第十章 新しい気持ちで



前日のことだった。つまり修行最終日である。
カイルは部屋に入る前、シュシュに尋ねられたのだった。
「カイル…、その…私、前の髪型と今の長いポニーテール、
どっちが似合ってますか?」
「?」
カイルは何故シュシュがそんなことを聞くのか不思議だった。
なぜなら、自分はそういうことに疎いし、なによりシュシュの近くには
エイリーという先生までいるというのに。
「おれは…、前の方が似合ってると思うけど…」
本当はどっちもシュシュなんだから両方いい、と思ったのだが、
なんだかこそばゆいような感じがして止めておいた。
そう言うとシュシュは
「ホントですか!?ありがとうございます!」
と笑い行ってしまった。


シュシュは今、髪を切ってもらっていた。
切っているのはエイリーだ。
「シュシュ様、相変わらず毛質がいいですね」
エイリーが切りながら話かけてきた。
「ありがとうございます、エイリー。……」
シュシュは少し間をあけて、しゃべる。
「正直なところ……、これからどうすればいいのか全く見当もつきません」
エイリーはまだなにも言わない。
こういう時のシュシュはさらに細かい疑問を続ける、と知っているのだ。
「ユグラが108つある、ということは私達3人のユグラと
あのブラストと名乗ったシルフの男、その4つを抜かしても
最悪104つの宝器が敵になってしまいます。
それに……、ユグラ自身も謎の塊です。何故XYZはユグラを狙うのでしょうか?
ただ自分達を攻撃できるから……、それだけではないような気がするのです」
ここまできて、エイリーがやっと口を開く。
「とりあえずは、修行でやったことを実戦で
やってみるのがいいんじゃないですか」
シュシュはさっきまでの饒舌とは違い、エイリーの言葉に耳を傾けている。
「今までとは少し違う、新しい気持ちでやってみたらどうですか?」
エイリーが少しクスッと笑った気がした。
「ハイ、終わりましたよ、シュシュ様」
そう言って、切り落とした髪を箒ではいていく。
「ええ、いつもありがとうございます、エイリー」
カーテンを開けると、太陽の光が入り込んできた。
シュシュは背伸びをしながら、エイリーが言った通り、
新しい気持ちでいこうと思った。


「カイル君、少しきてくれるかい?」
リブラに声をかけられたのは食事の後だった。
「え…はい」
その後リブラに連れられてきたのは研究室とおぼしき場所だった。
そこに入ってリブラはカイルに何かを渡してきた。
「?これは…」
渡されたものはゴーグルだった。これは何に使うのだろう?
「そのゴーグルには、テレパシーでカイル君が見ている映像を送れる、
ちう機能がついています」
「?」
「実際にやってみる方がいいですね」
明らかに困っているカイルにリブラが実演をしてくれた。
「!おれが写ってる……」
いきなり現れた頭の中のイメージにはなんと自分がうつっていたのだった。
「これは今私が見ているものを君に届けたのです。」
「ス、スゲェ…!」
「視点を変えれば、今まで見えてこなかった新しいものが見えるかもしれません」
「新しいもの……」
カイルはこのゴーグルの機能に驚愕するばかりだった。
そこにリブラが付け足すようにいった。
「あ!後、普通のゴーグルとしてはもちろん、
暗視機能や画像保存などの機能もついてますよ」
補足説明だったのだが、カイルからすればもう十分だった。


その十分後

大地もジェミニに連れられ研究室に来ていた。
「これを強く握ってもらえますか?」
そう言われ手渡されたのはクルミ大の物体だった。
「これを強くにぎるんさ?」
そうつぶやいて大地が握るとそれはパキッと小気味良い音をたてて割れてしまった。
「わ!割れちゃったんさ!」
大地は心配そうな顔でジェミニを見るのだが、
「ありがとうございました」
と涼しい顔で言ったのだった。
「それはただのクルミですが、今から渡すものは違います」
少し真剣な顔になってジェミニはさっきのものと似たようなものを5個はど
大地に改めて渡した。
「これは簡単に説明すると、割ることでで効果を発揮するもので、
空間の裂け目――君達が今まで他の世界への出入り口にしていた
それをを人工的に作り出すものです」
大地はそれを聞いてしばらくポカンとしていたがやがて
「それってすごくないさ!?」
と早口で勢い良く聞いたのだった。
「ええ、ですが反面、かなり危険なものでもあります」
ジェミニは再び真剣な面持ちになると続けた。
「何回も実験を繰り返したものなのですが……、
成功率は100%とはとても言えません。
また、そのためさきほどのそれよりも割ることは困難にしてあります」
「…なんでそんな重要なものをおれっちに渡すんさ?」
自分ではうっかりして割ってしまった、なんてことになりかねない。
だが、そんな心配をする大地をよそにジェミニは明るい口調で言った。
「君だからこそ、ですよ。これを割るには君の力が必要ですし、
それに君なら使いどころを間違えない、と信じてです」
ほめられて少しくすぐったい気がした。
「5個しかないのでよく考えて使って下さいね。これは…君の新しい力ですから」
「ありがとさ!!」



カイル達は最初にこの世界に来た場所に集まっていた。
やはりここには空間の裂け目がある。
この場所にいるのは3人だけだった。
本当はシュシュのお母さんも先生達も見送りに来たかったのかな…?
カイルがぼんやりとそんなことを考えていると
「どうしたんですか!?カイル!」
シュシュがカイルの顔を覗きこんできた。
「イ、イヤ、なんでもないよ」
と答えたのだが、
「ふ~ん、なんか怪しいさ!」
大地も詰め寄ってきた。
「だから、なんでもないって!」
カイルが必死になって否定するのでシュシュも大地もクスッと笑ってしまった。
「それより、次て何処いくの?シュシュ」
とさりげなく話をそらす。
「次ですか?行ってのお楽しみです!」
シュシュが弾んだ声で言った。
「早く行こうさ!」
大地が急かす。
カイルはそれを聞いて、またこの世界に来てみたいな、と思った。

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最終更新:2010年04月04日 17:47