第十一章 戦士達の始まり



カイルたちは廃墟にいた。
廃墟であるのだが、壊されたのはつい最近のようだ。
三十分ほど前にこの空間にきたのだが、来てすぐにこの建物に目がいったのだった。
「これ……、どうなってるんさ…?」
柄の長い斧を持った少年――大地が少し緊張した口調で言う。
「見る限り人為的に壊されたようですけど……」
シュシュが何か考えるように口に手を当てた。
その顔は職人が作った精緻な人形のごとく端正であり、
眉をひそめた表情であっても見るものを見とれさせる魅力があった。
「ひょっとして……、これもXYZがやったのかな……?」
カイルはつぶやく。
「刈りにだとしたら…、どうしますか?カイル」
シュシュは答えは分かってる、という口調で聞いてきた。
「どうするも、何もXYZが絡んでるならおれ達がやるのは一つだよ!」
カイルは自身のある種決意ともいえるそれを口にすると、
「よーしゃっ!修行を発揮さ!?」
大地が背伸びをして応えた。
「それじゃ……」
「ッ!!」
シュシュが言葉を言いかけたその時だった。
カイルがいた場所に斧が飛んできたのは。
カイルはそれを反射的にかわす。すると、斧――トマホークと呼ばれる種類
――が壁に突き刺さる。
「ひゅ~、なかなかやるじゃなぇか~。気付かれねぇように
不意打ちしたつもりだったんだがなぁ!!」
カイルたちは声の方向を向く。
そこには体格の良い男が中心に立っていてその周りに数人の男がならんでいた。
「ッ、なんだ、おまえら!?」
カイルは少し荒っぽい口調で尋ねる。
「お前らが知る必要はねぇ!もう死んじまうだからな!!」
と荒くれ者たちは切り捨てた。
カイルはそれ以上なにも言わずに自身と同名の剣[カイル]]に手をかける。
が、意気込むカイルの服の袖をシュシュがひっそりとささやいてきた。
「カイル……、こいつら…仲間が外にもいます…!
足音や気配で数えて…ざっと二十人ほど…」
「!」
建物の中にいるのに、なんで分かるのか、という疑問がわいてきたが、
カイルはシュシュがハイエルフであるとすぐ思い出す。
ハイエルフはエルフより高次の存在で感覚が特に優れているのだ。
「でも……、どうする?」
カイルはシュシュに同じくらいの大きさでなるべく早口に尋ねる。
「そうですね…、この人数では籠城も厳しいものがあります。
ですから…ここは相手の頭を叩きにいきます…!」
「頭ってしゃべってたあいつのこと?」
カイルは目でカイルに不意打ちをしてきたヤツを指した。
「あいつもそうですが…、外の方にも、もう一人頭がいます…!」
なるほど。たしかに自然に考えてそうなるだろう。
現場のリーダーと本部の指揮官というわけだ。まぁ、この場では本部ではなく外なのだが。
「よし…、大地さんもそういう手はず……」
シュシュが大地にもこっそり伝えようとした。
が、それが伝えられるかギリギリのところで先ほどの男が下卑た声で叫んだ。
「ゲハハハ!耳の尖った女は生かしておけ!後で売り物にしてやる。残りは好きにしろ!!」
どうやら、その言葉が合図だったようだ。
入り口にいた大男たちが一斉に襲いかかってきた。
場が一気に騒がしくなり、男たちが散らばる。
男2人がカイルに勢い良く近づいてきて斧と大剣を振り下ろす。
その瞬間、カイルは地面を強く蹴って、斧を持った男の横に回り込んだ。
そして、次の瞬間カイルは納刀していた。
「ひでぶ……!!」
斧の男が悲鳴ともなんとも言えぬ声を上げてドサッと倒れ落ちる。
「!なにしやがった!テメェ!!」
大剣を持った男が目を白黒させて横薙ぎに振り回した。
しかし、その剣は空を切ることとなる。
カイルはもうすでにそこにはいなかったからだ。
「!?どこいきやがったァ!?」
男は叫んだが、その答えをすぐ知ることとなった。
カイルは男が大剣を振る直前に自分の身長よりも、男の身長よりも
高く跳躍していたのだ。
そうして、カイルは男の脳天に剣の平たい、刃ではない部分で思い切り叩いた。


「……!」
それを横目で見ていたシュシュは思う。
スゴイ速い……!私も…負けてられない……!!
シュシュは自分の宝器[グランディオーソ]を使い水の槍を作る。
「ゲハハハ!よそ見してるばあいか!?」
剣を構えた男が斬りかかってきた。
シュシュはその斬撃を必要最小限の動きでかわす。
それはハイエルフであるシュシュにとって遅すぎるスピードだった。
おそらく男から見れば、シュシュが動いていないのに剣が当たらない
ように見えたことだろう。
「んな!?剣があたらねぇ!?」
男が何度も剣を振るが、それが彼女に届くことはなかった。
男が斬撃の手を止めたところでシュシュは笑って言う。
「どうしたんですか?私は何もしていませんよ?」
「ぐぅっ、なめやがって!!」
男が斬りかかってきたが、シュシュはそれをかわすと、男が気絶する程度に、
高水圧の槍で男を倒した。
その男を寝転がし、シュシュは最初に不意打ちをしてきた男を探す。
何処…?何処にいる…?
あいつさえ倒せればおそらくこいつらは烏合の衆。
簡単にことは済むはずだ。
「なかなかやるな……!」
「…ッ!」
その声が後ろからいきなり聞こえてきた時、彼女の超感覚は、後ろから頸動脈がトマホークに狙われていることをシュシュに伝えていた。
間一髪のところで身を翻す。
エイリーがせっかく整えてくれた髪の先が少し切れてしまい、
パラパラと地面に落ちる。
「これもかわすか……。お前は捕まえにくい女だな」
男が下卑た目でシュシュを見る。
「あなたにほめられたって全然うれしくありません…!」
カイルにバカにされた方が100倍マシです!
シュシュはそんなことを今思ってしまう不謹慎さを少したしなめつつ、
矛先を男に向けた。


クッソ!おれっちは一体多数は苦手なんさ!!
大地は3人の中で間違いなく一番傷を負っていた。
そして、彼の観察力はこの乱戦の中であっても敵の数が
最初より増えたことを見逃さなかった。
にしても、どうするさ!?この状況。
カイルは今2,3人を相手に戦っているし、シュシュは最初に不意打ちをしてきた
敵のリーダー格と対峙している。
「ああ!もう!!」
大地はとりあえず斧をがむしゃらに斧を振り回した。
そして、敵がひるんだ隙に背を壁につけた。
これで、逃げることはできないが、代わりに後をとられることもない。
やっとおれっちも修行の成果を発揮できるさ!
「うおら!」
大地は斧を近くにいた敵に振り下ろした。
もちろん、敵もそれに当たることがなく剣でガードした。
が、異常なのはそこからだった。
剣で斧をガードしたのだが、剣の刃の部分が丸ごと、
文字通り粉々に砕けてしまったのだ。
「あ…あ…」
男が間抜けな声を上げて刃がない柄だけの剣を取りこぼした。
当然だ。剣を砕くほどの衝撃なのだから、それが腕まで伝わり
小指を動かすことすらままならないだろう。
男が逃げ出した。
よし!
が、大地がそう思ったのも束の間、男が逃げたはしから新しいのが来た。
くっ!!またさ!?
ここは…、兄貴に外を任せるしかないさ!!


カイルが3人目を気絶させたとき、大地がテレパシーで話しかけてきた。
「兄貴!?聞こえてるさ?」
「大地!?どうしたの?」
カイルは敵にテレパシーを使っていることを気付かれないように
大地の方を向かずに聞き返す。
「このままじゃ、らちがあかないさ!姐さんが言った作戦をするなら、
誰かが外に行かなきゃいけないさ!」
「おれが行くってこと?」
「そうさ。姐さんは最初の男と戦ってるし、おれっちは一体多数は苦手なんさ」
カイルはそう言われ状況を確認した。
シュシュの作戦を実行するには、誰かが外に行かなければならない。
だが、シュシュと大地、2人をここに置いていっていいものか、という思いもある。
「でも、2人をおいてく事になる!!」
「中だけならおれっち達がなんとかするさ!!だから、
兄貴はとりあえず外に行くさ!
……おれっち達を守るだけじゃなくて…、信じて欲しいんさ!兄貴……!!」
カイルはその言葉に目が覚めるような思いだった。
たしかに今までは、守ろうとするばかりで、
ひょっとしたら自分は2人のことを信じていなかったのかもしれない。
そんな思いがカイルの全身を巡った。
果たして2人にこの場を預けていいのだろうか?
答えは考えるまでもない。
「たのむ…!!」
カイルは2人を信じる決意をし、入り口の方へ駆け出す。
2人が死んでしまわないだろうか。そういう恐怖心もある。
だけど、2人は死なないと、シュシュと大地を信じると決めたのだ。
その行く手を阻むものが数人いたが、カイルにとってそんな奴ら重要ではなかった。
男たちの先頭の者との間の距離は5メートルほどあった。
カイルはその距離を男の懐まで一気に詰めた。
きっと男からすれば、カイルが一瞬でここまで来たように見えたことだろう。
「んな…?」
疑問の声を上げる男にカイルはジャンプして、相手のあごを剣の平たい部分で
アッパーした。
そして、そのまま男が倒れる前にカイルは男の肩に飛び乗り、
さらに肩を蹴ってジャンプする。
カイルが狙ったのはここだった。
ここの入り口は崩れていて背の高い穴同然となっていたので、カイルは
入り口にいた男たちがカバーしきれない高さで建物の外にでた。
カイルはそこで立ち止まってしまった。

「ハァハァ…」
シュシュは苦戦していた。
さすがに、槍で斧と戦うのはきついかな…。
「最初の威勢は何処いったのかな?ヒヒヒ」
男がいやらしく笑いながら言う。
このままでは、いずれ負けてしまうだろう。
槍と斧では部が悪いし、だからといって中・遠距離である
ラルゴやアンダンテが使えるとは思えない。
どうする…?どうする……?
「あ…る……よ、…ほう…うなら」
謎の声が頭の中に聞こえてきたのはその時だった。
な、何?この声?
ひょっとして…これがカイルが言ってた宝器が話す、というやつ…?
カイルがそれを教えてくれた時はとても信じられなかったが、
なるほど、ホントなのかもしれない。
「どうすればいいんですか?」
シュシュはその声をもっと良く聞くため集中した。
「…――……―…」
――!そんなことができるの?
「おじょーちゃん、なにしてんだー」
男が、おそらくぼーっとしいているようにでも見えたのだろう、
斧をシュシュに振り下ろしてきた。
シュシュはそれを槍で受け止める。
が、すると男の斧がなんと槍に当たった部分がジューっという音を
たてて融けているではないか。
「すごい……!こんなこともできるんだ…!」
シュシュは高揚した口調で言った。
さきほど、宝器が言ったのは、水の槍の性質を変える、というものだった。
つまり、今シュシュの槍は鉄を融かす酸性の性質を持っているのだ。
「ぐっ!な、なんだそれ!?」
男が斧をでたらめに振り回し近づいてきた。
シュシュはそれらを全てかわし、男の武器破壊と男を昏倒させること、
その2つを一瞬でやってのけた。
「あなた自身に酸の槍は当ててません、しばらく寝ていて下さい」
シュシュは倒れる男に言い放った。
そして、シュシュは乱戦の中であるにも関わらず、その場に座り込んだ。
「ふぅ、慣れないことはけっこう疲れるものですね」


カイルが外に出ると、そこには建物にいた人数の倍の
男達がいた。どうやら、入り口から見えないわきにいたようだ。
乱闘でシュシュも増援に気付かなかったのかもしれない。
「ん~、なんだ外にネズミが逃げてきちまったじゃねぇか」
男の中の一人が言った。
おそらくヤツがシュシュの言ってた頭なのだろう。
「まあいい、やっちまえ」
男の一声で男たちがカイルにむかってこようとした。
カイルは思わず目を閉じる。
が、それらが近づいてくることはなかった。
バキューン、バキューンという音が聞こえたきがした。
「くっ!こいつらジジイのとこの奴らだ!」
明らかに焦っている声だ。
カイルは音がした方向へ顔をむけた。
すると、そこには廃墟の上に音の主と思われる者がいた。

タグ:

aaa bbb ccc
+ タグ編集
  • タグ:
  • aaa
  • bbb
  • ccc
最終更新:2010年04月12日 23:07