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Robert Holdstock "Lavondyss"

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■2004/05/07 (金) 01:53:32 ラヴォンディス読了

オールタイムベスト級の凄さだった。
まさかタリスが、巨大な樹に飲み込まれてしまうとは。そのタリスが体験する時間、空間、物理法則、因果律の一切がねじ曲げられた強烈なヴィジョンは、凄まじいの一言だ。その後の、ティグに夢の形で吸い込まれたウィンが語る『真相』も凄い。前半の数々の謎が、パズルのピースをはめ込むように解き明かされるが、しかし、説明されない『過剰なもの』をも残したまま、妄想をかき立てるエンディング。いいSF、いいミステリが必ず持っている、説明の合理性と「わざと言わずにおかれる、かすかな、しかし深い謎」とのバランスが絶妙だ。
そういう意味で、本書は、ミステリであり、SFであり、ファンタジーであるとともに、アンチミステリであり、アンチSFであり、アンチファンタジーである。
本書は、単純な怪奇話、森の幻想譚、超現実的設定でのミステリを超え、人類の原初的な、ある種ユング的な種族レベルの集合記憶を扱った、スケールの大きな進化SFでもある。その壮大なビジョンの中に、全ての神話、民話、輪廻転生、前世の記憶といった概念が全て統合されてしまう。そして、人間もまた森に象徴される『それ自体が生命である大自然』の一部にあらかじめ組み込まれた部分に過ぎない、と言っているかのようなそのサイクルは、人間と自然、文明といったものについてより巨視的で統合的な視角を与えてくれる。
とにかくこの世界設定、アイデアはあまりに強烈かつ魅力的で精緻に構築されており、ホールドストックが同じ舞台設定の作品を未だに書き継いでいるのも分かる気がする。

古本の通販で買った2冊のうち、処女長編の『リードワールド』も読み始めたが、これも面白くて、一気に200ページまで来た。テーマ的に、ミサゴシリーズとよく似ており、異星を舞台にしてはいるが、やはり「自然、宇宙と言う巨大な生命の一部としての生物、文明、人類」といった視点が強く感じられる。何より、理知的で巨視的なところがいい。それでいて、ミクロな人間的問題への掘り下げもリアルである。つまりは、穴がない。

このホールドストックという作家、全作品を「追っかけ」るに値する、久々の作家かも知れない。そういう作家は、ディックを筆頭に、必ずしも数は多くないのだが。

■2004/05/03 (月) 02:52:39 ラヴォンディス続き5

「あの娘の話を聴け。あの娘の話し方を。あの娘は取り憑かれているぞ&&」
父親の驚きを無視して、タリスは言った。「そういったものが全部、ライホープの森で本物になるのよ。夢の場所だわ&&」
ため息をつき、蒼ざめた顔を振る。「おじいちゃんは、わたしよりもよく分かってたわ。この手記を書いた男と話したんだもの。それからおじいちゃんは、わたしの民話の本に手紙を書き付けた」
「その手紙は読んだよ」キートンはつぶやいた。「とりとめもないし、ばかげている。ぼけ老人のたわごとだ」わざとらしく付け加えた。「死にかけた老人のね」
タリスは顔をしかめて唇を噛んだ。「死にかけてたのは知ってる。でも頭はしっかりしてたわ。ただ、全てを理解できなかったというだけよ。パパと同じ。わたしと同じ。でもおじいちゃんは手紙の中で、わたしはもう何かを理解し始めていると書いていたわ。そしてこの手記には──」急いでしおりを挟んだページを開いた。インクのしみがページいっぱいにある──「このページは重要だけど、読めないの。わたし思ったの──パパなら読んでくれるかもって。わかる? ここよ、『禁じられた地&&』って書いてある。その文だけは読めるんだけど、他のところがさっぱりわからないの」
父親は長いこと下唇をかみながら、そのしみの広がったページを見ていたが、やがて皺のよった額をこすり始め、ため息をつき、背を曲げて筆跡に目を凝らした。とうとう父親は身を起こした。
「うん」父親は言った。「わかるよ。何とか、単語はね&&」

(この後に手記の引用、父親の判読部分の引用が挿入される&&ああ~うめばちのラーメン食いたくなってきた。)

■2004/04/30 (金) 14:15:39 失礼、もっと古いらしい

Mythago Wood
1. Mythago Wood (1984)
2. Lavondyss (1988)
3. The Bone Forest (1991)
4. The Hollowing (1992)
5. Merlin's Wood (1994)
6. Gate of Ivory (1997)
これがfantastic fictionによるミサゴシリーズのタイトル
The Bone Forestというのはラヴォンディスの章にも出てくるが、別の話なのかどうか。どうも短編集らしい。

■2004/04/30 (金) 14:07:13 続き

I went on to write The Fetch -- very different novel -- and then tackled Mythago Wood 3: The Hollowing.

The Hollowing is a novel -- set in Mythago Wood -- about the European 'trickster' figure, the Jack figure. Embedded in the text is an aspect of the tale of Gawain and the Green Knight, and Jason -- an older, more savage Jason than the figure from the Greek myth -- appears in a cameo role, a set-piece tale that stands apart from the rest of the book. I'd wanted to try a different structure of storytelling, and The Hollowing tells several stories all of which entwine towards the end. For the first time I was able to give full rein to the 'Green Men' I created, the 'daurog'; and I was also able to give my characters a better diet! Several interviews at international conventions had pointed out that my characters existed on a diet of nuts, berries, squirrels and tree fungus. Didn't they ever get a decent meal? I incorporated a French psychology -- Arnauld Lacan -- who was also a cordon bleu cook. The Hollowing contains the complete recipe for Hare Stew a la Royale, straight out of Elizabeth David (and based on an eighteenth century recipe) delivered as part of an action scene. I'm glad to say, however, that the food gets worse as things fall apart and the mythago world takes over reality!.

The Hollowing was a joy to write. When Jason entered the tale he set me up for the Merlin Codex, still ongoing. I love working with the mix and match of different legends, and The Hollowing, of all my work, is probably the richest and most complex novel in this way.

「ミサゴの森」の直接の続編でなかったことで一部不満を述べたファンもいたそうだ。しかし、「The Hollowing」という続編が去年書かれているようだ。表紙の絵が掲載されているからもう出ているかもしれない。後でチェックしておこう。

■2004/04/30 (金) 14:07:02 ホールドストックのホームページより

Lavondyss was a novel built from dreams. I dreamed of 'Old Forbidden Place' and 'The Mortuary House', which feature very powerfully in the novel. The book took three years to write and there is no question that I became depressed in the middle of the writing. I wrote about this at the time: that I reached too deeply into my unconscious. I spent days meditating and trying to 'touch' the world I was creating, and some very sinister and frightening waking horrors emerged as a consequence. It was a relief to finish the book, but the journey had been fantastic. I used Walt Whitman's poem 'Darest Thou Oh Soul' (walk out with me into the Unknown Region...) as inspiration.

The reader response to the book was extraordinary. Mostly very favourable, occasionally hostile, though the hostility turned out to be more disappointment that I hadn't written a direct sequel. (My editor at the time apparently flung the MS across the room in disgust, though now he claims it to be the best of the Mythago Cycle). It has sold in 20 or so countries, generates more mail than all my other books put together, has been turned into an operetta, inspired the German heavy metal rock band Alvaz Perez (fine stuff from a Siouxie and Banshees-like group), artwork and -- of course -- masks. For a few years in the early 90's I was given masks wherever I went (there are ten masks in the novel, all of them 'gateways' into different unknown regions of the past). (By the way: I'm planning that direct sequel to Mythago Wood right now.)

■2004/04/30 (金) 13:57:57 ホールドストック

『アースウィンド』 Earthwind (1977)

* Tr:島岡潤平 Pb:サンリオSF文庫(Sanrio SF bunko)67-A
* Cover:三浦正幸 Co:安田 均(Hitoshi Yasuda) 1982/10/20
『リードワールド』 Eye Among the Blind (1976)

* Tr:葉川 弓/平田万由利 Pb:サンリオSF文庫(Sanrio SF bunko)67-B
* Cover:冨士俊雄 Co:阿部 寿 1982/11/15
『ミサゴの森』 Mythago Wood (1984)

* Tr:小尾芙佐(Fusa Obi) Pb:角川書店(Kadokawa Shoten)
* Cover:東 逸子 Co:山岸 真(Makoto Yamagishi) 1992/3/30
* ISBN4-04-791197-6
* 1985 Locus Award Fantasy Novel Nominee
* 1984 British Science Fiction Association Award Novel Winner
* 1985 World Fantasy Award Novel Winner
* 短編版:1982 Locus Award Novelette Nominee
* 短編版:1982 British Science Fiction Association Award Short Fiction Winner
* 短編版:1982 World Fantasy Award Novella Nominee
『エメラルド・フォレスト』 The Emerald Forest (1985)

* Tr:黒丸 尚(Hisashi Kuroma) Pb:新潮文庫(Shincho bunko)218-1
* Cover:松竹富士 Co:黒丸 尚(Hisashi Kuroma) 1985/7/25
* Novelization

Pen Name:ロバート・フォールコン(Robert Faulcon)
Short Fiction
「スカロウフェル」 Scarrowfell (1987)

* Tr:中村 融(Tohru Nakamura) ハヤカワ文庫(Hayakawa bunko)SF827 Ed:Christopher Evans & Robert Holdstock Other Edens
「夜の涯への旅」 The Time Beyond Age: A Journey (Supernova 1 1976)

* Tr:中村 融(Tohru Nakamura) S-Fマガジン(S-F Magazine)1992/6 No.428 Ill:栗原裕孝(Hirotaka Kurihara)
「ホールドストックからきた手紙」

* 書簡
* Tr:高橋道恵 SFの本1983/11 No.4

■2004/04/30 (金) 13:52:21 ラヴォンディス

「鳥の精霊の地」「森の影」121ページまで読了。
タリスは、樫の樹で会ったスカサックという青年に惚れ、彼を助けようとするが、素性不明の男女に連れ去られる。兄より先にまずこの青年の助けねばと思い詰めていた矢先、ウィリアムス氏と出会う。ウィリアムス氏はタリスと同様この地の霊感によって曲を作る音楽家である。タリスはウィリアムス氏によって音楽という新しい媒体を与えられ、件の樫の樹のそばで歌を得る。シャドックスハーストの祭礼に参加し、この歌を披露すると有名な歌であったことがわかる。ウィリアムスも曲に使ったという。やがてタリスは踊りの輪に誘い込まれ、鳥のような衣装の人影にまといつかれる。鳥の姿が空中に舞い上がったように見え、女の姿が群衆に消えて行った。その名は「骨」。タリスは陰鬱に自宅へ戻る。

次、「骨森」「精神地帯」ここまでで200ページ、第一部。
第2部「弔いの家」「突然の鳥の羽ばたき」「夢見られざるもの」「最初の森」「樹の精霊」
終章
の構成

面白くなってきたので訳さずにこのまま通して読む。気が向いたら後で訳す。とりあえず今日第一部絶対読み終える、ノルマ。

しかしこの作者、「襤褸棘の樹」もそうだったけど、文体やテーマにはっきりした特徴があるね。懐古趣味と幻想への傾きがある。「アースウインド」「リードワールド」がサンリオから出ていたが、入手して読まねばと思っている。

■2004/04/25 (日) 13:55:46 ラヴォンディス読み進む

漏れの予測、
ハリー=「骨折少年」の鹿。
語りの力で蘇った不滅の神話的ケルト世界に入って行き、時間の流れの異なるラヴォンディスで鹿に変わって違う時代に時々戻ってくる&&
というような設定か?

2004/04/25 (日) 02:06:06 ラヴォンディス翻訳進行中

たまにはマヂでやろうかと思ってます。
各章の少なくとも冒頭部分は訳し、読み終わった後に空白部分を埋めて完成させる予定。

■2004/04/24 (土) 19:51:10 ラヴォンディス

なかなか進まない。やっと40ページ、『骨折した少年の夢想』の章の3節途中まで。
『骨折した少年』とは、失踪したびっこの馬の名前。タリスはある日、窓か何かからその姿を見かけるが、父はとっくに死んだという。父は翌日タリスをピクニックに連れ出す。親子3人で森の中に入り、農場の邸宅(有刺鉄線に囲まれている)の前まで行き、タリスは中に入り見て回っているうちに男の人影を見かける&&。「ハリーはここまで来たんだ」と父が言う。
なかなか話が進まなくていらいらする。最近の小説ってみんなこんなのばっか。

■2004/04/24 (土) 00:59:31

ラヴォンディスちょっと進む。
クリストファー・プリースト『奇術師』買って読み始めた。HAPPY。何年も待ち望んだ翻訳なのだから、あらゆる障害の排除された状態で読まないと。やはり、旅行しかないだろう。一人になりたい。

■2004/04/23 (金) 12:11:13 ラヴォンディス 読み進む

タリスの生い立ち。どうも、キートンの孫らしい。キートンというのは確か、『ミサゴの森』で出てきた軍人だったと思うが&&。いま確認、ハリー・キートンと言う名前だった。スティーヴンを飛行機に乗せてミサゴの森上空を飛んだ飛行士&&。一度死亡して蘇った&&。
本書。
タリスの父:ジェイムズ・キートン
母:マーガレット・キートン
二兄:ハリー・キートン&&

そうか、つまり、あのハリーの妹が本書の主人公だったのだ。

この妹タリスは、祖父が手紙を付記したウェールズ伝説の本を読みながら、バロウの丘、ライホープの森などの自然の中で自分の物語を紡ぎ始める。

人の物語、神話を実体化する力場を持った森、ミサゴ、そしてその奥のラヴォンディス&&本書の行末は予断を許さない。

■2004/04/23 (金) 11:59:04 ラヴォンディス14

シニサロ 倒れた少年の夢想


その子は一九四四年九月生まれ、月末のある暖かく晴れた朝、洗礼を受けた。彼女は家族の中のウェールズ人、特に、優れたストーリーテラーであり、ウェールズの伝説の吟遊詩人『タリアセン』の能力と自分の能力を比較することが好きだった祖父に敬意を表して、タリスと名付けられた。タリアセンは地面から生まれ、『大洪水』を生き延び、将軍アーサーの冬の詰所で優れた物語を語ったという。
「ああ、わしの記憶では、わしも全く同じことをしていたんじゃが!」祖父は、より若く影響を受けやすい家族のメンバーにしばしばこう話した。
その古い時代のロマンティックな人物の名前に匹敵する女性の名前を誰も思いつかなかったので、『タリス』という名前が作られ、少女は洗礼を受けた。
これは単なる最初の命名式にすぎなかった。シャドックスハーストの教会で、年老いた教区牧師により、決まりきった儀式が行われた。儀式が終わると、家族全員が村の緑の広場に集まり、そこに生えた中空の樫の樹を取り囲んだ。晴れていたので、ピクニック用の毛布が広げられ、質素だが楽しい宴が行われた。戦時の配給制下とはいえ、自家醸造のリンゴ酒は手に入ったので、大瓶八本を飲み干した。夕方までに、祖父の語り聞かせる頑固で面白い伝説の物語は、混乱して支離滅裂な逸話と思い出の連続に変わり果てていた。祖父は面目を失い、農場へ連れ帰られて床に就いたが、九月末日の彼の最後の言葉はこうだった。「彼女のセカンド・ネームに気をつけるのだ&&」
祖父の予言は見事だった。三日後、夕まぐれ、庭園で起こった騒動で誰もが家から飛び出した。

***

疲れたので後はあらすじ。

■2004/04/23 (金) 01:43:31 ラヴォンディス13

ウィリアムス氏は、枯れかけた樹の中央の座り心地の悪い椅子から滑り降りた。ズボンから樹皮と虫を払い落とし、腕時計を見る。タリスはウィリアムス氏を見上げ、とつぜん暗い顔になる。
「もう行ってしまうの?」と訊く。
「最高だった」優しくウィリアムス氏は言った。「この二日間は素晴らしかった。一人を除いて、誰にもこの話はしない。その一人は絶対に秘密を漏らさないと保証する。私は、最初の真実のビジョン、真実の音楽を得た地の一つに戻ってきた。そこで私は、ミス・タリス・キートンに会い、四つの素晴らしい物語を聞いた」手をタリスに伸ばす。「そして、私はもう五〇年間生きたい。君をもっと知るように。その点では、君のおじいさんのようにね」
二人はゆっくり握手を交わした。ウィリアムス氏は微笑んだ。「だが、悲しいかな&&」
二人は野をもと来た方角へ戻り、シャドックスハーストへの乗馬道に着いた。すぐにウィリアムス氏は歩調を上げ、最後の別れの挨拶に杖を上げた。タリスはウィリアムス氏が去るのを見守った。
しばらく行ったところでウィリアムス氏は立ち止まり、振り返って杖に寄りかかった。「ところで」ウィリアムス氏は大声で言った。「私はこの野原の名前を見つけた。森のそばで」
「何ですか?」
「『また会いましょうの原』だ。そいつが不平を言うなら、老人がやってきて耕してしまうぞ! だからすぐに言うことを聞く、という意味だ」
「教えてあげるわ!」タリスはウィリアムス氏の背中から叫んだ。
「ぜひそうしてくれ」
「いい音楽を書いてね」タリスは付け加えた。「あのやかましいのはたくさん!」
「最善を尽くすよ」ウィリアムス氏の姿が見えなくなる辺りでその声が聞こえた。馬車道に沿った樹々で見えなくなったのだ。
「ねえっ!」タリスは叫んだ。
「今度は何だい?」叫び返す。
「私は四つも物語を話していないわ。三つだけよ」
「『倒れた少年の夢想』を忘れているな」ウィリアムス氏は叫んだ。「いちばん大事な物語だ」
『倒れた少年の夢想』ですって?
ウィリアムス氏が視界から消えるのを見ていた。最後に聞こえたのは、 ウィリアムス氏が前に『富める人とラザロ』と呼んでいたメロディを口ずさむ声だった。何が言いたいのだろう。『倒れた少年の夢想』?
やがて、地面を踏む音と、タリスの笑い声しか聞こえなくなった。

■2004/04/23 (金) 01:43:21 ラヴォンディス12

「わくわくする話だね」ウィリアムス氏も認めた。そして素早く尋ねた。「五騎の戦車と七本の槍の騎士は、どうして特別なんだい?」
タリスは虚ろな表情をした。「一騎討ちの回数よ。どうして?」
「バヴドウィンの戦場とは、どこだ?」
「誰も知らない」タリスは言った。「大きな謎なのよ」
「なぜ息子たちは、楯を持つ手で食事をさせられたのだ?」
「侮辱されたのよ」タリスはそう言って笑った。「楯を持つ手、すなわち臆病者の手。分かりやすいわ」
「息子の口づけ、とは正確に言うと?」
タリスは顔を赤らめた。「よくわからないわ」と言った。
「だが、君がその言葉を使ったんだよ」
「ええ、でもそれは物語の一部なの。私はすべてを知るには若すぎるわ」
「『真の石ではない石』とは何かね?」
「こわくなってきたわ」タリスは言い、ウィリアムス氏は微笑みかけ、手を挙げて、質問をやめた。
「君は魅力的な若い女性だ」ウィリアムス氏は言った。「君の語った物語は君の創作ではない。それは空気と水と大地に属している&&」
「あなたの音楽のように」タリスが言った。
「まさしくそうだ」座ったまま振り返り、背後の樹を見た。「だが、私の場合は、作曲中に影のような人影がささやきかけることはない。彼女を見かけたんだ。頭巾を被っていた。白い仮面をしていた」タリスを振り返る。タリスの目は見開かれている。「君たちの間に吹いている風すら、私には感じられるようだ」

■2004/04/23 (金) 01:43:02 ラヴォンディス11


タリスが話しやめたのにウィリアムス氏が気づくまで少しかかった。ウィリアムス氏はタリスを見、言葉と物語に耳を傾けていた──何度も読んだことのあるウェールズの神話を思い起こさせるものだった──そして、タリスの頬に赤みが戻り、虚ろな瞳に意識が戻ったのに気づいた。タリスは両腕を組んで、身震いをし、あたりを見回した。「寒いわね?」
「そんなことはない」ウィリアムス氏は言った。「ところで、話の続きはどうなったのかね?」
タリスはウィリアムス氏の言葉が理解できないというように彼を見た。
ウィリアムス氏は言った。「まだ終わっていないよ。ちょうど面白くなったところなんだ。息子は次にどうしたんだね? 王妃に何が起こったのだ?」
「スカサック?」タリスは肩をすくめる。「まだわからないわ」
「ヒントをくれないかね?」
タリスは笑った。その体は温度を取り戻し、今しがた彼女を襲った状況は既に去っていた。タリスは手近の低い枝に飛びつき、ぶら下がった。数枚の葉が雨のように男の上に舞い落ちた。「まだ起こっていないことのヒントなんて、あげられないわ」地面に降りて男を見ながら、タリスが言った。「でも、不思議な話でしょ?」

■2004/04/23 (金) 01:42:34 ラヴォンディス10

怒って、スカサックは母の元へ参じた。母はスカサックに約束を思い出させた。『速き狩りの地』『広き平原』『極彩色の王国』その他死に瀕した王の逃げる地がどこであれ、夫の精霊のもとに取り憑くのを助けるとの約束を。スカサックは約束を忘れておらず、その旨を告げて母に息子の口づけをした。王妃は、スカサックを賢女の元に送り、賢女はスカサックを三〇日間、月が隠れて次の月が出るまでの間引き止め、その間、賢女は恍惚として、『九つの静かの谷』を歩き回り、スカサックを満足させる城を探した。
遂に見つけた。それは真の石ではない石でできた、偉大な黒い場所であった。森の奥深く、円い峡谷と、荒れ狂う川と、冬枯れの地によって、世間から隔絶した地であった。いかなる軍勢もこの城を攻め落とすことはかなわない。いかなる者もここに住み、正気を保つことはかなわない。いかなる者も心に野獣を形成することなく、生まれた地に戻ることはかなわない。だが、末子はこの地を受け入れ、『古き禁じられた地』へと旅し、その白い軍旗を掲げた高塔を建てた。
永の年月が過ぎた。とりとめのない年月が。その間にスカサックの母はみまかり、仮面を着け、『古き禁じられた地』の王国へ葬られた。そして兄たちも。もっとも兄たちは、最も近い峡谷まで来ては弟が狩りをし、筆舌に尽くし難い獣を追っている姿を覗き込むのみであった。というのも、この地に在るものはすべて、人の心から生まれたものであり、すべての人が発狂していらい、すべての生物が発狂し、狂ったように走っていたから。

■2004/04/23 (金) 01:42:12 ラヴォンディス9

アーサーには大陸の南の城。キャンボグローン城として知られる。深い樫の森の中に高々と誇り高く櫓が建っている。それは丘の上に立ち、偉大な樫の門に達するにはくねくね曲がる道を馬で一週間。高い壁の上からは、赤い鹿と野生の豚がいっぱいの緑の森と、それに隠れた銀の鮭に満ちた水晶の水流が見えるのみ。これら全てがアーサーのもの。
だが、末っ子のスカサックには何が? 当時スカサックは戦場に遠征中で、偉大な黒き森の別の王の軍のために戦っていた。スカサックが戻ったときには父は彼を識別できないほどだった。傷の数々はひどいものだった。とはいえ美貌は保っていたが。だが、目に見えぬ多数の傷があり、この息子は深く傷ついていた。
さて、スカサックは兄たちが狩りの獲物でいっぱいの城を授かったと知るや、自らもこれを求めた。王はスカサックにダン・クラドク城を与えようとしたが、みすぼらしいものだった。ドーシク城はどうかと申し出たが、奇妙な幽霊が多数いた。オグミオルと呼ばれる要塞はどうかと言ったが、崖縁に立っていた。末弟は全て断り、王は怒ってこう言った。「ならばそなたには石の城はやらぬ! 他のものならば何でも与えよう、もしそなたが見つけるなら」
その日以来、スカサックは卓の炎の側に立ち、楯を持つ手でのみ食事を許された。

■2004/04/23 (金) 01:41:45 ラヴォンディス8

この中で、誰が王妃に気配りをしたろう? 末っ子スカサックのみであった。
「この血に塗れた土地で」スカサックは言った。「われらが母上の心臓をどこへ横たえよう?」
「余が己の名誉をけがさぬ限り、倒れた地に葬ればよい!」王は言った。
「それは惨い考えです」
「千の大釜に誓って、余がこの手で葬ろう、それこそが道だ」
おお、だが王妃の心臓は黒かった。末っ子を除く全てに対する、黒い憎悪、黒い憤怒、黒い激怒。母の口づけをしながら、王妃はスカサックにこう語った。「もし私が今この地で死ぬなら、私の心臓を賢女の作る黒い箱に入れなさい」
「喜んでそうします」息子は言った。
「心臓を箱に入れたら、それを城の土に満たされた部屋の中に隠しなさい。秋の雨がそれを洗い流し、冬の風が土とともにそれを動かせるように」
「必ずそうします」
王妃は、黒き心臓の美女、怒りに満ちた母、偉大だが冷酷な男の妻であった。自ら死してなお、その男に取り憑くであろう、『危難の王国』が存在する限り。
『枝の蕾』の時代に、再び盛大な酒宴が催され、王は息子たちに王国の城じろを与えた。モードレッドには、ダン・ガーナン城と呼ばれる城、大陸の東にある肥沃な山毛欅の森の巨大な要塞だった。壁の一辺に四〇基の櫓。城内には一〇〇〇人が住み、未だかつて不平の聞かれたことはない。森は馬のごとく背の高い野生のボアと、まるまる太った鳩だらけで、モードレッドただ一人が狩ることを許された。

■2004/04/23 (金) 01:41:24 ラヴォンディス7

夢の谷
王は四〇年間生き、息子たちは今や成人の男となった。彼らは一騎打ちを戦い、幾多の栄誉を得た。彼らは戦争で功績を上げた。
『玉蜀黍の耳』を讃えて盛大な酒宴が催された。一〇人の執事が蜂蜜酒を王の卓に運んだ。二〇人の執事が八つ裂きの雄牛を運んだ。女王の従女が雪のように白く秋の土の香りのするパンを作った。
「誰が城を継ぐのです?」ワインに酔いながら長男が訊いた。
「公平な神に誓って、お前たちではない」王が言った。
「どうして?」
「なぜなら、ただ余と王妃の体だけがこの城に生きるからだ」王が言った。
「それは面白くありませんね」モードレッドが言った。
「余がそう言えば、そのとおりになるのだ」
「私の七本目の槍の折れた柄が、継ぐのは私だと語っております」息子が挑戦的に言った。
「そなたにも城を与えるが、この城ではない」
ひとわたり議論が行われ、三人の息子は、卓の炎の側に立たされ、楯を持つ手でのみ食うことを許された。王の心は決まっていた。王が死んだとき、彼は最も奥の部屋に埋められることになっていた。外の部屋や庭は、全て、バヴドウィンの戦場の土、人びとの歴史上最も偉大な地の土で埋め尽くされることになっていた。要塞は王を讃える塚になるのだ。墓の中心部、王の見つかるべき中心部への正しい道筋はただ一つ。五騎の戦車と七本の槍を持ち、冷たく敵を屠り、凶暴な声を発する騎士のみがその道筋を見いだす。しからざる者には、バヴドウィンの幽霊戦士との戦いあるのみ。

■2004/04/23 (金) 01:41:00 ラヴォンディス6

だが、口を開こうとしたところで、変化がタリスを襲った。タリスは一瞬身震いをし、前々日ウィリアムス氏が見たのと同じように顔面がとつぜん蒼白になった。それこそウィリアムス氏の待ち望んだもので、彼は身を乗り出して興味深く心配そうに覗き込んだ。何かに取り憑かれたに違いない、とウィリアムス氏は考え、その事実にこれまでにもまして心乱されたが、手を施すすべも見当たらなかった。タリスはとつぜん、気分の悪そうな表情になり、両脚の上で体を揺らし、気を失わんばかりに憔悴しやつれ切った様子になった。とはいえ、タリスは立ったままだったが、目は焦点が定まらず、目の前の男の向こうを見ていた。長くとても美しい髪は、目に見えない風にそよいでいるようだった。タリスとウィリアムス氏のまわりの空気がかすかに冷たくなった。ウィリアムス氏はこの変化を的確に言い表すのにそれ以上の表現を思いつかなかった、『不気味だ。』何がタリスに取り憑いたにしろ、彼女を害することはないだろう、昨日も大丈夫だったから。だが、それはタリスを完全に変えてしまった。その声は同じ少女のものだったが、少女自身はすっかり変わり、その使う言葉は──たいていは年齢の割に洗練されたものだったが──とつぜん、劇的なまでに古めかしい言葉に変わった。
後方の下生えからかすかな何かが動き回る音が聞こえたので、ウィリアムス氏は身をよじって樹々の方を見た。確信はなかったが、一瞬、ウィリアムズ氏は、頭巾を被った顔面蒼白で無表情な人影が立っているのを見たように思った。雲の翳りが樹の表面の光の質を変化させ、人影は消えた。
ウィリアムス氏はタリスを振り返り、息を詰め、予期に震え、何か自分の理性を超越した存在の前にいると意識した。
タリスが再び物語を語り始める&&

■2004/04/23 (金) 01:40:37 ラヴォンディス5

「参ったね」ウィリアムス氏は言った。「退屈だ。娘はいないのかね?」
タリスは樹の中に座ったせっかちな男に、苛立ちのあまり叫び出しかねない状態だった。だがその後、混乱したような表情をした。肩をすくめる。「いたかもしれないわ。後でそれについても話します。だから、今は邪魔しないで!」
「ごめん」ウィリアムスはまた言って、なだめるように手を上げた。
「この三人の息子はスポーツと狩りと、遊戯と音楽が得意でした。そして」タリスは言った。「彼らは妹をとても愛していました。でも、彼女のはこれとは別の話!」タリスは鋭くウィリアムズ氏を見る。
「でも少なくとも、妹がいることはわかったわけだ」
「そうよ!」
「そして兄弟たちが彼女を愛していたと」
「そうよ! それぞれが違った形で&&」
「ははあ。どんな風に違ったのかね?」
「ウィリアムスさん!」
「でもそれは重要なことだろう&&」
「ウィリアムスさん! 話しているのは私よ!」
「ごめん」ウィリアムス氏は三度目の『ごめん』を、最も小さく、かつすまなそうな声で言った。
再び少女は、ぶつぶつつぶやきながら考えを整理した。そして完全に黙ったまま、両手を上げた。

■2004/04/23 (金) 01:39:44 ラヴォンディス4

タリスは顔を背け、もう一度ゆっくりウィリアムス氏と向かい合い、演劇がかった目線になり、両手を軽く上げて注意を引いた。「昔むかし」タリスは始めた。「三人の男の兄弟がいました──」
「今のところ、全くのオリジナルだ」ウィリアムス氏は微笑みながらつぶやいた。
「邪魔しないでって言ったでしょ!」タリスが鋭く言った。「それが規則なのよ!」
「ごめん」
「もし大事な部分で邪魔をしたら、ストーリーが変わってしまうのよ。そうなったら悲劇だわ」
「誰にとって?」
「彼らにとってよ! 人びとにとって。さあ。静かにして。私が知っていることを全部話すから、『古き禁じられた──』」言いやめる。「OFPについてね」
「耳を峙てて聴くよ」
「昔むかし」タリスが再び語り始める。「三人の男の兄弟がいました。彼らは偉大な王様の息子でした。彼らは、強大な要塞に住み、王様にとてもかわいがられていました。女王様にもかわいがられました。でも、王様と女王様はお互いに嫌いあっており、王様は女王様を巨大な北の壁にある高い塔の中に閉じ込めていました&&」
「今のところ、よく知っているね」ウィリアムス氏は悪戯っぽく口を挟んだ。タリスは睨みつけた。ウィリアムス氏は訊いた。「子供たちは、リチャード、ジェフリーにジョン・ラックランドという名前ではないかね? ヘンリー二世とアリエノール・ダキテーヌ王妃の話ではないか?」
「違うわよ!」タリスは大声で宣言した。
「間違えた。続けてくれ」
タリスは深く息を吸い込んだ。「長男は」タリスは聴き手に強い意味ありげな目線を投げながら言った。「モードレッドという名でした──」
「ああ、彼かね」
「王様の言葉、とても古い言葉で、その名前は『旅する少年』という意味でした。次男の名はアーサーで──」
「彼も古い友達だ」
「その名前は」タリスは怒った目をして言った。「同じ忘れられた言葉で、『勝利する少年』という意味でした。三男、つまり末っ子は、スカサックという名で──」
「それは初めて聞く名だね」
「その名は、『印を授けられる少年』という意味でした。この三人の少年は、何でもできる優秀な子でした──」

■2004/04/23 (金) 01:39:16 ラヴォンディス3

「まだ引退していないの?」タリスは悲しそうに訊く。
ウィリアムス氏は笑った。「おいおい、私は作曲家だよ。作曲家は引退などしない」
「どうして? もうおじいちゃんじゃない」
「私はまだ二六歳なのだ」ウィリアムス氏は樹を見上げながら言う。
「あなたは八四歳よ!」
一瞬、ウィリアムス氏はタリスを見返し、疑問の表情を浮かべた。「だれかが教えたのだな」ウィリアムズ氏は言う。「そこまで正確に推測することは不可能だ。だがいずれにしろ、作曲家に引退はない」
「どうして?」
「音楽がやってくるからだよ。だから」
「ああ、わかったわ&&」
「ありがとう。だから私は家にもどらなければならないんだ。私はここにいてはならんのだ。私がここにいることを誰も知らぬ。それに私は悪い方の脚を休めなければならぬ。だからこそ、私は君に約束を守ってほしいのです。私に話してください、あの&&」一瞬口をつぐむ。「話してください、この不思議な地、禁じられた、古き土地のことを。OFP(オールド・フォービドゥン・プレイスの略)のことを」
タリスは興味を引かれた顔をした。「でも、物語はまだ終わってないのよ。実際のところまだほとんど起こってもいない。私が学んだのは、物語のほんのさわりだけ」
「ならば、そのさわりだけでも話しておくれ。さあ。今。君は約束した。いったんした約束は、義務として履行されなければならない」
タリスの白いそばかすの浮いた悲しげな顔は、今はとても子供らしく見えた。そのブラウンの瞳が輝いていた。やがてタリスは瞬きして微笑み、子供らしさは消え、悪戯っぽい若い大人の表情が戻った。「わかったわ。『古き友達』に座って。そうそう&&では始めましょうか。座り心地はいい?」
ウィリアムス氏は樹の幹に抱かれて身じろぎしながら、質問について考え、答えた。「いや、よくない」
「けっこう」タリスは言った。「では始めましょう。途中で邪魔しないでください」厳しい顔で言う。
「息をつく暇もないだろうよ」とウィリアムズ氏。

■2004/04/23 (金) 01:37:49 ラヴォンディス2

「どうしてそうなるかね?」ウィリアムス氏は柔らかく言った。「私が聴いたり、学んだりするということは&&その贈り物は、聴いたり学んだりすることが可能なものということだ。それは、我々を訪れ、音楽や粘土細工、絵画として表現できるようになった瞬間から、我々のものだ。我々の所有物なのだよ。私はこれまで私の音楽を、そのように扱ってきた」
「あなたの意見では、私の物語もそのように扱うべきだと言うのね」タリスは言った。「ただ&&」躊躇う。まだ自信がない。「私の物語だけが『真実』なのよ。もしそれを変えてしまえば&&それは、ただの&&」肩をすくめる。「ただの無だわ。単なる子供のおとぎ話。そうじゃない?」
バロウの丘の樹に覆われた土塁の夏の野を見やって、ウィリアムス氏は細かく首を振る。「私には解らない」ウィリアムス氏は言う。「だが、きみの言う『子供のおとぎ話』にも重大な真実があると思う」
ウィリアムズ氏はタリスを振り返り、微笑む。そして、『古き友達』の割れた幹に背中をもたせかける。その目が強く輝く。「物語のことを話そう」と言う、「特に、『古き禁じられた地』のことを&&」
口に出してすぐ自分の言ったことを理解し、手で口を叩く。「ほんとうに申し訳ない!」ウィリアムス氏は言った。
タリスは目をきょろきょろさせ、諦めたようにため息をつく。
ウィリアムス氏は言う。「だが、どうだね、この物語は? 君がこの物語を語ってくれると約束してから、もう二日になるよ──」
「まだ一日よ」
「ああ、一日か。だが、私は聴いておきたいのだよ、そうしなければならなくなる前に──」
言葉を切って、心配そうに少女を見る。彼女を悲しませるのではないかと思ったのだ。
「そうしなければならなくなる前にって、何を?」タリスは少し興味のある表情を浮かべて訊く。
「行かなければならなくなる前にだ」優しく言う。
タリスはショックを受けた。「行くつもりなの?」
「行かねばならぬ」申し訳なさそうに肩をすくめて言う。
「どこへ?」
「どこか、私にとって非常に重要な場所へだ。どこかとても遠いところへ」
タリスは一瞬言葉を失ったが、両目は少し霞んでいた。「正確に言うと、どこへ?」
ウィリアムス氏は言った。「故郷だ。私の住む場所へ。ドーキングの寓話の国へ」微笑む。「私の働く場所へ。やらなければならない仕事があるのだよ」

■2004/04/23 (金) 01:36:32 ラヴォンディス、少し読む

『地塁』の章、23ページまで。
森の少女タリスがウィリアムス老人に語る、ウェールズ神話じみた王と息子の物語。末子の与えられた弧絶した城が、この森なのか&&? タリスは物語を、老人は音楽を授けられるのだが&&。この章の2と3を訳した。前作『ミサゴの森』との関連はまだよく解らない。ラヴォンディスというのは、ミサゴの森の更に奥の時間の流れの異なる地のことだったはずだが&&。

例えばこんな感じ。

タリスが『狩人のせせらぎ』と呼ぶ広い川のほとりのハンノキの茂みに彼らは立っていた。川はライホープの森から湧き出で、畑や森を縫う浅い渓谷を流れ、シャドウハーストに達し、そこで地下に消える。
ライホープの森は、外延を囲む黄色と赤の草薮から遥かに聳える夏の緑の濃密な絡まりである。樹々は巨大に見える。日陰が乱されることはない。その一方は丘を越えて延び、他方は手足のごとく伸びる幾列もの垣根となって消える。通り抜けることは困難に見える。
ウィリアムス氏はタリスの肩に手をかけた。「私が連れて行こうか?」
タリスは首を振った。そして、タリスは『狩人のせせらぎ』に沿って歩き、ウィリアムス氏と初めて会った場所を過ぎ、背後の暗い森の垣根から少し野に出たところに立つ稲妻に裂かれた樫の樹に達した。樹は死にかけ、幹の裂け目は狭い椅子の形をなしていた。
「これは『古き友達』よ」タリスは淡々とした口調で言った。「考え事をしにときどきここへ来るの」
「いい名前だね」ウィリアムス氏は言った。「だが、あまり想像的ではない」
「名前は名前」タリスは言った。「ただ存在するの。人はそれを発見する。でも変えることはない。それは不可能」
「それについては」ウィリアムス氏は穏やかに言った。「きみに賛成できない」
「一度名前を見つけると、それは固定されるのよ」タリスが反論する。
「それは違う」
タリスはウィリアムス氏を見る。「曲調を変更できるの?」
「そうしようと思えばね」
やや混乱して、タリスは言う。「でも、もしそうなら&&『曲調』とはいえないわね。最初の霊感とは言えないわ!」
「そうかね?」
「議論をふっかけているわけではないのよ」タリスは気後れしたように言った。「ただ私の言いたいのは&&最初の贈り物を、与えられたとおりの状態で受け取らなければ──聴いたもの、学んだものを変えてしまえば──それは多かれ少なかれ弱まってしまうのではないかしら」


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