第14章



3,2,1,0……。
決められた刻限が過ぎる―――。
シュシュはそれを感じながら、自分の役目を果たそうとしていた。
自分たち3人に与えられた役目とは、「最終手段」だった。
別の世界から来た力に、文字通り最後の手段として
期待されていることもあるらしいが、
本当のところは元々関係のない自分達が、できるなら戦わなくても良いようにと
ファルコがした配慮のようだった。
つまりシュシュがしているのは、今のところ“待機”である。

―――刹那。
ゲイルの持つ銃―――あれもどうやらマスター・オブ・ソード
言うところの不思議道具らしい―――からエネルギー弾が放たれた。
そして、シュシュはそれが凶戦士に向かって、直進するのをはっきりと見ていた。
それと同時に他の戦士達が飛び出していく。
討伐作戦は順調に進むと思われた。
だが。

異常なのはそこからだった。

なんと凶戦士はいきなり、持っていた身の丈ほどの大剣を片手で軽々と振り回した。
すると、エネルギー弾はあさっての方向に飛んでいってしまう。
そして次は、エネルギー弾が飛んできた方向へ走り出した、
その巨体からは想像ができない程のスピードで。
ゲイルとその他数名が隠れていたのは岩場であった。
凶戦士が剣を振るう。
岩は、ガラスを砕くかのように―――壊れた。
剣を使っているはずなのに、それは別の武器のにも見えた。
破壊力が違う。斬るための道具を使って、叩いて壊す。
ゲイルはかろうじて避けたみたいだが、
ほかの数名はそれで吹き飛ばされてしまった。


………気付かれていた……?
シュシュはその一部始終を眺めていて、唖然とするしかなかった。
初撃をさけた最初の一振り。
弾を放つ音を聞いてから剣の振りを合わせたのでは、絶対に間に合わない。
「くっ!」
カイルが剣を握って飛び出そうとした。
「ちょっ、兄貴まだ待つんさ!」
大地が慌てて止める。
その大地の行為を見たときだった。
シュシュの鋭敏な感覚は彼女自身に、一つの“不自然”を知らせていた。
不自然な点を見つけた、とか不自然に思った、というのではなく、
“不自然”を感じ取ったのである。
カイルの剣や自分の指輪のような“異質な力”の存在を。



「2人とも、聞いて下さい!!」
大地に諫められ、言い返そうとした時にいきなり言われた。
「な、何だ?」
「なんさ?」
シュシュは必死の形相でその緊急事態を2人に告げた。
「ヤツらが……、XYZが……、ここに来てます!!」
「!!」
XYZという言葉が出た途端、自分と大地の2人が同じ表情になった。
「まさか……、いんのか?」
険しい表情、というのが自分でも分かった。
「はい……、おそらく…」
シュシュも口調が重い。
が、やがて決断した様子で
「私がXYZのところに行ってきます……!」
と言った。
「!1人で行くんさ!?」
シュシュはコクリと頷いた。
「無茶……」
カイルが言おうとしたことを言う前に遮られた。
「大丈夫、カイルよりは無茶しません。危険と感じたら引き返します」
最後は少しだけクスリ、というような言い方だった。
暗に無茶するな、と逆に言われた気がする。
「それじゃあ、私は行ってきます!!」
ほぼ、一方的に言われたままシュシュは走っていってしまった。


状況は絶望的だった。
ファルコはそれに言葉を失う。
凶戦士がいくら強くても同じ人間なのだから、
数でおせば負けることはないと思っていた。
しかし。
目の前にいるのは、果たして人間なのだろうか。
疑える程の強さだった。
もう半数が倒れている。そろそろ潮時である。
「―――た
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」
ある一言を発しようとしたとき、2つの咆哮が近づいてきた。
どうやらそれらは、カイルと大地であるようだった。
2人は突進してきた勢いのまま、それぞれの武器で攻撃する。
突然の攻撃に、凶戦士は今までのように薙ぎ払うのではなく、受け止めた。
「君達……」
「ファルコさんさー、おれっち達にしんがりをやらせてもらえねーさ?」
大地は武器に力を込めたまま、軽い口調で話す。
「ダメに決まっているだろう!元々関係ない君達をしんがりなど……」
「関係がなきゃ、助けたいと思っちゃいけないのかよ!」
カイルが言った。
いつか誰かに言われた言葉だった、気がする。
あれは………。
次の瞬間、ファルコはハッとした。思い出を手繰っている場合ではない。
「しかし――」
「「いいから!!」」
2つの声が重なった。
「……分かった。………退却―――!!!」
ファルコは先ほど、遮られた言葉を大声で知らせた。
少年2人に説得されたのも情けない気がするが、
なんとなく信じようという気になった。
「必ず帰ってこい」
ファルコはそう言い残して、倒れている者たちの方へ走り去った。


「ッ!」
2人は一旦、武器をひいて間合いをとる。
「いっちょ戦るか、大地」
「OKさ。何気に兄貴とコンビで戦うのは初めてなんさ」
カイルと大地は武器を構えた。

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最終更新:2010年09月30日 22:49