アルメリア魔法兵の杖
アルメリア王国軍の
魔法兵科で制式配備されている魔法の杖。
正式名称は「プロメス式戦列長杖」。
戦場の花形、隊伍の要である魔法兵の戦線維持を助けるべく、
交戦距離の延長と継戦能力に特化した設計が為されている。
成形クリスタルを取り付けることでクリスタルからの魔力供給が可能。
杖先には着剣機構を備え、魔力が枯渇すれば槍として扱うこともできる。
魔法兵による支援火力の存在は、強力な武器であると同時に強固な盾でもある。
如何なる距離からでも攻撃を放つことのできる砲台が戦場でにらみを利かせることで、
敵対する勢力は安易な突撃策を採れず、戦況は膠着する。
戦いが長引けば、勝利するのは常に地力で勝る一方である。
大陸髄一の国力を誇るアルメリアが、その勝利をさらに盤石とするために生み出した武器。
そして、騎士だけが戦う旧来の戦場を一変させ、『生産力』という新たな指標を持ち込むことで、
国民全員を戦いに加担させた罪の具象である。
――フレーバーテキストより。
アルメリア王国の魔法兵が標準装備している杖。
長さ2m、太さは直径3㎝程度のスタンダードな形状の直杖。
鋼製の杖体に、高純度エレクトラムの芯を通してある。
先端にはミスリルで拵えた六角柱状のヘッドが取り付けられている。
術師から放たれた魔法というものは、大気中に微量に含まれる魔力の抵抗を受けるため、
本来は術師から離れるにしたがって速度と威力がどんどん減衰していく。
十分な威力を保てる交戦距離には限界があり、事実上の魔法の「有効射程」となっている。
超長距離間の魔法行使というある種の偉業を成し遂げられるのは、
魔術師界広しと言えども
『創世の』バロールはじめごく一握りの才ある者のみである。
話を戻すが、アルメリア軍の魔術将校(マギノクラート)であるプロメス一等術佐は、
攻撃魔法の野戦運用における根本的な課題を解決するよう王宮から要請を受け、
有効射程を可能な限り延長するための魔法杖開発に乗り出した。
そうして生み出されたのが本項で述べるプロメス式長杖である。
芯材に用いられたエレクトラムは魔力伝導率が非常に高い素材であり、
また杖尻から先端まで芯が真っすぐ通るよう設計されている。
杖に込められた魔法は発射台のように杖内を滑らかに加速し、先端から高速で射出される。
『初速の向上』。ようは魔法を超高速で杖から飛ばすことによって、大気に触れる時間を短くし、
大気中魔力から受ける抵抗を限りなく減らすという発想である。
目論みは的中し、魔法の初速は射程の延長に確かに寄与する結果が得られた。
幾度とない試行実験の末に最適な杖の長さや芯材の口径などを算出し、
製造コストや扱いやすさについても研究を重ね、ついに制式採用となったのが、
こんにち『アルメリア魔法兵の杖』と呼ばれる杖である。
従来の杖と比較して単純な投射攻撃魔法の射程は5割近く向上。
放たれる火の玉は、50㍍先の兵士が加える煙草に着火することさえできた。
この杖が標準装備されることで、アルメリア軍の平均交戦距離は実に30%伸びた。
また、射程以外にも隊伍を組んで運用しやすいよう工夫が凝らされている。
例えば魔法発動時に描かれる魔法陣は、隣の兵士と干渉しないよう、
小さな魔法陣がいくつも重なって描かれるようになっている。
(積層多重陣。大陸特許局認証済。)
さらに、術者の魔力だけでなく成形クリスタルを取り付けることで外付けの魔力源とすることができ、
物資の補給さえ絶えなければ理論上半永久的に戦場で魔法を放ち続けることができる。
『術師が疲れたら撃ち止め』という旧来の魔法戦闘の常識を覆し、
国家の生産力(=資金力)がそのまま継続戦闘能力に変換されるという、
まさに札束で殴る戦争といった様相を呈することとなった。
同時に、騎士や兵士といった戦闘職の数・練度が戦いの勝敗を決める時代が終わり、
クリスタルを生産する職人や工業従事者、それを支える家族や共同体までもが
『戦闘員』に数えられてしまう残酷な時代の幕が明けた。
最終更新:2022年09月12日 21:36