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ウィリス「マーブルアーチの風」

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匿名ユーザー

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2003.9.7

9月7日

(略)

ウィリス「マーブルアーチの風」読了。技巧的で面白い。ウィリスらしくちょっと文学的なところもいい感じ。8点。しかしこの人、ほんとにロンドン空襲ネタが好きだねえ。受賞作で3回目だよね、ロンドン空襲ネタは(「見張り」、「犬は勘定に入れません」、そして本作)。マーブルアーチってのはロンドンの地下鉄の駅名。ロンドンのガイドブック買ってきちゃったよ。作品の雰囲気は「リアルトホテルにて」あたりとよく似てる。SFネタと夫婦の心理の綾が、うまく二重写しになってて上手い。このへんはいかにもウィリスっぽい。SFネタは、ロンドン地下鉄の駅で主人公が突風を感じ、謎を調べはじめるが、実はロンドン空襲で襲われた駅ばかりだった・・・というネタ(疑似科学説明は一応あるが、デタラメなので、SFというよりホラー、ファンタジーに近い)。これに二組の夫婦の不倫?話がからむ。

藤枝理論による展開
1 舞台設定
場所=ロンドン
時代=現代または近未来
状況設定=二組の夫婦(米国在住)がロンドンのコンベンションを訪れ、会議の合間に観劇や観光をするが・・・。

2 人物設定
わたし(トム)=語り手。ケイスの夫。平凡な男。
ケイス=トムの妻。他人の感じ取れないことを何でも敏感に感じ取る勘の持ち主。
サラ&エリオット=コンベンションにきたトム&ケイスの友人の夫婦。永年おしどり夫婦で通っているが・・・。
「御老体」=5年ぶりにコンベンションに来た老人、5年前、トムやケイスを連れてロンドン中を引きずり回したバイタリティの持ち主で、名声もありコンベンションではいつも人の輪が絶えない。
その他有象無象=コンベンションの参加者、ロンドン地下鉄の職員、乗客、通行人、チケット売り子、劇場の俳優、観客などなど、登場人物極めて多数で紹介し切れない。

3 変化(事件)
変化軸その1=「ロンドン地下鉄で謎の突風が吹く・・・硫黄や饐えたような匂いもする。周りの乗客は、列車がトンネルから押し出す風だと取り合わないが、どうも納得が行かない。主人公は一人で突風の謎を調べ始める」(謎の提示)?「この風は自分以外の通行人は感じないらしいことが判明、但し老人は別」?「ポール&ミルフォードとのディナー席上で何気ない会話から、突風を感じた駅がロンドン大空襲の被災地だったことが判明」?「大空襲の本を買って検証を始めると、完全にではないがほとんど符合する」?「ロンドン地下鉄の駅は空気の逆流層があるために排気が悪く、トンネル内の空気がぐるぐる循環していることがわかる」?「空襲時の突風がそのままぐるぐる回っているのでないかという主人公の推理」?「妻ケイスがロンドンの地下鉄に乗らないのは、20年前に同じ突風を感じたことがあったためだったことを告白」?「しかもケイスはロンドンのみならず米国の地下鉄などでも同じような突風や匂いを感じた経験があった」?「ケイスの解釈は、過去のみならず、こういった風や匂いは、未来の絶望や死といったものをあらかじめ知らせるものではないかというものであった」?「だから老人だけが突風を感じるのか、『御老体』が地下鉄を避けたのか・・・と主人公が納得」(謎の解決?)
変化軸その2=「ケイス、得意の勘で『サラが浮気をしてる』と嗅ぎ付ける。相手は誰か?」(謎の提示)?「トム、サラを見てもいつもと違う様子はなく、『今度ばかりは外れたな』と思う」?「トム、地下鉄の風を調べているうちに、サラ&エリオット夫妻&ケイスとの観劇の約束に遅れそうになる」?「地下鉄の駅を上がりながらサラと偶然あう」?「ホテルに戻るとケイスとエリオットが現れる」?「観劇場面、劇は不倫の話」?「劇に影響されて、サラがエリオットに、『あなたは不倫をしても気づかない』と愚痴る」?「エリオットがはっとなり、『相手は誰なんだ!』とサラを問いつめる」?「サラ&エリオットが喧嘩状態になり出て行く」?「劇中のヒロインのセリフにあわせるように、突然、ケイスが『離婚よ!』と言い出し出て行く」?「トムが追いかけて、ケイスをつかまえ、タクシーでホテルに戻ろうとするが折り悪しく他の劇が退けてタクシーが掴まらない」?「仕方なく地下鉄へ」?「地下鉄の駅で突風の話をしている内に、ケイスがトムとサラの仲を誤解していたことが判明する(トムが地下鉄を調べているとき、ちょうどサラも病気といって食事の約束をキャンセルしたりしていて、なおかつ、観劇の待ち合わせ場所に二人で走りながら現れた)」(謎の解決?)
2つの変化軸が合体=(地下鉄の風&夫婦の危機という克服すべき危難)「マーブルアーチ駅の突風を逃れて、トム&ケイスはエスカレーターを登る」?「上からも突風!」?「トムはケイスを抱きとめ、突風から守ることを誓う」?「これによって、突風が死の匂いから愛の匂いへと変わる」?「トム&ケイスはマーブルアーチ駅に戻って行く」(危難の克服)

4 分析
上記したところから明らかなように、この作品は非常に技巧的である(しかも夫婦の危機とSF的ホラー的アイデアをからめるところが何とも女流作家らしい)が、その実、物語の基本要素を踏まえたオーソドックスなエンタテインメントであることがわかる。感情移入の対象たる共感し易い平凡な一人称の夫(トム)の視点から、人物として、異能者(非常に敏感で勘がよく、また愛する対象である妻ケイス)を配置している。変化として、「ロンドン地下鉄の突風」というSF/ファンタジー的謎と、「不倫の謎」「夫婦の危機」という下世話な純文学的テーマとが絡みあわされる。そして、「異能者」たる妻が「ロンドン地下鉄の謎」を解く鍵となり、解かれた謎たる「ロンドン地下鉄の風」がひとつの媒介項となって、トムが妻の愛を取り戻すという、連鎖的な構造になっている。この「変化」「事件」の連鎖のさせ方が非常に技巧的で上手い。SFネタと夫婦の愛というおよそ結びつきそうにないものを結び付けているのも、非常にユニークだ。だが、その核にあるのはやはり、物語性の基本要素であり、本作がその単なる一変奏に過ぎないことは明らかだ。

さあ、残るは「ブロントの卵」「真理の都市」「コラライン」「ホミニド」「ハリポタ」「ブルーマーズ」の6編、頑張れ、おれ!!!

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