真一の夢の中に現れた謎の少女。
以下本スレの該当箇所を抜粋。
とある日の夜、真一は夢を見た。
夢の中の真一は、見渡す限り灰色の大地の上で、ただ一人立ち尽くしていた。
周囲に建ち並んでいた筈のビルや家屋――無数の建造物は、その全てが瓦礫となって崩れ落ち、荒れ果てた地面の上には、雑草さえも茂らない。
青く澄み切っていた筈の空は、どこまでも続く煙のような雲に覆われ、灰白色で染められていた。
まるで、世界の終わりみたいな――と、形容すればいいのだろうか。
そんな景色の中に一人、真一だけが取り残され、当てもなく立ち尽くすばかりだった。
――いや、彼の隣にもう一人、誰かの姿があることに気付く。
それは、銀の髪を持つ少女だった。
年齢は恐らく、真一と同じくらいだろう。
背まで伸びた長いシルバーブロンドは、一切の痛みもなく珠のような輝きを帯びており、双眸は湖みたいに青く透き通っていた。
彼女は今にも泣き出しそうな表情で――しかし、それでも固く誓った決意の色を瞳に宿して、真一に向き直る。
「わたしは、これからわたし自身の存在の消失と引き換えに、一度だけこの歴史を過去に戻します。
だから、どうか……どうかお願いします。今度は必ず、わたしたちと、あなたたちの世界を護ってください」
そう告げながら、瞳の中に涙を溜める彼女を見て、真一は咄嗟に何か言わなければという思いに駆られる。
しかし、夢の中の真一の口からは、言葉を発することができなかった。
「……それと、もう一つ。
わたしは過去からも未来からも消えてしまうけれど、あなただけは……少しでもわたしのことを憶えていてくれたら嬉しいです」
少女の瞳の端から、溜め込んだ涙が零れ落ちる。
それと同時に、少女はどこか照れくさそうに、はにかんで笑ってみせた。
真一が彼女の笑顔を見たのは、それが最後だった。
「……ありがとう。さよなら、シンイチ」
少女は振り返り、懐から取り出した銀の短剣で、自分の左手に十字の切れ目を入れる。
傷から血が溢れるその手を天へと掲げ、高らかに詠唱を捧げた。
そして、灰色の空が二つに裂け、そこから一筋の光条が降り注ぐ。
――その瞬間、真一の意識は途切れ、暗い闇の中へと落ちていった。
最終更新:2019年03月28日 18:52