【生年月日】
1942年1月27日
【出身地】
京都府京都市
【肩書】
京都大学大学院 医学研究科 客員教授
静岡県公立大学法人 理事長
等
【学歴】
1971年 京都大学大学院 医学研究科 生理系専攻 修了
【予想授賞理由】
抗原刺激を受けた成熟Bリンパ球で起こる現象、クラススイッチと体細胞突然変異に関する研究により。
【受賞歴】
1982年 朝日賞
1985年 ベルツ賞
1988年 武田医学賞
1996年 恩賜賞・学士院賞
2000年 文化功労者
等
【著書】
【主要業績】
- Latchman, Y. and Honjo, T. et al. (2001). PD-L2 is a second ligand for PD-1 and inhibits T cell activation, Nat. Immunol. 2 (3): 261-268.
- Muramatsu, M. and Honjo, T. et al. (2000). Class switch recombination and hypermutation require activation-induced cytidine deaminase (AID), a potential RNA editing enzyme, Cell 102 (5): 553-563.
- Freeman, G. J. and Honjo, T. et al. (2000). Engagement of the PD-1 immunoinhibitory receptor by a novel B7 family member leads to negative regulation of lymphocyte activation, J. Exp. Med. 192 (7): 1027-1034..
- Revy, P. and Honjo, T. et al. (2001). Activation-induced cytidine deaminase (AID) deficiency causes the autosomal recessive form of the Hyper-IgM syndrome (HIGM2), Cell 102 (5): 565-575.
- Nishimura, H. and Honjo, T. et al. (1999). Development of lupus-like autoimmune diseases by disruption of the PD-1 gene encoding an ITIM motif-carrying immunoreceptor, Immunity 11 (2): 141-151.
【研究内容】
本庶 佑氏は、リンパ球が抗体遺伝子にクラススイッチ組換えと体細胞突然変異という遺伝子改変を導入し、ウイルスや細菌などの病原体の認識と排除に最も適した抗体を作る仕組みを解明しました。とりわけこれらの遺伝子改変の際にDNAに切断を入れる酵素、Activation-induced cytidine deaminase (AID):活性化誘導シチジンデアミナーゼを発見し、そのメカニズムの全貌を明らかにしたことは国際的に高く評価されています。
日本ではH鎖を研究することにしました。H鎖は遺伝子が大きくて扱いが面倒ですから、誰も研究しないだろうと思ったのです。抗体には抗原を認識する可変部と抗原結合後の体内での処理方法を示す定常部があります。抗体を作るリンパ球B細胞は、多様な抗原を効率良く排除するために、最初にIgMというクラスの抗体を作り、その後に侵入する抗原の種類や侵入場所(粘膜:腸、気管)に応じて、IgEや、IgAなどの違うクラスの抗体を作り始めます。抗体のクラスによって、抗原結合後の処理方法が違うのです。このクラスを生み出すメカニズムを解明しようと思い、おじさんが抱えて運んでくれた高価なマウスに移植したミエローマ細胞から抗体のmRNAを精製し、cDNAを作って遺伝子の数を測定しました。
東大時代は通勤に電車で1時間半くらいかかっていたので、時間を有効に使うために座れる電車を選んでました。満員電車というのは意外と集中できるので、データ整理などは車内の仕事になっていましたね。
ある日、ミエローマ細胞の抗体遺伝子にはクラスによって違う欠失があるらしいことに気付きました。抗原結合後の抗体処理に関わる定常部の遺伝子は、遺伝子の一部を欠失させ、クラスを変えているのではないか。このモデルに矛盾がないようなH鎖の遺伝子の染色体上の順序を想定できたのです。興奮しましたね。家に戻って、ノートをひっくり返し、そのモデルと矛盾するデータがないか再度確認しました。それでも、矛盾は生じない。
翌日ラボに行って皆に話し、モデルを検証する実験を考えて、すぐに始めました。それがクラススイッチモデルです。このモデルは1978年にPNAS(米国学士院紀要)という雑誌に発表したのですが、その後でさらに『ネイチャー』のNews &Viewsで取り上げられて、国際的にも高く評価されたことで改めて嬉しかったですね。このモデルを最終的に証明するには、H鎖の遺伝子をクローニングし塩基配列を調べ、欠失を確認しなければならない。1977年に3ヶ月程、レーダー博士のところにクローニングの技術を習いに行きました。習ったばかりの技術を日本で行なうには、また手作りの連続です。この頃は夢中でしたね。抗体の遺伝子はゲノムに1個しかないのですから、大変でした。DNAを泳動したゲルで抗体のH鎖の遺伝子がとれたと確認できた時の嬉しさは、これぞ研究の醍醐味というものでしたね。これだから研究はやめられない(笑)。
遺伝子を手に入れてしまえば、後はやることは決まっています。配列を決めて欠失の確認をし、モデルが証明できました。クローニング技術を習いに様々な分野の人が研究室に来ましたし、私も電子顕微鏡写真の撮影のために、京都大学に行ったり、クラススイッチモデルをきっかけに多くの研究者との交流が広がりました。1979年、大阪大学に教授として移りました。阪大に移った頃から、論文の執筆と研究室の運営で忙しくて、自分では実験できなくなりました。この頃、37歳で教授は珍しくてマスコミの餌食にもなりましたから、その対応も大変でね(笑)。大阪大学は研究室の立ち上げにお金を貸してくれたのですよ。お前ならいつかどこからかお金を取ってくるだろうから、ゆっくり後で返しなさいということでね。日本ではちょっと珍しい懐の深さでしたね。ありがたかったです。こういう柔軟性がもっと欲しいですね。こういうことが研究を育てるんですよ。大阪大学には5年いて、その後は京都大学に移りました。
抗体の遺伝子がわかっても、実際にクラススイッチを起こすしくみはなかなかわからなかった。培養細胞で、クラススイッチさせなければならないのですが、まず、刺激を与えた時だけ高頻度でクラススイッチを起こす細胞はなかなか見つかりませんでした。分子生物学や生化学は比較的短時間でできますけれど、生物学になると時間がかかります。ここで焦ってもしかたがないので、じっくり時間をかけて材料を探しました。
望みのマウス細胞をようやく見つけ、クラススイッチをする時に発現する遺伝子を見つけました。それがAID(Activation Induced Cytidine Deaminase脱アミノ化酵素)で、この遺伝子を壊したノックアウトマウスを作って観察すると、そのB細胞はIgM抗体しか作らず、クラススイッチが起こらない。しかも、抗原に対する特異性をあげるため、抗体の抗原結合部位(V)にたくさんの変異が入るものなのですが、そのマウスでは変異がまったく起こらない。これは予想外でした。可変部(V)と定常部(C)の多様性を生み出す仕組みは、各々別だと考えられてきたのです。ところが、AID酵素は2つの反応を同時に制御している。この酵素はmRNAの塩基CをUに変換する酵素とよく似ています。現在、この酵素がどのようにクラススイッチに働いているかを解明しようと研究中です。モデルの提示が78年、AID遺伝子の発見は99年ですから、その間約20年。始めた頃に比べると免疫のしくみについてはずいぶん整理されてきたように思います。
【本人HP】
【その他】
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最終更新:2013年12月30日 21:27