死の時計A-1

死の時計の告げる刑期が、止まった輪廻の中で響く 序章ログ




ハリアス「―――(森林の奥地を、一人・・・重く暗い空気を纏って歩く) 」

サァァァァァァッ―――(草木が、風で揺らめいている。) 」

ハリアス「―――克服する。(一言、言い聞かせるように呟く)俺は、克服する・・・恐れを。 」

オォォォォォォッ―――(風が、啼いている)

ハリアス「決別する、この日・・・弱い自分と。

ガサガサッ・・・。(歩む先に、草木が何者かの存在を告げる) 」

隻眼のオーガ「―――ガサッ。(それは、自らを絶対強者と疑わず、ただ悠然とそこに座っていた。) 」

ハリアス「これで、三度目―――いや・・・ある意味では二度目なのか。(隻眼のオーガを、木陰から見据える)・・・ハァッ、ハァッ・・・。(見ただけで心臓が跳ね、平静さを奪う)・・・俺は捨てる、恐れを・・・弱い自分を・・・『ロストハート』。(静かに、それを発動し・・・瞳から光が消え失せる)

隻眼のオーガ「―――グルル・・・。(薄っすらと、変化した空気の流れに目を泳がせる)

ハリアス「―――『ベアトラップソーズ』、起動・・・多重!(瞬時に、同じ魔法を並列で発動し)『フラッシュアウト』!!(続けざまに、魔法を発動する)

カッ―――!!(『フラッシュアウト』が発動し、周囲一体が閃光に包まれる)

隻眼のオーガ「ガッ―――!!(突然の光に、目をやられながらも立ち上がり・・・)ザシュゥッ!(『ベアトラップソーズ』を発動させてしまい、突き出た刃に足を貫かれる)

ハリアス「ぅぉぉぉぉおおおおおおおおあああああああァァァァァッ!!!!(雄叫びを上げ、『突風』と『衝撃波』を同時に何度も発動して弾丸のごとく飛び出した!)らぁぁぁぁぁッ!!!(勢いのままに、握りしめた長剣を向けて、振り抜く)

隻眼のオーガ「―――グルルッ(足が貫かれたが、応えてないようで、煩わしそうに足を刃から引き抜き)―――ガシィッ(潰れた視界で、振りぬかれた長剣をがっしりと掴んだ)

ハリアス「ッ―――『スタンボルト』『アフタープロミネンス』『アイスグランド』ッ!!(掴まれて動きが止められる前に、握った剣を手放し、『スタンボルト』を打ち込み、『アフタープロミネンス』を発動し、『アイスグランド』を放ち隻眼のオーガを地面に縫い付けて突風と衝撃波を使いながら瞬時に距離をとる)

隻眼のオーガ「バッ―――バチバチバチィッ!!(強烈な電撃が命中し、)シュッ―――ドガァァァンッ!!!(周囲の空気を引き込みながら、大爆発が発生して姿が見えなくなり)ガキィンッ―――(オーガの周囲一帯が凍てつく冷気に包まれ、大地が凍りつく)

ハリアス「―――・・・。(爆発で発生した煙の向こう側を、鋭い目で見続ける)

―――ズドォンッ!!!(物凄い速度で、煙の中から強い衝撃がハリアスの腹部へ突っ込んできた!)

ハリアス「―――げはっ!!(それは彼の反応速度に勝り、腹部に直撃を許す)がっ・・・げふっ―――ダンッ!!(地面をバウンドし、ごろごろと転がり・・・片手の力だけで強引に跳ね起きて立つ、人の体でやるべきではない動きである。)

隻眼のオーガ「グルルルル・・・。(遅れて、煙の中から傷のないオーガが姿を現す)

ハリアス「・・・ペッ。(それを見て、口の中に溜まった血を吐き捨てて)『収束魔導波』・・・タイプB、威力4、速度最大・・・並列4。(魔法を展開しながら、もう片手を突き出し)『デフューズ・ボム』!!(巨大な火炎弾を放つ)

隻眼のオーガ「グォォォッ!!!(雄叫びを上げ、ハリアスに向かって巨体の鈍重さを感じさせない速度で走り、飛来する火炎弾にその豪腕を振るう!)

バシュッ!!(豪腕の命中する寸前で、火炎弾は二つに分かれて横へ飛んで行く)

隻眼のオーガ「―――グルゥ・・・?(突如、自分から離れていく二つの火球に・・・絶対強者故の余裕が、戦闘中にその歩みを止めさせる)

―――グォォォォッ!!!(猛烈なカーブを描きながら、左右を挟むようにオーガへ二つの火球が飛来する!!)

ハリアス「―――『収束魔導波』、シュート!!(螺旋状の、半透明な『それ』は4つ同時に、空を切って放たれる!!)

隻眼のオーガ「―――ガァッ!!??(左右の逃げ道を塞ぎ、そして前方からすさまじい速度で襲い来る4つの塊に一瞬動きが止まるが)バッ!!(即座に腕を交差させ、心臓部と顔面を守る)

ドクシャァッ!!!(螺旋を描くそれは、腕を穿ちながら進み)グチャァッ!!ブシャァァッ!!(次々と皮膚に穴を穿ち、食い破っていき)ズドォォォォォン!!!!(二つの火球が、体を焼き焦がす)

隻眼のオーガ「―――・・・。(腕を交差させたまま、停止し)シュゥゥゥゥゥ・・・。(傷口が、煙を上げながらゆっくりと塞がっていく)・・・グォォォォォォォォォッ!!!!!!(そして、阿修羅の如く怒り、叫び、空気を震わせる)

ハリアス「―――煩い、吼えるな。(臆する事なく、鋭い眼光を向け続ける)『クローハンズスラッシュ』・・・二重起動(両手の先に、巨大な刃の手を生み出し)ぉぁあああッ!!!(両側から握りつぶすように、それを放つ!)

隻眼のオーガ「ズダンッ!!(強く踏み込んで)ブォォォォンッ!!!!(両サイドから飛来する手に向けて、拳を振るう)

ガシャァァァァァァァンッ!!!!(鋭い刃の手が、豪腕の一振りで粉々に砕け散る)

ハリアス「―――『衝撃波』ッ!!(全力で横方向へ、衝撃波を使って退避する)

隻眼のオーガ「―――バシュンッ!!!(一瞬遅れて、ハリアスがいた場所に音を置き去りにしてその巨腕が振るわれ、周囲の草木が切れる)

ハリアス「糞―――ッ!!(反射速度を上回る、必殺の一撃を目の当たりにして『ロストハート』で消していた心が戻りかかる)切り札切れってか・・・!!『グラヴィティオーバー』ッ!!!(手を向け、オーガの周囲の重力を変動させる)

隻眼のオーガ「ガッ・・・・!!!(突然変わった重力に、ずしりと足取りが重くなる―――が)―――ズシィンッ・・・ズシィンッ・・・(一歩ずつ、ゆっくりと、迫ってくる。)

ハリアス「―――!!糞が・・・魔力・・・が、ッ・・・!!!(歩みを止めないオーガに、薄っすらと恐れを感じつつも魔力を更に流しこむ)

隻眼のオーガ「ゴァッ!!(更に増す重力に、声が漏れるが)―――ズ、ッ・・・ズッ・・・(それでも尚、歩みは止まらない。)

ハリアス「くッ・・・あぁ・・・止まれ、止まれよ・・・・と゛ま゛れ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!(更に魔力を注ぎ、魔力の欠乏で目と口から血を流す)―――あっ(そして、無慈悲にもそれは枯渇する。)

隻眼のオーガ「―――ニィィッ(その時を待ちわびたような、獰猛な笑みを浮かべ)―――シャァッ!!!(空を切る速度で、命を奪う腕が振るわれる)

ハリアス「がッ―――(直撃し、まるで紙切れのように吹き飛んでいく)ズドッ、ドシャッ、ダンッ、―――ドシンッ!!!(地面をボールの如く転がり、バウンドして、木に叩きつけられて漸く止まる)

隻眼のオーガ「―――ズシンッ、ズシンッ。(そして、絶対強者は獲物の絶望を味わうように、ゆっくりと歩んでくる)

ハリアス「ガハッ・・・ゴフッ・・・、ゲホッ、ゴホッ・・・。(口から鮮血を垂れ流し、むせ返り、目は光を失って虚ろになる)・・・あぁ、・・・ま、た・・・か。

隻眼のオーガ「ズシンッ、ズシンッ・・・。(それは、死を告げる死神のように、無慈悲に迫り来る。)

ハリアス「―――にど、め・・・で、この・・・ザマ・・・か・・・ガハッ。(焦点が合わない瞳を、空に向ける)・・・あぁ、あいつ、に・・・はな、し・・・損ねた・・・な・・・。

隻眼のオーガ「ズシンッ、ズシンッ(ゆっくりと、ゆっくりと。)

ハリアス「ごめ・・・んな、火継・・・おに、い・・・ちゃん、もう・・・ダメ、みたい・・・だ。(揺れる眼が死に際に、何かを見せ続ける)・・・おれ、は・・・死ぬ、・・・のか。

隻眼のオーガ「ズシンッ、ズシンッ(迫り、来て)

ハリアス「―――いや、だ・・・俺は、死にたく・・・ない・・・。(眼の焦点が合い、自らの体を見る)死にたくない、俺は・・・死にたくない―――俺は、俺は・・・!!

隻眼のオーガ「ズシンッ、ズシンッ(それは、目前にまで)

ハリアス「俺は生きたい・・・生きる、生きる・・・為には、―――(黒く淀んだ瞳が、目の前のオーガを見据える)こいつが、俺を・・・俺は、俺は―――殺すんだ、こいつを、俺は・・・殺すんだ、引き裂いて・・・千切って・・・切り裂いて―――

隻眼のオーガ「ズシンッ―――ニィィッ(死神は、獲物を殺す前に、微笑んで)

ハリアス「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す・・・こいつを、こいつを―――!!!(右手に、全身にこびり付いた魔力の残滓をかき集めて)いなくなれ―――ッ!!!!(そして、集まった光は斬撃へと変わり―――)

隻眼のオーガ「ズッ―――(放たれた『それ』は、確かに命中した。)

ヒュォォォォォッ―――(冷たい風が、森林の中を走り、頬を撫でる。)

ハリアス「―――・・・、・・・。(息を止めて、・・・恐る恐る伺う)はーっ・・・はーっ・・・、俺・・・死んでない・・・な。

その場には、まるで最初から彼だけしかいなかったかのように、とても静かだった。

ハリアス「・・・今、俺は・・・何をしたんだ?(自分の右手を眺める)・・・搾りかすみたいなレベルだったはずなのに・・・魔力が、減ってない、どういう事だ。

ハリアス「・・・最後の、あれは・・・魔法じゃない・・・?(じっと手を見つめて、しかし答えは出ない)・・・うぁっ・・・い、痛ッ・・・死ぬ、このままじゃ魔物どうこう以前に失血で死ぬ・・・!(搾りかすのような魔力を集中させ、自分の怪我の治癒へ回す)・・・倒した、んだよな・・・俺が。

ハリアス「―――満身創痍もいいとこだ、・・・けど、倒した・・・。(ゆっくりと、傷口が開かないように気をつけながら立ち上がる)超えたんだよな、俺は・・・。(そして、その場を後にする)



ハリアス「―――だいぶ、回復してきた・・・な。(確かな足取りで、誰も通らない暗い夜道を歩く)・・・酷いもんだ、もっと使いこなせるはずだよな・・・

―――カチッ

ハリアス「一つだけ、乗り越えて・・・少し気が楽になったが・・・

―――カチッ

ハリアス「・・・俺は、今後どうやって生きていこうか、目標が無いな・・・。

―――カチッ

ハリアス「・・・いや、あるじゃないか、目標―――とりあえず、ヴォイドには話すだけ話して・・・問題は、あとどれだけ生きていられるか・・・

― ― ― ゴ ォ ー ン

ハリアス「―――何だ、この音・・・いつも・・・いや、さっきまでと―――!!!(激しく打ち鳴らされる第六感に従って、全力で横へ飛ぶ)

―――ズガァァァァァァンッ!!!!!!(音を置き去りにする神速の一閃が、突如として放たれ・・・ハリアスの腹部を抉り取る)

ハリアス「がぁぁぁぁぁっ!!!(腹部が抉れて、鮮血を撒き散らしながら転がる)うぉぁぁぁぁぁあっぁっ・・・か、っ・・・はぁっ・・・!!!(苦痛に顔を歪めて、呻く)

灰コートの大男「―――ォォォォォォオオオオ(・・・『異質』そのもの、或いは『恐怖』そのものが、そこに威圧感を垂れ流しながら立っている)初撃を避けるか―――面白い、だが・・・お前はここで、死ね―――『遊戯神共の玩具』よ。

ハリアス「―――ザンッ(音を立てて)―――ドシャッ、ゴロゴロゴロ・・・。(首と胴体が別れを告げて、血溜まりに沈む。)

―――ポタッ。(空から、闇色に輝くビー玉のようなものが血溜まりに落ちてくる)

灰コートの大男「パッ(闇色の玉を血溜まりから拾い上げる)・・・まだ、足りない―――強い運命を、紡ぐか・・・絶たねば。(その言葉を最後に、まるで最初からいなかったかのように消え去る)

―――なぁ、俺・・・何か、悪いこと・・・したのかな・・・、・・・誰か答えてくれよ・・・。

ポツ―――ポッ、ポッ、タタタタタタッ―――(雨が、降り始める)

―――雨が血溜まりを流していく最中、地に転がった躯は、血の涙を流しながら虚ろに空を見上げていた・・・



―――あぁ、俺・・・死んだんだな、そっか・・・死んだのか・・・。

意識が明滅するかのように、不鮮明で、不確かで、何もない場所で揺れている。

…酷い最後もあったもんだ、出会い頭に即死攻撃かよ・・・ゲームの中だけにしてくれよな・・・。

俺の最後に見た景色は、切り飛ばされてぐるぐると回転する世界だけだった。

―――酷ぇよ、どうして・・・どうして俺だけ、こんな目に・・・理不尽だ、理不尽すぎる・・・。

思えば、最初の最初から、突然かつ理不尽だったな・・・。

…でも、これでこの世界と・・・正真正銘のお別れか。

そう考えると、こんな不条理な世界でも、少しうしろ髪を引かれる気がする。

あぁ、結局話せなかったな・・・ヴォイド、俺のことどう思ってるかな・・・。

でも、悔やんだってどうしようもない・・・俺は死んでしまったんだから、・・・対話の余地もなく、唐突に。

師匠、俺の事をバカ弟子とか思ってるんだろうなぁ・・・あ、アレをメモ帳に挟みっぱなしじゃん・・・。

ていうか、あいつは俺の事を『遊戯神共の玩具』って・・・一体何のことなんだよ・・・?これ、濡れ衣だったら流石に許せ―――いやもういい、死んでるし俺。

なんていうか、ゲームの中の『負けイベント』が歩いてるような奴だったな・・・ステータスとか全部MAXっぽい・・・。

しかも、全体攻撃持ちで、ダメージカンストかつ必中効果ついてるような技をノータイムで撃ってきそうだ・・・いや割と有り得るのが洒落になってねぇ。

せめて、あんな奴に敵討ちとか考えて突っかからないでほしいな・・・ヴォイドにも師匠にも死んで欲しくねぇし。

―――あ、頭の中が白くなってきた・・・これ、『終わり』って事か・・・。

思えば、あっちでも俺は半端な人生で・・・こっちでも、結局志半ばで死んで・・・せめて、せめて来世じゃもっとマシに生きて行きたいもんだな・・・。

あぁ、すっげぇ白い、めちゃくちゃ白い・・・もうオシマイか・・・。

…火継、ごめんな、・・・。

―――・・・。

―――うん?あれ、確かに白いけど・・・眩しいぞ、すげぇ眩しいだけだ・・っていうか、意識まだある?

―――おい、どうしたんだ?おーい、おーい!おーい!!

…まさか、死んじゃったとか・・・?嘘だよな、ちょっとふざけてただけだよな・・・俺ら。

えっ、何ですかそのすごい物騒な言葉、いや確かに俺死んで―――ちょっと待て、子供の声じゃん、誰だよ俺が胸糞悪いまま昇天しようとしてたのに起こすガキは・・・

あぁーもううるっせぇ!!お前ら何俺の事起こそうとしてくれてるわけ!?折角心残りありまくりだけど死ねたと思ったのに!目が覚めるだろ!!

ひ弱そうな子供「・・・え、ちょっと大丈夫・・・?何言ってるかわかんない。

太い子供「・・・俺やりすぎたかな、ヘリオが頭おかしくなっちまった。

ヘリオ?「―――・・・は?お前ら何言って、・・・。(自分の手を確認するように見て、自分に触れて、頬を叩いてみる)・・・。

―――マジかよ、冗談だろ・・・『二度目』って・・・

ヘリオ?「そんなのアリかよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

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最終更新:2016年09月17日 15:37