく。
『ちょっと、どこに行く気ですの?』
「前線。片腕でもデュエルソードくらいなら『前、それは蜂の巣にしてくださいと言ってる様なものと言っていたのは、貴方では?』
「ん、あぁ……そうだったな」
良く覚えてるものだ。なんとなく嬉しく感じる。
『貴方は充分やりましたわ。下がっても誰も文句はないでしょう』
「分かったよ。俺は撤退する……飲めないか?」
『え?』
「今夜、いや、別にいつでも良い。助けてもらった礼はしたい」
『わ、私は、自分のしたい様にしただけですわ』
意固地なものだ。その意地をほぐせるような冗談でも言えれば良いんだろうが、そういうセンスがないことは、自分がよく知ってる。
「俺は自分が思った様に言ってるだけさ……そうだな、ただ、君と話してみたい。俺はそう思っている」
好きな女を誘うのって、どうしたら良いんだろうな?分からない。
『随分と、率直におっしゃりますわね』
「回りくどいのは苦手でな」
『そういう言い方、勘違いされますわよ』
「そういうものか?」
よく分からない。
『そういうものなのです。まぁ、その御誘いを受けるのは、吝かではありませんけど。私も、貴方と話してみたいと思いますもの』
「そうか、良かった」
『……では、この戦闘が終わったら、貴方が座っていたベンチで』
「分かった。待ってるよ。改めてありがとう。そちらの幸運を」
『御安心を。今日の私はついていますの』
最終更新:2010年04月25日 22:19