意識と共に、身体の感覚もはっきりとしてきた。
青年アオはいつの間にか仰向けになって眠っていた。
身体に何か暖かい布団がかかっていて、なんだか心地よい。自分はベッドで寝かされているのだ。
何故こんなところで眠っているのか思い出せない。
そのまま、しばらくの間考えた。
どうしてこんな状態になっているのか、どのような経緯で現在に至ったのか…。
記憶から欠落しかかっていた今までの記憶を辿る。
浅花ちゃん……
彼女の笑顔が浮かんだ。
二人の帰り道、歪んだ景色も目の前を巡った。
全て、思い出したぞ…。
あの奇妙の本に、俺たちは飲み込まれたんだ。
心の中でそう呟き、ゆっくりと目を開ける。薄らと目の前に広がる空間が見えるようになっていく。
高い天井が初めに視界に入ってきて、あまりにも高すぎて…日ごろよく起床するのと大きく違っていて、なんだか気持の悪い感じがした。
半身を起こして気づいた。ここは何所かの城だ。それも、かなりのものだ。
辺りを見渡せば高価そうな小物が並んだ大きな棚、書きかけの日記らしき物が放置されている大きなガラス製のテーブル。
部屋の出入り口だと思われる大きな両開き戸は、家にある物とは桁外れだった。
常識では見られない部屋中のあらゆる物に圧倒されるも、窓の外に映る鮮明な景色を見てやっと落ち着く事が出来た感じがした。
その景色にしばらく見惚れていると、小鳥たちのさえずりと共に部屋の外で女性と老人らしき二人組が会話している声が聞こえた。
あの大きな両開き戸はガチャンと音を立て、その二人組が姿をあらわにした。
???「あら、御目覚めになさいましたか?」
優しくもゆったりとした口調で笑顔を見せてくれた女性は桃色のドレスを纏っていた。
ブロンド(金髪)のロングヘアーで、頭の上に純金の王冠を被っている。
????「おお、目覚めたか若僧よ。」
その隣に立っている二等身位の老人はキノコのような外見をしていて、茶色の服を着ている。
あれ?この二人…見た事あるぞ。
アオ「あの…。」
???→
ピーチ「あ、どうぞお気にせず。私はこのキノコ王国の王女、ピーチと申します。」
????→キノじい「ワシは姫の側近、キノじいと呼んでくれ。」
アオ「ぁ…はぁ……。」
やはり思っていた通り、彼女たちだ。
キノコ王国の王女で、いつもは
クッパという大魔王にさらわれては
マリオに助けられるお姫様だ。
けどとなりのキノじいについてはあまり詳しくない…。
ピーチ「お身体の方は大丈夫ですか?何処か、痛むところなどは…。」
アオ「え?あ、いえ……特に、大丈夫です。」(苦笑)
キノじい「ふむ……しかし若僧よ、何故(なにゆえ)城の庭に倒れこんでいたのだ?」
アオ「は…?」
ピーチ「…もしかして、何も覚えていないのですか?」
アオ「あの……ちょっと、詳しく教えていただけませんか?」
どうにも俺はあの光に包まれた後、このピーチ城の庭でうつ伏せに倒れ込んでいたらしい。
体中に傷はなく、打撲した形跡もなく…発見者の城内の兵士はそこにも驚いていたんだとか。
もしや…俺たちはあの本に吸い込まれて、ここで気を失っていたというのか。
なら、浅花ちゃんは?彼女はどこにいるんだ…?
キノじい「じゃあ、お前さんはここで気を失っている事はみな…覚えていなかったのか?」
アオ「ええ、て言うか……それよりも…」
ピーチ「……?」
アオ「庭に、もう一人…いませんでしたか?その……女の子が。」
ピーチ「いえ、駆けつけてきた兵たちが言うには、貴方しかいなかったそうです。」
アオ「そう…ですか……。」
ピーチ「……もしよろしければ、お話してくれませんか?朝食を用意しておりますので…食堂でゆっくりお食事しながらで構いませんので。」
アオ「え、いいんですか!?ありがとうございます!!」
アオの目に輝きが戻った。
俺は、運よく助かったのか…?
けど、浅花ちゃんの方はどうなんだ。今頃何処にいるんだろう。
一番心配でたまらないが…深く考えていても仕方がなかったので、俺はベッドから降りて彼女たちについて行った。
その頃、ここは色泉付近
照りつける太陽の日差しで輝きを増した泉は、眩しくも美しかった。
世界にはこんな名スポットがあったのかと、青年
キルビスは両手を腰に当ててその絶景に圧倒されていた。
しばらくぼーっと眺めていると、先程まで後ろの木陰で眠っていた少女、
アキラが目を覚ました。
キルビス「アキラ…起きたか?」
目覚めに気づいたキルビスは彼女の元に駆け寄る。
アキラ「……あれ…兄さん。…ここは…?」
キルビス「分からない…だが、俺たちはどうやら違う時代へ飛ばされたみたいだ。」
アキラ「え…どうして、そんな事が…?」
アキラは目を擦りながら言う。
キルビス「あれを見ろ。」
キルビスは色泉から少し離れたある古い建物を指す。
2010年の12月上旬、宇宙(そら)から突如降ってきた隕石により崩壊したはずの、あの
寄宿舎だった。
アキラ「あれ、寄宿舎…!?何で…確かあそこは、隕石で崩壊したって既にニュースでも流れた…。」
キルビス「ああ、だから俺たちは違う時代へ飛ばされたんだ。まだ寄宿舎のあった時代に……恐らくあの本によってな。」
キルビスの脳内でここまでの経路がフラッシュバックされた。
星がいつも以上に綺麗に見えたあの夜、彼らはいつも通り家で、いつも通りの生活を過ごしていた。
ただアンドロイドたちにはバーゲンの時間帯を見計らって買い物に出かけさせていたので、その時家にはキルビスとアキラの二人しかいなかった。
二人はアンドロイドたちの帰りを待つ為にリビングでテレビを見ていたが…
ピンポーン♪
突然チャイムが鳴った。
キルビス「あれ…?」
アキラ「兄さん、みんなもう帰ってきたみたいだよ?」
キルビス「いや馬鹿な、あいつら…さっき出ていったばかりだぞ?」(汗)
アキラ「ぁ…確かに、じゃあ誰だろう?」
ピンポーン♪
もう一度チャイムが鳴った。
キルビス「あー、はいはーい!今出ますよ―!!」
頭を掻きながら玄関のを戸を開けると…そこには誰もいなかった。
不思議に思って外へ出て見渡そうとすると、足に何かが突っかかった。…足元には分厚い本が置き去りにされていた。
キルビス「何だこれ…?俺ん家宛てか?」
アキラ「兄さーん、誰だったの?」
リビングからやって来たアキラは玄関へ向かう。
キルビス「いや、それが開けたらもういなくなってしまって…代わりにこんなのが。」
アキラ「え…何これ?すっごく分厚いね。」
キルビス「………とりあえず、部屋に戻るか。」
戸を閉めてリビングへ戻り、テーブルの上にその本を置き、一枚ずつページをめくってみた。
アキラ「何これ、殆ど…いや、全部真っ白じゃん!」
キルビス「何じゃこりゃあ!?」
めくってもめくっても白いページがこんにちは。
最後のページまで根気よくめくってみても、結局一文字や絵なども描かれていなかった。
アキラ「なんだか気味の悪い…。」
キルビス「だな、けど…一体誰が…?」
そう思った時、突然本は激しい光を放った。
その後の事はよく覚えていないが、気がつくと彼らは色泉付近で気を失っていたのだ。
アキラ「あの本のせいだったのね。通りで気味悪いと思った。」
キルビス「ここがいつの時代の世界なのかまだ分からない。ちょうどいい、あそこにでも聞きつけてみるか?」
キルビスはもう一度寄宿舎を指すと、アキラは「うん!」と頷いた。
一人称:私
キノコ王国のお姫様。
毎度クッパにさらわれてはマリオに助けられる。
一人称:ワシ
ピーチ姫の側近のうち、最高位のキノコ族の老人。
一人称:俺
本名、桐岡 幸一郎。義父であるヴァナダ吉岡の息子であり、英雄の一人。
家に届けられた不思議な本に過去の世界へ飛ばされてしまう。
一人称:私
本名、桐岡 明(きりおか あきら)。キルビスの妹で、つい最近右目の傷跡がほぼ完治した為眼帯を外している。
キルビスと同じく、不思議な本により過去の世界へ飛ばされてしまう。
最終更新:2012年03月17日 21:27