第二章外伝  空に光る星を



カイルは簡易型の布団の中に入っていた。
否、入れさせられたのである。
「シュシュ~、もう起きていいかな?」
カイルは自分を布団の中に入れた張本人である少女――シュシュに尋ねる。
シュシュが振り返る。その振り返った顔は整っていて人形のようだった。
「ダメです!カイルさんはまだ慣れていないのにあんなに使うなんて…」
シュシュはおちょぼ口を尖らせ切り捨てる。
先ほどからこの調子でカイルがどんな言い訳をしても出してくれないのである。
仕方なくカイルは布団に入り、おとなしくする。
が、布団に入っているとシュシュがなにやら手を動かしているのが分かる。
カイルはそれが気になり寝返りをうつふりをして覗いてみる。
「カイルさん、覗き見は失礼ですよ♪」
「!?」
シュシュと目が合ってしまった。正確にはシュシュが合わせたと言うべきなのだが。
「違うよ、たまたまそっちに目がいちゃっただけだって!」
カイルは言ってから言い訳にもなってないことに気付く。
カイルは顔を赤くしながら、苦しまぎれに聞く。
「そういえば、シュシュさっきからなにしてるの?」
「これですか?これはお守りです」
「お守り?」
カイルはオウム返しに尋ねた。
するとシュシュはニコッと笑って答えた。
「はい、大切な人の無事を祈るためお守りなんです。」
彼女の家族が渡したのだろうか?
シュシュはそのお守りの口の部分をいじくっていた。
カイルはあることを勇気を出して言ってみる。
「シュシュは大丈夫、無事に帰れるよ」
カイルはなるべく力強く言おうとした。
真顔でシュシュを見つめる。
が、シュシュはそれが可笑しかったのか、最初はカイルと
見つめ合っていたのだが、突然
「ふっ、あはははは!どうしたんですか?カイルさん。いきなり」
と歯を見せ、大きく笑いだしたのだった。
どうしたと聞かれても、ついさっきシュシュを守ると決意した、
とは言えるはずもなく。
「えっと……あ!そうだシュシュ、空を見て!!」
焦って語尾が強くなってしまった。カイルが指さすとシュシュがつられて上を見る。
「え?空ですか……?あ…、きれい……!」
空を見上げるとそこには満天の星空があった。
青ずみ色の空に金や銀の星達が並んでいる。
「スゴイ……。カイルさん何時気が付いたんですか!?」
シュシュが空を見上げながら聞いてきた。
「さっき寝返りをうったとき」
カイルは少し短めに、そしてぶっきらぼうに答えてしまった。
シュシュが星空に見とれている姿に見とれてしまったからだ。
カイルはそれをごまかすかのように子供のみたいことをシュシュに尋ねた。
「シュシュ、空に星っていくつあるの?」
我ながら子供じみたことを聞いたもんだ、と思う。
シュシュはしばらく目を丸くしていた。が、
「じゃぁ、数えてみましょうか!?」
シュシュは弾んだ調子で言った。
カイルが内心、え?と思っていると――勢いで言っただけなので――シュシュは近く
の木にもたれかかりもうすでに数え始めていた。
「いち、にい、さん……、カイルさんもこっち来て下さい!」
シュシュにそう言われカイルはあわてて布団から出る。
「しぃ、ごぉ、ろく……」
カイルとシュシュ、2人は同じ軌道をもって別々の指先で、空に光る星を数えていく。
「じゅうし、じゅうご、じゅぅろく……」
シュシュの声が少しずつ小さくなっていくのが分かった。
シュシュは眠たそうに目をこすっている。
当然だ。看病はしているほうだって疲れるのだ。
カイルはシュシュが寝てしまったら寝かしてあげよう、と思った。
「スー…、スー…」
カウントが寝息に変わったのは二十六まで数えたくらいだった。
カイルは寝てしまったシュシュの顔を見る。
そこでカイルは、シュシュの顔をちゃんと見たのは
初めてなのではないか、ということに気付いた。
見つめたことはあるが、シュシュの目のあたりをまじまじと見たことはない。
さらに、カイルはシュシュが口を開けて笑ったのも初めてだし、布団から
抜け出せたことにも気付いた。
カイルはシュシュを布団に入れようとした。
と、シュシュを動かそうとしたのだが、
――シュシュ、軽っ!!
そう思いびっくりしてしまった。
ひょっとしたら、その辺のちょっと大きめの石の方が重いんじゃないかと
思うくらいシュシュは軽かった。
袖の部分から細く白い二の腕が見えている。
カイルはそういうこ事柄には疎く、奥手なので思わずドキンとしてしまう。
シュシュを布団の中に入れるとカイルはさっきまでシュシュがもたれていた木に
よりかかり目を閉じる。
カイルの心臓はまだドキドキしていた。
火照った顔に心地よい夜風がカイルの頬をなでた。



翌日の朝

「ふあ~…」
シュシュはあくびをしながら目を開ける。
そこで自分が布団に入っていることに気が付く。
「あれ?私昨日はたしか星を数えていて……」
自分がもたれていた木を見ると、そこにはカイルがいた。
カイルはまだ寝ているようで、目を閉じている。
どうしてカイルさんが木の方に…?
ひょっとして自分が寝てしまったのでカイルは木の方で寝たのではないか…。
そんな考えが途端に浮かんだ。
今そんなに寒くはないのだが、夜は暖かくもなかったはずだ。
しかし、カイルはそうであるにも関わらず、
カイル自身の状態の方があまり良くないのに、私を布団の方に入れてくれたのだ。
カイルさんこそ布団で寝てなきゃいけないのに…。
そう思いシュシュは唇をすぼめかけたが、彼のやさしさを素直に受けたい、とも思ったので止めた。
――ありがとう、カイルさん。
シュシュは心でお礼を言った。
その瞬間、シュシュは自分の胸の中―もっと言うなら胸の奥深くから、
何か、やわらかくて、やさしくて、あまくて、あつくて、あたたかい
ものが、トクンと体中に流れていったのを感じた。
――なんだろう、なんともいえない……この…気持ちは……?
シュシュはまだその答えを持っていなかった。
が、彼女の心はあたたかいもので満たされていた。

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最終更新:2010年04月08日 21:57