第8章 新しいものを手に
落ちていく赤い太陽は一日の終わりを告げていた。
「あらら~、今日も寝てるじゃない♪」
ソフィアは昨日と同じようなことをいう。
が、昨日と違うことは、
「あれ、今日は大地君まで寝てるの?」
家臣である三兄妹はそんな状況に既視感を覚えながらも、
この食卓に暖かみを感じていた。
シュシュの父である先王――マエストがXYZに殺されてからは、
以前とは明らかに違う雰囲気にエルフの国は陥ってしまったのだ。
コンストレィション兄妹の長男、リブラは明日の午後あたり、
と思う。
カイルは予想以上の仕上がりを見せているし、他の2人の様子を聞くかぎりは
かなりいいようだ。
それならば、修行を早めに切り上げてXYZの知識を三人に与えておいたほうが
いい、それは兄妹の中で一致した意見だった。
「シュシュ~、起きて~。シュシュ~!」
ソフィアが寝ている三にを起こす作業に入った。
これを伝えるのは明日でいいだろう。
カイルはシュシュとソフィアに揺り起こされた。
目を開け、また食事の最中に寝てしまったのだと気付く。
そして、次に大地が起こされる。
カイルはその光景を寝ぼけ眼でとらえ、また明日も頑張ろう、
単純にそう思った。
翌日 修行最終日
カイルはリブラに言われ、いつもの部屋にむかっていた。
いつもの、とは昨晩夕食をとった部屋のことだ――シュシュから後で聞いたのだが、
あそこは謁見の間、というらしい。
もう、太陽が天高く昇っていた。
どうやら、兄妹の申し合わせで修行は午前で切り上げると決まっていたようだ。
カイルが謁見の間の扉を開けると中はシーンとしていた。
「…まだ、来てないのかな…」
カイルが誰ともなしにつぶやいた。
その時だった。
「ここにおるじゃろうが!!」
そう聞こえたかと思うと何かが自分の頭の上に降ってきた。
それが、木の杖の先端であることに気付くまで一瞬の十倍くらいの
時間を要した。
「まったく!!こんなのもかわせんのか!」
それは杖を持った白髪の老人だった――耳が尖っているのでエルフだということは
分かる。
「へ?え!?だ、だだだ誰!?さっきまで誰もいなかったのに…」
いきなり現れた謎の老人にカイルはただ困惑することしかできない。
そこへ、
「失礼しまーす」
というシュシュの声が聞こえてきた。
助かった、とばかりにカイルはシュシュが入ってきた扉のほうを向く。
頭のいいシュシュに頼ろう、すぐにそんな考えが浮かんだ。
が、
「あ!」
シュシュはそんなカイルの思いを裏切るがごとく、老人を指さし言ったのだった。
「お、おじいちゃん!?」
「おう、シュシュか」
老人はきさくそうにシュシュに挨拶をした。
この時、カイルの頭はこの状況を処理できなくなってしまった。
その五分後
「だ、誰さ!?それ!!」
という謁見の間に入ってきた大地の声が城内に響き渡った。
その十五分後
「えーと、話をまとめるとですね~。
この人は私のおじいちゃ…、もとい祖父のシュバルツ・ロウ・ファイリーです。
そして、おじいちゃんはとっても長生きで、今は何日かに一度起きるだけですけど、
その…、昔のこととか色々と詳しんですよ!?」
シュシュは自分でもまとめられているのかいないのか分からない説明をした。
カイルと大地を見ると、あまりにも間の抜けた顔をしていた。
「あ、後そうだ!私の名前をつけた人でもあるんです」
シュシュがそう言った。
「ばぁさんは美人じゃった…。シュシュもそうなるようにばぁさんと同じ名
を付けたんじゃ……」
するといきなり過去に黄昏れてしまった。
が、カイルからすれば、それは新しい情報だった。
シュシュっておばあさんの名前だったんだ。
ふーん、シュシュってなんか不思議な響きがあるけど意味はあるのかな?
カイルがそんなことを考えていると、エイリーが
「シュバルツ様、あなたが起きて頂いたのなら、話しは早いです。
本来なら、私が教えようとしていたのですが、彼らに教えて下さいませんか?
…XYZについて」
エイリーが厳しめに言った。
そういえば、エイリーは祖父のことが苦手なんだっけ…。
シュシュはエイリーの厳しめの口調で思い出した。
祖父は見たとおりの奇人なので、私が小さいころから一緒にいる
エイリーはよく、彼に振り回されていたのだ。
「いいじゃろう!!」
うつむいて黄昏れていたシュバルツがいきなり子を上げた。
シュシュはそれにビックリして少しビクッとはねてしまった。
「では、お主らはXYZのことをどこまで知っている?」
さっきとは打って変わって、早口で言う。
「…えっとぉ……」
シュシュが困ったように呟く。
そういえば、敵のことを全然知らないと思った。
カイルが知っていることといえば、シュシュに初めて会った時に
聞いたことだけだった。
そのことについては大地もおそらくカイルと同じくらいにしか知らないのだろう。
「なんじゃ…、ひょっとしてほとんど知らないのか?
………お主ら、もしかしてユグラが4つだけしかない、
なんて思ってなかろうな?」
「………」
3人は口を開けて固まってしまった。
「……え?」
最初に言葉を発したのは、シュシュだったが、それは
彼女らしくない間の抜けた声だった。
「「はー…、やっぱりか…」
シュバルツがわざとらしくため息をつく。
「ちょ、ちょっとそれどういうことですか!!おじいちゃん!!
だって、私に4つって…」
「まぁ、待て、シュシュ」
つかみよろうとするシュシュをシュバルツが抑えた。
「それも知らぬならもうあそこに行った方がはやいな…。
ゆくぞ!!あの場所へ!!」
え?なんでそういう話しになった?
シュシュが詰め寄ったまでは聞いてたけど…。
カイルがそう思っていると、
「なんで、そういう話しになるんですか!?それにあの場所って何処ですか!?」
と、シュシュがカイルの思いを代弁するように声を荒げて言ったのだが、
「よし、行くぞ!!」
ともう置いてかれそうになる。
先を行くシュバルツに連れられながら、大地は荷物持ちをさせられていた。
荷物の中身は水着・タオル・ゴーグル・その他諸々である。
大地が持つことになったのは、力が強いから、ということだった。
が、そもそも何故こんなことになったかというと……
シュバルツが出て行った後、3人は顔を見合わせた。
「…ゴメンナサイ。カイル、大地さん」
シュシュが謝る。
「でも、ああいう人なのでできればあきらめてもらえますか……」
シュシュが苦笑いで言った。
「ハ…ハハ…」
カイルと大地も苦笑いで返すしかなかった。
重苦しい空気がつのた。が、
「あ!そうだ!!シュシュ様、あそこって多分古代の遺跡のことだと思います」
と、重い空気を破ったのはエイリーだった。
「古代の遺跡?」
カイルがオウム返しに行った。
「ハイ、普段は立ち入り禁止なんですけどあそこにはXYZについて
色々なことが記されているそなので」
へーそういう場所があるんだ。
確かにそういうものがあれば何も知らない自分達に説明するより断然早いだろう。
「それでですね、私の提案なんですけど……、
あそこ海の近くなので帰りに行ってきたらどうですか?
今日はもう修行はないですし」
「あ!私、海に行きたいです!!」
そう言ったエイリーの言葉にシュシュが乗り、行くこととなった。
まさか、その時は自分が荷物を持つなどと思いもよらなかったので、
特に反対はしなかったのだが、今となると何故自分が、となってしまう。
大地はしばらく不平を思っていたのだが、
あることを思い出しその心を捨てた。
そういえば、その後姐さんとエイリー先生がなーんかコソコソやってたさ。
ひょっとして、先生にもあのことがばれてるさ?
なるほど。確かにそう考えれば、シュシュが強い口調で行きたいと言ったのも頷ける。
ふと、カイルとシュシュのほうを見ると、楽しそうにおしゃべりをしていた。
といっても、話の主導権を握っているのはシュシュのようだが。
大地はあることを思い、先を行くシュバルツにならんだ。
「シュバルツさん…さ?ちょっと聞きたいことがあるんさ」
シュバルツは全く顔を崩さずに返した。
「なんじゃね…?」
口調も平坦だった。
ひょっとして、質問されることがお見通しだったのだろうか?
「気になることがあるんさ。……ユグラとXYZのことで」
「ホゥ、ゆってみなさい」
変わらぬ口調でシュバルツが言った。
「XYZも……ひょっとして、ユグラを使えるんさ?」
聞こうと思ってた内容をゆっくりとしかし、はっきりと言う。
が、
「ハハハハ、ハーハハハ!!」
シュバルツはそんな大地の言葉を聞いてなかったかのように
いきなり笑い出したのだ。
自分は全く的はずれなことを言ったのだろうか、心配になるほど笑っている。
シュバルツはようやく笑い止み言った。
「……そうじゃ、正解じゃ」
「!」
「どうして、そう思ったんじゃ?そう言ったからには何か理由があるんじゃろ?」
「それは……」
大地が答えようとしたとき、
「その話、俺にも聞かせて下さい!」
あろうことか、カイルが話に食いついてしまった。
えええええ!?
大地は驚きとともに心中で毒づく。
兄貴のバカ!人がせっかく2人で並ばせようと思ったのに。
姐さんのポニーテールにも何も言ってないっぽいし、
兄貴はK(空気)Y(読めない)さ!!
イヤ、むしろ兄貴は人のK(気持ちが)Y(読めない)さ!?
しかし、毒づいてもいられないのであきらめる。
「いや、理由ってほどでもないんさ。
でも、そう思ったのはXYZの三神将と戦った時さ」
「あの武士と戦った時?」
カイルが聞き返した。
「ああ、そうさ。あの武士は刀を持ってたさ?あれにユグラの共通点でもある宝石が
ついてたさ」
「!」
「!」
カイルとシュシュが共に驚きの表情を浮かべている。
しかし、それとは対照的にシュバルツは納得っといった顔をしている。
「なるほどのう。じゃが、お主あの状況でよくそんなこと観れたの…」
シュバルツは淡々と言う。
「でも、じーさん、本当に聞きたいのはその先さ。
なんで、XYZがユグラを持ってるんさ!?
ユグラはXYZを倒すもんじゃないのさ!?」
大地は声を荒上げ言う。
が、
「まあまあ、落ち着け、若いの。ワシとて全てを知っているわけではない。
それにの……」
シュバルツはふと、前方をチラと見上げる。
そこには、さっきまで見てきた建物とはまた違う不思議な建造物があった。
「目的地に着いたぞ。若いの。お主の疑問のいくつかはここで解けるの
ではないかな?」
シュバルツが諭すようにいった。
最終更新:2010年04月02日 17:01