第九章 遺跡と謎と海
なんか変な形の建物が連なってる。
それが
カイルが抱いた第一印象だった。
「普段、此処は立ち入り禁止になっとるんじゃが今日は特別にの、
入れてもらったんじゃ。」
シュバルツが言った。
この人は顔が広いのかもしれない。
けっこう年らしいし。
「さーて、はいるぞー」
シュバルツが三人を急かす。中に入ると、真っ暗でヒンヤリとしていた。
カイルがもっと奥に行こうとすると、
「あ!カイル、勝手に一人で行かないで下さい!!」
と言って
シュシュがカイルの服――腕の部分――をきつくつかんできた。
逃げることもできないほど強くつかんで、体を寄せてくるシュシュに
「ダメ」などと言えるはずもなく、
「え…、うん」
と了承してしまった。
シュシュを見ると、彼女の白い肌が暗闇に際だっていた。
カイルはこの時、それにばかり気をとられていて、大地が笑いを
こらえていたことには、まるで気付けなかった。
シュシュは血がにじむほどカイルの服を強くつかんでいた。
ううー、暗いとこって苦手なのに!
カイル、お願いだから私を置いてかないで!!
そんなことを思っていると、
「ほれ、此処に答えが書いてあるぞ」
シュバルツが言った。
「と言っても、暗くて見えんか…。カイル…だったの。お主の力で明かりをつけて
くれんかの」
シュバルツの言葉を聞き、シュシュはあわててつかんでた腕を放す。
その腕が彼の利き腕だったからだ。
仕方がないのでシュシュはさっきとは逆の腕をつかむ。
鞘から剣を抜く音が空間に響いた。
すると、暗闇に炎が灯った。
カイルの炎は闇とは違い、明るくて暖かかった。
シュシュはしばらく、暗闇に幽玄な雰囲気を作り出しているそれを
ボンヤリと眺めていた。
「なんて書いてあるんさ?」
大地がいきなり言った。大地の声は遺跡内によく響いた。
その言葉で現実に戻った。
シュシュは文字が掘られていると思われる壁を見る。
そこには……。
- ユグラは108つある。
- XYZの目的はその全てを手に入れること。
- XYZの物体は大量の空間的エネルギーを持っている。
- よって、通常の物体では触れることができない。
- ユグラでXYZを触れることができるのは、
同じだけのエネルギーを持っているため。
その5つが、シュシュが読んだ文字の内容だった。
大地は確かに疑問はいくつか解けた。
が、それ以上に疑問が増えてしまった。
なんで、XYZが持ってたかと何故攻撃できるは解けたさ。
でも、何故ユグラが同じだけのエネルギーを持ってるかということと
全てを手に入れてどうするかとか、分からないこともできたさ。
そもそも、これを記した人はなんでこんなことを知ってたんさ!?
大地はそれを聞くため、シュバルツの方へ行こうとした。
その時、シュシュが壁づたいに動こうとしていた。
――そういえば、姐さんが最初に言ってたのと微妙に違うような。
大地がそう思っているとシュシュが何かにつまずいてしまった。
あ!と大地が危機感を感じたのだが、それはすぐに大丈夫だな、
という確信に変わった。
なぜならカイルが、シュシュが転ぶ前に助けるという自信があったからだ。
「危ない!!」
その自信どおりカイルがシュシュを支えていた。
「シュシュが一人で行くな、って言ったんだから一人で行っちゃダメだよ」
カイルがシュシュを起こしながら、言う。
「ハ、ハイ。ごめんなさい、カイル」
シュシュは顔を耳まで赤くしながらカイルにペコリと頭をさげ謝った。
大地は心の中で、ごちそうさまでした、とつぶやく。
つぶやいたのは、さっきシュバルツに聞いたつもりがシュシュが答えて
しまったのを見て、この中は声が響くということと
自分の声はよく通るということを思い出したからだ。
「っと、そーさ。じーさん!!何処にいるさ!?」
「そんなに大きい声を出さずとも聞こえるわい!!」
意外とすぐ近くで大きい声がしたので、驚いた。
「色々と疑問が増えちまったさー!!」
大地はその声の大きさに張り合って話す。
「静かにせい、わしでも知らんことがあると言ったろうが!
とりあえず、わしから教えられるのはこれだけじゃ。
後はXYZを倒す戦いの中で自分自身で調べるんじゃな
それに……」
シュバルツは間をあけて言った。
「その方がお主もおもしろいじゃろ?」
大地はその言葉を受け、なるほどな、と思った。
シュバルツが自分から教えられるのはこれだけ、というので一行は遺跡をでた。
夏で日が長いからなのかまだ日は沈んでいなかった。
シュシュはあることを思い出し、カイルに話しかける。
「カイル!次はお待ちかねの海ですよー!」
「おう、そうじゃ、シュシュ。わしはもう帰るが…、
道筋は覚えとるの?」
しかし、シュバルツがいきなり割って入ってきたので、
シュシュはおちょぼ口をさらにとがらせた。
「大丈夫、おじいちゃん。それくらい分かってるよ」
シュシュがそう言うと、シュバルツは帰っていった。
カイルはその様子を見つめていた。
「?どうしたんですか、カイル」
「ん、イヤなんでもないよ。それよりさ、早く入ろう!
おれ、故郷が山だったから海くるの初めてだし」
カイルの態度に少々腑に落ちない点があったもののカイルが早く、というので
そうすることにした。
「ハイ!じゃぁ、大地さーん、水着をお願いします」
「はいはいさー」
大地がそれを聞き、持たされていた荷物を出す。
「あ!そうだ」
シュシュが顔を紅葉色にして言う。
「あの…、私はあっちの岩場の影で着替えますから……、
その…覗かないで下さいね!?」
その言葉が発せられた途端、普段は考えろと言われても空回りしかしない
大地の脳がフル回転を始めたのだった。
まずおれっちが覗くと言い出す→兄貴なら絶対止める→おれっち達の喧噪が
姐さんに聞こえる→姐さんの中で………。
よし。これは、もうやるしかないさ…!
「兄貴ー、いい話があるんさー。……――…」
着替えながら、自分が覗いてくるということをほのめかす。
カイルはそれを聞いているうちに顔がさっきのシュシュと同じ色になってしまった。
「な、なな、ダダダメだって!!そんなこと!」
カイルは全力で否定する。
そんなことは死んでもできない、イヤさせない!
やはりこういう時は、妙に声が大きくなってしまうものだ。
それが、大地の狙い通りなわけだが。
「え~、兄貴かたいんさー!」
と、着替え終わった大地はシュシュが行った岩場の方へ走りだす。
が、カイルも着替え終わっていたのですぐ追いかけてくる。
大地は自分の方がスタートが速かったので、
まだカイルは追いついてこないだろうと、思った。
思ったのだが、カイルはもうすでに大地に追いついていた、否すでに
大地を追い越していた。
「ハァハァ、だからダメだって!」
カイルが顔を真っ赤にして言う。
が、その時だった。
「なにが、ダメなんですか?カイル」
後ろにシュシュが立っていた。
「え!?」
カイルはビクリとして振り返る。
その様子が気に入らなかったのか、シュシュは少し不機嫌そうにしゃべった。
「ダメってなにがですか?」
「えっと……それは……」
まさか本当のことなど、言えるはずもなく。
カイルは一瞬他の言い訳を探そうとしたのだが、それすらもできなくなってしまった。
シュシュの水着姿に見とれてしまったのだ。
普段は服や靴などに隠れている彼女の二の腕や素足があらわになっていた。
俗に言うスク水、というヤツなのだがカイルはそれをどう表現すればいいのやら、
という感じだった。
結果、カイルはシュシュのことを見つめてしまうこととなった。
カイルとシュシュの顔が耳まで桜色に変わっていくのを大地は見逃さなかった。
その状況で先に口を開いたのはシュシュだった。
「あ、あの!カイル、その……、水着どうです…か?」
やっと絞り出したような声だった。
「え……っと、すごく……ヵヮィィ…と思うよ」
こちらも消え入りそうな声だったが、シュシュには聞こえたようだ。
カイルとシュシュの顔がさらに深く紅くなっていった。
2人に当てられた(わざとなのだが)大地は思う。
――2人とも……なんさ。ん、でも2人って聞いた話によると、
まだ出会って一ヶ月くらいじゃなかったっけ?
あ、危険を共にした男女は云々、てやつさ。
大地は一人納得する。
太陽はゆっくりと落ちていった。
まったく大地はとんでもないことを言い出すな、とカイルは思った。
今、カイルと大地は城の大浴場にいた。
もちろん男女別であり2つあるほうの片方である。
が、別と言っても壁一枚を隔てただけで、壁も完全に上まであるわけではなく、
上の方に1メートルほど隙間があるのだが。
――まさか、ここでも覗くとか言わないよな。
カイルにふとそんな不安がよぎる。
「よし!兄貴、やるさ」
「だから、ダメだって!!」
絶対させるか。
なんでそんな気持ちになるのかは分からない。
でも、絶対にさせたくない。それだけは確かだった。
「ふ…、こうなったら兄貴、武力で決めるしかないんさ」
大地がわざとらしく行った。
「やってやる!」
カイルは啖呵を切った。
「じゃぁ、いくさ!」
そう言うと、大地が斧を振りかざしてきた。
カイルはそれを軽くかわし、距離をとる。
風呂場で滑るからあんまりスピードだせないか…。
それを見て、大地はふ、と笑みをこぼした。
「兄貴、距離をとったのは、間違いさ!カタストロフ、発動!!」
カタストロフの能力は植物・土・鉱物にいたるまでの操作!
これで、風呂場のおけを集めて…。
木製である風呂場のおけが大地のもとに集まっていった。
それは、みるみるうちにピラミット状に組み上がっていった。
そして、大地がその頂上にいた。
カイルはそれを見て、あれを崩すべく最終手段を使う決意をした。
よし!こうすれば、兄貴はこれを死んででも崩すから、
オッケーさ!
大地はまだ、カイル←シュシュの図を描いていた。
いたのだが、聞こえてきたのは何故かシュシュの声だった。
「…お風呂場って声がひびくんですよ……。知っていましたか?大地さん……!!」
ま、まずい。非常にまずいさ。
大地はわき上がってくる恐怖を抑えつつ、おそるおそるしたを向いた。
シュシュは体にタオルを巻いていて、顔こそは笑っていたが
声は威圧感が大きく、かなり怒っていた。
風呂場って水ばっかだから姐さんのホームグラウンドさ……。
「うぉ!」
大地が短い悲鳴を上げた。
カイルがおけの一つを崩したのだった。
「大地さん!!」
シュシュが水の玉を投げつけてくる。
あー、死んださ、おれっち。生きてたら、もし生きてたら…、兄貴は鈍くて気付いてないから……、姐さんに事情を話そう……。
カイルも大地さんも全部丸聞こえですっ!
大地さんは、私のために色々動いてくれたらしいけど、
おもしろ半分だったから、一応怒ったふりをしておこう。
あ!でも、カイル……。止めてくれてありがとね!
修行最終日はその中で最も慌ただしかったという。
城の風呂場が一部破損したというのは蛇足である。
最終更新:2010年04月09日 20:50