欧州評議会・性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する条約(2007年)
- 原文英語(平野裕二仮訳〔日本語訳全文PDF〕)
- 解説:平野裕二「ヨーロッパで子どもの性的搾取・性的虐待に関する新条約が誕生~日本でも求められる包括的視点~」〔PDF〕(2007年執筆)
- ランサローテ委員会の関連見解等(一部;リンク先は概要を紹介するnoteの投稿)
目次
- 前文
- 第1章-目的、差別の禁止の原則および定義
- 第1条-目的
- 第2条-差別の禁止の原則
- 第3条-定義
- 第2章-予防措置
- 第4条-原則
- 第5条-子どもに接して働く者の採用、訓練および意識啓発
- 第6条-子どもの教育
- 第7条-予防的介入のプログラムまたは措置
- 第8条-一般公衆を対象とする措置
- 第9条-子ども、民間部門、メディアおよび市民社会の参加
- 第3章-専門の公的機関および調整機関
- 第4章-被害者に対する保護措置および援助
- 第11条-原則
- 第12条-性的搾取または性的虐待の疑いの通報
- 第13条-ヘルプライン
- 第14条-被害者への援助
- 第5章-介入のプログラムまたは措置
- 第15条-一般的原則
- 第16条-介入のプログラムおよび措置を受ける者
- 第17条-情報および同意
- 第6章-刑事実体法
- 第18条-性的虐待
- 第19条-児童買春に関わる犯罪
- 第20条-児童ポルノに関わる犯罪
- 第21条-ポルノ的パフォーマンスへの子どもの参加に関わる犯罪
- 第22条-子どもを堕落させる犯罪
- 第23条-性的目的での子どもの勧誘
- 第24条-幇助または教唆および未遂
- 第25条-裁判権
- 第26条-法人の責任
- 第27条-制裁および措置
- 第28条-加重事由
- 第29条-過去の有罪判決
- 第7章-捜査、訴追および手続法(以下、CoE 子どもの性的搾取・虐待条約(2))
- 第30条-原則
- 第31条-一般的保護措置
- 第32条-手続の開始
- 第33条-時効
- 第34条-捜査
- 第35条-子どもの事情聴取
- 第36条-刑事裁判手続
- 第8章-データの記録および保管
- 第37条-有罪判決を受けた性犯罪者に関する国内データの記録および保存
- 第9章-国際協力
- 第10章-監視機構
- 第39条-締約国委員会
- 第40条-その他の代表
- 第41条-締約国委員会の職務
- 第11章-他の国際文書との関係
- 第42条-国際連合の子どもの権利に関する条約ならびに子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する同条約の選択議定書との関係
- 第43条-その他の国際文書との関係
- 第12章-条約改正
- 第13章-最終条項
- 第45条-署名および発効
- 第46条-条約への加入
- 第47条-領域的適用
- 第48条-留保
- 第49条-廃棄
- 第50条-通告
前文
欧州評議会の加盟国およびこの条約の他の加盟国は、
欧州評議会の目的が、加盟国間におけるさらなる統一を達成することであることを考慮し、
すべての子どもが、その未成年者としての地位によってその家族、社会および国に対して要求されている保護措置に対する権利を有していることを考慮し、
子どもの性的搾取、とくに児童ポルノおよび児童買春、ならびにあらゆる形態の子どもの性的虐待(海外で行なわれる行為を含む)が子どもの健康および心理社会的発達にとってきわめて有害であることを認め、
子どもの性的搾取および性的虐待が、とくに子どもおよび加害者の双方が情報通信技術(ICT)をますます利用するようになっていることと関わって国内的にも国際的にも憂慮すべき割合に達してきており、かつ、このような子どもの性的搾取および性的虐待を防止しかつこれと闘うためには国際協力が必要であることを認め、
子どものウェルビーイングおよび最善の利益はすべての加盟国が共有する根本的価値であり、かついかなる差別もなく促進されなければならないことを考慮し、
第3回欧州評議会国家元首政府首班サミット(ワルシャワ、2005年5月16~17日)で採択された行動計画が、子どもの性的搾取に終止符を打つための措置の策定を求めていることを想起し、
とくに、子どもおよび若年成人の性的搾取、ポルノおよび買春ならびに人身取引に関する閣僚委員会勧告R(91)11号、性的搾取からの子どもの保護に関する勧告Rec(2001)16、ならびに、
サイバー犯罪に関する条約(ETS No.185)(とくにその第9条)および人身取引と闘う行動に関する欧州評議会条約(CETS No.197)を想起し、
人権及び基本的自由の保護に関する条約(1950年、ETS No.5)、改正欧州社会憲章(1996年、ETS No.163)および
子どもの権利の行使に関する欧州条約(1996年、ETS No.160)に留意し、
また、子どもの権利に関する国際連合条約(とくにその第34条)、子どもの売買、児童ポルノおよび児童買春に関する選択議定書、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、とくに女性および子どもの取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書、および、最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時の行動に関する条約にも留意し、
子どもの性的搾取および児童ポルノとの闘いに関する欧州連合理事会枠組決定(2004/68/JHA)、刑事手続における被害者の地位に関する欧州連合理事会枠組決定(2001/220/JHA)、および、人身取引との闘いに関する欧州連合理事会枠組決定(2002/629/JHA)〔
日本語訳PDF〕に留意し、
この分野における他の関連の国際的文書およびプログラム、とくに第1回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議(1996年8月27~31日)で採択されたストックホルム宣言および行動のための課題、第2回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議(2001年12月17~20日)で採択された横浜グローバル・コミットメント、第2回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議準備会議(2001年11月20~21日)で採択されたブダペスト・コミットメントおよび行動計画、国際連合総会決議S-27/2「
子どもにふさわしい世界」、ならびに、第3回サミットで採択されかつモナコ会議(2006年4月4~5日)で正式に開始された3か年計画「子どものための、かつ子どもとともに進めるヨーロッパの構築」を正当に考慮し、
加害者が何者であれ性的搾取および性的虐待から子どもを保護し、かつ被害者に援助を提供するという共通の目標に効果的に寄与することを決意し、
あらゆる形態の子どもの性的搾取および性的虐待との闘いの予防的、保護的および刑事法的側面に焦点を当て、かつ具体的な監視機構を設ける、包括的な国際文書を作成する必要があることを考慮し、
次のとおり協定した。
第1章-目的、差別の禁止の原則および定義
第1条-目的
1.この条約の目的は、次のとおりである。
- a.子どもの性的搾取および性的虐待を防止し、かつこれと闘うこと。
- b.性的搾取および性的虐待の被害を受けた子どもの権利を保護すること。
- c.子どもの性的搾取および性的虐待に対抗する国内的および国際的協力を促進すること。
2.この条約は、締約国によるその規定の効果的実施を確保するため、特定の監視機構を設置する。
第2条-差別の禁止の原則
締約国によるこの条約の規定の実施、とくに被害者の権利を保護するための措置の享受は、性、人種、皮膚の色、言語、宗教、政治的その他の意見、国民的もしくは社会的出身、国民的マイノリティとのつながり、財産、出生、性的指向、健康状態、障害またはその他の地位等のいかなる事由による差別もなく、確保される。
第3条-定義
この条約の適用上、
- a.「子ども」とは、18歳未満のすべての者をいう。
- b.「子どもの性的搾取および性的虐待」には、この条約の第18条から第23条までにおいて掲げられている行動を含む。
- c.「被害者」とは、性的搾取または性的虐待の対象とされたすべての子どもをいう。
第2章-予防措置
第4条-原則
各締約国は、あらゆる形態の子どもの性的搾取および性的虐待を防止しかつ子どもを保護するため、必要な立法上その他の措置をとる。
第5条-子どもに接して働く者の採用、訓練および意識啓発
1.各締約国は、教育、保健、社会的保護、司法および法執行の部門ならびにスポーツ、文化および余暇活動に関わる分野において子どもに日常的に接する者の間で子どもの保護および権利に関する意識啓発を図るため、必要な立法上その他の措置をとる。
2.各締約国は、1に掲げられた者が、子どもの性的搾取および性的虐待、それを特定する手段ならびに第12条第1項で述べられている可能性について十分な知識を有することを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
3.各締約国は、職務遂行が子どもとの日常的接触を意味する職に就くための条件において、これらの職に就こうとする者が子どもの性的搾取または性的虐待の行為について有罪判決を受けたことがないことが確保されるようにするため、その国内法に一致する方法で、必要な立法上その他の措置をとる。
第6条-子どもの教育
各締約国は、初等中等教育期間中の子どもが、性的搾取および性的虐待の危険性ならびに自衛手段に関する、その発達しつつある能力に適合する情報を受け取ることを確保するために、必要な立法上その他の措置をとる。適当な場合には親と連携しながら提供されるこの情報は、セクシュアリティに関する情報のより一般的な文脈の中で与えられるものとし、かつ、リスクの高い状況、とくに新しい情報通信技術の利用をともなう状況に特段の注意を払う。
第7条-予防的介入のプログラムまたは措置
各締約国は、この条約にしたがって定められたいずれかの犯罪を行なってしまうのではないかと恐れる者が、適当な場合に、犯罪実行の危険性を評価しかつ予防するための効果的な介入プログラムまたは介入措置にアクセスできることを確保する。
第8条-一般公衆を対象とする措置
1.各締約国は、子どもの性的搾取および性的虐待の現象ならびにとりうる予防措置についての情報を提供する、一般公衆向けの意識啓発キャンペーンを促進しまたは実施する。
2.各締約国は、この条約にしたがって定められた犯罪を広告する資料の配布を防止しまたは禁止するため、必要な立法上その他の措置をとる。
第9条-子ども、民間部門、メディアおよび市民社会の参加
1.各締約国は、子どもの性的搾取および性的虐待との闘いに関する国の政策、プログラムその他の取り組みの策定および実施に、子どもがその発達しつつある能力にしたがって参加することを奨励する。
2.各締約国は、民間部門(とくに情報通信技術部門、観光旅行産業部門および銀行金融部門)ならびに市民社会に対し、子どもの性的搾取および性的虐待を防止するための政策の立案および実施に参加し、かつ自主規制または共同規制を通じて内部規範を実施するよう奨励する。
3.各締約国は、メディアの独立および報道の自由を正当に尊重しながら、メディアに対し、子どもの性的搾取および性的虐待のあらゆる側面に関する適切な情報を提供するよう奨励する。
4.各締約国は、適当な場合には基金を創設することも含め、性的搾取および性的虐待を防止しかつ子どもをこれらの行為から保護することを目的として市民社会が実施するプロジェクトおよびプログラムに資金が提供されることを奨励する。
第3章-専門の公的機関および調整機関
第10条-調整および連携のための国内措置
1.各締約国は、子どもの性的搾取および性的虐待からの保護、その防止およびこれとの闘いを担当する諸機関、とくに教育部門、保健部門、社会サービス機関ならびに法執行機関および司法機関との間で国レベルまたは地方レベルでの調整が行なわれることを確保するため、必要な措置をとる。
2.各締約国は、次の機関を設置しまたは指定するために必要な立法上その他の措置をとる。
- a.子どもの権利を促進しおよび保護するための、独立した、権限ある国または地方の機関。その際、これらの機関に対して具体的資源および責任が与えられることを確保するものとする。
- b.子どもの性的搾取および性的虐待の現象を観察しおよび評価することを目的として国または地方のレベルに設けられ、かつ市民社会と連携して活動する、データ収集機構または担当部署。その際、個人情報保護に関わる要件を正当に尊重するものとする。
3.各締約国は、子どもの性的搾取および性的虐待の防止およびこれとの闘いを改善するため、権限ある国の機関、市民社会および民間部門間の協力を奨励する。
第4章-被害者に対する保護措置および援助
第11条-原則
1.各締約国は、被害者、その近親者およびこれらの者のケアに責任を負ういかなる者に対しても必要な支援を提供するために、効果的な社会プログラムを確立しかつ分野横断型の体制を設置する。
2.各締約国は、被害者の年齢が確定されておらず、かつ被害者が子どもであると考える理由があるときは、被害者の年齢の確認を待たず、子どもに対して提供される保護および援助の措置が当該被害者に与えられることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
第12条-性的搾取または性的虐待の疑いの通報
1.各締約国は、子どもに接して活動することが求められる一定の専門家に対して国内法で課されている守秘義務の規則により、これらの専門家が、子どもが性的搾取または性的虐待の被害者であると考える合理的理由があるいかなる状況についても子どもの保護に責任を負う機関に通報する可能性が妨げられないことを、確保する。
2.各締約国は、子どもの性的搾取または性的虐待が行なわれていることを知っているまたはそのように善意で考えるいかなる者に対しても当該事実を権限ある機関に通報するよう奨励するため、必要な立法上その他の措置をとる。
第13条-ヘルプライン
各締約国は、電話またはインターネットによるヘルプラインのような、相談者に対し、たとえ秘密裡にであってもまたは相談者の匿名性を正当に顧慮しながら助言を提供する情報サービスの設置を奨励しおよび支援するため、必要な立法上その他の措置をとる。
第14条-被害者への援助
1.各締約国は、身体的および心理社会的回復の面で被害者を短期的および長期的に援助するため、必要な立法上その他の措置をとる。この項にしたがってとられる措置においては、子どもの意見、ニーズおよび関心事が正当に考慮される。
2.各締約国は、国内法で定められた条件のもと、被害者への援助に携わっている非政府組織、その他の関連の団体またはその他の市民社会関係者と協力するための措置をとる。
3.親または子どもを養育する者がその子どもの性的搾取または性的虐待に関与しているときは、第11条第1項を適用してとられる介入手続において以下の可能性も考慮する。
- a.加害者とされる者を退去させること。
- b.被害者をその家族環境から分離すること。当該分離の条件および期間は、子どもの最善の利益にしたがって決定されるものとする。
4.各締約国は、被害者に近しい者が、適当な場合には治療的援助、とくに緊急心理ケアから利益を受けられることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
第5章-介入のプログラムまたは措置
第15条-一般的原則
1.各締約国は、子どもに対する性的性質の再犯を予防しかつそのおそれを最小限に留める目的で、国内法にしたがい、第16条第1項および第2項に掲げられた者を対象とする効果的な介入のプログラムまたは措置を確保しまたは促進する。当該プログラムまたは措置には、国内法に掲げられた条件にしたがい、手続中のいずれの時点でも、刑務所内外でアクセスできるものとする。
2.各締約国は、国内法にしたがい、権限ある公的機関(とくに保健ケア・サービス機関および社会サービス機関)ならびに司法機関、および、第16条第1項および第2項に掲げられた者の事後対応に責任を負うその他の機関との間のパートナーシップその他の形態の協力の発展を確保しまたは促進する。
3.各締約国は、適切なプログラムまたは措置を発見する目的で、国内法にしたがい、第16条第1項および第2項に掲げられた者がこの条約にしたがって定められた犯罪をふたたび行なう危険性およびこの点について考えられるリスクの評価を行なえるようにする。
4.各締約国は、国内法にしたがい、実施されたプログラムおよび措置の有効性の評価を行なえるようにする。
第16条-介入のプログラムおよび措置を受ける者
1.各締約国は、国内法にしたがい、この条約にしたがって定められたいずれかの犯罪を理由として刑事手続の対象とされた者が、被告人の権利および公正かつ公平な裁判の要件を害しまたはこれらに反することのない条件のもとで、かつ、とくに無罪推定の原則に関わる規則を正当に尊重されながら、第15条第1項に掲げられたプログラムまたは措置にアクセスできることを確保する。
2.各締約国は、国内法にしたがい、この条約にしたがって定められたいずれかの犯罪を理由として有罪判決を受けた者が、第15条第1項に掲げられたプログラムまたは措置にアクセスできることを確保する。
3.各締約国は、子どもの性的行動の問題に対処する目的で、国内法にしたがい、性犯罪を行なった子ども(刑事責任年齢に達していない子どもを含む)の発達上のニーズに応じる形で介入のプログラムまたは措置が開発されまたは修正されることを確保する。
第17条-情報および同意
1.各締約国は、国内法にしたがい、第16条に掲げられた者であって介入のプログラムまたは措置の提案を受けた者が、当該提案の理由について十分に情報を提供され、かつ、事情を十分に承知したうえでプログラムまたは措置に同意することを確保する。
2.各締約国は、国内法にしたがい、介入のプログラムまたは措置の提案を受けた者が当該提案を拒否できること、および、有罪判決を受けた者の場合には拒否がどのような結果につながりうるかについて知らされることを確保する。
第6章-刑事実体法
第18条-性的虐待
1.各締約国は、故意に行なわれる次の行為が犯罪とされることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
- a.国内法の関連規定にしたがって性的活動に関する法定年齢に達していない子どもと性的活動を行なうこと。
- b.次のいずれかの場合に子どもと性的活動を行なうこと。
- 威迫、有形力または脅迫が用いられるとき。
- 子どもとの信頼関係、子どもに対する権威または影響力を有すると認められている立場(家庭内におけるものを含む)が濫用されるとき。
- とくに精神的もしくは身体的障害または依存の状況を理由として子どもが置かれている特別に脆弱な状況が悪用されるとき。
2.1の規定の適用上、各締約国は、当該年齢に達していない子どもと性的活動を行なうことが禁じられる年齢を決定する。
3.1aの規定は、未成年者同士の同意に基づく性的活動の規制を意図したものではない。
第19条-児童買春に関わる犯罪
1.各締約国は、権限なしに故意に行なわれる次の行為が犯罪とされることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
- a.売春目的で子どもを募集し、または子どもを売春に参加せしめること。
- b.子どもを威迫して売春させること、または当該目的で子どもから利益を得ることもしくはその他の形態により子どもを搾取すること。
- c.児童買春を利用すること。
2.この条の適用上、「児童買春」とは、金銭その他のいずれかの形態の報酬または対価が与えられまたはその供与が約束された状況で、子どもを性的活動のために用いることをいう。このような供与、約束または対価の提供が子どもまたは第三者に対して行なわれるかどうかは問わない。
第20条-児童ポルノに関わる犯罪
1.各締約国は、権限なしに故意に行なわれる次の行為が犯罪とされることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
- a.児童ポルノを製造すること。
- b.児童ポルノの提供を申し出、またはその利用を可能にすること。
- c.児童ポルノを頒布しまたは送信すること。
- d.自己または他人のために児童ポルノを取得すること。
- e.児童ポルノを所持すること。
- f.情報通信技術を通じ、情を知って児童ポルノにアクセスすること。
2. この条の適用上、「児童ポルノ」とは、現実のもしくは擬似のあからさまな性的活動に従事する子どもを視覚的に描写したあらゆる資料または子どもの性器を主として性的目的で描写したあらゆる表現をいう。
3.各締約国は、1aおよびeの規定の全部または一部を、次のポルノ的資料の製造および所持について適用しない権利を留保することができる。
- 当該ポルノ的資料が、実際には存在しない子どもの擬似描写または写実的画像のみによって構成されているとき。
- 関与する子どもたちが第18条第2項を適用して定められた年齢に達しており、かつ、当該画像がその同意を得ておよび自分たち自身の私的利用のみを目的として製造および所持されるとき。
4.各締約国は、1fの規定の全部または一部を適用しない権利を留保することができる。
第21条-ポルノ的パフォーマンスへの子どもの参加に関わる犯罪
1.各締約国は、権限なしに故意に行なわれる次の行為が犯罪とされることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
- a.子どもを募集してポルノ的パフォーマンスに参加させ、または子どもをそのようなパフォーマンスに参加せしめること。
- b.子どもを威迫してポルノ的パフォーマンスに参加させること、または当該目的で子どもから利益を得ることもしくはその他の形態により子どもを搾取すること。
- c.子どもが参加するポルノ的パフォーマンスの場に情を知って出席すること。
2.各締約国は、1cの規定を、子どもが1aまたはbに一致する形で募集されまたは威迫された場合に限って適用する権利を留保することができる。
第22条-子どもを堕落させる犯罪
各締約国は、第18条第2項を適用して定められた年齢に達していない子どもに故意にかつ性的目的で性的虐待または性的活動を目撃させることを、たとえ参加を強要しない場合でも犯罪とするため、必要な立法上その他の措置をとる。
第23条-性的目的での子どもの勧誘
各締約国は、成人が、第18条第2項を適用して定められた年齢に達していない子どもに対し、情報通信技術を通じ、第18条第1項または第20条第1項aにしたがって定められたいずれかの犯罪をその子どもに対して行なう目的で会うことを故意に提案することを、このような提案後に実際に会うことにつながる実体的行為が行なわれたときは犯罪とするため、必要な立法上その他の措置をとる。
第24条-幇助または教唆および未遂
1.各締約国は、この条約にしたがって定められたいずれかの犯罪の遂行を幇助しまたは教唆することを、当該幇助または教唆が故意に行なわれたときは犯罪とするため、必要な立法上その他の措置をとる。
2.各締約国は、この条約にしたがって定められたいずれかの犯罪の未遂が故意に行なわれたときはこれを犯罪とするため、必要な立法上その他の措置をとる。
3.各締約国は、2の規定の全部または一部を、第20条第1項b、d、eおよびf、第21条第1項c、第22条ならびに第23条にしたがって定められた犯罪に適用しない権利を留保することができる。
第25条-裁判権
1.各締約国は、次のいずれかの場合において、この条約にしたがって定められたいかなる犯罪についても裁判権を設定するため、必要な立法上その他の措置をとる。
- a.当該犯罪が自国の領域内で行なわれるとき。
- b.当該犯罪が自国を旗国とする船舶内で行なわれるとき。
- c.当該犯罪が自国の法令に基づいて登録された航空機内で行なわれるとき。
- d.当該犯罪が自国の国民のいずれかによって行なわれるとき。
- e.当該犯罪が自国の領域内に常居所を有する者によって行なわれるとき。
2.各締約国は、この条約にしたがって定められたいずれかの犯罪が自国の国民のいずれかまたは自国の領域内に常居所を有する者に対して行なわれる場合に当該犯罪について裁判権を設定するため、必要な立法上その他の措置をとるよう努める。
3.各締約国は、署名時または批准書、受託書、承認諸もしくは加入書の寄託時に、欧州評議会事務総長に宛てた宣言により、この条の1eに掲げられた裁判権に関する規則を適用しない権利または特定の場合もしくは条件においてのみ適用する権利を留保する旨、宣言することができる。
4.この条約の第18条、第19条、第20条第1項aならびに第21条第1項aおよびbにしたがって定められた犯罪の訴追のため、各締約国は、1dに関わる自国の裁判権が、当該行為がその遂行地において犯罪とされていなければならないという条件に服させられないことを確保するために、必要な立法上その他の措置をとる。
5.各締約国は、署名時または批准書、受託書、承認諸もしくは加入書の寄託時に、欧州評議会事務総長に宛てた宣言により、第18条第1項b第2インデントおよび第3インデントにしたがって定められた犯罪に関わるこの条の4の規定の適用を、自国民が自国の領域内にその常居所を有している場合に限定する権利を留保する旨、宣言することができる。
6.この条約の第18条、第19条、第20条第1項aおよび第21条にしたがって定められた犯罪の訴追のため、各締約国は、1dおよびeに関わる自国の裁判権が、被害者からの申告または犯罪実行地である国からの告発がなければ訴追を開始することができないという条件に服させられないことを確保するために、必要な立法上その他の措置をとる。
7.各締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ容疑者の国籍のみを理由として他の締約国に当該容疑者の引渡しを行なわない場合においてこの条約にしたがって定められた犯罪についての裁判権を設定するため、必要な立法上その他の措置をとる。
8.この条約にしたがって定められた犯罪が行なわれたとされる場合において、二以上の締約国が当該犯罪についての裁判権を主張するときは、関係締約国は、適当な場合には、訴追のためにもっとも適した裁判管轄国を決定するため協議を行なう。
9.この条約は、国際法の一般規則を損なわないかぎりにおいて、締約国がその国内法にしたがって行使するいかなる刑事裁判権も排除するものではない。
第26条-法人の責任
1.各締約国は、個人としてまたは法人の機関の一部として行動するいずれかの自然人であって当該法人内部で指導的地位にある者が、次のいずれかの権限に基づき、かつ当該法人の利益のためにこの条約にしたがって定められた犯罪を行なう場合に、当該犯罪に関する責任を当該法人に負わせ得ることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
- a.法人の代表権。
- b.法人のために決定を行なう権限。
- c.法人内部で管理を行なう権限。
2.すでに1で規定されている場合とは別に、各締約国は、1に掲げられた自然人による監督または管理の欠如により、法人の権限に基づき活動する自然人が当該法人の利益のためにこの条約にしたがって定められた犯罪を行なうことが可能になる場合に、当該犯罪に関する責任を当該法人に負わせ得ることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
3.法人の責任は、締約国の法的原則にしたがって、刑事上、民事上または行政上のものとすることができる。
4.法人の責任は、犯罪を行なった自然人の刑事上の責任に影響を及ぼすものではない。
第27条-制裁および措置
1.各締約国は、この条約にしたがって定められた犯罪が、その重大さを考慮に入れた効果的な、均衡のとれたかつ抑止効果のある制裁によって処罰されることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
2.各締約国は、第26条の規定にしたがって責任を負うものとされる法人に対し、効果的な、均衡のとれたかつ抑止効果のある制裁が科されることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。当該制裁には、刑罰としてのまたは刑罰以外の金銭的制裁を含むものとし、かつ、その他の措置、とくに次の措置を含むことができる。
- a.公的な給付金または補助金の受給資格を停止すること。
- b.商業的活動を行なう資格を一時的または恒久的に停止すること。
- c.司法的監督のもとに置くこと。
- d.裁判所による解散命令を発すること。
3.各締約国は、次の目的のために必要な立法上その他の措置をとる。
- a.次のものの押収および没収について定めること。
- この条約にしたがって定められた犯罪を行なうためまたはその便宜を図るために用いられる物品、文書その他の道具。
- 当該犯罪から生じる収益または当該収益に相当する価額の財産。
- b.この条約にしたがって定められたいずれかの犯罪を行なうために用いられるいずれかの施設を、善意の第三者の権利を侵害することなく、一時的または恒久的に閉鎖できるようにすること、または、加害者に対し、犯罪が行なわれた過程で生じた子どもとの接触をともなう職業上の活動もしくはボランティア活動を行なうことを一時的または恒久的に禁ずること。
4.各締約国は、加害者に関して、親としての権利の喪失宣告または有罪判決を受けた者の監視もしくは監督のような他の措置をとることができる。
5.各締約国は、この条約にしたがって定められたいずれかの犯罪の被害者を対象とする予防プログラムおよび援助プログラムの資金とするため、この条にしたがって没収された犯罪収益または財産を特別基金に配分することができる旨、定めることができる。
第28条-加重事由
各締約国は、この条約にしたがって定められた犯罪に関わる制裁の決定において、次の事由を、当該事由がすでに犯罪の構成要件の一部となっている場合を除き、国内法の関連規定に一致する形で加重事由として考慮できることを確保するため、必要な立法上その他の措置をとる。
- a.当該犯罪が被害者の身体的または精神的健康を深刻に損なったこと。
- b.当該犯罪に先行しまたは並行して拷問または重大な暴力行為が行なわれたこと。
- c.当該犯罪がとくに脆弱な状況にある被害者に対して行なわれたこと。
- d.当該犯罪が、家族構成員、子どもと同居している者または子どもに対する権威を濫用した者によって行なわれたこと。
- e.当該犯罪がともに行動する複数の者によって行なわれたこと。
- f.当該犯罪が犯罪組織の枠組みのなかで行なわれたこと。
- g.加害者が過去に同じ性質の犯罪を理由として有罪判決を受けていること。
第29条-過去の有罪判決
各締約国は、制裁の決定において、この条約にしたがって定められた犯罪に関わって他の締約国が言い渡した終局判決を考慮できるようにするため、必要な立法上その他の措置をとる。
- 更新履歴:ページ作成(2011年7月28日)。/冒頭にランサローテ委員会の関連見解等(一部)を掲載(2025年4月11日)。
最終更新:2025年04月11日 11:21