「そう、そうです。ふむ、なかなか筋がいい。なかなか上手になってきましたよ」
「そうですか? それにしても…ナルシーさんって意外と肩はこってないんですね?」
「フフ、体調管理には気を配ってますからね。ありがとうございます、十分ですよ」
「あら少年くん。ナルシーさんの肩たたきですの?」
「はい、いつもお世話になってるので、肩揉みを」
「まあ…とても素敵ですわ。そうですわね、偉大なる先人を敬う気持ち、そしてそれを示すその態度!
尊いですわ…そう、このわたくしがベテラン様を陰ながら慕う気持ちに似たものを感じますわ!」
「…まあ、ツッコミはおいておいて、少年くんのマッサージ、なかなか上手でしたよ」
「あ、ありがとうございます! 次はベテランさんのところに行こうかな…あ、お嬢さんは肩はこってませ」
「皆まで言わなくても結構ですわ! そうですわね! わたくしの肩に触れたいだなんて…わかりますわ!
でも、いけませんわ…! ナルシーさんが称賛するほどの少年くんの腕前では、きっと、巧みな指先で
わたくしの体を…いいえ魔性の指先で心までほぐされて、やがてわたくしの体の隅々まで…」
「あ、あの別にそういう変な意味じゃな」
「そう、そして気付いたときにはわたくしの心も体も少年くんに奪われてしまう…ああ、なんと危険な!」
「き、危険なのはそこまで考えるお嬢さんです!」
「皆まで言わなくても結構ですわ! そうですわね! わたくしの危険なまでの魅力に少年くんが惹かれて
しまうのも無理も無いこと! でも、とても残念ですけれど、わたくしの肩を抱いていただくのは、
そう! ベテラン様ただ一人ですわ!」
「あのう…」
「はっ…! まさかベテラン様に取り入ろうとして少年くんはその技術を身につけましたの…!?
そうはいきませんわ! いえ、むしろわたくしが! わたくしこそがベテラン様を癒して差し上げなければ!
そうと決まれば兵は迅速を尊ぶ! ただいま、参りますわベテラン様ぁぁぁぁ!!!」
「………」
「…あ、あの、ナルシーさん? 僕は別に変な意味で言ったつもりは…」
「ああ、私は彼女の相変わらずの勢いに少々…ええ、少々驚いていただけですよ」
「そ、そうですか…」
「ええ、少年くんがそういう人物じゃないことはよーく知っていますから(がしっ」
「オペ子さんっ!?(びくっ」
「少年くんのマッサージはさぞ気持ちいいんでしょうね~(がしっ」
「それじゃ、早速マッサージしてもらいましょうか~(がしっ」
「勿論、私たちもマッサージし返してあげますね?(ぐいっ」
「い、いやあああああああ!! 助けてええええええええええええ!!!」
「…少年くんも相変わらずですねえ。しかし、私自身のマッサージの腕前を披露できなかったのは実に残念…」
「ふー、格納庫の整理って大変…あれ? ナルシーさんどうしたんですか?」
「おやインテリさん、お疲れのようですね。丁度良かった」
「はい?」
「ちょっと私のお部屋に来てくださいませんか。マッサージの練習にお付き合いいただきたい」
「へっ!? そ、その、汗をかきましたし、まだシャワーとか、心の準備」
「いえいえ遠慮なさらず。むしろ問答無用で。是非にお体の隅々まで気持ちよくなっていただこうと思いまして」
「も、もんどっ…、気持ち…よく…!?」
「ええ、折角の私の腕を披露できず少々欲求不満気味でして…おや? 何ですこの煙は」
「わ、わた…体を……隅々まで………欲求不満…………っ!?」
ぼーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
「インテリさん? 突然どうしたんですかインテリさん! 何故大破なさってるんです!?」
「ベテラン様ーーーーーー!」
「うおっ!? な、なんだお嬢」
「失礼致します、毎晩遅くまで書類と睨み合いが続いておりますでしょう?」
「ん、ああ、そうだな」
「わたくしがお肩をマッサージさせていただきたいと思いまして」
「…いいのか? 確かに肩こりが酷かったんだ」
「では、後ろを拝借致しますわね」
「…ほう、いい腕だな。弱すぎず強すぎず…いい具合だ」
「喜んでいただけて光栄ですわ」
「ああ。心も休まる…落ち着くな」
「…ベテラン様の背中は大きいですわね…」
「そうか?」
「ええ、それにとても暖かいですわ…おおきな、そう、麗らかな春の日差しのようなぬくもりのよう…(ぎゅっ」
「…お嬢?」
「ごめんなさいベテラン様…少しだけこのままで………すぅ…」
「…お嬢? もしかして、寝てるのか? …ふふ、随分大きな赤ん坊だな…」
「………むにゃ」
「…ん?」
「…ああ…べてらんさまぁ…(がしっ」
「む、むおお!?」
「すき、すき…あいしてますわぁあ…(みしみし」
「お、お嬢!? 寝惚けているのかお嬢!」
「べてりゃんひゃまあああああ(ぎゅうううう」
「ぬ、ぬおおおおおおお!?」
* * *
「…インテリの奴、何があったんだ? 昨日はひいひい言いながらハンガーで慣れない力仕事してたはずだろ?」
「うん。ヘビーガードがシュライクになったみたいに動きが素早いよね~。あ、そういえばオペレーターの
お姉ちゃんたちもすっごい元気だったの。なんかつやつやしてたよ?」
「それに引き換え…少年は見た目だけシュライクになったみたいだな。一日であんなにげっそり痩せこけるって、
一体何をすりゃあんなふうになるんだ?」
「…おなか、壊したのかな? あ、ベテランさんもすっごいよ!?」
「ベ、ベテランさん!? どうしたんですか、体中湿布だらけで!」
「熱血よ…戦士たるもの、相手が誰であろうと安易に背後を取らせてはいけない、ということだ…」
「ベテラン様ーーー! 今日もマッサージを」
「お、俺はセンサー自機貼り付けの練習に行ってくる!」
「つまりぃ…周囲に気をつけろってことー?」
「まあ、普通はそうだけど…味方と背中合わせじゃ駄目なのか?」
「それじゃあ、おなか合わせにしよー! お兄ちゃんだっこしてー!」
「おいおい、結局甘えたいだけなんじゃないか? しょうがないな、よっと」
「えへへー、お兄ちゃんを占拠っ♪」
「…熱血、少し自重しろ」
「真昼間から何してるのよ!」
「お、俺か!? 俺が悪いのか!?」
最終更新:2010年04月25日 22:22