子どもにやさしい保健ケアに関する欧州評議会閣僚委員会指針


前文(略)

〔訳者注/以下脚注も省略〕

I.目的および趣旨

1.子どもにやさしい保健ケアに関する指針は、子どもの保健ケアに関するあらゆる範囲のイニシアティブの発展に対する統合的アプローチを提案するものである。
2.このアプローチでは、子どもの家族環境と社会環境を考慮しながら、子どもの権利、ニーズおよび資源を保健ケア活動の中心に位置づける。そこでは、意思決定のすべての段階における子どもの年齢および成熟度にしたがった子ども参加を確保しながら、子ども特有の発達ニーズおよび発達しつつある能力に基づいた子ども志向のサービスを提供するための政策が推進される。

II.定義

3.子どもにやさしい保健ケアに関する本指針(以下「指針」)の適用上、「子どもにやさしい保健ケア」(child-friendly health care)とは、子ども自身の意見を考慮に入れつつ、子どもの権利、ニーズ、特性、強み(assets)および発達しつつある能力を中心に据えた保健ケアの政策および実践をいう。
4.「子ども」(child)とは、18歳未満のすべての者を意味する。
5.「親」(parent)とは、国内法にしたがって親責任を有している者(たち)をいう。親がいないときまたはもはや親責任を有していないときは、後見人または任命された法定代理人の場合もある。

III.子どもにやさしい保健ケアアプローチの原則

6.本指針は、前文で参照されている諸文書にすでに掲げられている原則を踏まえたものである。以下のセクションはこれらの原則をさらに発展させたものであり、これらの原則は本指針のすべての章に適用される。

A.基本的権利と子ども特有の権利

7.すべての子どもは、既存の国際文書で宣明されているように人権の保有者として見なされかつ扱われるべきである。
8.子どもには特別なケアおよび援助を受ける資格があり、かつ、困難な環境にある子どもには特別な考慮が必要であることも認識される。
9.子どもの権利は、性、人種、皮膚の色、言語、宗教、政治的その他の意見、民族的もしくは社会的出身、民族的マイノリティとのつながり、財産、出生またはその他の地位などのいかなる事由に基づく差別もなく、保障される。

B.尊厳

10.すべての子どもは、保健ケア介入全体を通じ、ケア、配慮、公正さおよび敬意をもって扱われるべきである。その際、その個人的な状況、ウェルビーイングおよび特有のニーズに特別な注意を払い、かつ、その身体的および心理的不可侵性を全面的に尊重することが求められる。

C.参加

11.意見を形成する力のある子どもには、自己に影響を与えるすべての事柄について自由にその意見を表明する権利があり、かつ、子どもの意見はその年齢および成熟度にしたがって正当に重視されなければならないというのは、確立された原則である。
12.保健分野では、この原則には2つの側面がある。
  • i.法律にしたがって子どもが介入に同意できる場合、当該介入は、子どもが自由なインフォームドコンセントを与えた後でなければ実施できない。法律にしたがって子どもに介入への同意能力がない場合、子どもの見解は、その年齢および成熟度に比例して決定への影響力を増す要素のひとつとして考慮される。子どもに対しては、事前に適切な情報が与えられるべきである。
  • ii.子どもはまた、社会の主体的構成員とも見なされるべきであり、大人が行なう決定の受動的な客体にすぎないと捉えられるべきではない。このことは、子どもが、その年齢および成熟度を考慮されながら、情報提供および協議の対象とされ、かつ、保健ケア問題(保健ケアサービスのアセスメント、計画および改善を含む)に関する社会的意思決定プロセスに参加する機会を与えられることを含意する。

D.良質な保健ケアへの公平なアクセス

13.すべての子どもが、良質な保健ケアサービスに公平にアクセスできるべきである。これには、子どもの主体的関与をともなう予防、促進、保護およびサービス提供が含まれる。
14.より脆弱な状況に置かれている子どもに特化した保健ケアの提供が必要とされる場合もある(障害のある子ども、入所施設の子ども、ホームレスの子どもおよび路上の子ども、低所得家庭で暮らしている子ども、ロマの子ども、移住者である子ども、難民および庇護希望者である子ども、保護者に同伴されずに入国した子どもならびに虐待およびネグレクトを受けている子どもなど)。

E.子どもの最善の利益

15.子どもに関わるすべての行動において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されるべきである。
16.子どもの最善の利益を評価する際には、そのすべての権利および利益が考慮されるべきである。相反する可能性がある権利および利益(保護される権利と参加する権利など)については、各事案の事情を踏まえ、子どもの最善の利益を決定するために慎重な衡量を行なうことが求められる。

V.子どもにやさしい保健ケアアプローチ

A.子どもにやさしい保健ケアアプローチの土台となる諸権利

17.子どもにやさしい保健ケアアプローチは、子どもの権利、健康上のニーズおよび諸資源を全面的に尊重し、したがってあらゆるモデルおよびプログラムの土台となる、統合された概念上および運用上の枠組みである。
18.現在、あらゆる保健ケア制度が似たような課題に直面している。小児期病態の疫学は変化しつつあり、現在の制度が所期のすべてのアウトカムを達成しているわけではなく、かつ、子ども・家族向けサービスの質およびアウトカムに容認できない差異が存在することも多い。保健ケアのコストの上昇は一貫した懸念となっている。サービスの計画および提供に対するアプローチを共有することなしに改善を達成することはしばしば困難であり、利用可能な資源をともなった価値の向上を達成するためには、すべてのサービス機関およびステークホルダーの協働が不可欠である。
19.「切れ目のないケア」(continuum of care)と呼ばれることもある、統合された集学的アプローチに基づくケアの良好な調整および継続の重要性は、過小評価されるべきではない。このことは、伝統的な一次・二次・三次保健ケア機関の境界を越えて当てはまり、公的部門、民間部門またはボランティア部門のいずれであるかにかかわらず、保健制度、教育制度、社会的ケア制度および司法制度が関わってくる。
20.子どもにやさしい保健ケアアプローチの目的は、健康および保健ケアに関わる子どもの関連の権利を、子どもの健康およびウェルビーイングに貢献するすべてのサービスにおける文化的変革およびその結果としての改善の動因となる実際的枠組みに統合するところにある。このアプローチは、政策/計画策定レベル、サービス提供レベルおよび個々の子ども・家族レベルで適用されるべきである。このアプローチは普遍的なものだが、各加盟国が自国の状況に合わせて修正することもできる。
21.「子どもにやさしい保健ケア」には「家族にやさしい」(family-friendly)という概念も含まれる。これにより、新生児と母親/両親との絆の形成が促進され、子どもと他の家族との接触が促進され、かつ、家族からの子どもの分離が防止される(ただし、分離が子どもの最善の利益に合致する場合を除く)。
22.前文で簡単に触れた諸条約〔平野注/国連の社会権規約・子どもの権利条約・障害者権利条約および欧州評議会の関連条約など〕に掲げられた5つの原則は、子どもにやさしい保健ケアアプローチにとってとりわけ関連性を有する。
a.参加
23.参加とは、情報を提供され、協議の対象とされかつ意見を聴かれる権利、親から独立して自己の見解を述べる権利および自己の見解を考慮される権利が子どもにあることを意味する。これは子どもが主体的なステークホルダーとして認められていることを含意するとともに、子どもが意思決定に参加するプロセスのあり方を示すものである。子どもの参加の水準は、その年齢、発達しつつある能力および成熟度と、行なわれる決定の重要度の双方に左右される。
24.親および家族は、子どもに対し、家庭、コミュニティおよび社会における意思決定への参加を奨励するとともに、自立(independence)の強化を奨励し、かつ、自律(autonomy)および自立に関する子どもの能力が発達するにつれて支援を減らしていくべきである。
b.促進
25.ヘルスプロモーション(健康促進)とは、「人々が自らの健康およびその決定要因へのコントロールを強化し、もって自己の健康を向上させることができるようにするプロセス」である。したがって、促進には、子どもが自分自身の健康にいっそう関与し、かつ健康の肯定的決定要因(健康またはウェルビーイングの向上につながる要因と定義される)への接触を高められるようにする、すべての行動が含まれる。健康促進は、健康の決定要因または生活様式を対象とする家庭およびコミュニティでの活動のみならず、保健ケアのサービスおよび現場における、アウトカム向上につながる諸要因も対象とするものである。
c.保護
26.ヘルスプロモーションには、害を引き起こす可能性のある要因として定義し得るすべての危険(hazard)に対して子どもがさらされることを制限しまたは回避するためのすべての行動が含まれる。危険は、家庭、コミュニティおよび保健サービスで発生する可能性がある。医療的介入によって害が引き起こされることもあり得るのであり、患者の安全の視点では、子どもは投薬過誤および院内感染に対してとくに脆弱であることが強調される。
d.予防
27.予防とは、人間の可能性を最大限に実現できるようにする目的で、将来の健康上、社会上または情緒上の問題を回避することを目指す積極的プロセスである。これには、健康の望ましくない決定要因を減らし、疾病または病態の進行を予防し、疾病または病態の合併を回避し、疾病または病態が個人の生活様式または願望に及ぼす影響を防止し、かつサービスまたは介入によって引き起こされる害を予防するための行動が含まれる。
e.供給
28.供給(provision)とは、子ども・家族の健康およびウェルビーイングに貢献するすべてのサービスをいい、したがってそこに含まれるのは伝統的な保健サービスには留まらない。「経路を基盤とする供給」とは、サービスを安全に通過する行程において子ども・家族に最適なアウトカムをもたらす患者としての素晴らしい経験を達成するために用意されかつうまく協調しなければならない、すべての構成部分を指す概念である。

B.子どもにやさしい保健ケアアプローチのあり方

29.子どもにやさしい保健ケアアプローチの目標は、適正なアウトカムを達成するため、適切なことが、適切な子どもに対し、適切な時期に、適切な場所で、適切な方法で支援される適切なスタッフを活用しながら、かつ適切な負担によって行なわれるようにすることである。そこでは、全体として、主として有効性、効率性および公平性によって定義される保健ケアの質を、患者の安全および満足/経験にも同時に注意を払いながら向上させていくことが目指される。このため、サービスの目的は、子ども・家族およびサービス提供者に適用され、かつより上層におけるサービス計画および政策策定の参考とされる実際的なアプローチのもと、関連の子どもにやさしい原則と組み合わされるべきである。
30.子どもにやさしい保健ケアアプローチの前提は、すべてのサービスの中心に子どもおよびその家族のニーズがあるというものである。そのためサービスは、子どもおよびその家族が、促進、予防および治療を含む一連の介入ならびに必要とする援助および支援を、当該子ども・家族およびその状況に適合した方法で受けられるように設計される。あるサービスを個人が経験することは「行程」(journey)と呼ばれ、類似の行程の一群は「経路」(pathway)と呼ばれる。その際、個別の構成部分はひとつのチームによって提供されるが、すべてのチームは、不断の質の改善のために努力する「ネットワーク」のなかで連携しながら活動する。
31.多くの長期的病態については、病態の進行、その特定、第一次アセスメントおよび管理にわたる第一次経路(initial pathway)が存在する。それに続く周期的経路(cyclical pathway)では、最善の病態管理および合併症その他の疾病の予防に焦点を当てながら、当該病態の定期的再検討を行なう。その後の移行経路(transition pathway)では、成人向けサービスへの移行、病態が治癒すれば通常の生活への復帰、または、最悪のケースで死に至る可能性が高いさらなる悪化が生じた場合には緩和ケアサービスへの移行のいずれかになろう。
32.各経路には一般的に4つの構成要素がある。予防、特定、アセスメントおよび介入である。各構成要素は、エビデンスに基づいており、チームで働く有資格の従事者によって実施され、かつ、適切なアウトカムを適切な価格で確保するために適切な場所で適切な時期に提供されなければならない。
33.子どもにやさしい保健ケアアプローチでは、介入に際しては子どもの健康状態の管理だけではなくその物理的または社会的環境にも焦点を当て、社会的問題の医療化を回避すべきであることが認識される。これには、環境問題(空気・水の質、衛生)、社会経済的問題(貧困、社会的排除、劣悪な住居および栄養)、教育へのアクセスまたは親の問題(子育てのスキル、親のメンタルヘルス、ドメスティックバイオレンスもしくは有害物質濫用)への対応が含まれる。
34.親が重篤な身体的もしくは精神科的病態を有している場合、薬物を濫用している場合または突然死亡した場合に子どもを支援する必要性は、重要なこととして強調しておかなければならない。
35.経路の各段階において、子ども(その年齢および成熟度にしたがって)およびその親に対して十分な情報を提供し、かつその関与を得ることが求められる。子どもは、自己の健康または病態に関して行なわれる決定に参加する権利を行使するよう、奨励されるべきである。そのような関与は、子どもが自己の病態管理において主体的役割を果たす準備を十全に整えられるようにするため、長期的病態の場合にとりわけ重要となる。
36.第一次経路、周期的経路または移行経路のいずれであるかにかかわらず、経路においては、ウェルビーイングの促進、生じ得る害からの保護または潜在的問題の早期発見のいずれかを通じ、予防に明確かつ積極的な焦点が当てられるべきである。

C.子どもにやさしい保健ケアアプローチの適用および利点

37.子どもにやさしい保健ケアアプローチを採用することのもっとも重要な利点は、すべての関係当事者――子ども・家族自身を含む、政府省庁、諸機関もしくは専門家集団――の間で、子どものための今後のサービスの計画に関する協働を可能にする統合された制度づくりに取り組み、かつ既存のサービスの強化および改善を目的とする、調和および相乗効果がもたらされることである。子どもにやさしい保健ケアアプローチの適用および利点を明らかにするにあたり、以下、3つの異なる視点に対応する3つの例を用いる。子ども・家族の視点、サービス提供者の視点および政策立案/計画担当者の視点である。
38.このような子どもにやさしいアプローチは、子ども・家族に対して以下の利点をもたらす。
  • i.問題が生じた際の、時宜を得た、アクセスしやすく費用負担の可能なサービスと合わせて提供される、健康の促進および保護の両方につながる包括的な一連のサービス。
  • ii.サービスを利用する際、望ましいアウトカムを達成するために必要なすべての構成部分が用意されておりかつうまく協働することが求められる。
  • iii.自己に関わる決定に参加することができ、かつ、サービス経験についてのフィードバックを奨励される。
39.サービス提供者は、エビデンスに基づく介入が、有資格の従事者によって、適切な場所で適切な時期に提供されるようにすることに焦点を当てる。さまざまな介入および機関の間での優れた調整および一貫性が、奏功する戦略の要点として強調されるべきである。利点としては次のものがあるはずである。
  • i.安全、経験およびアウトカムの向上。
  • ii.多職種連携、革新、学びおよび改善にコミットした従事者集団。
  • iii.予防の潜在的可能性が発揮された場合のコスト削減。
40.政策立案/計画担当者:子どもにやさしい保健ケアアプローチは、次の諸機関の間で目的および価値観を一致させるための政策/計画ツールとして活用できる。
  • i.政府省庁、職能団体および政策策定を担当するその他の機関。
  • ii.さまざまな機関によるサービスの委任および計画を担当する機関。
  • iii.サービスの規制および改善を担当する組織および機関。

V.子どもにやさしい保健ケアアプローチの実施

41.実施の優先順位は、加盟国間および加盟国内で相当に異なる。3つの選択肢が利用可能であり、これにより、5つの指導原則に基づいた、子どもにやさしい保健ケアアプローチを実施するための実践的ツールである「統合された学習システム」を発展させていくことが可能になる。

参加
42.意味のある参加のためには、子どもおよび家族に対し、意思決定の質を改善するために検討している問題について十分な情報を提供しなければならない。そのためには、関連の情報を、子どもの発達および能力の水準にふさわしい方法で提示することが必要となる。参加は次の3つのレベルで行使されるべきである。
  • i.個人的意思決定(生活様式の選択か医療面での意思決定への関与かを問わない)。実施のためには、アクセスしやすい情報、子どもとコミュニケーションできる臨床スタッフおよび相違が生じた場合の調停措置が必要になろう。
  • ii.子どもに対し、サービス利用後に自己の経験に関するフィードバックを提供する機会が与えられるべきである。実施のためには、患者が報告するアウトカムおよび患者が報告する経験、ならびに、プロセスに子どもの関与を(個人としておよび他の子どもたちとともに)得るためのさまざまな方法の両方に関するアセスメントを発展させる必要があろう。
  • iii.子どもは、成熟度および能力が高まるのにしたがい、利用するサービスの政策立案/計画プロセスに関与する機会を与えられるべきである。実施のためには、たとえば優先順位の設定に関する理解など、このようなプロセスに参加できるようにするための適切なトレーニング/学びの機会が必要になろう。
促進
43.効果的なヘルスプロモーションのためには、エビデンスに基づいて多くのレベルで同時に進められる諸介入の相乗効果が必要である。このことは、すべての子ども(とくにもっとも脆弱な状況に置かれている子ども)および保健サービスを利用する子どもについて妥当する。
  • i.すべての子ども。すべての子どもが、子どもにやさしいまち、子どもにやさしい学校および子どもにやさしい保育のような、ヘルスプロモーションのためのプログラムおよび政策に参加するべきである。
  • ii.脆弱な状況に置かれている子ども。健康の決定要因は、それが社会的要因、情緒的要因または金銭的要因のいずれであるかにかかわらず、社会において子どもたちのあいだで平等に分布しているわけではない。親の健康状態が悪い(とくにメンタルヘルス上の問題、学習困難または有害物質濫用がある)場合、子どもには、その可能性を最大限に発揮できるようにするための、焦点化された追加支援が必要になろう。実施のためには、エビデンスに基づくさまざまな介入をアクセス可能なものにすることが必要である。
  • iii.保健サービスを利用する子ども。子どもが、たとえば複雑疾患、頭部外傷、リハビリテーションまたは重篤な精神保健上の問題などを理由として保健サービスと繰り返しまたは長期的に接触している場合、家族や友人との接触を維持すること、および、長期の入院によって教育または将来の健康が損なわれないようにすることが不可欠である。
44.アプローチを実施するために、長期的病態を有する子どもの親にとっての金銭的影響を考慮すること、子どもが病院で学校教育を受けられるようにすること、および、友人や家族との接触を維持するための制度を奨励することが必要になる場合もある。

保護
45.すべての子どもが潜在的な健康上の危険からの保護を必要とするが、能力を損なう長期的病態を有しているために、または最適に満たない状況下で生活しているために、他の子どもよりも脆弱な状況に置かれる子どもも存在する。保健サービスを利用する子どもは、サービスの利用中、意図的なまたは予期しない危害から保護されるべきである。
  • i.すべての子ども。すべての子どもが、身体的、社会的、情緒的または金銭的害からの保護を必要とする。実施のためには、物理的環境(たとえば住宅の質、空気の質、外傷リスクの低減および暴力防止など)を改善し、親の子育て能力を高めることによって社会的環境を改善し、いじめまたは人種差別を防止し、かつ低所得家庭を支援するための介入が必要になろう。
  • ii.脆弱な状況に置かれている子ども。疾病か障害かによらず、長期的病態を有する子どもは、その子どもに影響を及ぼす可能性がある認識された危険からの特別な保護を必要とする。
  • iii.保健サービスを利用する子ども。すべての介入および制度に、危害や副作用を引き起こす可能性がある。子どもは、未成熟であり、かつ言語およびコミュニケーションのスキルもまだそれほど発達していないために、大人よりも高いリスクにさらされることが多い。実施のためには、一貫した包括的な患者の安全方針枠組み(有害事象から教訓を得ることを目的とする子どもにやさしい通報システムを含む)の策定が必要になろう。子どもとともにおよび子どものために働く専門家は、必要な場合、子どもとともに働く適格性を確保するため国内法にしたがって定期的審査の対象とされるべきである。
予防
46.先取的(proactive)計画は、将来の問題の予防にとっての中核である。促進または保護とは異なり、予防は、生じ得る問題であって有効な介入が存在するものを対象とする。
  • i.一次予防には、主として集団ベースの介入が含まれる(予防接種プログラム、水道水へのフッ素添加を通じた虫歯予防、シリアルへの葉酸塩添加による神経管閉鎖障害予防など)。
  • ii.二次予防は、集団ベースの場合(新生児聴覚スクリーニングプログラムを通じた聴覚障害の早期発見など)もあれば、たとえば糖尿病の二次性合併症または脳性麻痺の子どもの股関節脱臼を予防するための、特定の集団の子どもを対象とするものもある。
  • iii.三次予防のためには、定着した病態から生じる二次的な障害または損傷を予防するための介入が必要である。
47.アプローチの実施は2つのレベルで進められる。加盟国は、どの促進・予防プログラムが住民全体ベースで実施されるべきであり、どの促進・予防プログラムが選択された子ども集団を対象として実施されるべきかを、決定するよう求められる。個人レベルでは、保健専門家、子どもおよびその家族が、合併症または関連する障害の可能性を認識しながら先取的に子どもの病態管理を計画することにより、病態が子どもの生活の質および日常生活に及ぼす影響を低減させるべきである。

供給
48.供給は経路に基づいて行なわれる。長期的病態に関する経路の3段階(第一次経路、周期的経路および移行経路)に共通する4つの構成要素があり、それぞれ予防、特定、アセスメントおよび介入からなる。各構成要素は次の要件を備えているべきである。
  • i.エビデンスに基づいている。
  • ii.有資格の従事者によって実施される。
  • iii.適切なやり方により、適切な場所で、適切な時期に提供される。
49.アプローチの実施のためには、保健専門家および家族を対象とする、エビデンスに基づいたユーザーフレンドリーなガイドラインを適用するとともに、患者と養育者の臨床上の期待を一致させるため、このエビデンスが容易に利用できるようにする必要がある。子どもおよび家族とともに働く者の資質を維持するためには、着任時の「子どもにやさしい保健ケア」研修、子どもにやさしい保健ケアを生み出すために革新的措置を実施するスタッフへの支援およびそのような取り組みに対する報奨が必要である。同様に、子どもが「見識のある患者」(knowledgeable patients)になるための援助が、望ましいアウトカムを達成するために欠かせない。
50.保健ケアには住民が容易にアクセスできるべきである。可能な場合、ケアは、子どもが居心地のよさを感じられ、かつ親または養育者と連携しながらケアを提供することができる、子どもの自宅または馴染みのある場所(たとえば就学前施設や学校)の近くで提供することが求められる。ケアを病院で提供しなければならない場合、子どものニーズを満たすための環境調整が行なわれるべきである。
51.「統合された学習システム」としての子どもにやさしい保健ケア:子どもにやさしい保健ケアアプローチは、経路に基づく実践的アプローチに制度の目的と原則を統合し、サービスの質の確保および向上を継続的に図っていくものである。このような、継続的な質の向上および学習の好循環をもたらす際には、3つの構成要素が不可欠となる。
  • i.目的と原則の明確さ。
  • ii.経路に基づいた提供枠組み。
  • iii.革新、学習および改善を奨励するシステム。
52.実施のためには、子ども・家族のためのサービスに貢献しているすべての機関、組織および専門家集団がこのアプローチを採用し、かつ必要に応じて修正することが必要となる。とりわけ、次の諸主体との間での一致および相乗効果を達成することが重要である。
  • i.さまざまな部門の政策立案者。
  • ii.サービスの委託機関、提供機関および規制機関。
  • iii.保健、教育および社会的ケアに関わる諸機関。
53.学習および改善の文化をサービス提供に統合することが不可欠である。各機関が、エビデンスに基づく介入の選択、優先順位の設定、スタッフの資質の維持、チームでの活動および継続的な質の向上に対し、同様のアプローチをとることが求められる。
54.安全、安心および居心地のよさを感じられることが、子どもの治療プロセスの一部とされるべきである。そのためには、スタッフが「子どもにやさしい」存在であり、かつ文化的にも臨床的にも資質を有していなければならない。保健ケアは、「子どもにやさしい」環境で、適切な場合は大人とは独立して提供されるべきである。年齢にふさわしい介入策を活用しながら、恐怖心、不快感および苦痛を認識し、評価しかつ管理することが求められる。

VI.子どもにやさしい保健ケアアプローチの促進

55.子どもにやさしい保健ケアアプローチを促進するためには、子どもの権利が常に、あらゆる場面で重要であることを、すべての加盟国が認識しなければならない。3つのレベルの促進が必要になろう。
  • i.子どもの権利の促進。
  • ii.子どもの保健サービスに適用される諸原則の促進。
  • iii.サービスの計画、提供および改善のための実践的モデルに当該諸原則を統合した、子どもにやさしい保健ケアアプローチの促進。
56.成否は、3つの異なるレベル、すなわち政策立案、サービス計画および個別ケアのレベルで動機、考え方および行動を一致させられるかどうかにかかっている。
57.加盟国は、子どもにやさしい保健ケアアプローチに適切なレベルで賛同するとともに、政策、サービス計画および実践への子どもにやさしい保健ケアアプローチの編入および適切な場合にはその修正を、実施をモニタリングするための関連措置の策定とあわせて、促進するべきである。
58.加盟国は、国連・子どもの権利条約、欧州社会憲章および改訂欧州社会憲章、子どもの権利の行使に関する欧州条約ならびに病院にいる子どものための欧州憲章〔日本語訳(松平千佳監修・八木慎一訳)PDF〕によって宣明されている諸原則を、すべての政策、計画およびプログラムに包摂するべきである。
59.加盟国は、子どもの権利を促進するための活動または教育的取り組みを組織するべきである。人権および子どもの権利を、健康とのつながりを含め、かつ脆弱な状況に置かれている子ども(親の保護を受けていない子ども、長期的病態を有する子どもおよび社会の貧困層または周縁化された集団〔の子ども〕など)のニーズを強調しながら、学校カリキュラムに統合することが求められる。
60.加盟国は、保健ケアサービス内の有効性、効率性、安全性および公平性の向上を促進するため、子どもにやさしい保健ケアアプローチを支持し、普及し、かつ、必要な修正を加えてサービスの計画および供給に適用するべきである。
61.加盟国は、子どもの年齢および成熟度にしたがい、自己の健康の向上、自己のケアに関連する意思決定への関与、保健ケア活動の計画および結果の評価への効果的な子ども参加を促進するべきである。
62.加盟国は、保健ケアにおける子どもの権利の促進を支える法的体制および政策がまだ存在しない場合にはこれを創設することにより、意思決定への主体的参加ならびに自己の健康の促進および保護に対する権利についての子どもおよびその親の意識を高めることを目的とするプログラムおよび政策を支援するべきである。
63.「すべての政策における健康の考慮」(Health in All Policies)アプローチにのっとり、子どもの健康およびウェルビーイングに寄与する政府機関その他の関連のステークホルダーは、サービスの質、とくに安全、アウトカムおよび利用者の体験/満足を継続的に向上させるために協働しかつ努力するべきである。
64.加盟国は、健康的な将来世代を生み出すための十分な資源を確保する目的で、子どもおよび家族のためのサービスへの投資に特段の注意を払うべきである。
65.加盟国は、自国の保健ケア政策・実践における子どもにやさしい保健ケアアプローチの実施を測定しかつモニタリングするために、関連の機関およびステークホルダーの関与を得るべきである。
66.加盟国は、子どもにやさしい保健ケアの分野における実践交流を図りかつ国際協力を促進するべきである。

  • 更新履歴:ページ作成(2025年5月4日)。
最終更新:2025年05月04日 19:22