予感

マイテイ国 城内~

中世時代を思わせる窓ガラスから差し込まれる午前6時を思わせるような青白い光が点々と舞う埃を照らし、影が赤絨毯の一部を等間隔の線上に隔てる。
不自然にも王座には誰も座っておらず、手入れがしてあるのか明るい色に包まれている。
小さな足音が所々、多々鳴り響き職場の雰囲気を奮い立たせるような空気がびっしりしており、一人の青年が持っていた床モップの柄に顎を押し付けた。


カイル様とシリーラ様がお亡くなりになり、この国には活気がなくなりましたね……ミリアさん」
「使用人として、ましてや宮殿内でそんな事言うなんて、とんだ非常識ね」


ミリアと呼ばれた女性が青年の方にゆっくりと体を向け、腕を組み落ち着いた表情と口調で彼の耳に静かな怒濤をかます。


「誰も聞いちゃいませんよ。まぁミリアさんは聞いてますよね、怒りました?」
「貴方が聞かせたんでしょう? それに、怒ってなんかいないわ、マイン……」


徐々に彼女の声は消えていき、マインの名前を口に出した時には周りの足音によって掻き消されていた。
マインの眉が軽く動き、モップから顎を上げて短髪を掻きあげる。


「ミリアさん、自身の親御さんが死んだってことは認めていかないと駄目ですよ」
「……」


巧みにモップを蹴り、担ぎ上げ周囲にバケツで漱いだ水をまき散らし、近くに居た使用人の顔面に水滴とは言えないばかるに水が掛かった。


「あっ! すいません!」


使用人の前髪が濡れ、垂れている所を見てマインは含み笑いを咳き込んで誤摩化しながらモップを下げる。


「クスッ……本当、認めたくないけど……貴方達がいるし大丈夫よ。別に寂しい訳でもないんだからさ」
「お…ミリアさん、今日素直じゃないですか?」
「うるさいわよ」


ミリアの表情が緩み、その場にいた彼の表情にも先ほどとは違った朗らかさが表れた。


「父さん達が残した物は大きいわ。それに、兄様がいるもの……ラクト兄さんなら父さんと同じように皆を——」


彼女の声を叩き潰すように宮殿の巨大な扉が勢い良く開き、金属がぶつかり合う生々しい音が小さくたつ。


「革命の銃声を今此処に」



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最終更新:2012年04月20日 00:24