子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の実施に関するガイドライン

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  • 参考:Explanatory Report to the Guidelines regarding the implementation of the Optional Protocol to the Convention on the Rights of the Child on the sale of children, child prostitution and child pornography(Interagency Working Group, September 2019)〔PDF

CRC/C/156
配布:一般(2019年9月10日)
原文:英語(PDF)
日本語訳:平野裕二(日本語訳PDF

子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の実施に関するガイドライン [注]
[注] 委員会が第81会期(2019年5月13~31日)に採択。

  • I.はじめに
    • A.子どもの売買および性的搾取に関連する最近の進展
    • B.さまざまな国際的関係機関からの勧告の増加
  • II.ガイドラインの目的
  • III.一般的実施措置
    • A.立法
    • B.データ収集
    • C.包括的な政策および戦略
    • D.調整、監視および評価
    • E.資源配分
    • F.普及および意識啓発
    • G.研修
  • IV.選択議定書が対象とする犯罪の防止
    • A.一般的措置
    • B.旅行および観光の文脈における子どもの売買および性的搾取の防止
    • C.オンラインの子どもの売買および性的搾取の防止
  • V.選択議定書が対象とする犯罪の禁止
  • VI.制裁
  • VII.裁判権および犯罪人引渡し
  • VIII.被害を受けた子どもの、法的手続における援助および保護に対する権利
    • A.一般的所見
    • B.カウンセリング、通報および苦情申立ての機構
    • C.刑事司法手続への参加
  • IX.被害を受けた子どもの、回復、家族および社会への再統合ならびに補償・賠償に対する権利
  • X.共助および国際協力

I.はじめに

A.子どもの売買および性的搾取に関連する最近の進展

1.子どもの権利条約(1989年採択)ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書(2000年採択)は、子どもの権利の促進および保障を図り、かつ売買、性的搾取および性的虐待から子どもを保護する、もっとも包括的な国際法文書である。しかしこれらの条約が採択されたのは、情報通信技術(ICT)[1] およびソーシャルメディアの発展および普及の度合いがいまよりもはるかに低く、かつ、子どもに対する性犯罪が、今日ではしばしば存在するデジタル環境との緊密な結びつきを有していない時代であった。条約および選択議定書はデジタル環境においても全面的に関連性を有しておりかつ適用されるものだが、その規定は今日の現実にあわせて解釈しなければならない。
[1] 「ICT」という用語は、ラジオ、テレビ、携帯電話ならびにコンピューターおよびネットワークのハードウェアおよびソフトウェアを含む、あらゆる通信機器またはアプリケーションを包含する。
2.ICTの急速な発展および普及は、人権の前進を加速し、かつ不平等を削減する大きな機会を提供してくれるものである。同時に、この発展は、売買および性的搾取の危険にさらされる子どもの増加にもつながってきた。これは、性犯罪者にとっては、性的目的で子どもとつながって子どもを勧誘し(「グルーミング」)、ネット上で行なわれる子どもの性的虐待をライブのビデオストリーミングで視聴しかつこれに参加し、子どもの性的虐待表現物(「セクスティング」〔訳者注〕により製造された自撮りコンテンツを含む)を頒布し、かつ子どもに対する性的強要を行なう新たな道を開くものである。加えて、このような技術は、犯罪者が相互につながり、かつ暗号化された情報を共有する新たな機会を提供するものであり、また選択議定書で対象とされている犯罪を遂行しまたは容易にするためのダークネットの利用は、法執行に新たな課題を突きつけている。インターネットへのアクセスが前例のないレベルで拡大しつつある世界にあって、子どもが性的に搾取されまたは商品として買われかつ売られる危険性はかつてなく高まりつつある。
訳者注:「子どもが自ら作成した性的コンテンツを携帯電話経由で他の者に送る行為」(後掲パラ42参照)。
3.グローバル化し、かつ可動性が高まりつつある世界にあって、旅行および観光の文脈における子どもの売買および性的搾取は増大しつつある脅威である。子どもに対して性犯罪を行なう旅行者は、国境を越えて渡航するのであれ自国内で旅行するのであれ、脆弱な状況に置かれた子どもにこれまでよりも容易にアクセスできるようになっており、その際にはしばしばダークネット上にある匿名の橋渡し役のネットワークが利用される。
4.子どもに対する性犯罪のジェンダーの側面は、選択議定書の実施に関わるもうひとつの重要な一面である。被害者の大多数は女児であるとはいえ、最近の調査では、ネット上の子どもの性的虐待表現物で描かれている子どもには相当の割合で男児が含まれていることがわかっている。性的搾取および性的虐待の被害を受けた男児のための支援体制は、いまなおきわめて少ない。
5.委員会は、選択議定書の実施を監視する任務に基づき、子どもの権利に関する国際的および地域的文書で用いられている用語の一部(「児童ポルノ」または「児童買春」など)が徐々に置き換えられつつあることを認識する。このような変化の背景にある理由のひとつは、これらの用語には誤解を招き、かつ子どもがこのような慣行に同意しうることをほのめかすことによって、これらの犯罪の重大性を損ない、または避難の矛先を子どもに向けさせてしまう可能性があることである。このことに照らし、委員会は、締約国およびその他の関係者に対し、子どもの性的搾取および性的虐待の防止ならびにこれらの行為からの保護に対応する立法および政策の策定で用いる用語法についての指針として、「性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する用語法ガイドライン」[2] に注意を払うよう奨励する。

B.さまざまな国際的関係機関からの勧告の増加

6.委員会は、その総括所見、一般的意見13号(あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利、2011年)、同14号(自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利、2013年)、同16号(企業セクターが子どもの権利に与える影響に関わる国の義務、2013年)および同17号(休息、余暇、遊び、レクリエーション活動、文化的生活および芸術に対する子どもの権利、2013年)などで、ならびに子どもの権利とデジタルメディアに関する2014年の一般的討議の文脈において、デジタルメディアおよびICTが子どもたちの生活に及ぼす相当な影響を考慮してきた。さらに、人権理事会は、2016年、1日をかけて子どもの権利について討議する恒例の会合のテーマとして情報通信技術と子どもの性的搾取を取り上げた。
7.各国は、持続可能な開発目標を通じて、子どもたちに投資する意思および子どもたちが暴力を受けないですむ世界を確保する意思を明らかにした。これらの目標のなかには、女性および女児に対するあらゆる形態の暴力を解消すること(ターゲット5.2)、最悪の形態の児童労働(子ども兵士の徴募および使用を含む)の禁止および解消を確保するための即時的かつ効果的な措置をとるとともに、2025年までにあらゆる形態の児童労働を終わらせること(ターゲット8.7)、ならびに、子どもに対する虐待、搾取、人身取引およびあらゆる形態の暴力ならびに子どもの拷問を終わらせること(ターゲット16.2)などもある。これらのターゲットを網羅する選択議定書の効果的実施は、持続可能な開発目標の達成にも貢献しうるものである。
8.選択議定書の実施に関するこのガイドラインは、関連する関係機関(国家、専門性を有する国内的および国際的非政府組織および政府間期間ならびに国連専門機関を含む)との一連の協議の成果である。

II.ガイドラインの目的

9.このガイドラインの主な目的は次のとおりである。
  • (a) デジタル環境の発展に照らし、かつ子どもの売買および性的搾取に関する、選択議定書の採択以降の知識および経験の増加に鑑み、選択議定書の実体規定ならびにさまざまな現代的形態の子どもの売買および性的搾取に関する理解の深化を促進すること。
  • (b) 締約国による、選択議定書のより効果的な実施を可能とすること。
  • (c) 選択議定書が売買および性的搾取からの子どもの保護(これらの犯罪がICTによって容易になっているか否かを問わない)を増進させる文書であり続けることを確保すること。
10.このガイドラインには、選択議定書上の義務の履行を向上させるために締約国が行なっている取り組みおよび努力を支援しかつ強化するという目的もある。これには、選択議定書に基づいて提出されるべき第1回報告書に関する改訂ガイドライン(CRC/C/OPSC/2、2006年採択)ならびに定期報告書の形式および内容に関する条約別指針(CRC/C/58/Rev.3、2014年採択)に定められた委員会への報告に関連するものも含まれる。

III.一般的実施措置

11.委員会は、選択議定書の規定を実施するためのいかなる措置においても、条約、とくに第2条、第3条、第6条および第12条に掲げられた一般原則ならびに子どものプライバシー権の尊重が全面的に遵守されるべきであることを強調する。条約はまた、子どもが自己の権利について年齢にふさわしいやり方で情報を提供されること、子どもが自己に影響を与えるすべての事柄について自由に意見を表明する権利を有すること、および、これらの意見が子どもの年齢および成熟度にしたがって正当に重視されることも要求している。
12.締約国は、立法措置および政策措置の立案プロセスおよび実施に子ども参加を含めるための努力を行なうべきである。その際には、子どもたちの意見が差別なく考慮されること、および、子どもたちと協議を行なう大人が、年齢にふさわしく、かつジェンダーに配慮したやり方で協議を進めるために必要な訓練および資源を与えられることを確保することが求められる。
13.委員会は、締約国が、選択議定書を実施するためのいかなる措置においても、その特性、事情および(または)生活状況のために売買および性的搾取の被害をより受けやすい立場に置かれている可能性がある子どもたちのことを具体的に考慮するよう奨励する。このような子どもには、女児、男児、その他のジェンダーまたは性的自認および性的指向の子ども、障害のある子ども、施設にいる子ども、移住者である子ども、路上の状況にある子ども、ならびに、脆弱なまたは周縁化されたその他の状況にある子どもが含まれる。

A.立法

14.委員会は、選択議定書で対象とされている犯罪が処罰されない状況と闘う必要性が切迫していることを強調する。選択議定書を実施するための立法措置においては、第3条に挙げられているすべての行為(これらの行為の未遂を含む)が明示的に網羅されるべきである。性的搾取目的の子どもの売買のみならず、臓器移植を目的とするもの、強制労働に従事させることを目的とするものおよび養子縁組が子どもの売買に相当する状況を禁止することに注意を向けるよう求められる。
15.委員会は、締約国に対し、「子どもの売買」の国際法上の定義は「人身取引」のそれと同一ではないことを想起するよう求める。子どもの売買は何らかの形態の商業的取引を常にともなうが、子どもの人身取引についてはこれは要件とされない(たとえば欺罔、実力または誘拐による子どもの人身取引)。さらに、人身取引には子どもを搾取するという意図された目的が常に存在するが、このような目的は子どもの売買については構成要件とされていない(ただし、それでも売買は搾取的効果を持ちうる)。このような区別は、犯罪の評価、加害者の訴追および被害を受けた子どものために用意されている対応にとって重要である可能性がある。
16.立法措置をとるに際しては、自然人および法人双方の責任が含まれるべきであり(第3条)、選択議定書で対象とされているすべての犯罪について域外裁判権が設定されるべきであり(第4条)、かつ、犯罪人引渡し(第5条)ならびに物品の押収および没収(第7条)に関する明確な条件および規則が定められるべきである。
17.立法を通じて、救済へのアクセスを確保するとともに、性的搾取および性的虐待の事案に対応しかつ被害者を保護するための、子どもおよびジェンダーに配慮し、秘密が守られかつ安全なカウンセリング、通報および苦情申立ての機構が利用できることを保障することは、きわめて重要である。
18.委員会は、締約国に対し、選択議定書上の犯罪を構成する行為で搾取された子どもが国内法によって犯罪者とされず、被害者として扱われることを確保するよう促す。
19.委員会は、締約国が、法的枠組みを定めるにあたって技術的進展を考慮に入れるよう勧告する。このような考慮は、当該枠組みの適用可能性が今後の発展によって減殺されないことを確保し、かつ新たに生ずる懸念(ネット上で行なわれる新たな形態の売買および性的搾取を含む)に関連する抜け穴を回避するために必要となる。この問題の性質が常に変化しつつあることに照らし、締約国は、自国の法律上および政策上の枠組みが急速に変化する現実に適合したものであることを保障するため、立法および政策を定期的に評価し、かつ必要に応じて改定するべきである。

B.データ収集

20.委員会は、締約国に対し、選択議定書で対象とされているすべての問題に関するデータの収集、分析、モニタリングおよび影響評価ならびに普及のための包括的かつ体系的な機構を発展させかつ実施するよう、促す。重要な点として、データ収集は関連するあらゆる関係機関(国の統計部局および子どもの保護機関を含む)との間で調整されるべきであり、かつ、国の異なる機関間でデータの食い違いまたは矛盾が生じないよう、データは中央で集約されるべきである。委員会はとくに、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) データに対する細分化アプローチをとり、これらの犯罪がさまざまな集団の子どもにどのように影響を及ぼしているかについて取り上げること。最低限、データは性別、年齢および搾取の形態別に細分化されるべきである。
  • (b) 子どもがデジタルメディアおよびソーシャルメディアにどのようにアクセスし、かつこれらのメディアが子どもの生活にどのように影響を及ぼしているかについてのデータ、ならびに、ICTにアクセスしかつICTを利用する際の子どものレジリエンスに影響を及ぼす要因についてのデータを収集すること。
  • (c) 報告された事案、起訴、有罪判決および制裁の件数(被害者に提供された救済の件数も含むことが望ましい)に関するデータを収集すること。これらのデータは、犯罪の性質(オンラインおよびオフラインの活動に関わる性質を含む)、加害者および加害者と被害者の関係の種別ならびに子どもの性別および年齢別に細分化されているべきである。
  • (d) 広域行政圏または地方(たとえば自治体)のレベルでデータが収集されている場合、共通の指標および統一データ収集システムを発展させること。
21.あらゆるデータは、プライバシーに対する子どもの権利を正当に尊重しながら収集されるべきである。

C.包括的な政策および戦略

22.締約国は、選択議定書で対象とされているすべての問題をホリスティックかつ分野横断的なやり方で明示的に含めた、包括的な国家的政策および戦略を策定するべきである。このような政策および戦略は、子どもの権利の実施もしくは暴力からの子どもの保護を目的とするより幅広い国家的行動計画のひとつの要素とすることも、個別の具体的文書とすることもできる。
23.委員会は、締約国に対し、子どもの保護のための政策および戦略の増進において金融機関、銀行、テレコム事業者、インターネット・プロバイダー、スポーツ団体、旅行・観光業界および非政府組織が果たしうる役割ならびに「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重および救済」枠組みの実施」の活用に対し、いっそうの注意を払うよう奨励する。

D.調整、監視および評価

24.締約国は、選択議定書の実施に関連するすべての活動の調整の任を負う国レベルの機構を指定するべきである(いずれかの省もしくは国内人権機関のような既存の機関の一部とすることも、子どもの性的搾取の根絶を目的とする独立の機関とすることもできる)。この調整機関に対しては、選択議定書をとくに実施するという明確な任務と、部門横断的にかつ国、広域行政圏および地方の各レベルで必要な措置をとりかつ調整を行なう十分な権限(事案の付託および被害を受けた子どもに対する効果的支援のための枠組みを確保する権限も含む)を与えることが求められる。
25.締約国は、前掲政策および戦略の実施の監視および評価を定期的にかつ透明なやり方で実施し、かつ、その成果に基づき、必要に応じて政策および戦略を修正するべきである。評価の結果は公表することが求められる。

E.資源配分

26.委員会は、締約国が、このガイドラインで詳しく述べられているような形で選択議定書を実施するための具体的かつ明確な予算配分を確保するとともに、子どもの権利実現のための公共予算編成に関する委員会の一般的意見19号(2016年)に掲げられた指針に留意するよう、勧告する。
27.締約国は、選択議定書の規定の実施を目的とする政策、戦略および機構に配分されるすべての人的資源、技術的資源および財源の水準を保障するべきである。摘発および報告のための機構、刑事捜査、法的援助、補償ならびに選択議定書で対象とされている犯罪の被害を受けた子どもの身体的・心理的回復および社会的再統合を担当する機関に対しては、具体的に資源を配分することが求められる。

F.普及および意識啓発

28.選択議定書の趣旨および規定に関する理解を増進するため、締約国は以下の措置をとるべきである。
  • (a) 防止措置に関する教育および意識啓発ならびに選択議定書で対象とされているすべての犯罪の有害な影響(これらの犯罪がICTを通じて容易にされまたは実行される場合を含む)に関する教育および意識啓発のための、長期的なプログラムおよびキャンペーンを発展させかつ実施すること。
  • (b) 国、広域行政圏および地方のレベルの政府職員、あらゆる関連の専門家集団および子どもと日常的に接する他のあらゆる者ならびに公衆一般(とくに子どもおよびその家族を含む)の間で、選択議定書の規定に関する情報を体系的に普及すること。広報資料は受け手に合わせたものであるべきであり、子どもに対しては年齢にふさわしく、かつ子どもに配慮した情報が提供されるべきである。
  • (c) すべての者(とくに子どもをケアしている者)の間で、さまざまな形態の子どもの売買、性的搾取および性的虐待、ならびに、これらの行為を発見しかつ被害者を特定する方法、ならびに、既存の通報機構および子どもが被害者であると考える合理的な理由がある場合のその利用方法に関する十分な知識を促進すること。
  • (d) 教育制度のあらゆる段階の子どもが包括的な性教育を受けることを確保すること。学校に通う子どもに対し、売買、性的搾取および性的虐待の危険性ならびにオフラインおよびオンラインで自分を守る手段について学ぶための適切な資料が提供されるべきである。教育プログラムには、子どもが助けおよび支援を求め、かつ性的虐待かんするサインを安全にかつ秘密が守られるやり方で送る具体的かつ実際的な方法についての情報を常に含めることが求められる。
  • (e) 正規の学校制度の外にいる子どもを対象とし、かつこれらの子どもに手を差し伸べるための措置をとること。
  • (f) メディアに対し、被害を受けた子どもおよび証人である子どものプライバシーおよび身元を常に保護しながら、子どもの売買、性的搾取および性的虐待のあらゆる側面に関する適切な情報を適切な用語を使って提供するよう奨励すること。

G.研修

29.あらゆる関連の専門家を対象とする教育および継続的研修ならびに家族および養育者に対する支援の提供は、選択議定書の実施のためのいかなる措置においても不可欠な要素として位置づけられるべきである。締約国は以下の措置をとるよう求められる。
  • (a) 子どもとともにまたは子どものために働くあらゆる関連の専門家および集団を対象として、選択議定書の規定およびその実施に関する体系的かつ的を絞った分野横断的研修(対象とされている犯罪を特定しかつこれに対処する方法、ならびに、子どもの被害者およびサバイバーをケアする際に子どもおよびジェンダーに配慮したアプローチを促進する方法に関するものを含む)が実施されることを確保すること。
  • (b) 選択議定書で対象とされている犯罪の被害を受けた子どもへの、被害者中心であると同時にサバイバー主導の効果的対応に関する研修を奨励すること。
  • (c) 子どもおよびその家族の間でオンライン・リテラシーおよびオンラインの安全を拡大しかつ危害への対応を促進する目的で、非政府組織との協力および戦略的パートナーシップを強化し、かつその専門性およびアドボカシーのための資料を活用すること。
  • (d) 獲得された知識およびスキルが、被害者の特定および選択議定書で対象とされている犯罪からの子どもの保護を効果的に進めるために実行に移されていることを確保する目的で、研修活動の定期的評価を実施すること。
30.専門的研修が必要な特定の集団との関連で、締約国は以下の措置をとるべきである。
  • (a) 子どもを対象とするさまざまな形態の教育(スポーツ活動および文化活動を含む)の仕事をしている教員その他の専門家が、子どもの売買、性的搾取および性的虐待に関する子どもへの教育および子どもとの話を効果的に行なえるようにするための十分な研修を受けることを確保すること。
  • (b) 保健ケア専門家、ソーシャルワーカーならびに子ども福祉および子どもの保護の専門家を対象として、サインを受けとめかつ報告し、かつ性的搾取または性的虐待の被害者である可能性がある子どもに子どもおよびジェンダーに配慮したやり方で対応するための研修を実施すること。
  • (c) 選択議定書で対象とされている犯罪(これらの犯罪がICTを通じて容易にされまたは実行される場合を含む)を捜査するすべての警察部署ならびに検察官および司法機関を対象として、被害を受けた子どもを特定しかつこのような子どもに子どもおよびジェンダーに配慮したやり方で対応し、かつICT関連の事件およびデジタル証拠を扱うための研修を実施すること。

IV.選択議定書が対象とする犯罪の防止

A.一般的措置

31.選択議定書の締約国は、選択議定書で対象とされている犯罪を防止するための法律、行政措置ならびに社会政策および社会プログラムを採択しまたは強化し、実施しかつ普及する義務を負う。
32.子どもの売買および性的搾取の防止にあたり、締約国は、これらの問題を助長し、当たり前のように見せまたは固定化している可能性があって具体的な意識啓発措置を必要とする根本的原因に注意を払うべきである。これらの犯罪の重要な側面であって、締約国が的を絞った具体的な努力を行なわれなければならない側面は、性犯罪者および経済的利益を得る者の双方の間に存在する、性的搾取および虐待のために子どもを求める需要にある。需要と闘うための努力においては、オンラインかオフラインかにかかわらず、さまざまな形態の搾取および虐待への対応がとられるべきである。
33.委員会は、締約国に対し、選択議定書で対象とされている犯罪の被害を受けるおそれがある子ども(とくに脆弱な状況に置かれている子ども)を特定し、支援しかつモニタリングし、かつ、防止プログラムおよび被害を受ける可能性がある子供の保護を強化するために、必要なあらゆる措置をとるよう勧告する。この目的のため、締約国は以下の措置をとるべきである。
  • (a) 選択議定書で対象とされている犯罪を防止するための効果的なかつ的を絞った立法上、政策上および行政上の措置を発展させかつ採択する目的で、これらの犯罪の性質、規模、根本的原因および子どもへの影響を分析しかつ評価するための研究を実施すること。
  • (b) 脆弱な状況に置かれた家族の経済的エンパワーメントを可能とするため、社会的保護および金銭的支援(所得創出活動を含む)を提供すること。
  • (c) あらゆる有害慣行を防止しかつ終わらせるとともに、児童婚など、子どもの売買、性的搾取または性的虐待に相当する可能性のある慣行に特別な注意を払うこと。有害慣行の防止においては、男児および女児に影響を及ぼす異なる慣行への対処が十分にとられることを確保するため、ジェンダーの視点が要求される。
  • (d) 選択議定書で対象とされている犯罪の防止およびこれらの犯罪との闘いにおいて、民間セクターの関連の主体が積極的役割を果たすことを確保すること。
34.子どもの売買、性的搾取および性的虐待の防止における重要な一般的措置のひとつとして、締約国は、子どもと直接接触する仕事に就こうとするすべての者のスクリーニングを要求するべきである。

B.旅行および観光の文脈における子どもの売買および性的搾取の防止

35.調査研究により、子どもは、計画的虐待を実行するために国境を越える渡航型犯罪者から性的搾取および性的虐待を受けるおそれがある一方、自国内で出張または観光のために旅行する犯罪者、および、旅行前には性犯罪の実行を計画していなかった可能性がある「機会便乗型」犯罪者の被害者となるおそれも同様にあることがわかっている。違法な養子縁組も、旅行および観光を装ってまたは口実として実行される場合がある。
36.旅行および観光という特定の文脈においてこのような犯罪を防止するため、締約国は以下の措置をとるべきである。
  • (a) 旅行および観光の文脈における子どもの売買および性的搾取の有害な影響に対する注意を促すため、旅行・観光業界を対象とする意識啓発およびアドボカシーを行なうこと。そのための手段として、とくに、世界観光機関の世界観光倫理憲章を広く普及しかつ同憲章への署名を奨励し、かつ、「旅行および観光における性的搾取から子どもを保護するための行動規範」を促進すること。
  • (b) 旅行・観光セクターのステークホルダーとの連携を強化するとともに、当該業界が、たとえば旅行および観光の文脈における子どもの売買および性的搾取を防止するための具体的な企業方針および企業戦略を採択しかつ執行することを通じて、責任をとることを確保すること。宿泊業者、旅行代理店、ツアーオペレーター、運輸会社、航空会社、バーおよびレストランのような旅行・観光関係者は、不注意によるものであるか否かを問わずしばしばこのような犯罪の実行の仲介者となってしまうのであり、子どもの性的搾取の防止およびこのような性的搾取との闘いにおいて積極的役割を果たすべきである。
  • (c) 旅行および観光の文脈における子どもの売買および性的搾取と闘うための、テクノロジーを基盤とする解決策(犯罪者およびその仲介者のビジネスモデルを阻害するための、関連の犯罪に対する支払いのブロッキングおよび支払い追跡のための新たな手法など)の発展をリードしうるICT企業と提携すること。
  • (d) 国境を越えた情報交換および有罪判決を受けた犯罪者への渡航制限などを通じ、子どもに対する性犯罪で有罪判決を受けた者が他国で再犯することの防止のための措置を検討すること。

C.オンラインの子どもの売買および性的搾取の防止

37.締約国は、自国の実施措置を通じ、オンラインの子どもの売買、性的搾取および性的虐待を防止しかつこれらに対処するべきである。子どもの売買、性的搾取および性的虐待のあらゆる表れ方(これらの犯罪がICTを通じて容易にされまたは実行される場合を含む)が十分に網羅されていることを確保するため、国家的な法律上および政策上の枠組みを評価することが求められる。
38.これらの犯罪に関する理解を深めるためにオンラインに特化した分析、調査研究および監視が行なわれるべきであり、またオンライン犯罪への対応は関連の業界および組織と密接に連携しながら発展させられるべきである。
39.子どもの売買、性的搾取および性的虐待の事件に関する意識、知識および通報を増進させるための公的教育プログラムにはオンラインに特化した側面が含まれるべきであり、また法執行官、弁護士、検察機関および司法機関の専門家を対象とする専門研修には、オンラインの問題のみならず、被害者特定技法および救済活動を容易にしてくれるオンライン・ツールも扱う具体的構成要素が含まれるべきである。
40.締約国は以下の措置をとるべきである。
  • (a) 親、教員およびその他の養育者に情報および支援を提供し、かつこれらの人々と連携することにより、親、教員およびその他の養育者が、子どもがICTにアクセスしかつICTを利用する際に支援、助言および保護を提供し、かつオンラインでの安全・対処戦略をとる能力構築を援助できるようにすること。
  • (b) 遭遇する可能性があるリスクを回避し、このようなリスクに対して十分に反応し、かつ必要に応じてオンラインの通報ツールを利用することに関して子どもを援助することによって、自分自身(および仲間)をよりよい形で保護する子どもの能力を増進させるため、オンラインでの行動および安全に関する必修教育が学校で行なわれることを確保すること。
  • (c) 子どものデータがどのように収集・保存・活用され、かつ他者とどのように共有されている可能性があるかに関する情報および保護のための戦略(個人情報を保護する方法および時宜を得た効果的な警告のための機構を利用する方法を含む)に関する情報を、意味のある、かつ子どもおよびジェンダーに配慮したやり方で提供すること。
  • (d) 搾取的行動およびこのような行動を通報しかつやめさせる方法についての子どもたち自身のアイデアおよび知識を共有するよう、子どもたちの奨励、関与の推進およびエンパワーメントを図るとともに、防止および保護のための戦略において子どもたちの提案を考慮すること。
  • (e) 十分かつ効果的なサービス機関および専門機関が整備され、かつ、オンラインでの疑わしい行動または子どもの性的搾取もしくは虐待の事件に関する通報が子どもまたは大人からあった場合には常に迅速な対応をとれることを確保すること。
41.画像およびビデオのような子どもの性的虐待表現物がオンラインでいつまでも流布される可能性があることを考慮し、委員会は、このような表現物の継続的流布が、被害を受けた子どもに対する危害を固定化させることに加え、子どもを性的対象と捉える見方を助長し、かつ、子どもに性的関心を有する者たちの間で、他にもたくさんの人間が同じ関心を共有しているのだからこれは「当たり前」のことだという考え方を強めてしまうおそれがあることに対し、締約国の注意を強く喚起する。そこで委員会は、締約国に対し、インターネット・サービス・プロバイダが、その防止措置の一環として、このようなコンテンツを可能なかぎり早く統制下に置き、ブロックしかつ削除することを確保するよう、促すものである。
42.委員会は、子どもが自ら作成した性的コンテンツを携帯電話経由で他の者に送る「セクスティング」に対応する必要があることに、締約国の注意を喚起する。セクスティングは若者同士のプレッシャーの産物であることが多いように思われ、ティーンエイジャーは、ある程度まで、セクスティングは「当たり前」であるとますます考えるようになっている。このような行為そのものは、それ自体で常に違法または不法となるわけではないものの、そこには多くの危険性がともなう。子どもの性的画像には、子ども本人の意思を超えてまたは意思に反してオンラインまたはオフラインで容易に拡散される可能性、削除がきわめて困難となる可能性ならびにいじめの文脈および性的強要の目的で利用される可能性があり、これは子どもに対して深刻なかつトラウマ性の影響(自殺を含む)を及ぼしかねない。この複雑な問題に対しては慎重な注意を向けることが必要であり、委員会は、締約国に対し、子どもを保護する明確な法的枠組みを確立するとともに、防止のための努力を通じ、他人および自分自身の画像を拡散することの重大性について子どもが教育されかつ認識することを確保するよう、奨励する。

V.選択議定書が対象とする犯罪の禁止

43.選択議定書第3条の実施のためには、選択議定書に含まれるすべての犯罪を禁じた実体刑法の採択が必要である。委員会は、第3条の遵守が、各締約国がこれに関連して自国の法体系および法的実践の詳細を考慮しなければならない事項であることを認識する。
44.第3条は、締約国が、最低限、自国の刑法で全面的に対象とされることを確保しなければならない行為および活動を列挙している(これらの犯罪が、国内でもしくは国境を越えてまたは個人的にもしくは組織的に実行されるものかを問わない)。委員会は、締約国に対し、子どもに対する性犯罪を実行するために新たに誕生した手段および方法が用いられた場合でも十分な対応がとれることを確保するための新たな規定を刑法に導入するよう、奨励するものである。
45.委員会は、締約国に対し、選択議定書第3条(2)にしたがい、このようないずれかの行為の未遂および共犯またはこのようないずれかの行為への参加も刑法の対象とされるべきであることを、想起するよう求める。
46.子どもの売買は、選択議定書において、子どもがいずれかの者または集団により報酬または他の何らかの対償のために他の者に譲渡されるあらゆる行為または取引と定義されている(第2条(a))。これには子どもを他の場所に移動させる行為がともなう場合もあるが、これは必要条件ではない。「報酬または他の何らかの対償」は子どもの売買の中核的要素であり、取引の一環として金銭の支払いが行なわれるのが通例である。報酬の受け取り手については具体的に定められていないものの、子どもを譲渡する者または集団である可能性がもっとも高いことになろう。ただし、子どもの売買にからんでその他の理由または見返りが存在する場合もありうる(親による債務の支払い、子どもに教育もしくは職業訓練を受けさせるという相手方の約束、またはその他の種類のよりよい未来の提示など)。
47.第3条(1)(a)(i)に基づき、子どもの売買との関連で行なわれる行為または活動であって犯罪化されなければならないものには、以下の目的で行なわれる提供、移送または収受が含まれる。
  • (a) 子どもの性的搾取。委員会は、この法的規定はあらゆる形態の性的搾取および性的虐待(これらの行為がICTを通じて容易にされる場合を含む)を網羅するものであるという見解に立つ。
  • (b) 利得を目的とする子どもの臓器の譲渡。このような譲渡の目的が「利得」であることを明示することが重要である。子どもの臓器の合法的な譲渡には、利得を目的としない費用がともなう場合もありうる。
  • (c) 強制労働に子どもを従事させること。
48.委員会は、子どもを提供しまたは収受する行為にはICTの利用を通じて行なうものも含まれることを強調する。
49.子どもの売買および取引は重複する場合もありうるが、その国際法上の定義は異なる。委員会は、選択議定書にしたがい、締約国には上記のすべての目的で行なわれる子どもの売買を明示的に犯罪化する義務があることを強調するものである。
50.第3条(1)(a)(ii)に基づき、養子縁組に関する適用可能な国際法文書に違反する子どもの養子縁組への同意を仲介者として不適切な形で引き出す行為は、子どもの売買として犯罪化されなければならない。このような活動の禁止を目的とする規定は、次に掲げる、この要件の2つの中心的要素を反映したものであるべきである。
  • (a) 「養子縁組への同意を……不適切な形で引き出すこと」という文言は、具体的には、子どもの養子縁組への同意を不誠実または不適当なやり方で得ることを意味する。第2条(a)に基づく子どもの売買の定義に照らし、報酬または他の何らかの対償を通じてこのような同意を得ることも、「同意を……不適切な形で引き出すこと」のひとつの形態である。
  • (b) 「適用可能な国際法文書に違反する」という文言に関して、委員会は、締約国が、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ条約(1993年)第21条の遵守を要件とするよう勧告する。
51.委員会は、子どもの売買は児童婚を背景として行なわれる場合もあることに、締約国の注意を喚起する。委員会は、締約国が、いかなる形態の子どもの売買も回避するため、規制を含むあらゆる措置をとるよう勧告するものである。
52.同様の懸念は、やはり子どもの売買を助長する可能性がある代理出産との関連でも存在する。委員会は、この慣行が行なわれている締約国に対し、代理出産契約に基づく子どもの売買を回避するため、規制を含むあらゆる措置をとるよう奨励するものである。
53.選択議定書は、買売春において子どもを搾取する犯罪を「児童買春」として対象としており、これを報酬または他の何らかの対償のために性的活動において子どもを使用することと定義している(第2条(b))が、このような性的活動がどのようなものかについては明らかにしていない。委員会は、このような性的活動には、最低限、かつ実際に行なわれるものであるかまたはそのように装うものであるかにかかわらず、子どもを関与させるあらゆる形態の性交および意図的な性的接触(すべての関係者の性別を問わない)ならびに子どもの性器または陰部を扇情的に露出させるあらゆる行為が含まれるべきである。
54.選択議定書における「児童買春」の定義は、子どもが報酬または他の何らかの対償のために行なわれる性的活動に同意できること、または子どもが常に報酬または他の何らかの対償の受け取り手であることを示唆するものとして理解されてはならない。現実には、子どもは、法律的に妥当するいかなる形でも、自分自身の性的搾取に同意することはできない。さらに、このような報酬または他の何らかの対償はいずれかの第三者に支払われまたは与えられる場合もあるのであり、子どもが何かを直接受け取ることはない場合もしばしばあるほか、「対償」が食料または居住場所のような基本的生存ニーズの形で提供されることもある。
55.有力な見方によれば、「児童買春」という用語は、子どもに実際に起こることを正確にとらえきれておらず、これが正当な形態のセックスワークを含意するものと解釈される可能性または子どもへの責任転嫁を助長する可能性があるものである。委員会は、締約国に対し、「児童買春」という用語の使用を可能なかぎり避け、これに代えて「買売春における子どもの性的搾取」という用語を用いるよう、奨励する。委員会は加えて、締約国が、「売春する子ども」や「子どものセックスワーカー」のような用語を使わず、これに代えて「買春される子ども」または「買売春において搾取される子ども」を用いるよう、強く勧告するものである。
56.締約国は、買売春におけるいかなる形態の子どもの性的搾取(ICTの利用を通じて行なわれるものを含む)も、法律で禁止するべきである。選択議定書第3条(1)(b)は、買売春の目的で子どもを提供し、取得し、斡旋しまたは提供する行為の犯罪化を要求している。このような行為は、報酬または他の何らかの対償のために行なわれる場合には、買売春における子どもの性的搾取に該当する。委員会は、報酬または他の何らかの対償を約束することも、当該報酬または対償が実際には支払われずまたは与えられなかった場合であっても、犯罪を構成するのに十分であると考えるべきであることを強調するものである。
57.インターネットは、とくにウェブサイトまたは携帯アプリを通じて子どもが買売春の広告対象とされる場合に、国際的保護の枠組みにとっての新たな課題を提起する。委員会は、締約国に対し、買売春の目的で子どもを提供し、取得し、斡旋しまたは提供することの禁止にはICTの利用を通じて行なわれるこれらの行為も含まれることを、自国の刑事法制度において明確にするよう促す。
58.買売春における子どもの性的搾取には、商品化された「関係」も含まれる。これは、現金、物品または利益との引換えに性的行為が行なわれるものであり、経済的生存もしくは機会、学業成績または社会的地位と結びついていることが多い。しばしば「取引としてのセックス」という不適当な名称で呼ばれるこのような「関係」に18歳未満の子どもが関与させられている場合、その子どもは、報酬または他の何らかの形態の対償をともなう商業的なまたは商品化された性的活動に従事することに対して子どもは法的同意を与えられないことをもって、搾取の被害者ととらえられるべきである。子どもがこのような形態のセックスに同意したという、犯罪を行なった者からなされる可能性のあるいかなる主張も、法的には妥当性を有しない。
59.旅行および観光における子どもの性的搾取――「児童セックスツーリズム」という不適当な名称で呼ばれることが多い――も選択議定書で対象とされている犯罪に含まれるのであり、締約国は、このような慣行をなくすための措置をとるよう要求される。犯罪を行なう者は、外国人の旅行者である場合もあれば国内の旅行者である場合もあり、また旅行者である場合もあれば長期滞在客である場合もある。
60.子どもの性的虐待表現物は、選択議定書第2条において「児童ポルノ」として対象とされており、実際のまたはそのように装ったあからさまな性的活動に従事する子どもをいかなる手段によるかは問わず描いたあらゆる表現、または主として性的目的で子どもの性的部位を描いたあらゆる表現と定義されている(第2条(c))。委員会は、締約国が、最近の発展にのっとり、「児童ポルノ」という用語を可能なかぎり避け、「ポルノ的パフォーマンスおよび表現物における子どもの使用」、「子どもの性的虐待表現物」および「子どもの性的搾取表現物」のような他の用語を用いるよう、勧告する。
61.「いかなる手段によるかは問わず」という条件は、オンラインおよびオフライン双方のさまざまなメディアで幅広い表現物が利用可能となっていることを反映するものである。このような表現物がオンラインで流布されることはますます増えており、締約国は、自国の刑法の関連規定であらゆる形態の表現物が対象とされること(選択議定書第3条(1)(c)に列挙されたいずれかの行為がオンラインで実行される場合を含む)を確保するべきである。
62.「そのように装ったあからさまな性的活動」という文言には、性的にあからさまな行為に従事しているように見える子どもを描きまたはその他の方法で表現した、オンラインまたはオフラインのあらゆる表現物が含まれる。さらに、「主として性的目的で子どもの性的部位を描いたあらゆる表現」もこの犯罪の定義に該当する。ある表現が主として性的目的を意図したものまたは主として性的目的で利用されるものか否かを確定することが困難である可能性のある場合、委員会は、当該表現が使用される文脈を検討することが必要であると考えるものである。
63.委員会は、実在しない子どもまたは子どものように見える者が性的にあからさまな行為に参加している様子を描いたオンラインおよびオフラインの表現物(描画およびバーチャル表現を含む)が大量に存在すること、ならびに、そのような表現物が尊厳および保護に対する子どもたちの権利に深刻な影響を及ぼしうることを、深く懸念する。委員会は、締約国に対し、子どもの性的虐待表現物(児童ポルノ)に関する法律上の規定に、実在しない子どもまたは子どものように見える者の表現を含めること(とくにそのような表現が子どもを性的に搾取する過程の一環として使用される場合)を奨励するものである。
64.委員会は、締約国に対し、ポルノ的パフォーマンスに参加するよう子どもを勧誘しもしくは子どもに強要する行為またはそのようなパフォーマンスに子どもを参加させる行為、このような目的から利益を得る行為もしくはこのような目的でその他の方法により子どもを搾取する行為、および、子どもが参加しているポルノ的パフォーマンスに事実を知りながら出席する行為を犯罪化するよう奨励する。
65.選択議定書第3条(1)(c)は、締約国に対し、「児童ポルノ」を製造し、配布し、頒布し、輸入し、輸出し、提供し、販売しまたは性的搾取目的で所持する行為の犯罪化を義務づけている。委員会は、締約国が、このような表現物の単純所持を、禁止規定に例外を認める可能性(職業上の必要性――これは法律で明確に定義されるべきである――によりこのような表現物の所持が正当化される場合など)を適正に考慮しつつ、犯罪化するよう強く勧告する。
66.選択議定書第9条(5)にしたがい、締約国は、議定書に掲げられた犯罪を宣伝する表現物の製造および所持を犯罪化するべきである。たとえば、いかなる方法であれ子どもの性的搾取を促進するオンラインまたはオフラインの媒体を挿みこむあらゆる行為(広告またはコマーシャルなど)が犯罪化されなければならない。
67.もっぱら自分自身のために、あるいはボーイフレンドもしくはガールフレンドまたは(しばしば「セクスティング」を通じて)より幅広い同世代の集団とシェアするために、自分の性的部位の表現などの性的画像を製造する子どもが増えている。選択議定書が「児童ポルノ」としているもの(これは犯罪を構成する)と、子どもが自分自身を表現した自撮りによる性的なコンテンツまたは表現物を製造する行為は、区別されなければならない。委員会は、このような表現物が自撮りで製造されたものであることにより、子どもが被害者として扱われるのではなく責任を有するとみなされるおそれが高まりうることを懸念するとともに、子どもは自分自身の画像を製造したことについて刑事責任を問われるべきではないことを強調する。このような画像が、子ども本人の意思に反し、強要、恐喝またはその他の形態の不当な圧力の結果として製造されたときは、子どもにそのようなコンテンツを製造させた者が裁判にかけられるべきである。その後、このような画像が子どもの性的虐待表現物として配布され、頒布され、輸入され、輸出され、提供されまたは販売されたときは、これらの行為について責任を有する者の刑事責任も問われるべきである。
68.性的目的での子どもの勧誘を指す用語として「グルーミング」がしばしば用いられる。これは、オンラインまたはオフラインでの性的接触を容易にする目的で、直接またはICTの使用を通じて子どもとの関係を確立するプロセスを指すものである。グルーミングすなわち性的目的での子どもの勧誘は、選択議定書では明示的に対象とされていないものの子どもの性的搾取の一形態であり、選択議定書で対象とされている犯罪を構成する場合がありうる。たとえば、子どものグルーミングには子どもの性的虐待表現物(「児童ポルノ」)の製造および配布がともなうことが多い。
69.子どもに対する性的強要(「セクストーション」と呼ばれることもある)とは、子どもが、その子どもを描いた性的表現物をたとえばソーシャルメディアでシェアするという脅しのもと、性的交渉、金銭その他の利益を与えることに無理やり合意させられる行為態様である。この行為態様はグルーミングおよびセクスティングと結びついていることが多く、委員会は、加害者からのより過激な、暴力的な、嗜虐的なかつ品位を傷つける要求が増加しているために子どもたちが過酷なリスクにさらされていることを懸念する。
70.委員会は、子どもが性的活動を目撃させられることもあることに留意するとともに、締約国に対し、性的目的で子どもに性的虐待または性的活動を目撃させる意図的行為を、たとえ子どもがそのような行為への参加を強いられなくとも、犯罪化するよう奨励する。
71.性犯罪と闘うための立法上その他の措置においては、罪を犯した大人と子どもが明示的に区別されるべきであり、後者の更生可能性をとくに重視することが求められる。性犯罪の定義および禁止について考える際には、子どもおよび青少年を、その特別な地位ゆえに、刑事司法制度に引きこまないようにすることが重要である。子どもは常に特別制度において対応されるべきであり、そこでは、適切な場合にはダイバージョンによって子どもを治療サービスに付託すること、および、前科の記録または登録簿への登載を回避することが求められる。
72.委員会は、18歳未満の子どもはいかなる形態であれ自分自身の売買、性的搾取または性的虐待にけっして同意できないこと、および、締約国は、18歳未満のいかなる子どもに対して実行されたものであっても、選択議定書で対象とされているすべての犯罪を犯罪化しなければならないことを強調する。搾取的または虐待的な性的行為に対して子どもが同意したという推定は、いかなるものも無効とされるべきである。
73.締約国は、同年代の青少年が行なった同意に基づく性的活動を犯罪化するべきではない。

VI.制裁

74.委員会は、選択議定書第7条に基づき、締約国が、選択議定書に基づく犯罪を実行しまたはその便宜を図るために用いられたあらゆる物品および当該犯罪から生じた収益の押収および没収に対応するための措置をとり、かつ、当該犯罪を実行するために用いられた施設の閉鎖を目的とした措置をとる義務を負っていることを想起する。この点に関する国際協力も保障されるべきであり、またこのような押収または没収を求める他の締約国からのいかなる請求も実行されるべきである。
75.選択議定書で対象とされている犯罪を実行しまたは容易にするためのICTの利用が増えていることに鑑み、締約国は、このような犯罪を実行するために利用されるさまざまな電子的手段(ハードウェアおよびソフトウェアの双方を含む)に緊密な注意を払わなければならない。委員会は、これらの、このような犯罪を実行する新たな方法に対して選択議定書第7条を適用する必要があることを強調するものである。このような新たな方法では、伝統的用語法にいう物理的施設ではないチャットルーム、オンライン・フォーラムその他のオンライン空間のような、オンラインの「施設」が用いられる場合もある。
76.選択議定書で対象とされている犯罪の捜査中に証拠を収集する方法、当該証拠を保存する方法、場所および期間ならびに当該証拠へのアクセス権を持つ者について、明確な規則および手続が定められるべきである。委員会はまた、締約国に対し、証拠、とくに子どもの性的虐待表現物(これが流布されることは、もともとの犯罪が実行された後も、長期にわたり被害者が再被害を受け続けることにつながりうる)の廃棄に関する明確な規則を定めることも勧告するものである。
77.子どもの売買および性的搾取は子どもの権利を深刻に侵害するものであり、被害を受けた子どもに長期にわたる悪影響を及ぼす。委員会は、締約国に対し、選択議定書第3条にしたがい、選択議定書で対象とされているすべての犯罪を、自国の刑法に基づき、その重大な性質を考慮した適当な刑罰によって処罰できるようにするよう、促すものである。
78.犯罪の共謀、犯罪への参加および犯罪の未遂は区別されるべきである。選択議定書で対象とされている犯罪の実行におけるこれらの異なる役割は、それぞれ国内刑法で犯罪化することが求められる。
79.締約国は、選択議定書で対象とされている犯罪の実行、未遂、共謀または当該犯罪への参加について、刑事法、民事法または行政法に基づいて法人の責任を問えることを確保しなければならない。締約国は、自社のサーバーで提供されている子どもの性的虐待表現物をブロックしかつ削除するICT企業の責任、そのようないずれかの犯罪のための支払いを意図した金銭取引を阻止しかつ拒否する金融機関の責任、子どもを保護するための措置をとるスポーツ産業および娯楽産業の責任、ならびに、子どもの性的搾取の便宜を図らないようにする旅行・観光セクター(オンライン旅行代理店および予約サイトを含む)の責任を、法律で定めるべきである。

VII.裁判権および犯罪人引渡し

80.前掲第V節で取り上げたように、締約国は最低限、選択議定書第3条(1)に掲げられているすべての犯罪について、当該犯罪が自国の領域においてまたは自国に登録された船舶もしくは航空機において行なわれた場合(当該船舶または航空機の所在を問わない)の刑事裁判権を設定しなければならない。このような裁判権により、国は、加害者とされる者または被害者が自国の国民であるか否かにかかわらず、これらのすべての犯罪を捜査しかつ訴追することが可能になる。必要なときは、国は加害者とされる者の国際逮捕状を発布できる。委員会は、締約国に対し、この義務を遵守するための法律の整備を確保するよう促すものである。
81.委員会は、締約国に対し、被害を受けた子どもを発見しかつ救出する警察の捜査能力を拡大し、かつ、法執行機関が身分秘匿捜査の訓練を受けかつこのような捜査を実行できるようにするよう促す。このような捜査は、子どもの性的虐待表現物の製造および配布のような犯罪を捜査するうえできわめて重要である。委員会はまた、締約国に対し、この点に関する国際協力を強化するとともに、子どもに対する犯罪に対処するために国際刑事警察機構(インターポール)が開発してきた専門的スキルおよびリソースを活用するよう、奨励する。
82.選択議定書第4条(2)にしたがい、各締約国はまた、犯罪を行なったとされる者が自国の国民もしくは自国の領域に常居所を有する者である場合または被害者が自国の国民である場合にも、選択議定書で対象とされている犯罪であって自国の領域外で実行されたものについての裁判権(域外裁判権)を設定するべきである。国は、域外裁判権に基づき、上記の基準が満たされているときは犯罪を行なったとされる者の捜査および訴追を開始することができる。このような対応をとるために、犯罪を行なったとされる者が当該国の領域にいる必要はない。犯罪者の捜査および訴追について第一次的責任を負うのは犯罪実行地である国だが、犯罪を行なったとされる者の国籍国または常居所国も捜査および訴追の権限(犯罪を行なったとされる者の国際逮捕状の発布も含まれる場合がある)を有する。
83.域外裁判権に関する法律について、委員会は、締約国に対し、被害を受けた子どもが国民ではないものの自国の領域に常居所を有している場合の事件も含めるよう奨励する。
84.締約国は、双方可罰性要件を撤廃し、選択議定書で対象とされている犯罪であって他の国で実行されたものについて、たとえ関連の犯罪が当該国では犯罪化されていない場合でも域外裁判権を行使できるようにするべきである。双方可罰性の原則は、不処罰を可能とする空白を法律につくり出すものであり、適用されるべきではない。
85.域外裁判権は、子どもの売買または性的搾取を構成する犯罪を行なった者が他国に渡航する可能性が高い場合(臓器取引もしくは違法な国際養子縁組のための売買または旅行および観光における性的搾取の場合など)に、とりわけ重要となる。搾取は、犯罪を行なった者が犯罪発生国を離れるまで発覚しない場合があるため、締約国が犯罪者を訴追できることを確保することが不可欠である。
86.委員会は、締約国に対し、最低限、犯罪を行なったとされる者が自国の領域内におり、かつ当該犯罪が自国の国民によって行なわれたという理由でその者を他の締約国に引き渡さない場合には、選択議定書で対象とされている犯罪であって国外で実行されたものについて裁判権を設定しなければならないこと(第4条(3))を想起するよう求める。委員会は、締約国に対し、この義務を遵守するために必要なあらゆる法改正を行なうよう促すものである。国境に抜け道が多数存在し、犯罪を行なった者が異なる国々で容易に移動しかつ行き来できる状況においては、不処罰と闘うため、地域的な法執行および司法協力が不可欠となる。
87.委員会は、子どもに対する性犯罪を実行する目的でのICTの利用が増えていること、および、領域性にとっての新たな課題が生じていることを懸念する。犯罪を行なう者は、たとえば、ある国にいながら、子どもが他国で性的虐待を受けている様子をライブストリーミングで視聴し、注文を出すことさえできる。いまなお広く存在する、「実際の」行為がなければ処罰されないというこのような状況に効果的に終止符を打ち、かつICTを利用して犯罪を実行した犯罪者が訴追されることを確保するため、委員会は、締約国に対し、選択議定書で対象とされているすべての犯罪について普遍的裁判権を設定すること、すなわち、犯罪を行なったとされる者または被害者の国籍または常居所国にかかわらずこのような犯罪を捜査しかつ訴追できるようにすることを奨励するものである。さらに、委員会は、選択議定書で対象とされている犯罪の多くはICTの利用を通じて実行しまたは容易にすることも可能であり、これらの犯罪がこのような形で行なわれた場合にも裁判権の対象とされなければならないことを想起する。
88.委員会は、第5条に基づき、選択議定書で対象とされている犯罪についての犯罪人引渡しに関して次のような規則が定められていることを想起したい。
  • (a) 選択議定書は、そこで定められている犯罪について締約国間で犯罪人引渡しを行なうための十分な法的根拠を提供している。したがって、これらの犯罪に関するかぎり、かつ第5条(2)にしたがって、締約国は、引渡しの請求に応じることができるようにするために他の締約国と犯罪人引渡し条約を締結する必要はない。
  • (b) 条約の存在を犯罪人引渡しの条件としていない締約国は、第5条(3)にしたがい、相互間でこのような犯罪を引渡し犯罪とみなすべきである。
  • (c) このような犯罪は、第5条(4)にしたがい、かつ締約国間における犯罪人引渡しの実行上、その発生地のみならず、第4条にしたがって裁判権を設定することを求められている国の領域においても行なわれたものとして取り扱われるべきである。加えて、締約国は、犯罪を行なったとされる者が自国民であるという理由で引渡しを行なわない場合、第5条(5)に基づき、引渡しか訴追かの義務にのっとって当該国民を訴追するための措置をとるよう求められる。
89.委員会は、締約国に対し、選択議定書で対象とされているいずれかの犯罪の未遂ならびに共犯および当該犯罪への参加に対しても犯罪人引渡しを適用するよう奨励する。

VIII.被害を受けた子どもの、法的手続における援助および保護に対する権利

A.一般的所見

90.委員会は、刑事司法制度を子どもにとってよりアクセシブルかつ好意的なものとするうえで締約国が達成してきた相当の進展を認識するとともに、子どもが刑事司法制度を利用できるようにエンパワーメントを図る効果的な方法を見出すことの重要性を強調する。このことは、いまなお刑事司法制度に関わりまたは刑事手続に参加することが稀である、選択議定書で対象とされている犯罪の被害を受けた子どもにとって、とりわけ妥当するものである。
91.委員会は、締約国およびその他の関係者に対し、法的手続において援助および保護を受ける子どもの権利を確保する際の指針として、「子どもの犯罪被害者及び証人に関わる事項における正義についてのガイドライン」を活用するよう奨励する。
92.委員会は、締約国に対し、子どもの行為能力にかかわらず、被害を受けた子どもが情報を提供される権利および年齢にふさわしくかつジェンダーに配慮した方法で意見を聴かれる権利を確保するよう促す。被害を受けた子どもおよびその親、保護者または法定代理人に対しては、加害者とされる者に対する刑事告訴について十分な情報に基づく決定を行なうのに役立つよう、必要なすべての情報がこれらの者の理解できる言語で提供されるべきである。このような情報には、これらの者の権利、刑事手続におけるその役割ならびに参加のリスクおよび利点に関する情報が含まれる。これらの者が法的手続に参加することになった場合、定期的に最新状況を伝え、遅延に関する説明を行ない、主要な決定について協議し、かつ審判または公判の前に十分な準備ができるようにするべきである。
93.委員会は、締約国に対し、条約第3条および自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利についての一般的意見14号(2013年)にしたがい、犯罪を行なったとされる者の刑事訴追における第一次的考慮事項として子どもの最善の利益を採用するよう促す。この文脈においては子どもの回復およびウェルビーイングが正当に考慮されるべきであり、被害者に対し、刑事手続に関与するようになる前に必要な支援を受けるための一定の期間を認めることがまず必要になるかもしれない。この点は、犯罪を行なったとされる者」が子どもの家族構成員である場合および子どもをいずれかのまたは複数の家族構成員から分離しなければならない場合には、いっそう重要となりうる。このような事案では、きょうだいに対する適正な考慮も必要である。
94.被害を受けた子どもの証言への依存を軽減するため、委員会は、締約国に対し、犯行現場の証拠物(デジタル証拠を含む)および法廷へのそのような証拠の提出ならびに証拠規則(子どもの性的虐待事件における遮蔽法など)を全面的かつ効果的に活用するよう、強く奨励する。同様の趣旨で、委員会は、締約国に対し、被害者による告訴がなくとも検察機関が捜査を開始できるようにするよう促すものである。

B.カウンセリング、通報および苦情申立ての機構

95.選択議定書で対象とされている犯罪の被害を受けた子どもは、自分に対して行なわれたことを通報する可能性がとりわけ低く、または犯罪が行なわれてから何年も経てからでなければ通報しない場合もある。このように何があったかを明らかにしにくいことの背景には、恐怖感、恥辱感または罪悪感などのさまざまな理由が存在し、これは加害者が自分の知り合いであるためであることも多い。このことに照らし、委員会は、締約国が、このような犯罪については時効を設けないよう勧告する。時効が定められている場合、委員会は、締約国に対し、犯罪の特有の性質にあわせて時効を修正し、かつ被害者が18歳に達するまで時効の期間が開始しないことを確保するよう、促すものである。
96.委員会は、締約国に対し、自分の言うことが信用され、かつ安心して話せると子どもが感じられる環境づくりに資する援助および保護の枠組みを用意するよう促す。とくに、締約国は次のことをするべきである。
  • (a) 被害を受けた子どもによる虐待の事実の開示を促進するため、広く利用可能で、容易にアクセスでき、子どもおよびジェンダーに配慮した、かつ秘密が守られる、子どもを対象とする心理社会的カウンセリングおよび通報のための機構を設置すること。このような機構は法律で規制されるべきであり、かつ、子どものケアおよび保護に責任を負う主体、機関および施設について明確に定められるべきである。このような機構には、子どもが通報するための回路(オンラインおよび電話によるヘルプラインその他の窓口など)ならびに子どもの保護制度、法執行制度および司法制度を含めることが求められる。このような機構は、子どもが、自分がもっとも安心だと感じられる方法で(たとえ匿名であっても)助けを求め、かつ性的虐待を受けた場合には通報できるようなものであるとともに、性的にあからさまな自撮りコンテンツに関しても助言または助けを求められるようなものであるべきである。
  • (b) バーナフス(Barnahus「子どもの家」)または子どもにやさしくかつ多職種の専門家が関わる同様のワンストップセンターのような、子どものケアおよび保護のための介入(治療サービスおよび医療サービスの提供によるものを含む)を行なうさまざまな主体が結集するモデルを活用し、被害を受けた子どもおよび目撃者である子どものためのサービスを、1か所の安全な場所に一元化すること。このような場所は、被害を受けた子どもおよび目撃者である子どもが、安全な環境で、子どもおよびジェンダーに配慮した、専門的かつ効果的な、これらの子どもの最善の利益を常に保全する対応を享受できることを確保するための、多職種の専門家による機関横断的連携の機会を提供するものである。
  • (c) 人権保障に責任を負う国家的機関(国家人権機関またはオンブズパーソンなど)に対し、子どもからの苦情申立てを子どもおよびジェンダーに配慮したやり方で受理し、調査しかつこれに対応するとともに、被害者のプライバシーおよび保護を確保し、かつ被害を受けた子どものための活動の監視、フォローアップおよび検証を行なう具体的権限を付与すること。
  • (d) 上述したすべてのサービスへのアクセスは犯罪に関連するいずれかの手続に子どもが参加するか否かにかかわらず保障されることを、法律により疑問の余地なく明確にすること。

C.刑事司法手続への参加

97.委員会は、締約国に対し、選択議定書で対象とされている犯罪の被害を受けた子どもに刑事司法手続のあらゆる段階で適切な支援および法律相談を提供しかつその権利および利益を保護する義務、ならびに、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保する義務を想起するよう求める。このような義務には次のものが含まれる。
  • (a) 法的手続および捜査手続が子どもおよびジェンダーに配慮したものであることを確保するとともに、関係職員が個々の子どもの具体的ニーズに合わせてこれらの手続を修正できるようにすること。証拠価値を高め、かつ子どもの二次被害を回避するため、子どもにやさしい環境において、エビデンスに基づく標準手続にしたがって司法面接が実施されるべきである。犯罪を行なったとされる者との対峙および複数回の面接は避けることが求められる。委員会は、子どもの証言が適正手続の条件のもとで法廷外において聴取し、かつ法廷で証拠として認容されるようにすることを勧告する。警察官、裁判官、検察官および弁護士は、子どもの権利および子どもにやさしい司法措置に関する訓練を受けているべきである。
  • (b) 捜査および公判手続において被害を受けた子どものプライバシーを保護するとともに、被害を受けた子どもを脅迫および報復から適切かつ十分に保護されることを保障するための法律上および実務上の措置を確保すること。
  • (c) 刑事司法手続の間、被害を受けたすべての子どもに対し、無償の法的援助(子どもの代理人として、国内法制度に応じ、弁護士もしくは訴訟後見人または他の資格のある代弁者を任命することを含む)および十分な訓練を受けた専門家(児童精神科医、心理学者およびソーシャルワーカーなど)による精神保健上の支援を提供すること。
  • (d) 可能なときは、公判中、被害を受けた子どもが出廷することなく聴聞されることを可能にするために適切な通信技術を活用すること。このことは、子どもに対して国外で実行された選択議定書上の犯罪に関わる司法手続において、他国にいる被害者の証言を聴聞できるようにするために必要不可欠となる。このような技術的手段が利用可能でない場合または公判の際に子どもがその場にいることがどうしても必要な場合、締約国は、たとえば子どもと被告人を交互に出廷させるなどの対応により、子どもが加害者とされる者と対峙しないことを確保するべきである。
  • (e) 加害者とされる者が親、家族構成員、他の子どもまたは主たる養育者であるときは、必要に応じて特別な予防的措置をとること。このような措置においては、子どもの告白が、子ども自身の状況および犯罪に関与していない他の家族構成員の状況の悪化ならびに子どもが経験したトラウマの悪化につながるべきではないことが、慎重に考慮されるべきである。委員会は、締約国に対し、被害を受けた子どもではなく加害者とされる者を分離することを検討するよう奨励する。分離は、子どもによって、処罰として経験される可能性があるためである。
98.委員会は、子どもにやさしい司法の中核的原則のひとつが手続の迅速性であることを再確認する。選択議定書で対象とされている犯罪の通報後の対応は、遅れるべきではない。子どもの売買、性的搾取および性的虐待に関する事件は、優先的進捗管理、連続審理その他の手法を通じて迅速に進められるべきであり、遅延は、子どもの意見および最善の利益を考慮した後でなければ認められるべきではない。
99.委員会は、締約国に対し、上述した援助および保護のための措置を、刑事手続、民事手続および行政手続に関与する子どもの被害者および証人に対しても適宜適用するよう、強く奨励する。

IX.被害を受けた子どもの、回復、家族および社会への再統合ならびに補償・賠償に対する権利

100.委員会は、締約国に対し、被害を受けた子どもに救済を提供すること、これらの子どもが自己の受けた危害について補償・賠償を得られるようにすることならびにこれらの子どもの回復および再統合を可能にすることは犯罪を行なった者を処罰するのと同じぐらい重要であり、選択議定書第9条(3)および(4)に基づく義務であることを想起するよう求める。委員会は、この目的のため、締約国が次の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 被害者の医療ケア、社会的再統合ならびに身体的および心理的回復のための関連サービスに、当該サービスを必要とするすべての子どもが全国的に無償でアクセスできること、ならびに、当該サービスを提供する者が公認の訓練を受けかつ必要な専門性を有していることを確保すること。
  • (b) 締約国の領域内にいる外国人の被害者も対象として、緊密にモニタリングされる公判後の再統合サービスを含む包括的な連続的ケアおよび支援を発展させること。
  • (c) 被害を受けた子ども1人ひとりについてどのような形態の補償・賠償が望ましいか、その子どもの具体的状況、個人的見解および人生展望に応じて注意深く検討すること。加えて、または金銭的補償に代わる手段として、被害者に長期的に利益を与えうる、教育および(または)所得創出活動のための金銭的その他の支援という形態で補償を行なうこともできる。
101.オンラインで行なわれた性的搾取および虐待を発見したとしても、必ずしも犯罪を行なった者および被害を受けた子どもが特定可能な形で明らかになるとは限らない。締約国は、共助および国際協力ならびにインターポール等も通じて被害者の特定を強化し、かつその救出および帰還の指針を示すための明確な措置をとるべきである。締約国はまた、犯罪を行なった者を特定するためにも、画像分析システムを含む同様の手段を活用することが求められる。
102.選択議定書で対象とされている犯罪を実行しまたは容易にするためにICTが利用された事件では、多くの場合、子どもの性的虐待表現物という形で永久に記録が残る。委員会は、このことが子どもの回復および再統合に継続的影響を及ぼしうることについて深く懸念するものである。締約国は、このような状況に関する意識を高めるとともに、必要に応じて長期的な社会サービスおよび心理サービスを提供するための十分な措置をとるよう求められる。
103.子どもの性的虐待を描写した表現物がオンラインで存在し続けかつ流布され続けることには、子どもに対するスティグマを悪化させ、かつ子どもおよびその家族が感じる可能性のある恥辱感を高めることにより、家庭およびコミュニティへの再統合をより困難にするおそれもある。委員会は、締約国が、子どもが関わる有害な表現物へのアクセスおよびそのシェアが続くことを防止するため、このような表現物をブロックしかつ削除するための迅速かつ効果的な手続を用意するよう勧告する。このような手続は、法執行機関および通報用ホットラインならびに民間セクター(とくにインターネット・サービス・プロバイダおよびソーシャルネットワーク)と連携しながら設けられるべきである。
104.締約国は、法的援助の提供または国が運営する補償制度の設置等を通じ、被害者が、その経済的状況にかかわらず、法的措置を通じて補償・賠償を請求できるようにするとともに、被害者が、当該犯罪に関与していたことを理由に補償・賠償を受ける資格がないとみなされないことを確保するべきである。このような法的手続が民事訴訟に基づくものである場合、当該手続に、刑事手続について述べたものと同一の子どもおよびジェンダーに配慮した措置を適宜統合することが求められる。
105.補償・賠償の問題は、子どもの売買、性的搾取および性的虐待がICTの利用を通じて実行されまたは容易にされた事件において、とりわけ複雑なものとなる。子どもは、カメラの前で性的虐待を受けるときだけではなく、他者がその虐待の画像その他の表現にオンラインでアクセスするたびに深刻な危害を受けるのである。子どもの性的虐待表現物で描写された被害者に対する賠償が制定法により要求されている国でさえ、裁判所にとって、各視聴者が子どもに支払うべき賠償額を算定するのは困難であることが明らかになっている。
106.有罪判決を受けた加害者から被害者が賠償を受けられる可能性を高めるため、締約国は、手続の早い段階で被告人の資産の特定および差押えをできるようにするとともに、被害者が没収財産から支払いを受けられるようにする目的でマネーロンダリング法を改正するよう、奨励される。補償・賠償措置は国際基準に則って執行されるべきである。
107.委員会は、締約国に対し、犯罪を行なった者の捜査および訴追が、正義を手にする被害者のリハビリテーションの手段としても機能し、かつ抑止を通じて他の同様の犯罪の防止にもつながる可能性があることを想起するよう求める。この文脈において、委員会は、締約国に対し、選択議定書で対象とされている犯罪に対する責任の履行を確保することおよび不処罰と闘うことに関する政治的意思を示し、かつ積極的に行動するよう奨励するものである。

X.共助および国際協力

108.委員会は、締約国に対し、自国が、選択議定書第6条(1)に基づき、議定書で対象とされている犯罪に関わって進められる捜査または刑事手続もしくは犯罪人引渡し手続との関連で、相互に最大限の援助(これらの手続のために必要であり、かつ自国が提供することのできる証拠の取得に関する援助を含む)を与えなければならないとされていることを想起するよう求める。具体的には、締約国は、犯罪捜査に役立つ可能性がある情報を共有するとともに、自国の領域における捜査を容易にすることに対して可能なあらゆる方法で貢献するべきである。
109.選択議定書第10条の規定にしたがい、締約国は、よい幅広く、選択議定書で対象とされている犯罪の防止、発見、捜査ならびに当該行為に責任を負う者の訴追および処罰のために協力しなければならないとされている。このような協力では、とくに、発見および通報のための効果的制度、情報共有ならびに犯罪の証拠(電子証拠を含む)の時宜を得た保全および送達が対象とされるべきである。協力においては、回復、再統合および帰還に関する被害者への援助も適宜対象とすることが求められる。
110.委員会は、締約国に対し、選択議定書ならびに性的搾取および性的虐待からの子どもの保護を目的とするその他の法的文書の規定を国際的援助の増進を通じて実施するにあたり相互に援助(社会的および経済的開発、貧困根絶プログラムならびに教育の完全普及のための支援を含む)を行なうための適切な措置をとるよう奨励する。
111.委員会は、締約国に対し、国家機関、法執行機関、司法当局その他の関係機関が関与する二国間および多国間の協定を締結するよう、強く奨励する。犯罪を行なった者の特定、捜査および裁判所における訴追ならびに被害者の特定を可能とするための技術的ツールを開発する目的で、民間セクターおよび専門の非政府組織とのパートナーシップも確立されるべきである。
112.締約国は、国境を越えて実行された犯罪の証拠への権限保有者によるアクセスの便宜を図ることによって、いっそうの協力を通じ、子どもの売買、子どもの性的搾取および性的虐待(オンラインおよびオフラインのどちらで行なわれたものも含む)の実効的捜査および訴追を妨げる障壁を取り除くべきである。
113.委員会は、締約国に対し、売買および性的搾取から子どもを保護するための国内的および国際的連合体を支援し、かつ、犯罪ネットワークおよび加害者の捜査および訴追における効果的協力を確保するよう奨励する。

  • 更新履歴:ページ作成(2019年2月4日)。
最終更新:2020年02月04日 01:46