第15章
「ハァ…ハァ……」
シュシュは『違和感』のする方向へ走っていた。
「……!」
足を止め、辺りを見回す。ここはさっきいた場所から、北に少し離れた場所である。さっきの場所とは違い、ここは草原になっているようだ。『違和感』の中心はこの辺りであるはずであった。自分の感覚はそれの存在を報せくれても、その正確な座標までは教えてくれない。
「………」
シュシュは水の槍を無言で構え、感覚を研ぎ澄ます。ヤツらが、XYZがいるのなら、こっちの存在にも気付いているはずだ。
シュシュが空気をはき出したその―――刹那。
ビュン!!という空気を切り裂く音が聞こえた。
シュシュは音から方向を逆算し、それを機敏にかわす。すると、それが飛んできた方から
「あれ?かわされちゃったかあ」
という気の抜けた無気力な声がした。そちらを振り向くと、5,6メートル先くらいに少年が立っていた。その少年は中性的な顔、体のラインをしており、右側の耳につけたピアスだけが唯一の個性ともいえた。
「………XYZですか」
静かな声でシュシュは言いながら、もうすでに動いていた。槍を少年に突き出す。が、
「エルフのお姫様がこっちに来たんだあ。ドワーフの男の子とかと戦ってみたかったけど」
少年は槍を軽くかわし、独り言を漏らした。
「………」
シュシュは黙ったまま、槍を横に薙ぐ。すると少年はバックステップで間合いを大きくとった。
「今度はこっちの番だよ」
少年がそう言うと、彼の手のひらに七色の光が踊った。かと思うと、少年はそれをかなりの速さで投げつけてきた。それは途中で光を失ったが、シュシュの鋭敏な感覚は、それが見えなくとも何かが飛んできていることを警告している。だが、彼女はあえてギリギリまでかわさなかった。それは飛んでくる物を見極めるためであった。飛んできたその物体は輪郭だけがうっすらと感じ取れる。そしてそれはとても鋭利そうなナイフの形をしていた。
「ッ!」
シュシュは体を転がしかわす。
「いい眼してるね」
少年は避けたシュシュに追いつき、キックを繰り出した。1人でのコンビネーションだった。シュシュはそれを槍でかろうじて受け止める。シュシュは反撃をしようと槍で突くが、少年はまたバックステップで間合いを広げてしまう。
「そんな槍じゃ、おれには届かないよ」
シュシュは苛立ちを抑えた。少しの手合わせだったが、この敵が強いということくらいは分かる。さらにいえば、敵の攻撃をかわしそのスキをつく戦い方は、シュシュと似ていた。違うといえば、武器くらいなものだ。ここで、はやる気持ちを抑えなければ勝ち目はよけいに薄くなると思い、シュシュは余計に自分を落ち着かせようとした。
「ふーんそっか、エルフのお姫様かあ。あ、そうそう」
少年の顔が途端に歪んだ。シュシュは何を言われても心を乱さないように、深呼吸をした。
だが、少年の口から出たのは、信じられない言葉だった。
「君のお父様は元気?」
キミノオトウサマハゲンキ?
その言葉でシュシュの視界が真っ白に染まった。
少年の顔が嬉しそうに崩れる。
「それとも、きみにはもういなかったっけ?」
ソレトモキミニハモウイナカッタッケ?
頭の中で、何かがはずれてしまったような音が聞こえたのは、きっと気のせいではないだろう。気付けば、シュシュは少年に槍を振り下ろしていた。だが、少年はヒラリとそれをかわす。
「殺意がビンビン出てるから動きが、丸見えだね」
シュシュは少年を青色の瞳で睨み付ける。
少年はハァ、とため息をついた。あきれているような口調だった。
「全く………、そんなんだから、君のお父さんは殺され
「黙れ」
普段の彼女であるなら、否、普通に怒ったとしてもシュシュが絶対使わない言葉だった。シュシュの中でドス黒い感情が、噴水のように一気に湧き上がってきた。
それが言葉という形で爆発する。
「お前らが………殺したんだろ。あたしから………奪ったんだ!」
シュシュの瞳から涙が流れてきた。冷静さとか怒りを抑えるような理性とかいうものが、シュシュの中から涙と一緒に零れ落ちていくようだった。
「お前らのせいで………、あたしは失ったんだ!!」
*
大地と
カイルは
凶戦士に攻勢であった。大地が振り下ろした斧を凶戦士が受け止める。大地はすぐさま斧をひく。すると、カイルが攻撃にでる。
―――これならなんとかいけるんさ。
大地は心の中でそう思っていた。普通ならば、凶戦士は集団で戦っても引けをとらず、むしろ優勢にすら戦えるだろう。だが、さっきの戦いで大地が見ていたのは、もっと別のことだった。
―――コイツ、さっきの戦いでほとんど攻撃を受けてなかったんさ。
先ほどの戦いでこの凶戦士はほとんど攻撃を受けていなかったのだ。否、こちら側が攻撃するまもなく凶戦士が倒していたのである。ということは、常にこちら側が攻勢を保っていれば、しんがりとしての時間稼ぎくらいはできることになる。無論、大地だけなら不可能な作戦である。本来の大地の戦い方はスキが大きく反撃を受けやすい。だが、今はカイルがそのスキを埋めてくれる。
「ッ!」
カイルの剣がついに凶戦士に傷を負わせた。凶戦士の傷に血が滲む。
―――やったんさ!
大地はそう思うと再び斧を構え直した。しかし、凶戦士は逆にその大剣をおろした。
「………?」
大地とカイルは構えたまま、疑問符を抱えていると
「お前らは………、何のために戦っているのだ?」
凶戦士が口を開き始めたのであった。低く、しかしはっきりした声だった。
「お前らはここの住人ではないだろう?雰囲気で分かる。何故、戦う?」
これに答えるべきか大地は幾ばくか考えた。普通に考えれば、答える必要はあまりない。自分達はお互いに戦っているのだから。だが、大地が考えたのは自分自身のことではなく、自分が答えなくても答える者が横にいる、ということだった。
「だったら、お前こそなんで戦ってるんだよ」
大地が視線を向ける前にカイルはしゃべり出している。
「いや違う。お前がしてるのは『戦う』じゃなくて、一方的な『壊す』だ。それで、お前は何がしたいんだ?」
カイルは2人分の疑問をぶつけた。
誰か―――特に知っている誰か―――が困っているのなら、とりあえず手助けしようとする彼にはきっと奪ってまでしたいことというのが、想像出来ないのだろう。そんな疑問だった。
大地は凶戦士を見つめる。奴の答えを聞くためだ。そしてその答えは、
「………何故、だろうな?」
そう答えた凶戦士の瞳は空っぽだった。理由なんてない、というばかりに。
横でカイルが唇を噛んでいる、ということが見なくても分かった。
「そろそろ………終わりにしよう。お前らはしんがりとしての役割を果たしてしまったからな」
凶戦士が大剣を持ち上げる。そして大剣の宝石が煌めいた。
*
一方、そこから北に少し離れた場所では、シュシュと少年が攻撃と回避を繰り返していた。
シュシュは、高水圧の水弾をぶつける『ラルゴ・アンダンテ・アレグロ』を弾の形にせず、槍にして10本ほどのそれを機関銃のように一気に放つ。少年はかわし、風のナイフによる弾幕を繰り出す。
だがこの勝負、互角ではない。シュシュの体には、左肩・右の二の腕・右の太股にナイフの傷ができていた。出血が少ないのは、彼女の能力である『液体操作』によるだろう。普段の彼女ならば、そのどれにも傷を負わなかったはずだ。だが、怒りはどうしても動きを鈍らせる。
「あーあ、君との戦い、少し飽きてきたなあ。だって君の動き、って単調なんだもん」
どんな傷でも彼女の黒い感情を止められない。父や母、エイリーとの記憶だってそれの奔流を抑える枷にはなってくれなかった。
「う、るさい………。お前らがお父様を殺さなければ、あたしだってこんな黒い感情を知らなくて済んだんだ!」
シュシュは再び10本ほどの槍を作り出す。
「おいおい、それはおれのせいじゃないぜ?それは君が元々持っていたものだろう?」
ドドドドッ!返事の代わりに槍の雨を放った。少年はまたもや攻撃をひょい、とかわす。反撃に備えようと槍を構える。しかし、その瞬間シュシュは激しい目眩に襲われた。
ユグラをフルパワーで使い過ぎた反動であった。ユグラの能力使用は体力と精神を消耗する。
そして。そのスキを少年が見逃す訳がない。
目眩が治まった時には、腹部に風のナイフが1本生えていた。ナイフはすぐに霧散してしまった。
シュシュはよろめいて、近くの木にもたれかかる。
先ほどから付いていた3カ所の傷口から血が出てきた。一番深い腹部の傷による出血を止めようとするせいで、ユグラを使うシュシュの処理能力を上回ってしまったのだ。
ザッと少年が近づいてくる音が聞こえた。
「チェックメイト……かな」
シュシュの視界が急速に曇っていった。その中でボンヤリと思考する。
(………あたし、死んじゃうのかな)
きっとそうなのだろう。この少年がトドメを刺さなかったところで、『液体操作』はすぐにできなくなる。ユグラを使う元となるエネルギーの体力と精神を使いきっているのだ。能力が使えなければ、出血多量で死んでしまう。
「じゃあね」
少年は、明日また会う友人に別れを告げるかのように言う。両者の距離は5メートルほど。はずそうと思ってはずせる距離ではない。少年が無数のナイフを作り出した。
(やっぱり、死ぬんだ………)
弛緩した思考の中でシュシュは、もうなんとなくそれでもいい気がしてきた。
黒い感情があっても、それを燃やすべきろうそくが今はないのだ。時間が経てば回復するだろうが、感情の器になる精神が消耗し過ぎている。
だが、生きることをあきらめかけたその時、シュシュはふと自分が涙を流していることに気が付いた。
涙を流したのはいつ以来だったろう。父が死んでから流してなかった気がする………。
(………?)
シュシュの中で何かが引っかかった。
(そうだったっけ?泣いたのが久しぶり?最後に泣いたのはいつだった?)
何か大事なことを忘れている気がする。何だ?何を忘れている?
シュシュの思考が加速を始める。
(お父様の死、お墓参り、かわいいワンピース、似合うと言われた、2人でいった、自分は泣いていた、握られた手)
記憶の断片がシュシュの中で浮かんでは消えていく。
そしてそれは、シュシュにある人物を導き出させた。
「切り裂け、『エッジ・ナイヴス』」
少年がナイフを発射するのと、シュシュがその人物のことを思い出したのはほぼ同時だった。
ナイフの弾幕がシュシュめがけて飛んでくる。
風の刃が命を奪おうと迫ってくる中、シュシュの心にある思いが生まれた。
(い、や、だ。まだ、死にたくない)
まだ生きてたい。もっと彼としたいことがある。もっと伝えたいことがある。
(カイル………!)
だから彼の名を心の中で叫んだ。ろうそくに再び炎が灯った。
シュシュは飛来するナイフを迎撃するべく『ラルゴ・アンダンテ・アレグロ』を放とうとする。
が、精神が復活したとはいえ、消耗した状態では不完全で弾の形には圧縮されず、大量の水が宙に浮くだけになっていた。
しかし、それでいいのだ。今はそれで事足りる。この大量の水をさっきの槍を放つのと同じ速度で発射したらどうなるだろう?
その答えは、滝が流れ落ちるような水の噴射になるのだ。
ナイフがシュシュに届くまで後1メートルというところ。
水の噴射はナイフを蹴散らした。そしてそれはナイフの先にいた少年を襲った。
突然の反撃に油断しきっていた少年は反応しきれず、水流をくらい水圧で後ろに吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
少年は初めて苦そうな顔をした。
「死に損ないが………」
少年は立ち上がり、またナイフを作り出す。そしてシュシュの方を睨む。
しかし、少年が見るとシュシュを中心に白い霧が出ていた。
それはシュシュが最後の力を使って作り出した、逃げるためのものであった。
発生した濃霧はもう少年すら取り囲んでしまっている。
「チッ!」
少年は舌打ちをした。
シュシュは自分が来た場所へ走っていく。
(もし、奴の力が私の予測通りなら、)
「ハァ…ハァ…」
(ナイフの数とその威力は反比例するはず)
その予測はシュシュが戦いながら感じ取ったものだった。
そう、仮にナイフの威力が同じなら、シュシュが目眩を起こした時にナイフの弾幕を使えば、トドメを刺せたのだ。そしてさらに、シュシュが負った傷はどれも、ナイフが1本か2本の時だった。そしてそのときは決まって、自分が大きなスキを作った時であった。
つまり、あの少年は小さなスキを弾幕で狙っていたのではなく、大きなスキを高い威力で狙っていたのだ。
シュシュは自分が来た場所へ走っていく。全力で、彼のところへ。
*
「ゥオオオォ!!」
凶戦士がその巨体に似合わぬスピードで突撃してくる。
―――しまった。
カイルは
緊急回避をしながら、そう感じていた。話かけられたとはいえ、相手に反撃を許してしまったのだ。
凶戦士は急転回して狙いを大地に変えた。大地は全てを粉砕するかのような一撃を自身の斧【カタストロフ】で受ける。
だが、凶戦士は斧ごと大地を吹き飛ばした。
「!」
大地の体が地面に投げ飛ばされる。凶戦士は追撃しようとした。
「大地!!」
カイルは2人の間に割り込み、凶戦士の剣を【カイル】で防ぐ。
しかし、【カイル】が大剣の切っ先に触れた瞬間にカイルの重量が軽くなった。
そして。軽い物は簡単に吹き飛んでしまう。
体を叩きつけられ、肺の中の酸素を強引にはき出させられた。
「ク…ハ…」
大地はよろめきながら立ち上がった。くらくらする頭を揺り起こす。
―――何なんさ………?
奴の剣を受けた瞬間、いきなり自分自身の重さがなくなってしまうような感覚がしたのだった。
―――考えろ、考えるんさ。
凶戦士の持つ大剣は十中八九、宝器とみて間違いないはずだ。だが、そうだとすると問題はどんな能力をもっているか、ということである。
さっきの感覚からして「重さ」に関係した能力、と仮定することができた。
「ハアアアアア!!」
凶戦士が再び突撃してきた。今度は受けずにかわす。そして追撃。大地はまたかわす。
敵の能力が確定できないなら、こちらが能力を使えばよいのだが、この猛攻の中では能力を発動するための集中すらできない。そもそも大地はかわすことにあまり慣れていない。このままではじり貧だ。
「くっ!」
とうとう避けきれなくなり、大剣がかすめそうになる。それを斧でガードする。が、そのかすめるような一撃でも衝撃で後退してしまう。
凶戦士が本命の一撃を振り下ろそうとする。
しかし、凶戦士の後ろから炎が迫ってきた。
「!」
凶戦士はそれに気付き、ぎりぎりで炎を避ける。
見ると、カイルは苦しそうだが起きあがろうとしていた。
大地はこれをチャンスと見て、凶戦士に攻撃をする。
凶戦士は迎撃するため大剣を横になぐ。なごうとした。
だが、その大剣は途中で振った方向とは別の動きをした。
そしてその先にいたのは、
「迎えにきたぜぃー」
「君達を連れて帰らない訳にはいかないだろう?」
*
カイル達と凶戦士の戦いに割り込んできたのはギャザーとファルコだった。
「な………」
カイルがいまいち状況が飲み込めていないでいると、辺りが急に白い霧に包まれた。
霧に覆われると、誰かが剣を持っていない方の手をつかまれ、自分を連れて行こうとした。
カイルは一瞬警戒したが、すぐにそれを解いた。その手が誰のものか分かったからだ。
繋いだのは2回くらいだけど、その繋ぎ方や手の柔らかさを覚えていた。
「シュシュ」
その少女の名を呼ぶのは何故かちょっとひさしぶりな気がした。
「説明は後でします。今は………逃げましょう」
音で場所がばれないよう低めの声だが、いつも通りの彼女で少し安心する。
「ああ」
短い返事をして、シュシュが引っ張る方向にカイルは走っていった。
「ふう、やっと着いた」
レジスタンスのアジトに戻るとシュシュの指輪から発生していた白い霧が消えた。
「あ、良かった~。ちゃんと止まりました」
シュシュがホッと呟いたので、
「どういうこと?」
とカイルは尋ねた。
「いやなんていうかさっきまでこの霧を私の意志でストップできなかったんです」
「え、そんなことあんの?」
少し心配になった。宝器がコントロールできない、なんてあるのだろうか?
「普通ならないんですけど………あ、でも心配しないで下さい!私が疲れてただけかもしれませんし」
まあ、シュシュがそう言うならいいのかな?
「あ、そうだ。事情を軽く説明しますね」
アジトの中に入ると一番近くの部屋に大地とファルコ達がいた。
シュシュの話によると、彼女がカイルたちのところへ向かっている時、カイル達を救出しようとするファ
ルコらに会ったようだ。そして、霧を利用し二手に分かれて撤退する算段にしたとか。
「兄貴!姐さん!」
大地がすぐに2人のところに駆け寄ってきた。
「良かった、2人とも無事だったんさ」
そう言ってホッと息をつく。しかしカイルは大地もまた凶戦士に吹き飛ばされたことを思い出す。
「大地も大丈夫か?アイツの攻撃受けたのに」
不安になり尋ねると、
「多分、兄貴より攻撃が浅かったから平気さ!」
ケロッ、と大地が答えた。
………ん、なんか後ろにジト目を感じる気がする。そう思って振り返る。
「………カイル」
シュシュがにこやかにこちらを見つめていた。
「ひょっとしてまた無茶したんですか、そうですか」
笑っているのになんか冷たい感じがする、なんでだろう。
「え、ええとそれは……」
カイルが返答に困ってキョロキョロしている。するとその微妙な空気を断ち切るように、
「コホン」
とファルコが咳払いをした。思わず3人ともそちらを見る。
「話を遮ってしまって申し訳ないが、礼を言わせてもらいたい。ありがとう」
ファルコがかしこまって3人に頭を下げた。
その急な動作に3人ともポカンとしてしまった。
「え、そ、そんなどうしたんですか、ファルコさん」
やはりこういうことに一番慣れているのだろうか。シュシュが応対した。
「君達のおかげでこのレジスタンスの被害を抑えられたのだから、当然だよ」
ファルコはもう一通り感謝の言葉を述べてからその場を後にした。
どうやら、今後の話し合いをするらしい。
ファルコが出て行き、少し広くなった部屋でカイルは2人に言った。
「じゃあ、部屋に戻るか」
シュシュと大地は
「ハイ!」
「そうするさ」
2人らしい返事をした。
「あ、ちょっとおれっち用事を思い出したんさ」
と、大地は部屋に戻る途中で言った。それを聞いて横の2人が足を止めた。
「どうしたんですか?」
シュシュが代表して疑問を尋ねた。
「いや、大したことじゃないんし、すぐ戻れるだろうから先に行ってて欲しいんさ」
大地は適当にはぐらかして今、来た道を戻っていく。
「?」
カイルとシュシュは顔を見合わせたが、大地の言葉を信じて先へ行くことにした。
「えーと、ファルコさんがいるのは、ここの部屋さ………?」
部屋を僅かに覗く。ファルコはギャザーとゲイルと共に話し合っていた。
「――だから――で」
「………は……だろ」
その声が聞こえてくる。大地はタイミングを見計らってそこに入る。
「ファルコさん」
ファルコたちが振り向いた。
「どうしたんだい、大地くん」
そう尋ねるファルコの顔を少し疲れて見える。
「聞きたいことがあるんさ。………聞いてもいいんさ?」
そう。大地には気になっていることがあり、それを聞くためにここに来たのだ。
「別にかまわないが………、何を聞きたいんだい?」
これから尋ねることは、単に大地の直感である。
正直、聞くべきかどうか今でも迷っている。だが、大地はそれを知るために口に出す。
自分が間違っていただけならそれでいい。
「聞きたいのは………」
フウ、と息を吐いてからスウ、と深呼吸をした。
「………凶戦士とファルコさん達のことさ」
*
「大地、どうしたのかな?」
カイルが歩きながら、誰かに尋ねるでもなくそれを口にする。
「んー、少し気になりますよね。あの様子は」
シュシュもなんとなくそう感じていた。
「後で聞いてみましょうか」
シュシュはクスッ、と微笑んだ。
戦いが中断したので気が抜けていた。
「そういえば、カイルは怪我とかしてませんか?」
どうせしてるんだろうな、と思いながら尋ねる。
カイルは少し、ギクリとなって答えた。
「え?イヤ、大丈夫だよ…」
「信用できません。いつもしてるじゃないですか。ちょっと見せてくだ………」
そこまで言ってから、シュシュは視界がぼやけ、体に力が入らなくなるのを感じる。
それと同時にシュシュの意識は急速に落ちていった―――。
最終更新:2011年11月11日 21:21