第二章シルフ編
何処かの空間
「ふふふ。そろそろ宝器所有者がこの世界の私に会いに来るでしょう。」
「うわああぁぁ。」
空間の狭間で
カイルは、叫んでいた。
「■*▽▽▽§」
エルフ語なのか
シュシュも何か叫んでいた。
しばらくその調子でいると、突然目の前が真っ白になり、視界が開けてきた。
周りが暗かった。夜なのだろうか。
しかし、足の触から草原にいるらしい。
「ふうー、やっとついた。」
「着きましたね、カイルさん。」
テレパシーでシュシュが話しかけてきた。
「ああ。後、結局敬語なんだね。」
「すいません、カイルさん。エルフは基本的に敬語で話すんです。」
「そうだったんだ・・。ごめん、それが一番楽な話し方だったんだ。
でも、これからどうする?ここの世界夜みたいだし。」
「仕方ありません。今日は、ここで野宿しましょう。」
「え?」
カイルがそう思っているのも束の間、シュシュはもう寝息をたてている。
カイルは困っていた。シュシュは、かわいい。
エルフだからなのだろう。かわいい中にも美しさがある。
首のあたりで切られた髪。白い肌。サファイア色の瞳。
「寝れるのかな~。」
カイルはそんな事を考えている内に寝てしまった。
翌朝、カイルはパっと目が覚めた。世界は、明るくなっていた。
とりあえず、シュシュを起こすことにした。
シュシュを揺さぶりながら、テレパシーで呼びかけてみた。
「あ、カイルさん。おはようございます。」
シュシュも起きたので朝食をシュシュが持ってきていたエルフのパンですました。
「おいしー。」
素直に感想を言ったら、シュシュが、
「そうですか、良かったです。」
と、とても喜んでくれた。
カイルは、昨日の夜の事を思い出し、シュシュの顔をじぃっと見た。
「どうしたんですか?カイルさん。私の顔に何かついていますか?」
「う、ううん。な、何もないよ。そ、そうだ!あっちに街みたいなのがあるから、
いってみない?情報収集に。」
「え・・、あ!本当ですね。行ってみましょう。」
「その必要はありませんよ。」
突如後ろから、声がした。
「なっ、だれだ?」
「えっ。」
後ろには、薄いベールを纏いトランプのジョーカーのような格好をした者がいた。
「私の名は、ブラスト・シルフィーデル。シルフであり、この世界の宝貴所有者です。」
二人は声をそろえて言った。
「ええええぇぇぇ。」
シュシュは驚いていた。この世界でテレパシーを使える者がいたとは。
コロボックルの世界でテレパシーが使えたのは、
ドラゴン達が私に話しかけていたからだ。
エルフとシルフで会話ができたとしても、エルフ・シルフ・コロボックルの三人で会話をする
のは難しいはずだ。
「貴方達が来るのは、分かっていました、空間に穴が空いたときから。」
声や顔も中性的で男女の見分けがつかないが、雰囲気的に男のようだ。
「しかし、私は一人でXYZを倒します。手を出さないで下さい。」
「なんで・・」
言おうとしたとき、
ブラストにギンッと睨まれてしまった。
カイルは、それにものすごいプレッシャーを感じた。シュシュも同じようだ。
「何故・・・?」
やっとのことで声をしぼりだした。
「あいつは、私の美学に反します・・・!!・・・しかし、どうしてもというなら
私に勝ったらいいでしょう。二対一でけっこう。」
「うっっ。」
二人は顔を見合わせた。
「カイルさん・・・、二人であいつに勝ちましょう!!」
「ああ!!」
「おっ、やる気のようだね。では、いくよ。」
三人は同時に叫んだ。
「カイル!!」
「グランディオーソ!」
「風敷!!」
ブラストのベールがはためいた。首のあたりにダイアモンドがついている。
どうやら、あれがユグラのようだ。
どんな武器か分からないがとりあえず突っ込んでみた。
「うおりゃぁぁ。」
ところがブラストに斬りかかる前に何かに遮られてしまった。
「えっ?」
「ふふふ、知らないのかい?自然には四大元素というものがあり四つのユグラはそれぞれ
一つずつ使えるんだよ。今のは風で君を吹き飛ばしただけさ。」
「そうなの?」
シュシュにテレパシーで聞いてみたところ、
「ごめんなさい・・・、カイルさん。私が言うのを・・忘れてました。本当にごめんなさい。」
女の子に謝られるのは、少々きつい。
「うん・・、でシュシュは何をあやつれるの?」
「私は水なんですけど・・、カイルさんは多分・・炎だと思います。」
「うーん、どうやったらできる・・・?」
「コツ程度なんですけど・・・こんなかんじです。」
「・・・分かった!よし。」
剣をしっかりと集中して構えてみた。
シュシュが言ったのは、
「自分がユグラの中に入っていくような感じを想像してから、
ユグラに呼びかけてみて下さい。」
ボゥ、という音をたて剣のまわりに炎がでた。
「ほう、一発でだせるとは・・、しかぁし!君達が私に近づくことはできない。
私には風の護りがあるから!」
「やってみなきゃ、分かねぇだろうがぁ!」
しかしやはり近づくことができない。
「くっ。」
「威勢がいいのは口だけですか?それくらいでは、XYZも倒すことが
できませんよ。」
「?何いってんだ。」
そこにシュシュが入ってきた。
「カイルさん、すいません。今から私のいった通りに動いて下さい。
ひょっとしたら、あいつに隙ができるかもしれません。」
「えっ?」
「それは・・・・ごにょごにょごにょ・・・分かりましたか?」
「やってやるよ。」
「じゃあ、行きますよ。せぇの!」
「発炎!!」
「そんなに炎をとばしてどうするつもりだい?」
「ラルゴ・アンダンテ・アレグロ。」
「高水圧の水と炎で挟み撃ちですか?」
「おりゃぁ。」
「だが、いくらやっても私のところには届きませんよ。
さて、そろそろこちらからも攻めましょうか・・・。・・・覚悟!!はぁぁ!!」
風が飛んできた。カイルは限界まで炎を出していたので反応できていない。
そして風がカイルに当たった瞬間・・・、カイルは消えた。
「何?!」
「そーいうことか・・・。シュシュ!!」
「なっ、後ろだと!?」
「炎断!!」
炎が風を一閃した。
「よし!!」
カイルとシュシュは同時にそう思った。
鮮血が飛び、ブラストが倒れた・・・かに見えたがよろめいただけだった。
どうやら、寸前でかわしたらしい。頬に切り傷がついている。
「なるほど・・・・・。水と炎の温度差による光の屈折と熱の陽炎ですか・・・。」
「その通りです。貴方には、もう私達の本体を認知することができません!!」
カイルには、二人の会話の意味――主に光の屈折だの陽炎だの知らない単語など――がよくわからなかったが
作戦が成功した・・・というのは感じ取ることができた。
「シュシュ、もう一度今のでいこう!!」
「はい!」
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが・・・、炎と水で光りを屈折させるのなら
全ての炎と水を吹き飛ばしてしまえばいいだけです!!風敷・・・全開!!」
ブラストがそう言い放つと突如、山ほどもある巨大な竜巻が発生した。
「なっ、何だこれ・・・・?」
カイルがそうつぶやいた。やっと絞り出したような声だった。
それほどまでにこの竜巻のプレッシャーはすさまじかったのだ。
足がすくみそうになる中、カイルは二つの事を悟っていた。
一つめは、今の自分達では、どうあがいてもブラストに勝つことができない、ということ。
二つめは・・・、自分が時間を稼げば、犠牲になれば、シュシュを逃がすことができるかもしれない、ということだった。
あの大きな竜巻だ、呑まれてしまえば命など容易に消えてしまうだろう。
そして、カイルが庇おうとした少女も二つの事を悟っていた。
一つは、カイルと同じ勝てない、ということ。
二つめは、彼の思いを知ってか知らずか、カイルなら自分自身を盾にして「逃げろ!」とシュシュに叫ぶだろう、ということだった。
迫りくる竜巻を前に少年が叫んだ。
「オレが時間を稼ぐ!その間に逃げるんだ!!」
少女がそれに負けじと叫ぶ。
「いいえ!私も共に戦います!!」
「だめだ。あいつにはまだ勝てない!」
「それは、分かっています!」
「じゃあ・・!」
カイルがいい終わらないうちにシュシュが言った。
「たしかに、あいつには勝てません。ですが、一人で戦ったら絶対に死んでしまいます!
二人で戦えば、大けがで済むかもしれないじゃないですか!!」
「!」
「二人で戦いましょう、カイルさん!」
カイルは、苦しそうな表情をしていたが、やがて頷いた。
「・・・分かった。」
「カイル[発炎]・・・最大限発動!!」
「ユニゾン!!私の力をカイルさんに送ります。」
シュシュの力が流れてくるのが分かった。
「うおおおぉぉ!」
そして、竜巻とぶつかった。
炎と竜巻がせめぎ合う。
両者は、互角に見えた。だがやはり竜巻の方が強いようだ。
くそ・・・!ハァハァ、・・・くそ!
カイルはブラストを見据えた。いつのまにか空に浮いている。風を使っているのだろうか?
やべぇ・・・呑まれる・・・。くっ・・・。
とカイルがあきらめかけたその時だった。
竜巻がいきなり消えてしまった。
「ふふふふ、おもしろいですよ。あなた達は・・・。」
あれだけ戦ったというのに、涼しい顔をしている。
「まだ生かしておきましょう・・・。それでは・・・オルボワ~ル。」
そう言い残して風とともに去ってしまった。
しばらくの間、二人は無言だった。沈黙を破ったのはカイルの呻きだった。
「うっ。」
「?どうしたんですか、カイルさん。」
なんだ?視界がどんどん暗くなって・・・・・・。
ドサッ、という鈍い音が響いた。
「えっ、ちょっ、カイルさん!カイルさん・・・・・」
「カイルさん!カイルさん!」
カイルはシュシュの呼びかけで目を覚ました。
「あっ、よかったぁ。カイルさん、目を覚ましてくれて。」
起きて目の前にあったのは、シュシュの安堵の笑みだった。ここは、ブラストと戦った草原のようだ
竜巻の跡が残っている。
「そうか、オレは倒れちゃって・・。うっ・・・。」
「カイルさん、まだ起きあがらないで下さい。ユグラを使用するのには、けっこう力を使うみたいなんです・・・。
カイルさんはまだ二回目ですし。」
「・・・そっか。」
口では、そう答えたもののカイルは少しショックだった。
シュシュを守れなくてくやしい。守りたいのに守ることができない自分が苛立たしい。
「あの・・カイルさん、あの時私を守ろうとしてくれてありがとうございました。
私・・・とてもうれしかったです。だから、カイルさんも元気だして下さい。」
「・・・!!」
シュシュにいわれカイルはまた前を向こうという気になった。
カイルは、お守りのペンダントを開いた。祖母と父と母と幼いカイルが映っている。
「その子を、守っておやり。」
おばあちゃんにそう言われたきがした。
うん。おばあちゃん、父さん、母さん、オレ、シュシュを守れるくらい強くなるよ。
カイルはペンダントを握りしめ、そう決意した。
最終更新:2009年09月07日 16:54