第七章 つかんだもの



修行 二日目

「ハァハァ…ハァ…」
よし!だんだんかわせるようになってきた!
シュシュは昨日と同じくホールで修行をしていた。
「シュシュ様、だいぶ良くなってきました」
シュシュの師であるエイリー――幼いころからシュシュの世話も
してくれているメイドでもある――が声をかけてきた。
「あ、ありがとうございます。エイリー」
そういえば、他の二人はどうなったんだろうか?
ふと、そのことが気にかかった。
カイルと大地のことだ。
大地といえば、昨日の夕食の時に彼の母親と
似たような笑みを浮かべていた気がするが
なにかあったんだろうか?


「たぁ!」
カイルはリブラにむかって棒を勢い良く振り下ろす。
リブラはそれを自分の棒で受け止める。
「――っ。まだあたんないか……」
カイルは残念そうに言うが、リブラは
カイル君の動きがよくなっている……。
それは、昨日のある時からだった。
なにかつかみましたか。
リブラは心の中で思う。
今日を入れて、後二日でこれなら……。
私が予想していたよりも数段上のものがいける。
リブラは確信した。


「う~ん……」
大地だけは他の二人とは違い、悩み続けていた。
力が伝わっていないというのは分かったのだが、
どうすればそれができるか、それがまだ分からなかった。
「悩んでるんですか?大地君」
ジェミニが後ろから声をかけてきた。
「う~ん、どうすればいいか全然わかんないさ…」
ジェミニは眉をひそめる大地に微笑みながら言った。
「それでは…、少しだけヒントです。」
「ホ、ホントさ!?」
「ええ」
ジェミニがゆっくりと続けた。
「ヒントは二つです。一つめは、物質には弱い点が必ずある、
ということです」
弱い点、大地は口の中でつぶやいた。
「二つめは、君の家にあった鍛冶についてです」
「?」
大地は何故ジェミニがそれを知っているのか、不思議になり顔を上げた。
「…ああ、シュシュ様から聞いたんですよ」
ジェミニは少しバツが悪そうに言った。
「そういうわけです。がんばって下さい。」
ジェミニはそう言って立ち去ってしまった。
「う~ん」
キーワードは二つ。
物の弱点と鍛冶
一つめについてはそのまま答えなのだろう。
文字通り弱い点をつけばいいのだ。
例えば、石ならへこんでいる部分。
力が不自然に集中している部分などだ。
だがしかし、鍛冶とはなんだろう。
実家が鍛冶をやってたので、大地にも経験がある。
熱した鉄などを鎚でたたくのだ。
ジェミニは大地の実家が鍛冶屋だと知っていたのだから、
鎚を渡したのだろうか。
だとするならば、たたく、というところに意味があるのかもしない。
「基本に戻ってもう一回やってみるさ!」
大地は誰に話しかけるわけでもなく言った。


「カイル君、それでは修行を次の段階に移します」
リブラがいきなり言った。
「え!?でも、まだ一回も当ててないし…」
とカイルは言ったのだが、リブラは
「いや、君の仕上がりがいいから、このままでは時間がもったいない、
そういうことだ。」
仕上がりがいい、ほめられて悪い気はしなかった。
リブラは笑いながら、何かをカイルに渡した。
「う……」
カイルは思わず、うめき声をあげてしまった。
なぜなら、それがかなり重かったからだ。
「それを脚につけて同じことをして下さい。」
笑いながらすごいこというな…。
カイルは仕方なくそれをつけた。


「シュシュ様」
エイリーはシュシュの名を呼んだ。
が、返事はない。
「シュシュ様!」
すこし強めに呼んだ。
「え!?はい!すいません、エイリー…」
どうやら、ボーっとしていたようだ。
「「エイリー、ごめんなさい。せっかく修行してもらっているのに…」
シュシュは責められているわけでもないのに、シュンとして謝った。
だが、エイリーはそんなシュシュの様子に驚いたのか
「ど、どうしたんですか?シュシュ様。そんなシュンとしてしまう
なんてシュシュ様らしくない。あ、でもこの修行は疲れますから、
少し休憩しましょう」
エイリーがやさしく言ってくれた。
そう言われ、シュシュはまたもボーっとしてしまう。
シュシュはホールの床に座り込んだ。
すると、エイリーもシュシュの横に座った。
「シュシュ様、どうぞ」
エイリーがそう言いながら、飲み物を差し出してきた。
シュシュが小さい時から、いつもそうだ。
エイリーはシュシュにとっての絶妙なタイミングを知っている。
そんな気がした。
「……のことですか?」
「ぶっ!!」
いい年して盛大に吹いてしまった。
「な、なんのことですか?エイリー、いきなり」
自分の顔が耳まで赤くなっていくのが分かる。
「あら、シュシュ様、照れなくてもいいんですよ」
「~~!」
普段は優しいのだが、静かな彼女とは違い、好奇心の強い別人のようだ。
「…――…!!」
「――…―……?」


「ふーっと、こんなもんさ?」
大地は練習に使う石を集め終えたところだった。
「よし!一発いくさー!!」
まずは、ジェミニが言ってた弱い点、ってヤツをつくさ。
鎚が振り下ろされ、石が砕ける。
破片は前回砕いた時よりも小さくなっていた。
が、ジェミニがしたそれよりははるかに大きかった。
その様子を城の中庭の上にある部屋から見ていたジェミニがふともらす。
「確かに彼は観る力があると思ってましたが、
それを一発でできるとは…」
驚きのつぶやきだった。
「うーん、まだまだ大きいさー」
大地は破片を拾い、ふたたび考える。
考えるのだが、いい案が出てこない。
あ~!そもそも、おれっちは考えるのが得意じゃないんさ!
しばらく、頭の中だけで嘆く。
やがて、大地の脳裏に一つの結論がもたらされた。
やってもダメ、考えてもダメ、それなら……いっそ寝るさ!!
そして大地は寝た。

へー!これ全部、親父が作ったんさ!?
父はそうだ、と頷いた。
おれっちもいつか作れるようになれるさー?
なれるさ、俺の息子だからな、と父は笑いながら言った。
今日は鎚の振り方を教えてやろう、と続けた。
やったー!ホントさ!?

大地はパッと目を開けた。幼いころの夢を見ていた。
思い出したさ…。こんな簡単な事なのに…。
思わず笑みがこぼれた。
だが、その笑みは昨日の夕食時に浮かべた笑みではない。
この笑みは父のものだった。
大地は、先ほど集めた石ではなくもとから庭に置いてあった岩の方へ
足を運んだ。
岩の前に立ち、記憶の糸を探る。
そして、鎚を構えた。
鉄を打つ時は最初から力んじゃダメだ。
少しずつ、少しずつ力を加えていく。
そして、ここ一番って時に最高の力を加えるんだ。
父の言葉が繰り返される。
大地の目が岩の弱点をとらえた。
勢い良く鎚が振り下ろされ―――岩を砕く音が城中に響いた。


ドオォォン、という音が聞こえた。
カイルにとっては、それは故郷に初めてXYZが来たときの音とだぶって
聞こえた。
「先生……、今のって!!」
「フム、少し気になりますね、急いで着替えていきましょうか」
カイルが切迫して言ったのとは対照的にリブラは冷静に応えた。
「あ、そうだ。カイル君、君が私との修行でつかんだことは
普段からもやってみて下さい」
「え…?ハイ!」
カイルがつかんだものはリブラには言ってなかったが、
リブラはしっかりとそのことを分かっていたのだ。
形は違うけど……、なんかこうして修行してると、
シルヴィスのこと思い出すな…。
っと、今は思い出を辿ってる場合じゃない。
急がなきゃ!!


特化してしまっているシュシュの感覚神経は音の振動を
いち早くシュシュに伝達していた。
「エイリー、何か音がしませんでしたか?」
「え?そうですか?あ、シュシュ様はハイエル…」
エイリーの耳にもようやく振動が伝わってきた。
「中庭の方からですね……、行ってみましょう!エイリー」
「分かりました」
方向まで分かるんですね、シュシュ様。
エイリーはそっとつぶやいた。
滑稽なことを、と人は言うかもしれないが、
エイリーには自分の生徒がどこまでいくか、
それがとても楽しみになってしまったのだ。


どどどどうするさ、これ……?
大地は混乱とともにいた。
ここまでやるつもりはなかったのだ。
ただ、今さっきひらめいたことを試してみようと思っただけだった。
だが、その結果がこれだった。
「う、うぉわあぁ!!」
大地は悲鳴を上げてしまった。
中庭の角から、足音がしてきたからだ。
あやうく、手に持っていた鎚を落としそうになる。
えーと!どうするさ!?
選択肢は三つ!
一つめは、素直に謝ること。
二つめは、なんとかごまかしてやりすごすこと。
三つめは……、逃げること。
足音がもうすぐ角まで来てしまっている。
考えている余裕はなかった。
「え!?な、なんですか?これ…」
シュシュが角を曲がってきた。エイリーも隣のいる。
「何の音?さっきの……って、ええ!!何これ!!」
なんとカイルとリブラまで来てしまった。
これでは、言い逃れのしようもない。
「ゴ、ゴメンさ!!おれっちがなんかやっちまったさ……」
大地は申し訳なさそうに言った。
「やったって…、ホントに大地がやったの…?」
カイルが半信半疑でその方向を指す。
その先には、なんと芝生が植えてあった中庭の地面の一部が
テレビ大の大きさにえぐれていた。
そして、そのえぐれた周りには、そこにあったであろう土が散らばっていた。
みなが口を開けてポカンとしている場にジェミニが遅れてやってきた。
「どうしたんですか?今の音って…」
ジェミニが一瞬ポカンとする。
が、意外にも冷静で
「あ、これは大地君がやったんですね」
誰がいった訳でもないのにそのことを理解した。
「これについては僕がちゃんと説明しますから」
そう言って、大地にだけ見えるようにウィンクをした。


ジェミニの説明によるとそれはどうやら大地が修行で得たものらしかった。
まぁ、大地君の力がこれほどとは予想していませんでしたが、ジェミニは
説明の最後にそう付け足した。
確かに大地はもとから力が強かった、そんな気がする。
少し悔しい、カイルはそう思った。
カイル、お主は本当に負けず嫌いじゃのう。
今日でシルヴィスによく言われた言葉だった。
カイルは一人っ子で里にも子が少ないせいか、誰かが強制したんでもなく、
自分自身で自分と他の人を比べてしまうきらいがある、とも言われた。
それっていけないことなの……?
幼い自分は聞いた。
その時、シルヴィスがなんて応えたかはもう覚えていない。
だが、それから数年経ってもカイルは負けず嫌いのままだった。
悔しいんだったら、それを超えるくらい強くなりたい。
カイルは下唇を強く噛んだ。


すごい。
それがシュシュのジェミニの説明を聞いた大地への感想だった。
悔しくない、といえばウソになる。
だが、それと同時に、自分に力がないことをあーだこーだ言っても、
どうしようもない、という思いもあった。
それが私に配られたカードで、大地さんに配られたカードだから。
後は自分に与えられたものをどこまで磨けるか、だった。
せめて、自分にできることを精一杯やらなければ。
カイルにも、大地さんにも、
そして……、自分自身にも!!
負けられない……!!

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最終更新:2010年03月31日 09:07