第6章 3on3


カイルシュシュが朝の部屋の前まで戻ると中から大地とエイリーの声が
声がした。
「え~と…、要するにシュシュの姐さんがずばーんと進化
するってことさ?」
「まぁ、平たく言えばそうなりますね……、あ!シュシュ様、
お帰りなさいませ。」
二人は入ってきたカイル達に気づいたようだ。
「ただいま、エイリー。」
とシュシュが言った。
「おお!ホントに髪の毛がのびてるさ!なんか、すごいんさ!?」
どうやら、自分たちがお墓参りに行っている間に目が覚めた大地は、
エイリーさんから一通りのことは聞いたようだ。
朝の自分のほど驚いていない。
そうしていると、扉が開きシュシュの母――ソフィアが入ってきた。
「シュシュ、そろそろよろしいかしら?」
カイルはソフィアの「よろしいかしら?」には父親のことも含まれている
のではないのかと思ったが、口には出さなかった。
「ええ、あの二人をここへ呼んで下さい。」
「分かったわ。」
ソフィアはそう答えると部屋を出た。
「そういえば、シュシュ…、二人って?」
カイルは気になったことわシュシュに聞いてみた。
「え?あぁ、それについてはこれから話そうかと思ってたんですが…、
私たち三人はこれから、一対一…、つまりマンツーマンで修行を
するつもりです。」
そうなんだ…。そういえば修行のことはあまり聞かされてなかった気がする。
ん?でも、マンツーマンってことは、先生も三人いるってことだよな…?
シュシュは「二人を呼んで」って言ってたけど数が合わないような……。
「あの、シュシュ…」
そこまで、言ったとき再び扉が開いた。
ソフィアが横に二人の男性を連れて入ってきた。
「紹介しますね、私の左隣にいるのが、リブラ。
カイル君の修行をみてくれます。」
リブラと呼ばれた男性――ギリシャの彫刻を思わせる顔立ちだった――
はカイルの方へ「よろしく。」と会釈した――カイルも慌てて返した。
「そして、私の右隣にいるのが、ジェミニ。
大地くんの修行を見てくれます。」
今度はジェミニと呼ばれた男性が大地の方を向いて会釈をした。
カイルは2人を見ていて、何となく似ている気がした。
兄弟なのかもしれない。
「そして、最後にシュシュの修行をみてくれるエイリー。」
「はい。」
エイリーが返事をした。
カイルはメイドさんのエイリーも?、と少し驚いたが、
誰も何も言わないので、そうなんだと一人で納得する。
「それじゃぁ、3人を頼むわね……、コンストレイション兄妹。」
コンストレイション兄妹……?ってことはこの3人って兄妹!?
大地を見ると、大地も驚いた顔をしていた。
確かにそう言われてみると、3人とも、何処か似ているような気がする。
「カイル君と大地君だったね…?机の方に来てくれないか?。」
リブラ――カイルの先生――がカイルと大地に言った。
2人が机に近寄るとそこには小さい機械が四つ、机の上に置いてあった。
「これは……?」
カイルがぼやくと、
「君達専用のイヤホンです。」
ジェミニが答えた。
「イヤホン?それって、何に使うさ!?」
大地が早い口調で言った。早く体を動かしたい、そんな気持ちが伝わってきた。
「君達は今、シュシュ様や私たちとテレパシーを通して会話をしている
だろう?それでは少々、不便だと思ってね。私たちで昨日作ったんだよ。」
聞いたところ、2人は普段、研究者をしているようだ。
しかし、まだ話しが見えてこない。
「説明をすると、長くなるから簡単に言うよ。
これをつければ、普通に会話ができる。」
「そ、そんなことできるんですか?」
と、疑問を口にしたのはシュシュ。
「はい、シュシュ様。とりあえず、2人につけてもらうのがいいだろう。」
といって、カイルと大地にイヤホンを差し出した。
カイルは受け取ると、それをはめてみた。
すると、
「聞こえるかい?」
というリブラの声が聞こえた。
「あ、聞こえる……。」
カイルは小さな感動を覚えた。
「へー!これってすごいんさ!!」
と大地も驚いている。
「調子が悪くなったら、言ってくれ。それでは修行に移ろう。」


カイルはリブラに城の中庭のような場所に連れてこられた。
「それじゃぁ、カイル君。この木からむこうのあの木まで
全力で走ってくれるかな?」
リブラが木を指さしながら言う。
間隔は50メートルといったところだろうか。
カイルはコクッ、とうなずく。
「それでは……、よーい、スタート!!」
リブラがそういうと、カイルは勢いよく走りだした。

カイルが走り終えると、リブラが「フム。」とつぶやき、
「じゃぁ、次はこれをジグザグにスラローム走行してくれるかな?」
と言った。
カイルがそれを見るとコーンが10個、等間隔に並んでいた。
「よーい、スタート!!」
リブラが言った。

走り終えたカイルはハァハァ、と息を切らせながら
「こ…ハァ、れは…?」
リブラはしばらく手を口にあてていたが、やがてひらめいたように
手を放し、
「カイル君、今ので君のスピードを見させてもらった。」
そう言ってカイルに背を向け、別の方向に歩きだした。
それを見てカイルは、
「ど、何処行くん…ですか?」
とあわてて聞いた。
すると、リブラは
「ついてきてくれ。君の修行の内容が決まった。」
と静かに答えた。


同時刻

「先生~、どこまでいくさ~?」
ジェミニにつれられているのは大地。
「もう少しですよ。」
ジェミニが言う。
「あ…、着きましたよ。」
大地が見るとそこは訓練場だった。
重そうな剣や鎧が並んでいて、鉄アレイまで置いてある。
しかし、大地の目をひいたのはテレビ大の
岩がおいてあったことだ。
「それでは、まずこれを持ち上げてくれますか?」
そう言ってジェミニが大地に差し出した物は鎚だった。
鎚くらいなら故郷で何回もふった大地だったが、
少し、大きいとも思った。
「それを使って、岩を壊して下さい。」
ジェミニが言った。
大地は
「オッケーさ!」
と言うと鎚を岩にむかって思い切り振り下ろした。
大地の鎚が当たると岩は大きい破片となって砕け散った。
ジェミニはその砕けた欠片を拾って見つめると、
「よし、修行をどうするか決めました。中庭に移動するのでついて
きて下さい。」
と言った。


同時刻

シュシュとエイリーはホールにいた。
このホールは普段、お城でめでたいことがあった時に使うのだが、
今回は特別に使わせてもらった。
「それではシュシュ様…、修行を始めさせていただきます。」
とエイリーにいわれ、シュシュは、一夜で腰までのびてしまった髪を
ひもでポニーテールに結わえた。
「ハイ!エイリー。」
シュシュは勢いよく頷く。
「まずは、シュシュ様の反射神経をみさせてもらいます。」
そう言って、エイリーはステージの裏へ入っていった。
しばらくすると、エイリーがブランコのような器具を
ひきずってきた――器具の下に車輪がついていた。
ただ、ブランコと違ったのは座る椅子の部分がなく、
代わりに木の棒が縦に3本つるさげられていた
棒をくくっている縄も3本、棒も3本だった。
「これで…、どうするのですか?」
シュシュは尋ねた。
「今から、この棒を振り子のように揺らします。揺らすときに
3本に時間差をつくります。シュシュ様はその中で、棒が停止するまで
よけ続けて下さい。」
エイリーが説明をしながら、棒の一本目を持ち上げ始めた。
けっこう太く長かったので重いそうだったが、
エイリーが普通に持ち上げている様子を見ると、
意外と軽いのかもしれない。
「シュシュ様、中にお入り下さい。
……では、いきますよ。」
エイリーが棒から手を放した。

一本目がむかってみた。
シュシュはそれを軽くかわす。
続けて、二本目が来た。
こちらも軽くかわすが、新しくきた三本目と戻ってきた一本目の
挟撃にあう。
シュシュは先にきた一本目をかわし、三本目もさける……
が、さけきれず棒が頬をかすめる―――。

結果、シュシュはまともには一つもあたらなかったが、
何個かかすめてしまったのがあった。
ハァハァ、と息を切らすシュシュをよそにエイリーは
冷静にメモをとり続ける。
「シュシュ様、修行の内容が決まりました。」
エイリーがメモをとるのをやめ、シュシュに言った。
シュシュは、エイリーは何をする事にしたのだろう、
と考えかけたが、疲れているので止めた。
ふと入り口の方を見るとそこには―――。


カイルはリブラにつれられ、廊下を歩いていた。
何処にむかっているのかは、聞かされていない。
――シュシュといい、リブラといいエルフは行き先を告げないのだろうか?
リブラが扉を開け、部屋に入っていった。
カイルもそれについていき部屋に入ると、
そこには―――シュシュがいた。
「シュ、シュシュ!?」
「カ、カイル!?」
カイルとシュシュが同時に叫んだ。
しかし、それとは対照的に
「エイリーとシュシュ様はここでやってたのか。」
「兄さんたちは、どうしたの?」
と冷静に落ち着いている。
「ちょっとな、プールのほうに行こうと思って。」
「そっか、近いものね。」
カイルはシュシュの髪型と服装が違っているのに気がついた。
シュシュはのびてしまった髪をポニーテールにまとめていて、
なんとなく、雰囲気が変わっていた。
服装は修行で動くので、あたりまえといえばあたりまえなのだが、
朝、着ていたフリルのワンピースではなく、いつもと同じような
魔導士の格好をしていた。
カイルはシュシュの髪型を見ようとしたのだが、そんなに見てしまったら、
悪い気がして、結局チラチラと見ることになってしまった。


シュシュは確かにここから行くのが一番近いと思った。
このホールには扉が二つあり、一つは今カイルとリブラが入ってきたもの。
もう一つは一つ目とは反対側にある扉だった。
こちらは外につながっていて、出てすぐのところにプールがあった。
しかし、何故プールなのかはよく分からなかった。


カイルはここで初めて目的地を知らされた。
しかし、カイルにはプールというもの自体理解することができなかった。
ぷーる、って何?
それがきいたときの第一印象だった。
が、まぁついていけば分かるだろうという
横着な考え方が浮かんだので止めた。
「それじゃぁ、先を行くよ。」
リブラがエイリーに言った。
カイルがリブラについていこうとした時、シュシュが
「カ、カイル!…その…しゅ、修行がんばって下さいね!」
言ったのでカイルは
「分かった!シュシュもがんばれよ!!」
と返した。
そうすると、シュシュがうれしそうに笑ったのが見えた。


大地が中庭に着くと、訓練場にあったのと同じような岩が
何個か置いてあった。
……王様が住んでるお城に不恰好な岩があるのは不自然だから、
これって、やっぱおれっちたちのために運んできたさ?
大地はそんなことを思案しながら、自分たちが期待されていることに気がついた。
「今から、私がこの岩を砕くので見ていて下さい。」
ジェミニが大地に言った。
先生が砕く?
大地は一瞬その言葉が信じられなかった。
何故って、ジェミニがレイピアのように細身だからだ。
だが、レイピアには強靭さもあると思い
大地がうなずくと、ジェミニは先ほどの鎚を、
近くにあった岩に叩きつけた。
すると、岩は粉々――否、一粒一粒が砂利石と言えるほどに
細かく砕けていた。
「………。」
大地はそれをポカーンと口を開けて見ているしかなかった。
「どうでしたか?」
ポケー、としている大地にジェミニが声をかけた。
「え!?え?す、すごいんさ!だって……」
が、そこで大地はなにがすごいのか言えなくなり、言葉をのんだ。
ジェミニが砕いたのと自分が砕いたのに違いがあるのは分かる。
しかし、ジェミニの方がすごいのだと分かっていながらも
どうして、ジェミニの方がすごいのだろう、と思っている自分もある。
「どうして、私の砕いたのが粉々なのか分かりますか?」
「全然、分かんないさ!」
大地はブンブンと首を振る。が、
「でも、先生の方がなんとなくすごい気がするさ。」
と、自分の気持ちを素直に話した。
すると、
「これが、大地君の修行です。
大地君には、何故自分が私のした方がすごいと思ったのか。
そして、それが正しいとするならば、どうすれば粉々にできるか。
これを考えやってもらいます。」
ジェミニが修行の内容を明かした。


そのころ、カイルはプールに到着していた。
「それでは、水着に着替えてもらいます。」
リブラがそう言って、水着をカイルに渡した。
カイルが着替えるとリブラも着替え終えていた。
プールに入ると水がそれほど冷たくないことに気がついた。
この世界は今、夏なのだろうか。
そんな考えが浮かぶがプールに入るといっている時点で夏か、
と思い口には出さないことにした。
カイルがそう思っていると、リブラが
「これを使って修行をします。」
と言って、円柱の木の棒を手渡してきた。
[カイル]くらいの長さか、そう思いつつ手にとった。
リブラも棒を持ちつつ、続ける。
「カイル君の修行の内容は、この半水中の状態で私から一本とること。
それだけです。」
へ?本当にそれだけ?と感じながらも、
「それじゃぁ、行きますよ!」
気を引き締めて、リブラに打ち込もうとした。
が、その棒がリブラに届くことはなかった。
「!」
水の中ってけっこう動きにくい!
そう思いつつもカイルは、陸上でいつもやるのと同じように動いて
さっきとは違う方向から第二撃をいれる。
しかし、これもまたリブラには届かなかった。


シュシュのしばらくの間、カイルが出て行った扉のほうを
見つめていたが、エイリーに呼ばれ彼女のほうを向いた。
「シュシュ様…、もうよろしいでしょうか?」
「ええ、ありがとうございました。」
エイリーは一呼吸おき、
「次はシュシュ様に私の槍を五分間、よけ続けてもらいます。」
エイリーが手にしていたのは槍――実はシュシュの槍の師でもある。――ではなく、
槍くらいの長さの円柱状の棒だったが、
「分かりました。」
シュシュは短く答えた。
「それでは、いきますよ。」
エイリーはそう言ってやりを構える。

「ハァ!!」
エイリーが槍をつきつけてくる。
しかし、シュシュはかわすことは慣れているつもりなので、
苦もなくかわすが―――よけた先には何故かエイリーの槍があった。
「あ…」
間の抜けた声が口をついてでてくる。
それは、あまり彼女には似つかわしくない声だった。
が、それもそのはず。
一回はかわしたはずだったのだが、二撃目が当たっていたのだ。
「分かりましたか?シュシュ様の弱点が。」
エイリーがこちらを見ている。
「確かに、シュシュ様は反射神経がいいです。
ですが、反応がそのままなんですよ。
だから、次にどこを突けばいいか、分かってしまう。」
反応がそのまま……、シュシュは口の中で反芻した。
「シュシュ様の課題は考えて反射すること、です。」
しかし、反射は元々考えずに動くもの。
いったいどうすればいいのだろうか?
「反復練習です。今までの、自然なパターンを否定して、
考えて動いたケースを新しいパターンとして体に覚え込ませるのです。」
エイリーが説明した。
それを理解したシュシュは
「もう一回……、お願いします!」
と、一回でも多く練習するため言った。


大地は悩んでいた。
何故?と聞かれれば、悩んでろ、と言われたからだ。
ジェミニは用事ができたらしく、
その二つについて考えていて下さいと言って何処かにいってしまった。
が、しかし何回やっても石は粉々にならずにバラバラになってしまう。
力が足りねぇんさ?
大地はそう思ったが、違うとすぐに思った。
ジェミニも言ってたではないか。
君と腕相撲をしたって僕はまけてしまいますよ?
そもそも、彼のしたほうがすごいって
なんで思ったんさ?
それも疑問だった。
ジェミニにもそれを考えるように言われたのだが、
さっぱり分からない。
「?」
ふと、大地の目にとまったのは中庭にあった池だった。
いや、正確にいえば大地の目を引きつけたのは池ではない。
池にいた大小様々なカエルたちだった。
「こっちの世界にもカエルがいるんさ!」
故郷を離れてから、見慣れないものを見続けてきたせいか、
カエルたちは大地の目に新鮮に写った。
しかし、大地の視線を感じ取ったのか、
最初に一番小さいものが池に飛び込んだのを皮切りに
どんどんとカエルたちが池に飛び込んではきえていく。
そんな様子を見ている大地だったが、ある事に気が付いた。
大きいカエルが飛び込んだほうが水に広がる波紋が大きかったのだ。
あたりまえなのだが、大地は驚かずにはいられなかった。
なぜなら、大地が疑問にしていたことが解けた気がしたのだから。
波紋が大きいほど…、力が伝わってる。
それと一緒で石も力が伝わってたほうが破片も細かくなるんじゃ……?
大地は自分でも気づかぬ間にジェミニを探しに走りだしていた。


カイルの攻撃は何回やってもリブラには当たらなかった。
やがて、カイルが息を切らし始めたころ、リブラが言った。
「もう一度言います。これが…、ここで私から一本とる事が
君の修行です……!」
カイルは息をのんだ。
水の中が動きにくい、なんて事は小さいころから知っていた。
だが、こんなに動きずらいなんて知らなかった。
どうすればいい?
どうすればいい?
「フム……、シュシュ様がいうには
修行に使えるのは、今日を入れて、後三日ほどらしい。」
カイルが悩んでいると、リブラが声をかけてきた。
「あまり時間がない…。がんばりたまえ……!」
口調は穏やかだったが、力がこもっていた。
カイルはその迫力に押され思わず、
「…はい…!」
と言ってしまった。
しかし、「はい」とは言ったもののどうすればいいかはまだ
分かっていない。
その時だった。
いきなり突風が吹きすさび、近くの木から枝が飛んできたのは。
カイルは飛んできたものを自身が持っていた棒で止めたのだが、
リブラを見ると、静かに動きカイルと同じように棒で枝をかわしていた。
「おや、珍しいですね、こんな強い風は。」
「……!」
リブラは変わらない口調で言うがカイルは目が覚めるようだった。
今……、リブラはどんな風に動いた?
カイルが棒を使う時は水が「バシャァ!」と音を出すのに対し、
リブラが棒を使う時には「パシャ」程度にしかならなかった。
水をかき分けている量が全然違う…!
ひょっとして…?
カイルを今、頭に浮かんだ事を試すためリブラに挑んだ。
「もう一度…、お願いします!!」


大地がジェミニを見つけ、今さっき気付いたことを話すと、
「…正解です、大地君。」
返ってきたのは肯定文だった。
「ホ、ホントさ!?」
「ええ、正直を言えばもう少し時間がかかるかと思っていました。」
ジェミニは驚いた様子で話した。
「ですが、次はそれをどうやって実行するか…、です。」
「――先生のしたやつを見せて欲しいさ。」
大地はどうすればいいか、それを観るため言った。
「もう一回だけ、お願いさ!!」


「ハァハァ…ハァ…」
ホールで修行をしていたシュシュは息を切らしていた。
かわし続ける、という課題のもと、シュシュはエイリーの槍等を
かわし続けていた。
体力には元々自身がある方ではないシュシュにとって、
この修行はきついものだった。
ひょっとすると、エイリーは反射の判断を鍛えるとともに、
私の体力も鍛えようとしてくれているのかもしれない。
だが、そうはいっても体力は一日やそこらでつくものではない。
――体力はこれからも私の課題かもしれない。
シュシュはそう感じていた。
だが、シュシュは同時に私の修行は地道な反復練習を繰り返すしかない、
とも感じていた。
コツさえつかめば良いというものではない。
だから、一回でも多くやらなければ…!!
そう思いシュシュは再びかわすことに集中した。



時間は流れ、空にはもう満点の星が並んでいた。
そしてその星の下、宝器所有者とその教育係、エルフの女王が
夕食をとっていた。
女王とその家臣である教育係が同じ所で食事をするというのも、
おかしな風に聞こえるが、彼らの前ではそのことがかすんでしまうほど、
さらに異なことが起きていた。
なんと、宝器所有者のうち、2人が食べながら寝てしまったのだった。
「シュシュとカイル君よく寝てるわね~♪」
エルフの女王――ソフィアが楽しそうにしゃべる。
「よほど、疲れていたんでしょう。シュシュ様、何回も必死で
やってましたから。」
エイリーが答えた。
なんだろう、それじゃおれっちががんばんなかったみたいに聞こえるさ。
そう思った大地なのだが、実際のところ当の大地は
今日の修行のほとんどが考え事だった――石を鎚で砕くこと自体は
大地のなかでは、大した作業ではなかったので
カウントされていなかった――ので思うだけにした。
大地はしかたなく今日がんばったことを思い返してみた。
ひとつめは、苦手だけど一生懸命考えたことさ?
ふたつめは…、自分とジェミニのやり方のなにが、
違うか見て、視て、観ようとしたことさ!!
みっつめは……。
出てこないから、考えるのはやめさ!?
大地はそれについて考えるのをやめ、寝ているカイルとシュシュを観た。
兄貴と姐さんって、やっぱなんか変なんさ。
姐さんは時々兄貴のほうをチラチラ見てたりするし(今日は兄貴もチラチラ
見てたさ……、姐さんの髪型がちがうからさ?)、
兄貴はそれに気付いてないっぽいのに時々おかしいし…。
「!?」
大地はそこまで考え一つの仮説にたどり着いた。
ひょっとして……、姐さんって兄貴のことが……。
「どうしたの、大地君。いきなり、笑い出して。」
いきなりソフィアが大地の笑み――にやにや笑いと言ったほうが
的確なのだが――を見て尋ねる。
「いやいや、なんでもないんさ…。」
大地はあわてて言うが、今思いついた〔仮説〕に顔を
綻ばせずにはいられない。
大地はこのまだ出会ってから数日しか経っていない
この少年と少女を、できることならずっと観ていたい、
そう思った。

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最終更新:2010年03月31日 09:12