朝だ。
机の上には散らばったカードと二つの纏まったデッキ。
なんだかんだで昨日の夜の内にメインデッキもサブデッキも構築が完了した。
持てる限りの実力を詰め込んだメインデッキと考え尽くした対策を詰め込んだサブデッキ。
自分で出来る精一杯を凝縮した、ベストな仕上がりに違いない。
寮の廊下からは早速大会当日と言った賑わいを感じる。
ドア越しに聞こえるやる気の宣誓と仲間内での雑談、張り切った会話には身が締まる。
逸る気持ちを冷静に抑えつつ、俺はデッキを持って部屋を出た。
寮の敷地を出て学校に向かう短い道、いつもでは想像が及びもしない賑わいだ。
この中の一握りだけが本選に進み、そしてたった一人だけが頂点に立つ。
そう考えると俄然やる気に満ち満ちてくる。
ここから後の予定としては最初に受付に赴き、大会参加に必要なバッジを受け取る事になる。
バッジには事前に教師達によって個々に出された「プレイヤーランク」という物が表示されている。
1~10の全部で10段階、どんな数値が出ているかはまだ分からない。
基本的にはここに表記されている数値が高いほど優秀なプレイヤーというわけだ。
大会の予選はサバイバル方式。
勝者は敗者からこのバッジを受け取り、敗者は脱落する。
つまり勝ち残れば残るほどバッジが集まっていくわけである。
本選進出にはまずバッジを集める必要がある。
この際、バッジに記載されたランクがそのままポイントとして扱われる。
要するにランク5のプレイヤーに勝利し、バッジを受け取れば5ポイントである。
この調子で進めていき、規定のポイントを集めて受付に申請すれば晴れて本選進出というわけである。
また、ポイントの数が上位の4名には本選のシード権が与えられるため、規定のポイントを大きく上回ってポイントを稼ぐ生徒も居る。
制限時間以内にポイントが規定の数値に達していない場合は無条件で脱落である。
つまりランク1の生徒を狙ってポイントを稼いでいては間に合わないというわけである。
ある程度は上位ランクの相手と戦って勝利しないといけない。
去年は30ポイント収集で本選進出で俺は24ポイントのところで敗退してしまった。
今年は是が非でも突破を目指したいところだ。
*
「おいっす!ソルフォ!遂に大会当日だな!」
学校に着き受付に向かおうとした所でエドとバートに合流する。
「そうだね、やるべき事はやったし堂々と行こうよ」
「うむ、それでは早速受付でバッジを貰うとするか」
見遣るとメインの受付である昇降口は人の波で埋まっている。
学校側もそれを考慮してか、受付を数箇所に分けて設置している。
エドが本選を行うホール前にも受付があると言ったので俺たちはそっちに向かうこととした。
「7か、中々の高評価だな」
「俺は6か、まあまあって所か」
バートとエドが受け取ったバッジを胸に付けながら言う。
俺は7ポイント、校内で言ったらそこそこ上位のプレイヤーに分類される。
エドは俺たちより1つ下のランク6だが、ムラがあるガンナーデッキであの評価は凄い。
更にエドのデッキは昨日で大幅に強化されたから実力的には6では済まないだろう。
「皆さま、おはようございます」
不意に声を掛けられ、その方向を見遣るとミリアが居た。
彼女もこちらの受付を選んだのだろう、胸でバッジが光っている。
「おいっすミリア……お前ランク9か、すげえな」
エドが驚きの声を上げる。
流石は
吸血鬼デッキとしてエドを完封しただけはある、納得のランク9だ。
9と言えばもう余程の事が無ければ本選に進めるような実力である。
「大した事ないですわ、初めての大会で緊張しちゃって実力が出せるかどうか……」
そういえばミリアは今年入園したってアッシュが言ってたっけか。
初めての大会でランク9とは、やはり余程の実力者というわけか。
「お前なら大丈夫だろ、本選で会おうや!」
エドが言うとミリアは軽くお辞儀をしてホールの中へと入っていった。
開会式はホールの中でだったな、そろそろ行くか。
ミリアに続いて俺たちもホールの中に入る。
ホールの中は既に大量の人で犇き、熱気を放っていた。
辺りを見回して生徒の胸のバッジの数値を観察してみる。
2、5、6、2、3……平均は4と言った所か。
こうして見るとどうしてもランク10が見つからない、10はもう別格扱いで本当に少数しか居ないのだろう。
ランク9とランク10の境には大きな壁があるという話も聞いた事がある。
1人、また1人とホールに人が集まるに連れて高まる緊張感。
俺たち3人はというと入り口付近で待機して入ってくる生徒を観察するなんて事をしていた。
言うまでも無くランク9、ランク10の生徒をマークする為である。
「着きましたよ、ここが開会式の会場です」
「ほう、大会とはこんなに人が集まるものなのか意外だ」
俺たちの目を惹いたのはその銀髪の二人組みだった。
スラリとしてメイド服を着こなしたセミロングの女性と、小柄なロングヘアーの少女。
瞬時に片方が昨日の話に上がっていた「セラ」なのだと悟る。
ランクはメイド服の方が9、セラは最高である10
「予選のルールはご存知の通りです。例の彼は恐らくシードを獲得するでしょう」
「うむ、私もシードを獲得すれば必然的にあいつとは準決勝か決勝で当たるというわけだな。一つ稼ぐとするか」
言って二人は人ごみの中へと姿を消していく。
俺たちは暫しその光景に目を奪われていた。
何故かと問われたら答えを探すのに苦労するが「独特の気配」がそうさせたというのが最も近いか。
ミリアを以ってしても勝てないと言わせるだけの事はありそうだ。
「あれがセラか……」
バートも俺と同じように悟ったのだろう、呟く。
「隣に居た奴もランク9だろ?あんな二人組み反則だぜ」
何にせよ絶対に予選で当たってはいけない相手である。
戦うとしたら本選、しかも相手の情報が十分に集まってからではないと勝負になりそうにない。
そして間もなく開会の式が執り行われるのであった。
最終更新:2011年11月11日 03:44