子どもの権利委員会・一般的意見14号:自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項) 後編


V.実施:子どもの最善の利益の評価および判定

46.前述したとおり、「子どもの最善の利益」とは、特定の状況における子ども(たち)の利益のあらゆる要素の評価を基礎とした権利であり、原則であり、かつ手続規則である。特定の措置について決定するために子どもの最善の利益を評価・判定する際には、以下の段階を踏むことが求められる。
  • (a) 第一に、当該事案の特定の事実関係において、何が最善の利益評価に関連する要素であるかを見出し、その具体的内容を明らかにし、かつ、各要素が他の要素との関係でどの程度の重みを有するかについて判断する。
  • (b) 第二に、その際には法的保障およびこの権利の適切な適用を確保する手続にしたがう。
47.子どもの最善の利益の評価および判定は、決定を行なう必要がある場合に踏まれるべき2つの段階である。「最善の利益」評価は、特定の子ども個人または特定の子ども集団について、特定の状況において決定を行なうために必要なあらゆる要素を評価し、かつ比較衡量することから構成される。この評価は、意思決定担当者およびその部下――可能であれば学際的なチーム――によって実施されるものであり、その際には子どもの参加が要求される。「最善の利益判定」とは、最善の利益評価に基づいて子どもの最善の利益を判定するために行なわれる、厳格な手続上の保障をともなう正式な手続をいう。

A.最善の利益の評価および判定

48.子どもの最善の利益の評価は、それぞれの子どもまたは子どもたちの集団もしくは子どもたち一般の特有の事情に照らして個別事案ごとに行なわれるべき、独自の活動である。これらの事情には、当事者である子ども(たち)の個人的特質(とくに年齢、性別、成熟度、経験、マイノリティ集団への所属、身体障害、感覚障害または知的障害があること等)、ならびに、子ども(たち)が置かれている社会的および文化的文脈(親の有無、子どもが親といっしょに暮らしているか否か、子どもとその親または養育者との関係の質、安全に関わる環境、家族、拡大家族または養育者が利用できる良質な代替的手段の存在等)が関連する。
49.何が子どもの最善の利益にのっとった対応であるかの判定は、その子どもを他に比べるもののない存在としている特有の事情の評価から開始されるべきである。このことは、利用される要素と利用されない要素があることを含意するとともに、これらの要素の比較衡量がどのように行なわれるかにも影響を与える。子どもたち一般については、最善の利益の評価には同一の要素が用いられる。
50.委員会は、子どもの最善の利益の判定を行なわなければならないいかなる意思決定担当者による最善の利益評価にも含めることができる諸要素を、非網羅的にかつ序列を設けずにリスト化することが有益であると考える。リストに掲げられた諸要素が非網羅的な性質のものであるということは、これらの要素に限ることなく、子ども個人または子どもたちの集団の特有の事情に関連する他の要素を考慮することも可能だということである。リストに掲げられたすべての要素が考慮に入れられ、かつそれぞれの状況に照らして比較衡量されなければならない。このようなリストは、具体的な指針を示しつつも、柔軟なものであるべきである。
51.このような諸要素のリストの作成は、国または意思決定担当者が子どもに影響を与える具体的分野(家族法、養子縁組法および少年司法法等)の規制を行なう際の有益な指針を提示することになるであろうし、必要であれば、自国の法的伝統にしたがって適切と考えられる他の要素を追加することもできる。委員会は、リストに要素を追加する際には、子どもの最善の利益の最終的目的が、条約で認められた諸権利の完全かつ効果的な享受および子どものホリスティックな発達を確保するところに置かれるべきであることを指摘したい。したがって、条約に掲げられた諸権利に反する要素、または条約上の権利に反する効果を有するであろう要素は、何が子ども(たち)にとって最善かを評価するうえで妥当なものと見なすことができない。
1.子どもの最善の利益を評価する際に考慮されるべき要素
52.以上の予備的検討を踏まえ、委員会は、子どもの最善の利益について評価・判定する際、当該状況との関連性に応じて考慮されるべき要素は以下のとおりであると考える。
(a) 子どもの意見
53.条約第12条は、自己に影響を与えるすべての決定において自己の権利を表明する子どもの権利について定めている。子どもの意見を考慮に入れない、または子どもの年齢および成熟度にしたがってその意見を正当に重視しないいかなる決定も、子ども(たち)が自己の最善の利益の判定に影響を及ぼす可能性を尊重していないことになる。
54.子どもが非常に幼く、または脆弱な状況に置かれている(たとえば障害を有している、マイノリティ集団に属している、移住者である等)からといって、子どもが自己の意見を表明する権利を剥奪され、または最善の利益の判定の際にその子どもの意見が重視される度合いが低くなるわけではない。このような状況に置かれた子どもが権利を平等に行使できることを保障するための具体的措置が、意思決定プロセスにおける役割を子ども自身に対して保障する個別の評価が行なわれ、かつ、必要なときは、自己の最善の利益の評価への全面的参加を確保するための合理的な配慮 [9] および支援が提供されることを条件として、採用されなければならない。
[9] 障害のある人の権利に関する条約第2条参照。「『合理的配慮』とは、……他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう。」〔川島聡=長瀬修仮訳〕
(b) 子どものアイデンティティ
55.子どもたちは均質な集団ではないことから、その最善の利益を評価する際には多様性が考慮に入れられなければならない。子どものアイデンティティには、性別、性的指向、民族的出身、宗教および信条、文化的アイデンティティ、性格等が含まれる。子どもと若者は基礎的な普遍的ニーズを共有しているものの、これらのニーズがどのように表出するかは、広範な個人的、身体的、社会的および文化的側面(子どもおよび若者の発達しつつある能力を含む)次第である。自己のアイデンティティを保全する子どもの権利は条約によって保障されており(第8条)、子どもの最善の利益の評価においても尊重・考慮されなければならない。
56.たとえば子どものために養護施設または里親への委託を検討する際の宗教的および文化的アイデンティティについては、子どもの養育に継続性が望まれることについて、ならびに子どもの民族的、宗教的、文化的および言語的背景について正当な考慮を払うものとされており(第20条第3項)、意思決定担当者は、子どもの最善の利益についての評価・判定を行なう際、この具体的文脈を考慮に入れなければならない。子どもの最善の利益を正当に考慮するということは、子どもが、自国および出身家族の文化(および可能であれば言語)にアクセスでき、かつ、当該国の法律上の規則および専門職向けの規則にしたがい、自己の生物学的家族に関する情報にアクセスする機会を与えられることを含意する。
57.子どものアイデンティティの一部としての宗教的・文化的価値および伝統の維持が考慮されなければならないとはいえ、条約で定められた権利に一致せず、またはこれらの権利と両立しない慣行は、子どもの最善の利益にのっとったものではない。意思決定担当者および公的機関は、文化的アイデンティティを理由とすることによって、条約で保障された子ども(たち)の権利を否定する伝統および文化的価値を許容しまたは正当化することはできない。
(c) 家庭環境の保全および関係の維持
58.委員会は、子どもの最善の利益の評価および判定を、子どもが親から分離されることも考えられる(第9条、第18条および第20条)という文脈のなかで行なうことが不可欠であることを想起する。委員会はまた、前述の諸要素は具体的権利であり、子どもの最善の利益の判定における唯一の要素ではないことも強調するものである。
59.家族は社会の基礎的集団であり、かつ、その構成員、とくに子どもの成長およびウェルビーイングのための自然な環境である(条約前文)。家族生活に対する子どもの権利は条約に基づいて保護されている(第16条)。「家族」という文言は、生物学的親、養親もしくは里親、または適用可能なときは地方の慣習により定められている拡大家族もしくは共同体の構成員を含むものとして広義に解されなければならない(第5条)。
60.家族の分離を防止することおよび家族の一体性を保全することは、子どもの保護制度の重要な構成要素であり、「このような分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定する場合」を除いて「子どもが親の意思に反して親から分離されない」ことを要求する、第9条第1項で定められた権利を基礎としている。さらに、親の一方または双方から分離されている子どもは、「子どもの最善の利益に反しないかぎり、定期的に親双方との個人的関係および直接の接触を保つ」権利を有する(第9条第3項)。このことは、監護権を有するすべての者、法律上または慣習上の主たる養育者、里親、および、子どもが強い個人的関係を有する者にも適用される。
61.親からの分離が子どもに及ぼす影響の重大性を踏まえ、このような分離は、子どもが切迫した危害を経験する危険がある場合またはその他の必要な場合に、最後の手段としてのみ行なわれるべきである。分離は、より侵襲性の低い措置によって子どもを保護できるときは、行なわれるべきではない。国は、分離の手段をとる前に、親が親としての責任を担うことに関する支援を提供するとともに、子どもを保護するために分離が必要である場合を除き、子どもを養育する家族の能力を回復しまたは増進させるべきである。経済的理由は、子どもを親から分離させることの正当な理由とはなりえない。
62.子どもの代替的養護に関する指針 [10] は、子どもが不必要に代替的養護に措置されないこと、および、代替的養護が行なわれる場合、子どもの権利および最善の利益に応じた適切な条件下で提供されることを確保することを目的としている。とくに、「金銭面および物質面での貧困、またはそのような貧困を直接のかつ唯一の理由として生じた状態のみを理由として、子どもを親の養育から離脱させること……が正当化されることはけっしてあるべきではなく、このような貧困または状態は、家族に対して適切な支援を提供する必要性があることのサインと見なされるべきである」(パラ15)。
国連総会決議64/142付属文書。
63.同様に、子どもまたはその親の障害を理由として子どもを親から分離することもできない [11]。分離を検討することができるのは、家族の一体性を保全するために家族に提供される必要な援助では、子どものネグレクトもしくは遺棄のおそれまたは子どもの安全に対する危険を回避するのに十分に効果的ではない場合のみである。
[11] 障害のある人の権利に関する条約第23条第4項。
64.分離が行なわれる場合、国は、条約第9条に一致する形で、子どもおよびその家族の状況が、可能な場合には十分な訓練を受けた専門家から構成される学際的チームによって、適切な司法の関与も得ながら評価されたことを保障するとともに、他のいかなる選択肢によっても子どもの最善の利益を充足させることができないことを確保しなければならない。
65.分離が必要なときは、意思決定担当者は、子どもが、その子どもの最善の利益に反しないかぎり、親および家族(きょうだい、親族、および、子どもが強い個人的関係を有している者)とのつながりおよび関係を維持することを確保しなければならない。このような関係の質およびこのような関係を保持する必要性は、子どもが家庭外に措置される場合の、面会その他の接触の頻度および期間に関する決定において考慮されなければならない。
66.子どもと親との関係が移住(親が子どもをともなわずに移住する場合または子どもが親をともなわずに移住する場合)によって切断されている場合、家族再統合に関する決定において子どもの最善の利益を評価する際に、家族の一体性の保全について考慮することが求められる。
67.委員会は、親としての責任が共有されることは一般的に子どもの最善の利益にのっとったものであるという見解に立つ。ただし、親としての責任に関わる決定においては、何が特定の子どもにとっての最善の利益であるかが唯一の基準とされなければならない。法律により、親としての責任が一方または双方の親に自動的に委ねられるのであれば、これは子どもの最善の利益に反している。子どもの最善の利益を評価する際、裁判官は、事件に関連する他の要素とともに、双方の親との関係を保全する子どもの権利を考慮に入れなければならない。
68.委員会は、子どもの最善の利益の適用を促進し、かつ、親が異なる国々に住んでいる場合のその実施の保障について定めている、国際私法に関するハーグ会議諸条約 [12] の批准および実施を奨励する。
[12] これには、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する第28号条約(1980年)、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関する第33号条約(1993年)、扶養義務に関する判決の承認および執行に関する第23号条約(1973年)、扶養義務の準拠法に関する第24号条約(1973年)が含まれる。
69.親または他の主たる養育者が犯罪を行なった場合、影響を受ける子ども(たち)に対してさまざまな刑が及ぼす可能性のある影響を全面的に考慮しながら、個別の事案ごとに、拘禁に代わる措置が利用可能とされかつ適用されるべきである [13]。
[13] 親が収監されている子どもに関する一般的討議の勧告参照。
70.家庭環境の保全には、子どもが有するより幅広い意味の紐帯を保全することも包含される。このような紐帯は、祖父母、おじ/おばのような拡大家族ならびに友人、学校およびより幅広い環境に適用され、親が別居して異なる場所で生活している場合にとくに関連してくる。
(d) 子どものケア、保護および安全
71.ひとりの子どもまたは子どもたち一般の最善の利益を評価・判定する際には、子どものウェルビーイングのために必要な保護およびケアを子どもに対して確保する国の義務(第3条第2項)が考慮されるべきである。「保護およびケア」の文言も広義に解されなければならない。その目的は、限定的なまたは消極的な文言(「子どもを危害から保護するため」等)では述べられておらず、むしろ子どもの「ウェルビーイング」および発達を確保するという包括的理想との関連で述べられているからである。広義の子どものウェルビーイングには、物質面、身体面、教育面および情緒面で子どもが有する基礎的なニーズならびに愛情および安全に関するニーズが含まれる。
72.情緒的ケアは子どもが有する基礎的なニーズのひとつである。親または他の主たる養育者が子どもの情緒的ニーズを充足しない場合、子どもが安定した愛着を発展させられるように措置がとられなければならない。子どもは非常に幼い段階でいずれかの養育者に対する愛着を形成する必要があるのであり、このような愛着は、それが十分なものである場合、子どもに安定した環境を与えるために長期間維持されなければならない。
73.子どもの最善の利益の評価には、子どもの安全、すなわち、あらゆる形態の身体的または精神的暴力、侵害または虐待(第19条)、セクシュアルハラスメント、仲間からの圧力、いじめ、品位を傷つける取扱い等からの保護 [14]、ならびに、性的搾取、経済的搾取その他の搾取、薬物、労働、武力紛争等からの保護(第32~39条)に対する子どもの権利も含まれなければならない。
[14] 「あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利」に関する一般的意見13号(2011年)。
74.意思決定に対して最善の利益アプローチを適用するということは、現時点での子どもの安全および不可侵性について評価するということである。ただし、予防原則により、決定が子どもの安全にとってもたらす将来の危険および危害ならびにその他の影響の可能性について評価することも要求される。
(e) 脆弱な状況
75.考慮すべき重要な要素のひとつは、子どもが置かれている脆弱な状況(障害があること、マイノリティ集団に属していること、難民または庇護希望者であること、虐待の被害者であること、路上の状況で暮らしていること等)である。脆弱な状況に置かれた子ども(たち)の最善の利益を判定する目的は、条約で定められたすべての権利の全面的享受と関連するだけではなく、これらの特定の状況(とくに、障害のある人の権利に関する条約、難民の地位に関する条約で対象とされている状況)に関わる他の人権規範とも関連するものであることが求められる。
76.特定の脆弱な状況に置かれた子どもの最善の利益は、同じ脆弱な状況に置かれたすべての子どもの最善の利益と同一にはならないであろう。子どもは一人ひとり独自の存在であり、かつ各状況はその子どもの独自性にしたがって評価されなければならないので、公的機関および意思決定担当者は、子ども一人ひとりが有する脆弱性の種類および度合いの違いを考慮に入れなければならない。子ども一人ひとりの出生時からの生育史が個別に評価されるべきであり、同時に、子どもの発達過程全体を通じ、学際的なチームによる定期的再審査が行なわれ、かつ合理的な配慮に関する勧告が実行されるべきである。
(f) 健康に対する子どもの権利
77.健康に対する子どもの権利(第24条)および子どもの健康状態は、子どもの最善の利益の評価において中心的重要性を有する。ただし、ある健康状態について複数の治療が考えられる場合、または治療の結果が不確実である場合には、考えられるあらゆる治療の利点が、考えられるあらゆるリスクおよび副作用との関連で比較衡量されなければならず、また子どもの意見がその年齢および成熟度に基づいて正当に重視されなければならない。これとの関連で、子どもは、当該状況についておよび自己の利益に関わるあらゆる関連の側面について理解できるように十分かつ適切な情報を提供されるべきであり、また可能なときは十分な情報を得たうえで同意を与えることが認められるべきである [15]。
[15] 「到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利」に関する一般的意見15号(2013年)、パラ31。
78.たとえば、思春期の子どもの健康について、委員会は、締約国には、すべての青少年が、健康に関わる適切な行動を選択できるようにするため、学校に行っているか否かを問わず、自己の健康および発達にとって必要不可欠な、十分な情報にアクセスできることを確保する義務があると述べた [16]。このような情報には、タバコ、アルコールその他の有害物質の使用および濫用、飲食、性および生殖に関する適切な情報、早期妊娠の危険性〔ならびに〕HIV/AIDSおよび性感染症の予防に関する情報が含まれるべきである。心理社会的障害を有する青少年は、可能なかぎり、自分が生活しているコミュニティで治療およびケアを受ける権利を有する。入院または入所施設への措置が必要なときは、決定を行なう前に、かつ子どもの意見を尊重しながら、子どもの最善の利益についての評価が行なわれなければならない。同様の考慮は年少の子どもについても当てはまる。子どもの健康および治療の可能性は、他の態様の重要な決定(たとえば人道的理由による在留許可の付与)との関連でも、最善の利益評価・判定の一部に位置づけられる場合がある。
[16] 「子どもの権利条約の文脈における思春期の健康と発達」に関する一般的意見4号(2003年)。
(g) 教育に対する子どもの権利
79.乳幼児期の教育、非公式な教育および関連の活動を含む良質な教育に無償でアクセスできることは、子どもの最善の利益にのっとっている。特定の子どもまたは子どもたちの集団に関わる措置および活動についてのあらゆる決定は、教育に関わる子ども(たち)の最善の利益を尊重するものでなければならない。教育またはより良質な教育に対していっそう多くの子どもがアクセスできることを促進するため、締約国は、教育が、未来に対する投資であるのみならず、楽しい活動、尊重、参加および大志の充足のための機会でもあることを考慮に入れながら、十分な訓練を受けた教員および教育関連のさまざまな場面で働くその他の専門家を確保し、かつ子どもにやさしい環境ならびに適切な教授法および学習法を整備する必要がある。このような要求に対応し、かつ、いかなる種類の脆弱性であってもそれによる限界を克服する子どもの責任を増進させることは、子どもの最善の利益にのっとった対応となろう。
2.最善の利益の評価における諸要素の比較衡量
80.基礎的な最善の利益評価とは子どもの最善の利益に関連するすべての要素の一般的評価であり、各要素の重みは他の要素次第で変化することが強調されるべきである。すべての要素がすべての事案に関連するわけではなく、また事案が異なれば用いられる要素およびその用いられ方も変わってくる場合がある。各要素の内容は、決定の態様および具体的事情に応じ、子どもごとおよび事案ごとにさまざまであるのが当然であるし、全般的評価における各要素の重要性についても同様である。
81.最善の利益評価における諸要素は、特定の事案およびその事情について検討する際に相反する場合がある。たとえば、家庭環境を保全することは、親による暴力または虐待のおそれから子どもを保護する必要性と相反するかもしれない。このような状況においては、子ども(たち)の最善の利益にのっとった解決策を見出すため、諸要素の比較衡量を行なわなければならない。
82.さまざまな要素を比較衡量する際には、子どもの最善の利益の評価・判定を行なう目的が、条約およびその選択議定書で認められた諸権利の全面的かつ効果的な享受および子どものホリスティックな発達を確保するところにあることを念頭に置かなければならない。
83.状況によって、子どもに影響を及ぼす「保護」関連の要因(これは、たとえば権利の制約または制限を含意する場合がある)を、「エンパワーメント」(これは、権利を制限なく全面的に行使できることを含意する)のための措置との関連で評価しなければならないことがあるかもしれない。このような状況においては、諸要素の比較衡量にあたり、その子どもの年齢および成熟度が指針とされるべきである。子どもの成熟度を評価するためには、その子どもの身体的、情緒的、認知的および社会的発達を考慮に入れることが求められる。
84.最善の利益評価においては、子どもの能力が発達することを考慮しなければならない。したがって、意思決定担当者は、決定的かつ変更不可能な決定を行なうのではなく、しかるべき変更または調整が可能な措置を検討するべきである。そのためには、決定を行なう特定の時点における身体的、情緒的、教育的その他のニーズを評価するだけではなく、考えられる子どもの発達の道筋も考慮し、かつその道筋を短期的および長期的に分析することも求められる。この文脈で、決定においては、子どもの現状および将来の状況の継続性および安定性についても評価を行なうべきである。

B.子どもの最善の利益の実施を保障するための手続的保護措置

85.自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利が正しく実施されることを確保するためには、子どもにやさしい若干の手続的保護措置を設け、かつこれにしたがわなければならない。このように、子どもの最善の利益の概念は手続規則なのである(前掲パラ6(b)参照)。
86.子どもに関わる決定を行なう公的な機関および組織は、子どもの最善の利益を評価・判定する義務に一致する形で行動しなければならない一方、子どもに関わる決定を日常的に行なう者(たとえば親、保護者、教師等)は、この2段階の手続に厳格にしたがうことは期待されない。とはいえ、日常生活のなかで行なわれる決定も、子どもの最善の利益を尊重・反映するものでなければならない。
87.国は、子どもに影響を与える決定のために子どもの最善の利益についての評価および判定を行なうことを目的とした、手続上の厳格な保護措置をともなう正式な手続(結果を評価するための機構を含む)を整備しなければならない。国は、とくに子ども(たち)に直接影響する分野において立法者、裁判官または行政機関が行なうすべての決定を対象とする、透明かつ客観的な手続を策定しなければならない。
88.委員会は、国および子どもの最善の利益を評価・判定する立場にあるすべての者に対し、以下の保護措置および保障に特段の注意を払うよう慫慂する。
(a) 自己の意見を表明する子どもの権利
89.手続のきわめて重要な要素のひとつは、意味のある子ども参加を促進し、かつその最善の利益を特定するために子どもとコミュニケーションを図ることである。このようなコミュニケーションには、手続についてならびに考えられる持続可能な解決策およびサービスについて子どもに情報を提供すること、ならびに、子どもから情報を収集することおよび子どもの意見を求めることが含まれるべきである。
90.子どもが意見表明を希望しており、かつこの権利が代理人を通じて充足される場合、当該代理人の義務は、子どもの意見を正確に伝達することである。子どもの意見が代理人の意見と食い違う状況においては、必要に応じて子どもに別の代理人(たとえば訴訟後見人)を選任するよう、子どもが公的機関に対して求められるようにするための手続きが設けられるべきである。
91.集団としての子どもたちの最善の利益を評価・判定するための手続は、子ども個人に関する手続とは若干異なる。多数の子どもたちの利益が争点となっている場合、政府機関は、当該集団に直接間接に関わる措置の計画または立法上の決定を行なう際、すべてのカテゴリーの子どもたちが対象とされることを確保する目的で、当該集団の代表性を確保するやり方で抽出された子どもたちの意見を聴き、かつその意見を正当に考慮するための方法を見出さなければならない。その方法としては、子ども公聴会、子ども議会、子ども主体の団体、子ども組合その他の代表機関、学校における討議、ソーシャルネットワークサイト等、多数の例が存在する。
(b) 事実関係の確定
92.最善の利益評価のために必要なすべての要素をまとめるため、特定の事案に関連する事実関係および情報は、十分な訓練を受けた専門家によって取得されなければならない。これには、とくに、子どもに近い立場にある者、子どもと日常的に接触している他の者、特定の出来事の目撃者等から事情を聴取することが含まれることもある。収集された情報およびデータは、子ども(たち)の最善の利益評価において用いられる前に、検証・分析されなければならない。
(c) 時間知覚
93.時間の経過は、子どもとおとなとではその知覚の仕方が同一ではない。意思決定が遅滞しまたは長期化することは、子どもの発達にともない、子どもにとりわけ有害な影響を及ぼす。したがって、子どもに関わる手続または子どもに影響を及ぼす手続は、優先的処理の対象とされ、かつ可能なかぎり短い期間で完了することが望ましい。決定の時期は、可能なかぎり、それが自分にとってどのような利益となりうるかに関する子どもの認識に対応しているべきであり、また、行なわれた決定は、子どもの成長発達およびその意見表明能力の発達にしたがい、合理的な頻度で再検討されるべきである。ケア、治療、措置および子どもに関わるその他の措置に関するすべての決定は、その子どもの時間知覚ならびに発達しつつある能力および成長発達の観点から定期的に再審査されなければならない(第25条)。
(d) 資格のある専門家
94.子どもは多様な集団であり、一人ひとりが独自の特性を有しているのであって、そのニーズを十分に評価できるのは、子どもおよび青少年の発達に関わる事柄について専門性を有する専門家のみである。だからこそ、正式な評価手続は、とくに児童心理学、子どもの発達ならびに人間の発達および社会的発達に関わる他の関連の分野で訓練を受け、子どもとともに活動した経験があり、かつ入手した情報を客観的に考慮する専門家によって、親しみやすく安全な雰囲気のもとで進められるべきである。子どもの最善の利益を評価するにあたっては、可能なかぎり、学際的な専門家チームの関与が求められる。
95.解決策の諸選択肢から生ずる結果の評価は、子ども個人の特性および過去の経験を踏まえつつ、考えられる各解決策によって生ずる可能性のある結果についての一般的知識(すなわち法学、社会学、教育学、ソーシャルワーク、心理学、保健学等の分野における知識)に基づいて行なわれなければならない。
(e) 弁護士代理人
96.子どもの最善の利益が裁判所またはこれに類する機関によって公式に評価・判定される場合、適切な弁護士代理人が必要になろう。とくに、子どもの最善の利益判定が行なわれる行政上または司法上の手続に子どもが付託された事案であって、決定当事者間で争いが生じる可能性がある場合、後見人、または子どもに代わってその意見を伝える代理人に加えて、子どもの弁護士代理人が任命されるべきである。
(f) 法的理由の説明
97.自己の最善の利益を評価され、かつ第一次的に考慮される子どもの権利が尊重されたことを実証するため、子ども(たち)に関わるいかなる決定においても、立証、正当化および説明が行なわれなければならない。立証においては、その子どもに関わるすべての事実関係、最善の利益評価において関連性を有すると認定された諸要素、個別事案における諸要素の内容、および、子どもの最善の利益を判定するために行なわれた当該諸要素の比較衡量の経緯が明示的に明らかにされるべきである。子どもの意見と異なる決定が行なわれた場合、その理由を明確に示すことが求められる。例外的に、選択された解決策が子どもの最善の利益にのっとったものでない場合は、そのような結果にも関わる子どもの最善の利益が第一次的に考慮されたことを示すため、その根拠が明らかにされなければならない。他の考慮事項が子どもの最善の利益に優越すると一般的に述べるだけでは十分ではない。すべての考慮事項を当該事案との関連で明示的に明らかにし、かつ、当該事案においてそれらの考慮事項がいっそう重視された理由を説明しなければならない。理由の説明においては、子どもの最善の利益が他の考慮事項にまさるほど強力ではなかった理由も、信頼できるやり方で実証されなければならない。子どもの最善の利益が最高の考慮事項とされなければならない状況(前掲パラ38参照)があることも考慮されなければならない。
(g) 決定を再審査しまたは修正するための機構
98.国は、子どもに関わる決定が子ども(たち)の最善の利益を評価・判定する適切な手続にしたがって行なわれなかったと思われる場合に、当該決定について異議を申し立て、または当該決定を修正するための機構を、自国の法体系内に設けるべきである。当該決定の再審査または当該決定に対する異議申立てを国レベルで行なえるようにすることが常に求められる。これらの機構は、子どもに対して知らされるべきであり、かつ、手続上の保護措置が尊重されなかった、事実関係が誤っていた、最善の利益評価が十分に行なわれなかった、または競合する考慮事項が重視されすぎたと考えられる場合に、子どもが直接または弁護士代理人を通じてアクセスできるようなものであるべきである。再審査を行なう機関は、これらのすべての側面を検討しなければならない。
(h) 子どもの権利影響評価(CRIA)
99.前述のとおり、あらゆる実施措置の採択も、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保する手続にしたがって行なわれるべきである。子どもの権利影響評価(CRIA)は、子どもおよび子どもの権利の享受に影響を与えるいかなる政策、法令、予算またはその他の行政決定の提案についてもその影響の予測を可能とするものであり、諸措置が子どもの権利に及ぼす影響の継続的な監視および評価を補完するものとして用いられるべきである [17]。CRIAは、子どもの権利に関するグッド・ガバナンスを確保するため、政府があらゆるレベルで進めるプロセスに、また可能なかぎり早い段階で政策その他の一般的措置の策定に、組みこまれなければならない。CRIAを実施する際には、さまざまな手法および実践を発展させることができる。これらの手法および実践においては、最低限、条約およびその選択議定書が枠組みとして用いられなければならず、また、とくに、評価に際して〔条約の〕一般原則が一貫して適用され、かつ検討中の措置が子どもたちに及ぼす種々の影響について特別な考慮が払われることを確保しなければならない。影響評価そのものを、子どもたち、市民社会および専門家ならびに関連の政府機関、学術的調査研究および国内外で記録された経験から得られた知見に基づいて行なうこともできる。分析の結果、変更、代替策および改善のための勧告が行なわれるべきであり、また当該分析結果は公に利用可能とされるべきである [18]。
[17] 「企業セクターが子どもの権利に与える影響に関わる国の義務」に関する一般的意見16号(2013年)、パラ78-81。
[18] 各国は、貿易協定および投資協定の人権影響評価に関する指導原則についての、食料への権利に関する特別報告者の報告書(A/HRC/19/59/Add.5)を参考にすることができる。

VI.普及

100.委員会は、各国が、この一般的意見を、議会、政府および司法機関に対し、国および地方のレベルで広く普及するよう勧告する。この一般的意見は、子どもたち――排除の状況に置かれている子どもたちを含む――、子どものためにおよび子どもとともに働くすべての専門家(裁判官、弁護士、教師、後見人、ソーシャルワーカー、公立または私立の福祉施設の職員、保健職員、教師〔重複ママ〕等を含む)ならびに市民社会一般に対しても知らされるべきである。この目的のため、一般的意見を関連の言語に翻訳し、子どもにやさしい/ふさわしい本案版を利用可能とし、かつ、これを実施する最善の方法に関する模範的実践を共有するための会議、セミナー、ワークショップその他のイベントを開催することが求められる。関連のあらゆる専門家および専門職員を対象とする正式な着任前研修および現職者研究にも、この一般的意見が編入されるべきである。
101.国は、委員会に提出する定期報告書に、直面した課題に関する情報とともに、子ども個人に関わる司法上および行政上のあらゆる決定ならびにその他の活動において、また子どもたち一般または特定の集団としての子どもたちに関わる実施措置の採択のあらゆる段階において、子どもの最善の利益を適用しかつ尊重するためにとった措置についての情報を記載するべきである。


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