第4章



少年が目を開けるとそこは大地の家のベットの上だった。
横にはシュシュがいて、目をひらいて驚いている。
だが、その驚きは喜びが混じっているようだ。
そして、シュシュは少年の名をよんだ。
「カイルさん!めっ、目が覚めたんですね!?良かった~。」
シュシュは安堵のため息をついた。
カイルと呼ばれた少年は一瞬、記憶が繋がらず混乱したようだ。
「カイルさん、あのときからずっと目を覚まさなかったし熱もでたりで…、みんな心配していたんですよ。」
シュシュにそう言われやっと記憶が繋がる。
「そうだ…、あのとき……」

カイルはXYZの三神将を名乗る武士と戦っていた。
迫り来る斬撃にあと数分耐え抜けばカイルの勝ちだった。
剣を打ち合う音が響いていた。
武士には何故カイルがここまで耐えるのか解せなかった。
こやつは先に二回も限界発動をしてるはず…。
どこにこのような力が残っているというのか。
だが、その時武士に斬撃がはねかえってきた。
「ぐっ…。」
浅いが胴に傷を負った。
なんということだろう、思案を巡らせていたとはいえ太刀筋が無数に分裂し
超高速抜刀という能力を持ったこの刀の速さを完全に上回ったのだ。
くっ……、時間か…。もはや攻撃することは叶わぬ。
武士はタイムリミットを悟った。
しかし、カイルはその直後倒れてしまった。
「がっ!はっ……。」
カイルは吐血していた。
そこへ武士が話しかける。
「血を吐くまでユグラを使い続けたか…。」
カイルにはもう答える力はない。視界も薄れていく。
「だが、勝負はそなたの勝ちだ。タイムリミットが来て話す位しかできん。
お主の努力を賞してわが名を教えよう。わが名は―――」

そこでカイルの意識は途絶えてしまった。
記憶がちょうど結びついたところでドタドタという音が聞こえて、部屋の
ドアが勢いよく開けられた。
「兄貴ー!!目が覚めたってホントさー!?」
大地が飛び込んできた。シュシュがテレパシーでそれを伝えたのだろうか、
カイルの目が覚めたというのはシュシュしか知らないはずだったのだが。
兄貴、というまだ呼ばれ慣れない言葉に多少とまどったが
「うん、もう大丈夫だ…。ありがとう。」
といった。
だが、そこでシュシュが少々重い口調できりだした。
「あの……、カイルさん、大地さん、これからのことなんですけど…」
そういえばそれはカイルも気になっていたところだった。
タイムリミットがあったから良かったものの、三神将には
まるではがたたなかった。
「お二人には……エルフの世界に来てもらいます!」
「どうして、エルフに決まったんさ?」
カイルがその疑問を思った時には大地が代弁していた。
「三神将と戦って、感じたんです。私達は圧倒的に力が不足しています。
ですから、ユグラと言う前に私達の基礎的な力を上げる必要があると思うんです。
だから、エルフの世界で修行をしてもらいます!!」
なるほど。そういうことだったのか。確かに力が足りないというのは同感だった。
シュシュはまだ続けた。
「大地さんさえ良ければなるべく速くいこうと思います。」
カイルもそう思う。ひょっとしたら、ここで今生の別れ…なんて可能性もあるのだ。
ここは大地のふるさとなのだから、決めるのは大地だった。だが…、
「よし!明日の朝でいいさ!!」
そんなシュシュの気遣いやカイルの思いなどそっちのけにしたような
明るい声で大地はそう言った。
「えっ、でももう少し遅くてもいいんですよ?しばらく会えない訳ですし。」
「いーや、もう決めたさ!今日の夜は宴会さ!!」
そう言って部屋から出て行ってしまった。しかし彼の声はよく通るので
「母さーん、今日の夜は…」という声がもれて聞こえてくる。
シュシュは数日前に大地の母から聞いた「言い出したら聞かない」といわれた
大地の性格について痛感していた。


夜になり始まったのはまさに「宴会」だった。
大地の家族だけでやるのかとカイルやシュシュは思っていたのだが、
どうやら村の人も来ているらしい。(シュシュから聞いた話だが、カイルが眠っている間
大地がカイルとシュシュのことを話したようだ。)
みんなでガヤガヤさわいでワイワイしていた。夕食としては十分になったが、
村人達は完全にお酒がはいっていた。
「よーし!乗ってきたから踊りに入るさ!!」
と、独特のなまりと聞き覚えのある声がした。
「いよ!待ってました!!大地の踊り!!」
村人の合いの手が入る。このままいくと、宴会はダンスパーティになってしまいそうだ。
故郷でもこんなお祭りが一年に一回くらいあったっけ。
そんなことを思い出していると、
「カイルさん……、私と一緒に踊ってくれませんか?」
横にいたシュシュから突然、声をかけられた。
「え?でっ、でもオレどうやってやるのか分からないし…。」
困ったような顔をするカイルにシュシュはいった。
「手をとりあって、見つめ合って、回り続ければいいんですよ。」
そう言ってシュシュは手を差し伸べた。
「カイルさん、私と踊ってくれますか?」
カイルは黙って差し出された手を取った。
シュシュは―――自分でも分からないくらいだったが―――「ふふ」と照れたように
笑った気がした。
そうして時間は過ぎていった。


翌朝

三人は空間の穴の前にいた。大地はもう別れを済ませてきたあとのようだ。
大地は別れ際、母に言われたことを思い出していた。
「今度、あんたが此処に来る時はお兄さんなんだから、しっかりやりなさいよ!」
大地は故郷を目に焼き付けようとして振り向きかけ―――やめた。
また此処に戻ってこれると信じて。
―――がんばってくるさ。
心の中でそう言った。
「じゃぁ、行こう!!」
カイルがそう言った。
そして三人はエルフの世界を目指して穴に飛び込んだ。

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最終更新:2010年02月01日 12:40