ある夜の事でした。
年に一度の好例とされている夜景観察が、今回は丘の上で開かれると世間で話題となった。
それを聞いてたくさんの人々が丘に集い、のんびりと星空を眺めていた。不思議と、日常で見るものより輝いて、澄んで見えた。
一段と綺麗なこの夜を、青年アオは浅花と一緒に過ごした。
これは見ておかないととばかりに彼女に引っ張り出されたアオはおどおどしていた。
夜は結構遅く、周りにいた人たちもぼーっと夜空を眺めているばかりだったので、案外静かだった。
彼女もまた耽って星空を見上げている。
アオはそんな彼女に話題を振る。
アオ「綺麗だね……いつものよりも。」
浅花「はい…そうですね…。」
星に目を奪われた彼女を振り向かせることができず、少し悔しい気がした。
浅花「…は……は…くしゅん…!」
アオ「あ……。」
夜は遅い、流石にこの時間帯は冷え込んでくる。
アオは羽織っていたベージュのコートを脱ぎ、彼女の肩にそっとかけた。
浅花「わ…アオさん。」
アオ「寒いでしょ?」
浅花「でも、アオさんは…。」
アオ「俺?大丈夫、これくらい何ともないさ。」
青年は笑い飛ばす。
浅花「ありがとう。……アオさんの、温かい…。」
彼女は嬉しそうな表情でこてんと、アオの肩に寄り添った。
気まずい雰囲気になるのは昔の事、今はただこうしていられるのが幸せだと、アオは彼女の頭を見て軽く微笑んだ。
……あぁー…でも、さっみぃな…やっぱり。
彼女に気付かれないよう、反対側に寄せて軽く鼻をすすった。
浅花「はふぅー……。」
暗い丘に浮かぶ彼女の白い一息は夜空へ消えた。頬を赤らめた彼女の横顔……初めて見たようだった。
柔らかそうなその頬をつつきたい衝動に駆られたが、それと同時に彼女が振り向いたのでぴくと震えた。
浅花「アオさん…?」
アオ「え……ぁ……。」
少し唖然としたアオの表情を見て、彼女はくすっと笑んだ。
浅花「もう…どうしたんですか。」
アオ「…いやぁ……そういえば浅花ちゃんって星空観察とか好きなの?」
適当な話をでっち上げてその場を凌ごうとした。
浅花「はい、小さい時はよくやってましたよ!オニオン座をよく見つけましたよ!」
アオ「……浅花ちゃん、それ…オリオン座のことかな…?」
浅花「あ…そうでした、えへへ…。」
舌を出して笑った彼女につられ、アオも笑みがこぼれてしまった。
そんな風に、二人は楽しい時間を過ごした。夜遅くまで、冷え込んでも、二人でいれば何とも感じなかった。
けど流石に眠気が襲ってきて、今日はもうここでお開きすることになった。短い一時だったけれども、やっぱり彼女といる時間は最高だった。
アオ「今日はこんなに遅くしちゃってごめんね。」
浅花「いえ…もともと私が言いだしたので、大丈夫ですよ。…あ、コートお返ししますね。」
アオ「あ…うん。」
返されたコートを羽織ると、不思議な違和感を感じる。温かいというよりは、何かこう…言葉では言い表しづらい。しかし満更悪い気はしない。
丘を下り、夜中の街中へと出た。流石にこの時間帯はどの店も閉まっていて、物寂しかった。唯一の、綺麗な星空を除いては…。
浅花「じゃあ、ここで別れますね。」
アオ「…うん。」
浅花「アオさん、今日は付き合ってくれてありがとうございます。」
アオ「ううん、いつでも付き合うよ。」
互いに微笑み返す。
アオ「けど…本当にここでいいのかい?家まで送るよ。」
浅花「いえ…今回は、いいんです。」
アオ「……。」
浅花「大丈夫ですって。(笑)」
アオ「…そう……?浅花ちゃんがそう言うなら…。」
浅花「もしかして…心配してくれてたんですか?」
アオ「当り前さ、況してやこんな真っ暗だもの。」
浅花「やっぱり……優しいんですね。」
嬉しそうな表情で浅花は少し俯いた。
そんな彼女の頭を、そっと撫でる。
浅花「わふ……久々に撫でられました。」
アオ「ああ…そうだったね。」
しばらく優しく撫で続け、少し体を離す。
浅花「それじゃあ、アオさん。また…♪」
アオ「うん、またね。おやすみ…。」
彼女は小走りで去って行った。何か急ぎの用事でもあるんだろうか…後ろ姿をぼーっと見ていた時……
アオ「――――でっ…!?~~ったあぁ…!!」
天から何かがアオの頭に落下してきた。あまりにも強い激痛が走ったので、つい大きな声をあげてしまう。
浅花「アオさん…っ!?」
その声を聞いて浅花は折り返して彼の元へ駆け寄る。
見ると、彼の足元には一冊の分厚い本が落ちていた。表紙には何も書いていない菫色の本だった。
彼が当たったのは恐らく一番痛い角だろう。
アオ「いってて……な、なんで本が…?」
上を見渡せば建物の屋上が視界に入るが、もしやすると誰かがあそこから落としたのか…狙って落としたのだろうか。
浅花「いたそー…だ、大丈夫ですか!?」
アオ「ああ、うん…もう大丈夫。全然平気!」
と言いつつも実はかなり効いていて、まだひどくジンジンしている。
アオ「(タンコブができても可笑しくないレベルだぞ、これ!?)」
浅花「うーん……なんでしょう、これ。」
浅花はその分厚い本を両手で拾い上げる。ぱらぱらとページをめくっても、中身も真っ白であり、余計に怪しく思えてくる。
浅花「……なにも読めません。」
アオ「いや、なにも書いてないじゃん。奇妙な本だなぁ……。」
そう呟いた時だった。
突然本が薄らと光り、徐々に輝きが増していった。
アオ「……!!」
浅花「ふぇ…!?」
互いがその光に包まれていくのが分かった。
周りの風景が歪み、流れていき、やがて眩い光の世界へ入った。
アオは外の世界から遠のいていく…そんな感じがした。
浅花「アオさん……っ!!」
彼女の声がした方を振り返ると、いつの間にか彼女は遠くへ離されてこちらへ手を伸ばしている。
アオ「浅花ちゃん…っ!!」
アオも手を伸ばして掴もうとするが、さらに輝きを増した光がそれを邪魔し、彼女の姿が見えなくなった。
何も無い光だけの世界になった時、僅かに自分の体が浮くような感じがした。
そして光は少しずつ弱くなっていく…。
アオ「うあぁ……うわあああぁぁああぁぁああ!!!!」
一人称:俺
本名、清辿 蒼。浅花とは恋人関係で、これまで
カオス界の日常を悪の手から救った英雄の一人。それでも列記とした学生。
浅花の誘いで夜景観察へ行って楽しい一時を過ごすが…?
一人称:私
本名、桜風浅花。常にノリで行動する女子高生。
アオを誘って二人、夜景観察をしに丘へ訪れる。楽しく過ごした一時だったが、帰り際で…。
最終更新:2012年03月17日 21:21