それから出て見えたものは壁のような物に囲まれた街、というよりは都市に
近かった。そして、その中心にとんがり屋根がたくさんついている建物があった。
「ここ…か。」
カイルは呟いた。
カイルの感想は“不思議”だった。
中世ヨーロッパのお城やその城下町という雰囲気なのだが、
それを知らないカイルには形容する言葉がなかった。
「はい、王都コンセンテス・デイ。」
シュシュが言った。カイルのつぶやきに答えたようだ。
「ここで修行するんさぁ!!」
大地もいった。ついさっき、大地は家族と別れてここに来たというのに元気そうだ。
「よし、行こう!」
そう言ってカイルは行こうとしたのだが、シュシュが
「あっ!カッ、カイルさん、ちょっと待って下さい!
あ、あの言いにくいんですけど、こっそり入らせてもらっていいでしょうか?」
「え?」
「へ?」
カイルと大地が声をそろえていった。
「ど、どういうこと?」
ここに来ようといったのはシュシュなのに何故こそっりなのだろうか。
「え?ええと…、い、色々と理由があるんです。こ、これ以上は聞かないで下さい!」
なんでだろう、シュシュがかなり焦っている気がする。
「じゃぁ、どうするんさ?」
大地が尋ねた。
「とりあえず、暗くなるのを待ちます。もう夕暮れ時ですし。」
シュシュの言ったとおり空はもう赤くなっていた。
「それから、目的地はあのお城です。」
シュシュがつけたした。
「?あの大きい建物…?お城っていうんだ?」
カイルはシュシュにきいてみた。大地も少々腑に落ちない顔をしている。
「え?はい…、そうなんです…。」
なんとなくシュシュの態度が怪しい気がしてきた。
「大地ー、稽古しようぜ!」
「OKさ!」
とりあえず、気にしないことにしよう。
カイルたちは都市の裏通りにいた。
都市の入り口の関所はなんとか通ることができた。シュシュが番人を半分気絶させたようなものだが。
一行は現在シュシュの先導で進んでいる。
シュシュは迷うことなく、裏通りを進んでく。が、やがて壁と壁の間の行き止まりに着いた。
「!ここです。あの、ここはお城の一室の足下なんです。今からこの壁を登ってもらいます。」
シュシュが静かな声で話す。
「こっ、これを登んの!?」
カイルは驚いて大声をだしてしまった。見上げると10メートルほどの高さに出っ張っている部分(窓)があった。
「はい。ここから入る所には、絶対に人はいませんから。」
それから、大地さん、先にカタストロフの力で登ってくれませんか?」
「おれっちさ?なんでさ?」
「大地さんが足下から木を出してそれに掴まり登った後、上から私達に同じ事をして下さい。」
「…分かったさ。」
大地はそういって
「カタストロフ…!」
自らのユグラを発動させた。
すると大地の足下の地面がふるえ、木が生えてきた。
大地はそのまま出っ張りから入った。
「オッケーさ。」
大地がいった。
だが、その瞬間、後ろの方から怒鳴り声がきこえた。
「こっちだ!こっちから声がしたぞ!」
暗くてこちらに気付いていないが、近づいてくる。
カイルは本能的に危険を察知し、シュシュの手をひいた。
そして、片方の壁を蹴り、もう片方の壁を蹴って出っ張りまで
ジャンプしたのだった。
「兄貴…すごいさ…。」
大地がつぶやいた。
だが、その視線はカイルから、下へと移っていく。そこにはカイルに抱えられた
シュシュがいた。
何故かシュシュの顔がみるみるうちに赤くなってゆくのが、
分かった――部屋には明かりが無く暗いのだが。
「カッ、…カイルさん!!あありがとうございました!」
「ゴ、ゴメン!急だったから…」
そんな2人のやりとりを見ながら大地は思う。
この2人って、なんかみてておもしろいさ!
「あ!そうだ、これからのことなんですけど…、
私について来てもらってれいいですか?」
「…分かった。」
すこしカイルが考えてから言った。
「じゃぁ、まずこの部屋を出ます。」
シュシュが歩いていった。
ついて行こうとすると、
大地が声を上げた。
「なんか踏んじゃったさ!なんさこれ…、暗くて良く分かんないさ…ぬいぐる」
「わー!大地さんとりあえず、先を急ぎましょう!!」
カイルは大地が分だものが気になり、後ろ髪をひかれる思いだったが、
部屋を後にした。
城の中は、綺麗に装飾がされており、「美しい」の一言で尽きると
カイルは思った。
いくつかの部屋を超え、やがてシュシュがまた別の部屋に入った。
部屋の中には、奥に大きい扉がありここに来るまでにみたどの部屋よりも
豪華だった気がした。
「2人にはここで待っていてもらいます。私はこの奥で
お母様と話しをしてきます。」
「!?」
「へ?」
シュシュのお母さんが奥にいるらしい。
カイルは頭の上のハテナマークとビックリマークが消えなかった。
だが、シュシュはそう言い残すと行ってしまった。
「……それにしても、ここって豪華なとこさ~。」
大地が言った。同感だ。カイルのふるさとなどからは想像もつかない。
「兄貴…、おれっち目がちかちかしてきたさ…。」
「少し酔ってきた…。」
2人してそんな愚痴をこぼしていると、いきなり奥の扉が開いた。
カイルは一瞬、シュシュが2人いるかと感じた。
しかし、次の瞬間それは自分の錯覚だと分かった。
片方が自分と同じくらいのシュシュより明らかに背が高かったからだ。
背が高い方が、シュシュのお母さんなのだろう、化粧もしていて
シュシュにはない艶やかさがあった。「大人の人」だった。
でも、それを除けば透けるような白い肌や藍色のひとみなど、
シュシュにそっくりだった。
「お母様、こちらがコロボックルの宝器所有者のカイルさん、
同じくドワーフの大地さんです。」
こういうことなら前もって言って欲しい。
カイルと大地はそう思いながらも、
「え、えーと…、え?よ、よろしくお願いします。」
こういった。
そんな様子がおかしかったのかシュシュがクスッと笑うと続けて、
「カイルさん、大地さん、こちらが私の母である
ソフィア・ルゥ・ファイリーです。」
といった。そして、
「こちらこそ。」
と微笑を浮かべてシュシュのお母さんはいった。
声もシュシュとは違い、艶っぽかった。
「シュシュから話しは伺いました。2人ともシュシュと
同年代だなんて驚いたけど…、イイ顔してるわね。」
これはほめられたのだろうか?
「シュシュはまだまだおてんばな所もあるけど、
よろしくね。」
「は、はぁ。」
こういう時になんて言えばいいんだろう?
カイルはそのことで悩んでいた。
シュシュを見ると僅かに顔を赤くしているようだった。
「シュシュが立派な女王になれる日は何時なのかしら…。」
「え!?今なんて…、え!?シュシュって…え?
エルフの王女様なの……?」
「あ!」
「ふーん?」
「へ?」
カイルは3人いっぺんに見られた。一つはシュシュの何かに気付いたような「あ!」、
二つ目はシュシュのお母さんの意味ありげな「ふーん?」、
そしてもう一つは大地の「へ?」だった。
「兄貴…、知らなかったんさ?」
大地は知ってたのだろうか?
「え?だって、そんなの聞いてな…」
「いや、でもお城に住んでるんだから、気付いてたと…。」
その様子をシュシュのお母さんが楽しそうに見ていた。
「ふふふ、シュシュ、言ってなかったの?
貴方達って、本当におもしろいわねぇ。」
シュシュはそんな母の言い方がどういう意味なのか分からず、
首をかしげていた。
「あ!そうだ…、それよりシュシュ、修行だったわね。
ええ、明日の朝には全部用意しておくわ。
3人とも、今日はお休みなさいな…。」
カイルと大地はまだ論争を続けていた。
シュシュがその中に入り、説明する。
その部屋ではそれから小一時間ほど笑い声と驚きの声が絶えなかった。