移住労働者権利委員会・一般的意見5号(2021年):身体の自由および恣意的拘禁からの自由に対する移住者の権利ならびにこれらの権利と他の人権との関係


CMW/C/GC/5
配布:一般
2022年7月21日(公表日:2021年9月23日)
原文:英語
日本語仮訳:平野裕二(日本語訳PDF

I.はじめに

1.全ての移住労働者およびその家族の権利の保護に関する委員会は、移住の犯罪化へと向かう傾向を深く懸念する。このような傾向は、世界の複数の地域をまたぐ形で、移住者の収容がますます頻繁に利用されるようになっているところに見てとることができる。
2.委員会は、締約国に対する総括所見で、自由を奪われている移住労働者およびその家族構成員の権利に影響を与える諸問題についての勧告を一貫して行なってきた。この一般的意見は、自由を奪われている移住労働者およびその家族構成員の権利について委員会が懸念を高めてきたことの結果である。
3.国際移住の文脈においては、一部の国によって実施されている出入国管理措置――自動的かつ義務的な収容、収容中の処罰、子どもを家族とともにおよび単独で収容すること(親族ではない成人との収容を含む)、妊婦、人身取引被害者、庇護希望者、難民、無国籍者および脆弱な状況にあるその他の移住者の収容、収容を背景とする家族の分離および長期のまたは期間の定められていない収容、法的救済措置および国際保護へのアクセスを妨げる障壁、ならびに、収容施設における非人道的かつ過密な環境など――は、移住労働者およびその家族構成員の権利の侵害に相当する場合がある。
4.すべての移住労働者およびその家族の権利の保護に関する国際条約の締約国は、移住を犯罪化しない義務を負う。移住の犯罪化は、圧倒的に比例性を欠いておりかつ条約上の義務に一致しないやり方で移住者を処罰しまたは非正規な移住の防止を試みることを目的とした刑事法の操作をともなってきており、かつ、移住者およびその家族の権利の擁護に対するコミットメントではなく、非正規な移住を抑止しようとする政治的戦略に基づいていることが多い。
5.1990年代以降、入管収容の利用は顕著に増加してきた。このような収容は、多くの場合に、移住者およびその家族を集団で恣意的に収監するための機構と化している。委員会は、この数十年の間に、入管収容制度の拡大とあわせて入管執行への民間刑事施設企業への関与および影響力が高まってきたことを目の当たりにし、懸念を持ってきた。入管収容はひとつの産業と化しており、民間刑事施設受託業者は――場合によっては国も――、移住者および庇護希望者(申請についての決定を待っている者および送還の過程にある移住者を含む)を収容することからもたらされる相当額の年間利益を報告している。委員会は、入管収容が貧しい移住者および有色の人々に不均衡な影響を及ぼしていることに、著しい懸念をもって留意する。これらの人々は同時に、出入国管理手続、庇護手続または国際保護手続において自らを防御しまたは法的援助を得ることについても最大の困難を有している人々である。
6.収容は、移住者の健康および人格的完全性に多くの影響を及ぼす。収容は、すでに存在する病態をいっそう重くし、かつ新たな病態(これらの病態には、移住者の脆弱な状態を悪化させる不安、抑うつ、心的外傷後ストレス障害、希死念慮および場合によっては自殺も含まれる)の発生原因となって、移住者の脆弱性および排除を悪化させる。これらの悪影響はさまざまな要因の結果として生ずるものであり、それには、収容期間が定められていないこと、収容をめぐる恣意性および不確実性が存在すること、家族が離れ離れにされること、過密状態に置かれること、食料、安全な水および医療ケアにアクセスできないこと、独居拘禁下で長期間収容されること、国籍を取得できないことまたは国籍に関連する権利を享受できないこと、ならびに、国の官吏、民間の警備職員または他の被収容者による意図的な身体的・心理的虐待が行なわれることが含まれる。このような人権侵害は、拷問、残虐な、非人道的なかつ品位を傷つける取扱いおよび処罰、性暴力、失踪、強要、ならびに、搾取(他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働もしくは役務の提供、奴隷化、奴隷化に類する行為、隷属または臓器の摘出を含む)を目的とする人身取引から構成される場合もある。
7.これらの要因は、各国、移住者およびその家族構成員に前例のない課題を突きつけてきた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックを背景として悪化してきた。委員会は、入管収容との関係で、移住者、庇護希望者、難民および無国籍者の収容先である収容施設の多くが最低限の衛生要件を満たしておらず、かつ保健サービスへのアクセスが限定的または不可能であることを懸念する。委員会は、COVID-19のような疾病が被収容者間で広がるリスクが高いことに、懸念をもって留意する。このような状況は、COVID-19への感染リスクおよび他の疾病が蔓延する可能性を低減させる目的で、移住者資格を根拠に自由を奪われている人々を放免し、かつ代替措置を実施する必要があるのではないかという疑問を提起するものである [1]。
[1] Committee and the Special Rapporteur on the human rights of migrants, “Guidance note on the impact of the COVID-19 pandemic on the human rights of migrants”, 26 May 2020.
8.この一般的意見の主たる目的は、身体の自由および恣意的拘禁からの保護に対する移住労働者およびその家族の権利に関連する条約上の義務、ならびに、これらの権利と他の人権が交差することにより生ずるその他の人権法上の義務の充足についての指針を各国に提示することである。この一般的意見では、「安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト」の実施に関する各国向けの指針、ならびに、人権の促進・保護のための取り組みおよび人権法上の義務の遵守をモニタリングする取り組みの実施に関するその他のステークホルダー向けの指針も提示しようと試みている。

II.身体の自由に対する移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する規制枠組み

A.条約における身体の自由および安全に対する権利

9.身体の自由に対する権利はあらゆる形態の拘禁に適用されるのであり、すべての人(移住者資格の如何にかかわらず、すべての移住労働者を含む)に対し、差別なく保障されなければならない。条約第16条は、身体の自由および安全に対するすべての移住労働者およびその家族の権利の保護を規定しつつ、他の関連の権利および保障についても定めている。これには、公務員または私人、私的な集団もしくは組織が行なう暴力から国家による効果的な保護を受ける権利、身元確認手続の合法性および非恣意性の保障、恣意的かつ不法な逮捕および拘禁の禁止、ならびに、行政拘禁または刑事拘禁が行なわれる場合の多数の具体的な手続的保障措置(領事援助に対する権利、拘禁の合法性について異議を申し立てるための司法的救済措置にアクセスする権利および逮捕または拘禁が不法なものであった場合に補償を受ける権利を含む)の保障が含まれる。
10.条約第17条は、自由を奪われているすべての移住労働者およびその家族構成員の、人道的にかつ人間の固有の尊厳および自己の文化的アイデンティティを尊重して取り扱われる権利を承認している。したがって、締約国は、各被収容者の個人的な事情および必要を考慮し、かつ、拘禁環境がすべての関連の国際基準を遵守しておりかつ拷問および不当な取扱いに相当するものとなっていないことを確保しながら、拘禁施設における十分な環境を保障するべきである。これらの権利に加えて、相互関連性を有するその他の権利として、拷問または残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰の禁止(第10条)、適正手続の保障(第18条)、個人の地位に関連する法律適合性および人道的考慮の原則(第19条)、ならびに、契約上の義務の不履行のみを理由とする収監の禁止(第20条)などがある。

B.その他の国際法・地域法文書

11.身体の自由および安全に対する権利は主要な国際的・地域的人権文書で認められている。これには、世界人権宣言第3条、市民的および政治的権利に関する国際規約第9条、子どもの権利に関する条約第37条(b)-(d)、障害のある人の権利に関する条約第14条、人および人民の権利に関するアフリカ憲章第6条、米州人権条約第7条、人権および基本的自由の保護に関する条約〔欧州人権条約〕第5条、アラブ人権憲章第14条および東南アジア諸国連合人権宣言第12条が含まれる。

C.自由剥奪の定義

12.移住者とその家族構成員は、身体の自由および安全に対する権利を脅かすさまざまな課題に直面している。そのひとつが、通過国もしくは目的地国の出入国管理法に違反した結果としての、またはスクリーニング、身元確認、登録、受入れ、出入国管理手続、送還決定の実施または子どもの保護および代替的養護などを目的とする、自由剥奪である。各国は、行政法および刑事法の両方に基づいて行なわれている入管収容の規制に関してさまざまな用語法を採用してきた。委員会は、各国が、出入国管理上の理由による自由剥奪すなわち入管収容について「登録および収容」(filing and accommodation)、「処理」(processing)、「受入れ」(reception)、「身柄保持」(retention)および「措置」(placement)などの用語を用いていることに、懸念をもって留意する。「収容/拘禁」(detention)という表現が用いられることはまれであり、このような言い換えは通常、このような措置が検証の対象とされないようにし、それによって、いかなる自由剥奪においても事前およびその継続中に適用されるべき手続的保障措置を回避する意図で行なわれている。
13.したがって委員会は、自由剥奪の概念を明確にする必要があると考える。拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰に関する条約の選択議定書第4条(2)は、自由剥奪を、いずれかの司法機関、行政機関その他の公的機関の命令により、人を自らの意思で離れることを許されない公的または私的な身柄拘束場所に拘禁しもしくは収監しまたは措置するあらゆる形態の行為として定義している。このような自由剥奪は、逮捕の時点に始まり、かつ身柄が解放されるまで継続する。国内の政策、法律または実務で当該措置がどのように定義されているか、またどのような理由で当該措置がとられるかにかかわらず、その措置により自由剥奪が生じ、移住者またはその家族構成員が自らの意思で離れることのできない場合には、委員会は、当該措置は収容のひとつの形態であり。すべての移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する国際条約第16条および第17条が適用されると解する。
14.加えて、委員会が、「移住者資格に関連する理由で」行なわれる拘禁すなわち「入管収容」は、ある者が、自由剥奪の呼称もしくはそれを行なう理由または自由を剥奪される間収容される施設もしくは場所の名称の如何にかかわらず、移住者資格に関連する事由で自由を剥奪されるすべての状況を指すものと考える。したがって、入管収容には、刑事施設、警察署、入管収容施設、閉鎖型受入れ施設、保健ケア施設および他のすべての封鎖空間(空港、陸上港または海港の国際区域または乗継区域など)における移住者の収容が含まれる。「移住者資格に関連する理由」については、委員会は、非正規な入国、滞在または出国に関連した移住者資格もしくは在留資格またはその欠如をいうものと解する [2]。
[2] 出身国、通過国、目的地国および帰還国における、国際的移住の文脈にある子どもの人権についての国家の義務に関する合同一般的意見(委員会の一般的意見4号および子どもの権利委員会の一般的意見23号、2017年)、パラ6。

D.移住労働者およびその家族構成員が対象とされる可能性のある自由剥奪の態様

15.移住労働者およびその家族構成員の自由剥奪の根拠は多様であって、行なわれる自由剥奪の態様もそれによって異なり、刑事施設における刑事拘禁、入管収容、非自発的施設措置および空港・陸上港・海港の制限区域での監禁などがある。しかしこの一般的意見では、出入国管理の状況に関わる自由剥奪についての関連の理由と、移住者が目的地国、通過国または帰還国に非正規に入国したことまたは滞在していることの結果として収容が行なわれているか否かにのみ焦点を当てる。

E.恣意的拘禁の禁止

16.恣意的拘禁の禁止は絶対的であり、逸脱が許されない慣習国際法規則、すなわち強行規範(jus cogens norm)である。条約第16条(4)にしたがい、移住者も恣意的自由剥奪の禁止によって保護される。したがって、移住を背景とするいかなる収容の利用も、正当な国家の目的に基づいており、国内法で定められており、必要性および比例性の基準と両立する例外的な最後の手段として常に用いられ、適用範囲および期間が限定されており、より制限的ではない代替措置について検討した後に当該措置では正当な目的を達成するには不十分であると認定された場合にのみ行なわれ、かつ、定期的な再評価および司法審査の対象とされなければならない。加えて、収容環境は、追求される正当な目的に比例するものでなければならず、かつ国際的な最適基準を常に満たすものでなければならない。以下に恣意性の判断基準を図示する。

(図)恣意性の判断基準:正当な目的→法律適合性→必要性→比例性

1.例外的な最後の手段としての収容
17.委員会は、入管収容は望ましくない措置であると考える。法律においては常に、収容は本来行なわれるべきものではなく、したがって自由が優先されるという推定が維持されるべきである。したがって、出入国管理を背景とする自由剥奪は例外的な最後の手段とすることが求められる。関連当局は、具体的事情に即した個別的な状況評価を実施しなければならない。当該評価においては、幅広いカテゴリーを対象とする義務的規則に基づくのではなく個別事案ごとに関連の要素が検討されなければならず、かつ、収容期間が可能なかぎり短期とされることが確保されなければならない。移住労働者およびその家族構成員の義務的、自動的、組織的または広範な収容はすべて恣意的である。加えて、委員会は、恣意的拘禁の禁止は抑制策としてのまたは移入を食いとめるための一般的移住管理策としての収容の利用にも及ぶと考える。
18.COVID-19パンデミックのような状況においては、委員会は、各国に対し、入管収容下にある移住者の事案を、被収容者を放免する方向で再審査するよう促す。COVID-19の鎮静化に関連する国境封鎖その他の緊急措置にもかかわらず、送還または退去強制といった正当な出入国管理政策目標が依然として存立している場合、国は、収容施設における新型コロナウイルスの拡散を防止するために被収容者の人数を可能かぎり最大限に減少させられるよう、収容代替措置の利用を拡大するべきである。ただし、緊急措置によってある個人の収容命令の目的が無効化される場合、国は、当該被収容者を速やかに放免して地域社会で暮らせるようにし、収容環境外でそのウェルビーイングを確保するために必要なすべてのケアおよび援助を提供しなければならない。
2.非恣意性
19.拘禁の非恣意性の原則は強行規範上の規則である。条約は、恣意的拘禁とは合理性の限度を超えるすべての自由剥奪であるという理解のもと、恣意的拘禁を禁じている。拘禁は、それが正当な目的を追求するものであり、かつ法律で認められているというだけでは十分ではなく、必要性および比例性の基準を満たしており、個別の評価に基づいており、かつ、引き続きこれらの条件が満たされることを確保するために定期的に再評価されなければならない。
(a)正当な目的
20.移住との関連で行なわれるいかなる自由剥奪も、国家の正当な目的に基づいていなければならない。条約では入管収容が許容される正当な目的は挙げられていないものの、入管収容を正当化し得るのは、当該移住者が出入国管理手続を回避する危険性がある場合または送還命令の実施を保証する目的がある場合のみである。これらの2つの想定において存在するおそれは、証明された事実によって裏づけられ、かつ個別の評価に基づいたものでなければならない。
21.委員会は過去に [3]、ある国に非正規な状況で入国したまたは滞在しているというだけでは、移住労働者およびその家族構成員の入管収容の権限を認める十分な理由にはならないと指摘した。それは非正規な移住を管理しかつ規制する国家の正当な目的または利益を超えているためである。委員会は、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いおよび刑罰に関する特別報告者の次の見解に同意する――すなわち、移住者資格のみを理由とする収容はそれ自体拷問に相当する可能性さえあり、とりわけ、当該収容が、非正規な状況にある移住者を抑止し、威迫しもしくは処罰すること、庇護、補完的保護その他の滞在の申請の取り下げ、自発的に帰還することへの同意もしくは情報や指紋の提供を強制すること、もしくは金銭の支払いや性的行為を強要することなどを目的として、またはあらゆる種類の差別(移住者資格に基づく差別を含む)を理由として意図的に行なわれまたは継続される場合には、これが該当する [4] ということである。
[3] 出身国、通過国、目的地国および帰還国における、国際的移住の文脈にある子どもの人権についての国家の義務に関する合同一般的意見(委員会の一般的意見4号および子どもの権利委員会の一般的意見23号、2017年)。〔訳者注/とくにパラ7参照〕
[4] A/HRC/37/50, para. 28.
(b)法律適合性
22.自国の行為が国内法規則を遵守したものでなければならないというのは、各国が承認している義務である。入管収容は、事前に認められ、法律で明確かつ網羅的に規定されており、かつ法律に定める手続にのっとっている場合に初めて合法的なものとなる。入管収容の決定および執行に関して法律で当局に広い裁量権を認めることは、禁じられる。
23.身体の自由に対する権利を保障するため、国は、自国の法律において、身体の自由に対する権利に合致する自由優先の推定、入管収容は例外的な最後の手段であるべきであるという原則、および、移住労働者およびその家族構成員が関わる出入国管理手続において収容という手段に訴える前に、より強制性の低い措置が利用可能か否かを評価する国の義務を定めるべきである。
(c)必要性
24.必要性の原則を適用することにより、入管収容は、立証された正当な目的を達成するために厳密に必要不可欠である場合でなければ、利用することができない。決定当局は、移住労働者およびその家族構成員に自由剥奪を課す前に、自由剥奪は対象者にとって常にもっとも有害な措置であるという事実から出発しなければならない。したがって、当該当局は、対象者にとっての有害性がより低い、利用可能なすべての収容代替措置(社会内処遇措置またはより強制性の低い措置など)について評価し、かつこれを適用しなければならない。
(d)比例性
25.比例性に関する判断においては、収容が移住者の身体的・精神的健康に及ぼす可能性のある影響が考慮されるべきである。国は、脆弱な状況にある移住者に対して効果的な保護を提供する、いっそう強い配慮義務を有する [5]。正当な目的、法律適合性、必要性および比例性がなければならないという要件を自由剥奪が満たしている場合、実施される措置の重大性と、立証された正当な目的を達成することの重要性を対比することによる評価を実施することが当局の義務である。
[5] 恣意的拘禁に関する作業部会・改定審議結果第5号A/HRC/39/45付属文書)、パラ24も参照。

III.身体の自由に対する権利の保護に関わる条約の規定を実施するための一般的措置

A.管轄

26.締約国は、第7条にしたがい、自国の領域内にいるまたは自国の管轄下にあるすべての移住労働者およびその家族構成員を対象として、条約に掲げられた権利を尊重しかつ保障する義務を有する。身体の自由に対する権利との関連では、締約国の責任は、自国の管轄下および領域内にある収容場所で行なわれた移住者への人権侵害を包含するのみならず、自国の領域外にある収容場所についても、当該国がその領域を法律上または事実上支配している場合には、及ぶ。
27.そのことが含意するのは、国家当局は、国外の収容場所の設計、当該場所への資金拠出、当該場所の運営または供給を通じ、人権を侵害する行為に参加する可能性があるということである。同様に、移住労働者を領域外の収容施設に移送することを締約国が決定する場合、当該国は、条約および他の国際的・地域的人権文書で認められた権利がこれらの施設で尊重されかつ保障されることを確保する義務を負う。
28.移住労働者がある国で庇護を求め、その後に当該国の領域外の収容場所に移送される場合、その事案の処理は、一般的に、到着国または当該移住労働者についてその他の形で管轄権を有する国の領域で進められるべきであると委員会は考える。とはいえ、事案の処理のために庇護希望者を移送することについて複数の国が合意に達した場合、これらの国は、当該合意に調印する際、国家は国際人権法、国際難民法および国際刑事法に基づく自国の義務を放棄できないことを考慮するべきである。

B.収容の実行要員

29.委員会は、自由を奪われている移住労働者およびその家族構成員の監視役として私人または民間警備会社を利用している国があることに留意する。委員会は、国は自由を奪われている人についていっそうの配慮義務を有するのであり、これらの人の人格的完全性が侵害されないようにするため相当の注意を持って行動するべきであることを想起するものである。委員会は、人権侵害の手段および人民の自決権の行使を妨害する手段としての傭兵の使用に関する、恣意的拘禁に関する作業部会の見解に同意する。すなわち、国が入管収容施設の運営、安全確保または警備を民間企業に外注する場合、受注者による収容のやり方およびその収容環境については国が依然として責任を負うということである。国には被収容者をケアする義務があるので、自国の要員による拷問および不当な取扱いの行為を積極的に防止する義務、および、とくに民間の要員による人権侵害を防止するために相当の注意を持って行動する義務がある。
30.原則として、収容施設の警備要員は公的部門から採用されなければならない。ただし、締約国は、自由を奪われている者に関する国際文書にしたがい、適正な監視体制が設けられていること、および、民間警備サービス職員が被収容者の取扱いに関する人権規範・基準について十分な研修を受けることを条件として、民間警備サービスを利用することができる。国は、すべての要員によって行なわれる人権侵害を防止し、調査し、処罰しかつ救済するための適切な措置をとらなければならない。これらの要員の説明責任を確保し、かつ、人権侵害の被害を受けた移住者が司法的救済措置にアクセスできることを保障するための具体的機構が設置されるべきである。加えて、民間警備要員の行動は、収容施設の公務員との調整のとれたやり方で規律されなければならない。

C.条約の規定を実施するための措置をとる締約国の法的義務

31.条約第84条は、条約の規定を実施するために必要な立法上その他の措置をとる締約国の義務を定めている。この一般的意見に掲げられた基準および指針が効果的に実施されるためには、各国が人権に関わる自国の能力を発展させかつ強化することが必要である。これには、収容代替措置(社会内処遇措置またはより強制性の低い措置など)の実施のために十分な資源を配分することとともに、自由剥奪が例外的に認められる場合に、収容施設に、当該措置を実施し、かつ、移住者と接触するすべての公的職員を対象とした、国際人権法および脆弱な状況に置かれている集団の固有の権利に関する十分な研修(人身取引被害者、無国籍者、保護者のいない子ども、高齢者および妊婦の特定に関する研修を含む)を提供するために必要な設備および環境ならびに警備監督者(公務員か民間人かを問わない)が備わっているようにすることが含まれる。

VI.身体の自由に対する移住労働者およびその家族構成員の権利に関わる条約の基本原則

A.差別の禁止の原則

32.差別の禁止の原則は国際人権文書の基本であり、強行規範とみなされている。条約第7条は条約のすべての規定を下支えするものであり、自国の領域内にいるまたは自国の管轄下にあるすべての移住労働者およびその家族構成員を対象として、条約で定められた権利を差別なく尊重しかつ保障する締約国の義務を定めている。
33.国は、自国の法規定および実務が移住労働者およびその家族構成員に対して差別的なものとなっていないことを確保するよう義務づけられるに留まらず、移住労働者およびその家族構成員に対する事実上または法律上の差別を固定化しまたは引き起こす諸条件および態度を防止し、低減させかつ解消するために必要な積極的措置も整備しなければならない。
34.委員会は、国家には出入国管理に関する政策および法律を定める主権があることを認める。とはいえ、国家はその際、自国の国際人権法上の義務、とくに移住労働者とその家族構成員の人間の尊厳の尊重および差別の禁止の原則が全面的に尊重されることを確保しなければならない。委員会は、各国に対し、移住に対して人権を基盤とするアプローチをとり、かつ移住者の収容に関する自国の法律、政策および実務を見直して、国内法が恣意的拘禁および非人道的な取扱いを禁ずる国際人権規範に一致することを確保するよう、求める。

B.移住者の非犯罪化の原則

35.委員会は、非正規な入国、滞在または出国について、法的保護を受ける基本的価値を侵害するものではなく、したがって人身、財産または国の安全に対する犯罪そのものではないことに鑑み、せいぜい行政犯罪を構成する可能性があるにすぎないものであって、けっして刑事犯罪とみなされるべきではないことをあらためて指摘する。したがって、移住者はけっして、移住に関わる非正規な地位を理由として犯罪者として分類されまたは取り扱われるべきではない [6]。委員会は、国家が移住を地域社会への脅威として取り扱うこと、および、その結果として、移住者を「危険」もしくは「有害な」存在呼ばわりまたは「犯罪者」呼ばわりさえする国内法、政策または実務が採択されることに、反対する。そのような慣行は移住者の脆弱性を悪化させるだけであり、移住者が差別、排外主義、暴力、人身取引その他の人権侵害の被害を受ける可能性を高めるものである。委員会は、移住を犯罪化することによってもたらされる影響のひとつとして、非正規な状況にある移住者が法的文書および世論の両方においてますます犯罪者として連想されるようになっていることに、懸念とともに留意する。
[6] 恣意的拘禁に関する作業部会・改定審議結果第5号、パラ10も参照。
36.そのような取扱いがもっとも明白に表れるのは、移住が刑事法による規制の対象とされ、その結果、移住労働者およびその家族構成員の非正規な入国または滞在が犯罪とされることである。移住が非正規なものになるのは、移住者の決定の結果ではなく、移動の自由に対する権利の行使を妨げる、国家の制限的政策の結果である。非正規な入国を犯罪化することは、非正規な移住を管理しかつ規制する国家の正当な利益を超えており、不必要な収容につながる。国は、出入国管理政策を実施する手段として移住者を収容するために軍隊または類似の治安部隊を利用しないようにするべきである。
37.移住に対して制裁を科す他の例としては、移住労働者およびその家族構成員の移住者資格について当局に通報するよう地域住民に奨励することや、移住労働者およびその家族構成員が学校、保健施設または職場に通う際の情報提供義務およびデータ交換義務をサービス提供機関および他の関連の個人に課すことなどが挙げられる。このような義務は、移住を直接犯罪化することと同じ、かつしばしば不均衡な影響を、非正規な状況にある移住者の人権に及ぼすものである。委員会は、移住を抑制しまたは非正規な移住と闘うために入管収容を無差別的に利用することには、これらの目的を達成する効果がないことに留意する。そのような対応は、正規の移住経路よりも経済的負担が大きく、かつ移住者の複数の権利を侵害するものである。

C.入管収容の例外性の原則

38.出入国管理政策は、収容ではなく自由を優先させなければならないという推定を基本とするべきである。身体の自由に対する権利は無制限ではないものの、委員会は、いかなる自由剥奪も大きな負担となり、かつ個人の人権を制約するものなのであるから、個人の移住者資格に関連した事由による収容または他のすべての形態の自由剥奪は例外性の原則によって規律されなければならないこと、すなわち、自由剥奪は、より有害性の低いすべての代替措置が検討されかつ除外された段階で、可能な最後の措置としてのみ用いられるべきであることを、あらためて指摘する。

D.移住者である子どもの非収容原則

39.複数の国際的・地域的機関および特別手続任務担当者が、子ども自身またはその親の移住者資格に関連した事由による子どもの収容は例外性の原則による規律の対象ではないと主張してきた。委員会は、出身国、通過国、目的地国および帰還国における、国際的移住の文脈にある子どもの人権についての国家の義務に関する合同一般的意見(すべての移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する委員会の一般的意見4号/子どもの権利委員会の一般的意見23号、2017年)で見解として確立されたとおり、一般的原則として、移住者である子どもは、家族をともなっているか、保護者がいないかまたは家族と離れ離れになっているかにかかわらず、けっして収容されるべきではなく、かつ移住に関連する事由で自由を剥奪されるべきではないことをあらためて指摘する。したがって、子どもの収容は、不必要でありかつ比例性を欠いていることから、国際人権法に基づいて常に禁止されているのである。子どもの収容は子どもの権利の侵害であり、かつ、差別の禁止、子どもの最善の利益、生命・生存・発達に対する権利および参加の原則、ならびに、身体の自由および安全ならびに家族生活に対するすべての子どもの権利に違反する。
40.委員会は、自由を奪われている子どもについての国際的研究 [7] に留意する。同研究を主導した独立専門家が明らかにしたところによれば、世界中で、少なくとも77か国により、少なくとも毎年33万人の子どもが移住関連の理由で自由を奪われている一方、少なくとも21か国はそのような措置を利用しておらずまたは利用していないと主張していた。収容は、子どもに身体的・精神的健康に関わる問題が生じるおそれおよび子どもが虐待の被害を受けるおそれを高める。収容されている子ども、とくに保護者のいない子どもおよび家族と離れ離れになっている子どもは、性暴力およびジェンダーに基づく暴力、人身取引、ネグレクト、虐待および搾取といった、その他の形態の危害を受けるおそれにもさらされる。
[7] A/74/136.
41.委員会は、たとえ短期間の収容であっても子どもの権利の侵害であり、残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いになる可能性があると考える。したがって国は、移住者資格関連の理由による子どもの自由剥奪の根絶に努めなければならない。いかなる種類の子どもの入管収容も法律で禁止されるべきであり、かつ当該禁止規定が実務上も全面的に実施されるべきである [8]。
[8] 出身国、通過国、目的地国および帰還国における、国際的移住の文脈にある子どもの人権についての国家の義務に関する合同一般的意見(委員会の一般的意見4号および子どもの権利委員会の一般的意見23号、2017年)、パラ5。
42.収容下で家族の一体性を保持するという名目のもと、子どもが親とともに収容施設で自由を奪われることは許容されない。国は、家族集団の自由を確保するための措置をとるべきである。子どもの最善の利益のためには家族がともにいられるようにすることが必要であり(ただし、親または養育者といっしょにいることで子どもに危険が生じる場合は除く)、子どもから自由を剥奪してはならないという絶対的要件は、子どもの家族に対しても、また子どもおよびその家族のケアおよび受入れのための措置の実施に対しても、及ぶ。
43.国は、このような子どものケアおよび保護を目的とする場所、とくに公式には収容施設ではないものの上述した自由剥奪の定義に当てはまる場所が、実際には実体的な自由剥奪をもたらさないことを常に確保しなければならない。移住者であって保護者のいない子どもは、家族構成員または十分な訓練を受けたソーシャルワーカーのケアに委ねられるべきである。収容状況下で出生した子どもには、収容国の国籍を付与することが求められる。
44.移住者または庇護希望者である子どもが入管収容施設または子どもを対象とする閉鎖型の代替的養護施設に措置されないことを確保するため、国際的移住の状況にある子どもについては子どもの保護・福祉関係者が第一次的責任を負うべきである。移住者である子どもが最初に出入国管理当局によって発見された場合、子どもの保護または福祉を担当する行政官が直ちに通告を受け、かつ保護、滞在場所その他のニーズに関わる子どものスクリーニングを担当することが求められる。

E.脆弱な状況にある者の非拘禁原則

45.脆弱な状況にある移住労働者およびその家族構成員の場合、効果的な保護のために相当の注意を払う国の義務は他の場合よりも強くなる。国は、とくに、このような人々の自由剥奪を防止するために合理的措置をとるべきである [9]。国は、特有のニーズを有する移住者または搾取、虐待、ジェンダーに基づく暴力(性暴力を含む)または収容を背景とするその他の人権侵害を受けるおそれがとくに大きい移住者を収容しないよう求められる。これには、妊娠中・授乳中の女性、高齢者、障害のある人、拷問またはトラウマのサバイバー、人身取引などの犯罪の被害者である人、身体的または精神的健康の面で特別なニーズを有する移住者、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーおよびインターセックスである人、難民、庇護希望者ならびに無国籍者が含まれる。送還すべき国籍国が存在しなければ無国籍者が恣意的かつ無期限に収容されるおそれが高まることに鑑み、無国籍認定手続は不可欠である。委員会は、脆弱な状況にある移住者を収容する場合、直ちにではないせよ非常に速やかに不当な取扱いに該当することになる可能性があるという点について、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いおよび刑罰に関する特別報告者 [10] に同意する。
[9] OHCHR and Global Migration Group, “Principles and guidelines, supported by practical guidance, on the human rights protection of migrants in vulnerable situations” 参照。
[10] A/HRC/37/50, para. 19.

V.身体の自由に対する移住労働者およびその家族構成員の権利を保護する条約締約国の法的義務

A.収容を行なう前に個別の事案ごとに収容代替措置を検討する義務

46.委員会は、各国は入管収容を廃止するための措置をとるべきであると考える。委員会は、各国が、「安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト」を通じ、国際法にしたがって身柄拘束をともなわない代替的選択肢を優先させること、および、移住者のいかなる収容に対しても人権を基盤とするアプローチをとり、収容を最後の手段としてのみ用いることを約束したことを強調するものである。委員会は、必要性および比例性の原則にしたがい、収容という手段に訴える前に、利用可能なすべての代替措置を検討しかつ実施する義務が国歌にはあると考える。
47.委員会は、「収容に代わる措置」(alternative measures to detention)、「社会内処遇措置」(non-custodial measures)、「より制限的ではない措置」(less restrictive measures)、「より負担の低い措置」(less onerous measures)および「より侵襲度の低い措置」(less invasive measures)などの用語について、さまざまな文脈で互換的に使用されることが多いものの、基本的には同一の法的概念を取り上げたものであることに留意する。委員会の解釈によれば、収容代替措置とは、収容よりも制限的ではない――法律上、政策上または実務上の――対応であって、地域社会を基盤としてケアを提供するすべての措置または身柄拘束をともなわない居住保障のためのすべての解決策を意味するものであり、移住者、庇護希望者、難民および無国籍者の人権を尊重しかつこれらの人々の恣意的拘禁を回避する目的で、すべての事案において収容が必要でありかつ比例性を有していることを確保するための法定収容決定手続の文脈で検討されなければならない措置である。収容代替措置においては人身の自由に対する権利が尊重されなければならず、したがって、これらの措置は、負担の大きな制限または条件をもたらすのではなく、人権基準に合致した他の正当な機構および措置を生み出すものでなければならない。収容の法的根拠が失われた場合(たとえば、送還、追放または退去強制が実行可能な目的ではなくなった場合)には、もはや収容代替措置の適用対象ではなくなる。
48.ただし委員会は、各国が用いている代替的措置の多くが、保釈、在宅拘禁またはその他の移動制限(電子監視や当局への定期的出頭など)のような、刑事司法分野で用いられている措置を真似たものであると思われることに留意する。これらの措置は過度に制限的なものになることが多く、移住の文脈では適切ではない。場合によっては、移住者に対するスティグマの悪化、移住者の人身の自由に対する不必要な干渉および過度に負担の重い要件の創出につながりかねず、事実上の収容に相当する可能性さえある。
49.委員会は、収容代替措置とは、より人間的で、個人(とくに脆弱な状況にある個人)に対する有害な身体的・心理的影響がより少なく、かつ人々の健康、ウェルビーイングおよび人権を保護するように立案されるという意図を持ったものであることを強調したい。エビデンスが示唆するところによれば、このような措置は、適正に実施された場合、人々がよりよい形で出入国管理手続に対処するのを援助するうえで収容よりも効果的なものとなり得る(移住者の請求が棄却され、自発的にかつ独力で帰還するよう求められている場合を含む)。収容に代わる措置はまた、運用費用がより低いことに鑑み、収容よりも相当に少ない費用しかかからない可能性もある。委員会は、COVID-19その他の疾病の拡散リスクのため、各国にとって、身柄拘束措置を課す前に入管収容に代わる措置を組織的に検討する実務を向上させる必要性がはるかに高まっていると考えるものである。
50.委員会は、各国が、地域社会を基盤とする社会内処遇措置を重視するよう勧告する。このような措置は、ケースマネジメントその他の形態の支援を含み、それぞれの人または家族の特有のニーズおよび脆弱性に適合し、かつ人々が地域社会内で自由に生活することを認めるようなものであるべきである。移住労働者およびその家族構成員を対象とする法的援助、心理社会的支援ならびに教育、住居および保健ケアに対する権利の保護が保障されなければならない。移住者の権利を制限することに代わるこのような措置が用いられる場合、それに関わる保障措置は収容状況に適用されるものと同じように厳格であるべきである。このような保障措置には、当該代替措置が法律で定められ、期間を限定され、差別的な目的および効果を有さず、恣意的ではなく、かつ手続的保障措置(定期的な司法審査および独立の監督を含む)に服すること、および、当該代替措置によって個人の権利および尊厳が保護されることを確保することが含まれる。政府職員は、もっとも侵襲度の低い収容代替措置を明らかにする目的で、このような代替措置が移住者の権利に及ぼす影響を検証し、かつ移住者に対して不必要な制限が課されないことを確認するべきである。

B.収容期間

51.出入国管理手続の過程で過度のまたは無期限の収容が行なわれることは、あってはならない。そうでなければ、その収容は恣意的なものになるからである。したがって国は、出入国管理手続の過程で認められる収容期間の上限を法律で定めるよう求められる。また、収容は可能な最短の期間に限って認められるべきであり、かつ、収容が依然として必要であり、いまなお唯一の選択肢であるか否かを評価するための、頻繁な再審査の対象にもされるべきである。法律で定められた収容期間の経過後は、被収容者は自動的に放免されなければならない。放免された者に対しては、再度の収容から保護するための文書が提供されるべきである。再度の収容は、法律で定められた収容期間の上限に違反することになる。
52.非正規な状況にある移住者を特定することもしくはそのような移住者を領域から送還することについて障壁が存在する場合、またはノンルフールマン原則その他の国際法上もしくは国内法上の義務が提供されるために帰国させることが法的に不可能な場合で、そのため送還または追放が不可能であるときは、恣意的拘禁となる無期限の収容を回避するため、被収容者は直ちに放免されなければならない。したがって、司法もしくは適正手続上の保障にアクセスする権利または庇護もしくは国際保護を申請する権利を被収容者が行使しようとしているという理由で実施されるいかなる自由剥奪も、恣意的拘禁となる。それゆえ、退去強制の現実的見通しのない無国籍者の収容は恣意的拘禁となるので、収容された無国籍者は直ちに放免されなければならない。

C.司法にアクセスする権利

53.委員会は、司法にアクセスする権利には二面性があることをあらためて指摘する。この権利は、それ自体としてすべての人に固有の人権である一方。すべての人が自己の権利を請求するために法律に訴えることができるようにする義務を各国に課す、原則および必須条件でもあるのである。条約は、法の支配の尊重、適正手続および司法へのアクセスが、移住の管理のあらゆる側面にとって基本的重要性を有することを認めている。そのことが含意するのは、国は、自国の領域内にいるまたは自国の管轄下にあるすべての者が、その国籍または移住者資格にかかわらず司法にアクセスできることを保障しなければならないということである。
54.委員会は、司法へのアクセスに関して移住者が複数の障壁(言語の壁、適用される法律に関する情報または知識の不足、支援ネットワークの欠如、個人情報・データを守るための保障措置の不存在、司法へのアクセスを求めれば当局に摘発されまたは収容もしくは送還されるのではないかという恐れなど)に直面する場合があることを想起する。したがって、移住者が他の者と平等な立場で司法および適正手続にアクセスする権利を享受できるようにするため、国は、移住者の利益の効果的防御を妨げまたは阻害する障壁および欠陥を少なくしまたは解消する一助となる、手続的措置または補償措置をとるべきである。委員会は、自由を奪われている移住労働者およびその家族構成員が通過国および目的地国で司法にアクセスできること、ならびに、通過国および目的地国への入国・滞在の前、最中および後に、自己が理解できる言語および形式による移住者としての権利に関する情報にアクセスできることを、これらの者がいまなお当該国にいるか否かにかかわらず確保するため、締約国があらゆる必要な措置をとるよう勧告する。
55.すべての移住労働者およびその家族構成員に対して司法へのアクセスを保障するため、委員会は、締約国に対し、移住労働者が渡航前に自己の権利について認識していることを確保し、かつ、通過中および目的地国への到着後に生じたいかなる権利侵害についても法的手段および救済措置にアクセスできることの便宜を図るための努力を強化するよう、促す。移住者が出身国または第三国に帰還した後でさえ、これらの保障は、領事サービスおよび司法協力を通じて、移住労働者およびその家族構成員に対して常に維持されるべきである。委員会は、人権侵害によって移住者がこうむった危害の回復のためには包括的な被害回復措置が必要であることを強調する。国は、侵害された権利の享受を確保し、かつ当該侵害によって生じた結果について救済を図るための措置を実施するべきである。その際、国は、危害を統合的に救済するため、さまざまな被害回復措置(原状回復、賠償・補償、リハビリテーション、満足および再発防止の保証など)を実施するよう求められる。

D.司法上の保障

56.委員会は、収容中の十分な保障措置が存在しないために、移住労働者およびその家族構成員が国内裁判所および監視・苦情申立て機構へのアクセスをしばしば深刻に妨げられていることを、痛切に認識する。障壁としては、弁護士による代理および法律扶助サービスが受けられないこと、子どもにやさしい手続および保障措置がないこと、領事保護が不十分であること、通訳者および翻訳者または情報の取得および意思疎通のための他のアクセス可能な形式もしくは手段の利用可能性が限られていること、収容の合法性を争うための効果的救済措置が存在しないこと、ならびに、移住者の人権侵害に対して制裁を科しまたは賠償・補償を与える裁判所の義務について具体的規則が定められていないことなどが挙げられる。
57.委員会は、締約国が、条約に基づき、法律、政策および実務において、出入国管理上の地位または国際保護資格に関連するすべての行政上・司法上の手続で移住労働者およびその家族構成員のための手続的保障が全面的に尊重されるようにしなければならないことを、想起する。これには、庇護手続または難民認定手続、あらゆる形態の追加的保護を求める手続、無国籍認定手続ならびに移住者に適用される可能性のある他の特別な保護の制度および政策が含まれる。
58.収容されている移住労働者およびその家族構成員のための司法へのアクセスを尊重するため、以下に詳述する適正手続上の保障が締約国によって確保されるべきである。
1.収容の理由を告知される権利
59.情報に対する権利は、司法へのアクセスなどの他の権利の行使のために不可欠である。収容を担当する当局は、収容の開始に先立ち、または遅くとも収容の開始時に、移住労働者に対して直ちに収容の理由を告知しなければならない。このような告知は、年齢、民族的・文化的背景、障害および教育レベルなどの要因を考慮しながら、対象者が理解できる言語および形式で行なわれるべきである。
60.委員会は、締約国が、とくに、関係国で非正規な状況にある移住労働者がもっとも頻繁に用いるまたは理解できる意思疎通の言語、手段または手法で利用可能なリソースに関する情報(アクセス可能な形式によるものを含む)を記載した標準告知書式を作成すべきであることを、あらためて指摘する。移住者に対しては、当該情報を読みまたは当該情報にアクセスする十分な時間と支援が提供されるべきであり、写しも手交されるべきである。当該書式は、収容の事実関係および法的根拠に関する具体的情報、収容場所ならびに移住者の権利および当該権利の主張方法に関する情報および説明を記載した収容令書に、常に添付しておくことが求められる。
2.収容の司法審査
61.委員会は、自由を奪われているすべての移住労働者およびその家族構成員に、裁判所がその収容の合法性または恣意性(収容の正当な目的、法律適合性、必要性および比例性を含む)に関して遅滞なく判断できるよう、裁判所に手続を提起する権利があることを再確認する。このような保障は、自由剥奪が恣意的拘禁になることを防止しようとするものである。移住労働者およびその家族構成員が刑事法を背景として収容される場合、その収容の法律適合性および非恣意性について評価するため、速やかに裁判官または裁判所に引致されなければならない。収容の合法性を評価する当局は、当該評価が単なる形式的手続となって公平な分析を妨げないようにするため、収容を命じまたは実施する機関から独立していなければならない。そのような評価はまた、司法的職務の行使を法律で認められ、かつ移住労働者の放免を命じる権限を持った官吏によって実施されなければならない。
62.自由剥奪が移住者の人権に及ぼす影響に照らし、委員会は、一般的原則として、移住者の収容を命じる手続および決定は裁判官または裁判所によって進められかつ指示されなければならないと考える。加えて、国は、上級裁判所に上訴する権利を移住者に保障しなければならない。このような権利は、自由剥奪が行なわれた時点で、また収容の継続期間を通じて定期的に、保障することが求められる。いかなる収容についても、その継続の必要性に関する裁判所の審査が自動的にかつ合理的間隔で行なわれるべきである。司法審査の範囲は、対象者の移住資格に関する形式的評価に限定されるべきではない。措置の恣意性に関わる要素を個別に評価することが必要である。委員会は、移住労働者およびその家族構成員が収容の恣意性についてまたは送還命令もしくは追放命令の法律適合性について争えるようにするための法的救済措置が整備されなければならないことを強調する。国は、移住労働者の権利を効果的に保護するため、収容、送還または追放を命ずるいかなる決定も停止する権限が司法的救済措置に含まれることを確保しなければならない。ノンルフールマン原則は厳格に尊重されなければならない。
3.領事機関による援助および保護
63.条約第16条(7)(b)および第23条に基づき、移住労働者およびその家族構成員は、母国または自己の利益を代表する他の国の領事当局または外交当局と通信する権利を有する。目的地国または通過国は、条約第16条(7)に基づき、(a)移住労働者に対し、当該移住労働者が理解できる言語および形式で、当該権利について遅滞なく告知し、かつ他の関連の条約から派生する権利についても告知する義務、(b)本人の要請に応じ、移住労働者の収容について領事当局または外交当局に通知する義務、(c)移住労働者とこれらの当局との通信の便宜を図る義務、および、(d)これらの当局の代理人弁護士との通信および面会を行ない、かつこれらの当局とともに移住労働者の弁護人選任の手配を進める義務を負う。
64.委員会は、迫害を恐れもしくは迫害を受けてきた、または出身国もしくは居住国の領事当局との接触を回避するその他の理由がある難民または庇護希望者の特別な状況を認識する。このような場合、自国の管轄下で当該難民または庇護希望者が暮らしている国は、当該者が庇護申請を希望しているとしても、領事援助・保護に対する権利を行使しないという本人の決定を尊重しなければならない。国はまた、無国籍者が、その地位を理由として領事援助・保護を利用できないことに鑑み、脆弱な状況に置かれていることも認識するべきである。
65.委員会は、領事援助・保護に対する権利が、移住労働者に対して司法へのアクセスを徹底させるために不可欠であり、かつ、ある者が自由を奪われているときには、収容の理由が刑事上のものか出入国管理上のものかにかかわらず、とりわけ切迫した重要性を有することを強調する。したがって委員会は、出身国が、十分な人的資源、技術的資源および財源を提供するなどの手段により、効果的な領事援助・保護へのアクセスを確保するべきであると考えるものである。
4.無償の法的援助および通訳の援助
66.入管収容の状況において、移住労働者およびその家族構成員は、法的助言および弁護士による代理を受ける権利を有する。これらの権利は、その費用を負担できない者に対しては国が無償で提供するものであり、これによって適正手続に対する権利および司法にアクセスする権利が真に機能するものとなる。国は、手続の際に使用される言語を理解できないまたは話せない移住労働者が、資格のある通訳者を利用できるようにするべきである。現在の在留国の言語を理解できる移住労働者であっても、通訳者を提供すること、および、専門用語を用いず、かつ移住労働者の年齢、民族的・文化的背景およびその理解力の水準に影響を及ぼす可能性のある他のすべての事情に合わせたわかりやすい用語および形式で情報を提供することは、重要である。
67.委員会は、弁護士による移住者の代理に関して、とくに非政府組織、大学のリーガルクリニックおよびプロボノの弁護士が行なっている重要な活動を認識する。しかしながら委員会は、このような努力によって、移住者に対して無償の法的援助および弁護士による代理を提供する国の責任がなくなるわけではないことを想起するものである。また、国は、非政府組織、大学のリーガルクリニックおよびプロボノの弁護士が妨げられることなく活動を遂行することを常に認めるよう求められる。
5.出入国管理手続に関する決定を通知される権利
68.委員会は、移住者が司法に全面的にアクセスするためには、必要に応じて決定に不服を申し立て、かつ自己の権利を十分に防御できるよう、出入国管理手続または国際保護手続に関して十分な根拠および理由付けのある決定が言い渡されなければならないことを認識する。決定の告知は、移住者および適切なときはその代理人弁護士に対して対面でおよび書面で行なわれなければならず、不服申立てのための十分な時間が認められなければならない。

E.拷問および残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰の禁止

69.委員会のもとには、自由を奪われている移住労働者に対して行なわれたさまざまな暴力行為、とくに性暴力、児童婚および強制婚ならびに性的搾取目的の人身取引に関する情報が寄せられてきた。女性、子ども、障害のある人ならびにレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーおよびインターセックスである人は、入管収容施設で虐待をとりわけ受けやすい立場にある。場合によっては、そのような虐待は拷問に相当する。委員会は、移住者が人権侵害を受けるおそれは収容中にいっそう高まるのであって、国には、収容施設職員、被収容者または他のいずれかの者によるすべての拷問、残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは処罰の行為を防止し、捜査し、訴追しかつ処罰する義務があることに留意するものである。
70.委員会に寄せられてきた情報は、一部の国が移住者の独居拘禁を行なっていることも明らかにしている。このような慣行は健康に深刻な悪影響を及ぼすものであり、場合によっては自殺または回復不可能な心理的被害を引き起こしてきた。委員会は、移住者、庇護希望者、難民、補完的・補充的保護を必要としている人、無国籍者、トラウマ性の出来事、拷問もしくは残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いの被害者または障害のある人を管理しまたはその保護を確保するうえで、独居拘禁が適切ではないことを想起する。委員会は、長期の独居拘禁は拷問行為にあたるという、自由権規約委員会ならびに拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いおよび刑罰に関する特別報告者の見解 [11] に同意するものである。
71.委員会のもとには、拷問または他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いを受けるおそれがある収容施設に送り返された移住者についての報告が寄せられてきた。ノンルフールマン原則、迫害または深刻な人権侵害の被害を受ける可能性がある国にいかなる形態であれ実力によって人を移送することの禁止には、非人道的で品位を傷つける収容環境に服さなければならない場所、とくにパンデミックまたは他のいずれかの深刻な公の緊急事態の際に必要な治療が提供されない場所、または生命および健康に対する権利の享受が脅かされる場所へ人を送り返すことの禁止も含まれるというのが、委員会が支持してきた見解である(条約第9~10条および第28条)。さらに委員会は、国際保護を必要とする可能性がある者を、保護に対する個別の権利および請求を分析することなく国境でその受け入れを拒否して送還することは、集団的追放の禁止およびノンルフールマン原則の違反であることを想起する。

F.奴隷化、隷属および強制労働または義務的労働の禁止

72.条約第11条は、すべての締約国に対し、移住労働者に課されるすべての形態の強制労働または義務的労働を防止するための効果的措置をとるよう求めている。委員会は、入管収容施設内に人身取引ネットワークが存在することについて懸念を表明するものである。委員会のもとには、収容された移住者が、処罰されるという脅威のもと、長期間の強制労働や低報酬または無償の労働に従事させられているという報告も複数寄せられている。
73.委員会は、奴隷化、隷属、強制労働または義務的労働および人身取引の禁止は国際法上絶対的なものであり、強行規範であることを強調する。国には、自由を奪われている移住労働者があらゆる形態の奴隷化、隷属、強制労働または義務的労働および人身取引から保護されることを確保する義務がある。国は、人身取引および人身取引業者による虐待の被害者を特定するための機構を確立し、かつ被害者に保護および援助を提供するべきである。さらに、国は、すべての人身取引事件および人身取引業者による虐待事件について迅速、効果的かつ公平な捜査を実施し、そのような行為の実行者および共犯者(公務員である場合を含む)を訴追しかつ処罰するよう求められる。すべての国際的人身取引行為を捜査し、訴追しかつ処罰する義務の履行のためには、関係するすべての国の司法協力が必要である。

G.プライバシーおよび家族生活に対する権利

74.移住労働者およびその家族構成員は、プライバシーに対する権利および干渉されない家族生活に対する権利を有する。これらの権利は、子どもの非収容原則および子どもの最善の利益を第一次的に考慮する原則と緊密に結びついたものである。委員会は、自由を奪われないことは家族とともにいる子どもの移住者の権利であり、そのような子どもと家族に対してはケアおよび受入れのための措置が提供されるべきであると考える。

H.健康に対する権利

75.委員会に寄せられた情報は、自由を奪われている移住労働者が、収容施設で保健サービスおよび医療的ケアにアクセスすることに関してしばしば深刻な困難に直面していることを明らかにしている。報告されているところによれば、収容されている女性、とくに妊娠中の女性を対象とするリプロダクティブヘルスケアはしばしば不十分である。
76.国は、収容中の移住者が身体的・精神的保健サービス(セクシュアル/リプロダクティブヘルスサービスおよび心理的ケアを含む)にアクセスできることを確保するべきである。収容施設で十分な条件が整っていない場合、医療的ケアを必要とする収容中の移住者は十分な施設に移送することが求められる。また、収容が移住者に及ぼす心理的・身体的影響を考慮し、国は、収容中の移住者の身体的・精神的健康状態を定期的に評価するべきである。国は、自由を奪われているすべての移住労働者およびその家族構成員が、その移住者資格にかかわらず、法律上も実際上も、締約国の国民と同一の条件で保健サービスにアクセスできることを確保するために、必要なあらゆる措置をとるよう求められる [12]。
77.COVID-19パンデミックのような状況に関して、委員会は、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰の禁止に関する小委員会 [13] および人種差別撤廃委員会 [14] の次の見解に同意する。すなわち、国は、ウイルスの拡散を防止するために必要な予防的措置をとるとともに、収容中の移住者が適切な水準の医療ケアおよび予防ケアにアクセスでき、かつ家族および外界との接触を維持できることを確保するための緊急措置を実施するべきである。委員会は、COVID-19パンデミックが移住者の人権に及ぼす影響に関する委員会のガイダンスノート(移住者の人権に関する特別報告者と共同で発表したもの)およびCOVID-19ワクチンに対するすべての移住労働者の公平なアクセスに関するガイダンスノート(複数の特別手続任務担当者その他の人権関連任務担当者と共同で発表したもの)を想起する。委員会は、各国に対し、そこに掲げられた勧告を全面的に実施するとともに、その際、COVID-19の予防および対応のための国家的計画・政策への移住労働者の統合に特別な注意を払い、当該計画・政策において移住者のジェンダー、年齢および多様性が考慮されかつ健康に対する権利が尊重されることを(検査の実施、必須医薬品、予防措置、治療およびワクチンが非差別的なやり方で提供されるようにするなどの手段で)確保し、かつ、すべての移住労働者が、国籍、移住者資格または無国籍の状況にかかわらず、COVID-19ワクチンに公平にアクセスできるようにすることを促すものである。
[13] CAT/OP/10参照。
[14] CERD/C/GRC/CO/20-22, para. 23; CERD/C/ESP/CO/21-23, para. 22; and CERD/C/NOR/CO/21-22, para. 36.

I.財産権および身分証明・個人証明書類の保護義務

78.移住労働者およびその家族構成員は、自己の財産を恣意的に奪われない権利を有する。これとの関連で、国の当局には、移住労働者およびその家族構成員の身分証明・個人証明書類を保護する義務がある。にもかかわらず、入管収容中に国の当局が人々の所持品(携帯電話、現金、銀行カードおよび身分署名・個人証明書類を含む)を保管することが一般的な実務である。場合によっては、当該財産が持ち主に返還されないこともある。
79.委員会は、国は収容中の移住労働者およびその家族構成員の安全を確保することについて正当な利益と法的・倫理的責任を有しており、そのための措置(被収容者の所持品を一時的に取り上げることなど)をとることができるものの、収容期間を超えて所持品を取り上げられたままであることは移住者の利益にはならないと考える。必要なときは常に移住者が自己の所持品にアクセスできるようにすること、必要不可欠な所持品は取り上げられないようにすること、および、取り上げられる所持品に必須物品(医薬品、意思疎通または動作に関して複雑な要求を有する者が必要とする機器、近親者の電話番号、身分証明書類など)が含まれないようにすることも必要である。それ以外のすべての所持品については、保管状況が監督されなければならず、また収容の終了時に当該所持品が移住者に返還されるようにしなければならない。移住者に対しては、保管中の所持品の目録および保管の理由を記載した受領証またはこれに類する文書が渡されるべきである。
80.委員会は、アイデンティティに対する権利(名前、出生登録および国籍に対する権利を含む)が、条約および他の国際条約で認められた他のすべての権利の享受にとって中心的重要性を有することを想起する。移住者の身分証明書類を取り上げることはけっして適切な行為ではなく、財産権のみならずアイデンティティに対する権利も侵害し、移住労働者およびその家族構成員を、他の権利をいっそう侵害されやすい状況に置くものである。委員会はまた、条約第29条にしたがい、移住労働者の子ども1人ひとりに出生登録および国籍に対する権利があることも想起する。

J.収容環境

81.委員会は、劣悪な収容環境は拷問または残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いにあたる可能性があり、かつその他の権利(健康、食料、十分な住居、安全な水および衛生設備に対する権利を含む)の侵害のおそれが高まる可能性もあると考える。加えて、不十分な収容環境が、何らかの種類の差別(移住者資格に基づくものを含む)を基盤として、または移住労働者およびその家族構成員に出入国管理手続もしくは国際保護手続を続けさせないようにすることもしくはそのような手続の継続を理由とする脅迫もしくは処罰を目的として、国によって意図的に課され、奨励されまたは黙認されるときにも、拷問または残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いとなる場合がある。
82.したがって、入管収容施設は、被収容者の尊厳およびウェルビーイングを確保するための最高度の基準を満たすものでなければならない。委員会は、懲罰的性格の施設における収容はけっして行なわれるべきではないことを強調する。移住者のいかなる収容も、適切、衛生的かつ非懲罰的な施設で行なわれるべきであり、刑事施設で行なわれるべきではない [15]。
[15] 自由権規約委員会、身体の自由および安全に関する一般的意見35号(2014年)、パラ18。
83.入管収容が非懲罰的な施設で行なわれることを保障するため、国はとくに次のことを確保しなければならない。すなわち、(a)移住労働者が、犯罪を理由に訴追されまたは有罪判決を受けたものといっしょに収容されないこと。(b)レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーおよびインターセックスである人の特有のニーズを考慮しながら、男女が別々にされていること。(c)十分な空間が提供され、いかなる負担がかかっても過密が回避されること。(d)共同生活およびレクリエーションのための十分な空間が施設に備わっていること。(e)十分な清掃および照明が提供されること、ならびに、(f)被収容者が十分な生活水準を享受できるようにするためのその他の措置がとられること(十分な生活水準には、適切な衣服・寝具、暖房、移住者の身体的状態および健康状態ならびに宗教的信条に合致した十分な量の食料、安全な水および衛生設備へのアクセス、ならびに、収容機関から独立した保健ケア要員を含む保健ケアへのアクセスが含まれる)である。物理的環境に加え、国は、男女双方の職員が十分な人数いることを確保するよう求められる。これらの職員は、人権およびジェンダー感受性について十分な訓練を受けていなければならず、かつ脆弱な状況にある人の集団を支援する資質を有していなければならない。

K.収容場所における人権の監視

84.国が入管収容施設(民間が運営する入管収容施設を含む)の環境を効果的かつ確実に監視することは不可欠である。国には、いかなる区域の制限もなく、収容施設が常時監視されることを確保するために必要な立法上その他の措置をとる義務がある。委員会は、収容場所の監視を担当する当局は独立しておりかつ公平でなければならないことを強調する。出入国管理政策の実施について責任を負いまたは収容施設を担当する当局と同じ機関が当該任務を遂行することは認められない。自己の完全性または生命を危険にさらす可能性のある行為を回避するため、移住者が利用可能なメンタルヘルス管理体制を、関係機関によるものを含むさまざまな協力戦略に基づいて強化するとともに、必要に応じ、移住者が経験している可能性のあるトラウマ性の状況に対応するための適切な治療を提供することが必要である。その際、当該移住者と接触する職員が、そのような状況について当人に警告し、かつ自らも適切な水準の情緒的安定を保つ能力を有しているようにすることが求められる。
85.収容場所の監督を担当する当局または機関が存在するとしても、国内人権機関および市民社会組織(これらは国の義務を代行するものではない)が参加することは、移住労働者およびその家族構成員の権利の防御にとって不可欠かつ適切である。委員会は、国レベルでの国際人権基準の効果的実施の促進および監視に関して国内人権機関はきわめて重要な役割を果たしており、したがってその活動が全面的に保証されなければならないことを、想起する。国は、独立の立場からの自律した監視を確保するため、国内人権機関、市民社会組織、学界および国際機関・地域機関(拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰の禁止に関する小委員会、国連人権高等弁務官事務所、国連難民高等弁務官事務所、国連児童基金および赤十字国際委員会など)に対し、収容施設(民間が運営する入管収容施設を含む)へのアクセスを認めるべきである。独立の監視機関に対しては、当該施設およびそこに収容されている人に関連する情報および文書、ならびに、被収容者および職員と内密にかつ秘密が守られる状況で面会できる機会が提供されなければならない。
86.入管収容施設が独立した立場から監視されることを可能にするため、国は、監視機関に対し、とくに次のことを認めるための措置をとるよう求められる。すなわち、(a)入管収容が行なわれている可能性のあるいかなる場所も、事前の予告なしに訪問すること、(b)訪問した居場所および面会したい相手を選択すること、(c)必要ないかなる情報も入手すること(監視のための訪問の前、最中および事後に報告を要請し、かつ当該要請に対して速やかに応答されることを含む)、(d)移住者を危険にさらすおそれのある情報を開示しないようにしつつ、査察の結果および勧告を公表すること、ならびに、(e)監視機関が面会した移住者または職員が報復を受けないようにすることである。
87.委員会は、拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰の禁止に関する条約の選択議定書の目的が、その前文および第1条で定められているように、国際法上の逸脱不可能な義務である拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰の防止のため、人々が自由を奪われている場所への、独立した国際的および国内的機関による定期的な訪問の制度を設置することであることを想起する。同選択議定書の締約国は、そのような機関、とくに自国の国内拷問防止機構によって収容施設が監視されることを確保するべきである。
88.COVID-19パンデミックのような公の緊急事態においては、国は、国際的・国内的機関が、害を与えてはならないという原則にのっとって収容施設における任務を遂行できるようなやり方で監視が実施され、身体的接触の必要性を最小限に抑えつつ予防的関与の機会が提供されるようにするための措置をとるべきである。

VI.監督および説明責任

89.国は、入管収容施設に監視および説明責任履行のための独立した機構を設置するとともに、組織的な報告の機構を創出するべきである。このことは、収容当局とその他のステークホルダー(国内人権機関、議員、市民社会、学界および国際機関など)との協力を通じて達成することができる。国はまた、入管収容施設における犯罪、虐待または人権侵害の被害を受けた者に代わって苦情を申し立てるすべての利害関係者に対する支援も提供するべきである。さらに、国は、収容施設で行なわれた人権侵害に対して効果的な救済措置を提供し、被害者に包括的保障を与え、かつ当該侵害について国の当局および民間当局の責任を問うための公式な機構および手続を設置するよう求められる。

VII.情報・データへのアクセスおよび指標

90.委員会は、収容されている移住者の人数、年齢、ジェンダーおよび国籍ならびにその収容環境に関するアクセス可能な公的情報または細分化されたデータを、国が通常提供していないことに留意する。委員会は、国が、自由を奪われている移住労働者の権利および環境に関する公的情報へのアクセスを可能にする機構を採用するよう勧告するものである。委員会はまた、国が、エビデンスに基づいた公共政策のためにそのような情報を収集・処理することも勧告する。国は、ある移住者が収容されているかおよびどこに収容されているかを明らかにするための情報システムを実施するべきである。このようなシステムは、行方不明の移住者を捜索する努力の強化にも資することになる。このようなシステムにおいては、庇護希望者、難民、無国籍者および追加的保護を必要とする脆弱な状況に置かれた他の集団の構成員の保護につながるプライバシーおよびデータ保護に対する権利、ならびに、データ保護の分野における秘密保持の原則が守られるべきである。

VIII.この一般的意見の普及および活用ならびに報告

91.締約国は、国の当局、国内人権機関、民間セクター(民間収容施設を含む)、市民社会、メディアおよび移住者資格にかかわらずすべての移住者を含むあらゆるステークホルダーに対し、この一般的意見を広く普及するべきである。
92.この一般的意見の関連箇所は、すべての被用者(とくに技術職員)ならびに入管収容の運用および法執行を担当する当局および職員の公式な養成研修およびその他の公式な研修に編入されるべきである。
93.締約国は、条約第73条に基づいて提出する自国の報告書に、この一般的意見の実施においてとられた措置および達成された成果に関する情報を記載するべきである。
IX.条約の批准または条約への加入および条約に付した留保
94.委員会は、まだ条約を批准しまたはこれに加入していない国に対し、第76条および第77条に基づいて拘束力のある宣言を行なうことも含め、条約を批准しまたはこれに加入するよう奨励する。
95.締約国は、自由を奪われている移住労働者およびその家族構成員が条約上の権利を全面的に享受できるようにする目的で、批准または加入の際に付した留保を見直し、修正しまたは撤回するよう奨励される。

更新履歴:ページ作成(2023年1月25日)。
最終更新:2023年01月25日 07:13
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