OAU(AU)・子どもの権利および福祉に関するアフリカ憲章(1990年)
- OAU(アフリカ統一機構)国家元首および政府首脳会議第26通常会期(1990年7月、エチオピア・アジスアベバ)において採択/1999年11月20日発効
- 注/OAUは2002年にAU(アフリカ連合)に改組された。
- 原文:英語・フランス語
- 日本語訳:平野裕二
- 初出:『子どもの権利条約-学習の手引-』(季刊教育法1994年6月臨時増刊号、平野裕二・荒巻重人試訳)
前文
アフリカ統一機構の加盟国であり、「子どもの権利および福祉に関するアフリカ憲章」と題するこの憲章の締約国であるアフリカ諸国は、
アフリカ統一機構憲章が人権の至高の地位を認めていること、かつ、人および人民の権利に関するアフリカ憲章が、すべての者は人種、民族集団、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的および社会的出身、富、出生またはその他の地位等によるいかなる種類の差別もなしに、そこで認められかつ保障されているすべての権利および自由を有することを宣明しかつ同意したことを考慮し、
アフリカ統一機構国家元首および政府首脳会議により、1979年7月17日から20日までリベリアのモンロビアで開かれた第十六通常会期において採択された子どもの権利および福祉に関するアフリカ宣言(AHG/ST.四 REV.1)が、アフリカの子どもの権利および福祉を促進しかつ保護するためにあらゆる適当な措置をとる必要性を認めていることを想起し、
アフリカのほとんどの子どもたちの状況が、諸国の社会経済上、文化上、伝統上および発展上の事情、天災、武力紛争、搾取および飢餓という独自の要因のために、かつ特別の保護およびケアを必要とする、子どもの身体的および精神的未発達を理由として、依然として危機的なものであることを懸念し、
子どもがアフリカ社会においてかけがえのない優先的地位を占めていること、かつ、子どもが、人格の全面的かつ調和のとれた発達のために、家庭環境の下で、幸福、愛情および理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、
子どもが、その身体的および精神的発達の必要性のために、健康ならびに身体的、精神的、道徳的および社会的発達に関して特別のケアを必要とすること、かつ、自由、尊厳および安全な状況の中で法的な保護を必要とすることを認め、
子どもの権利と福祉に関する諸国の考えに示唆を与えかつ特徴づける諸国の文化的遺産の美点、歴史的背景およびアフリカ文明の価値を考慮に入れ、
子どもの権利と福祉を促進しかつ保護することは、すべての者に課された義務の履行でもあることを考慮し、
アフリカ統一機構および国際連合の宣言、条約その他の文書、とくに国際連合の子どもの権利に関する条約ならびにOAUの国家元首および政府首脳によるアフリカの子どもの権利および福祉に関する宣言に含まれている原則に対する支持を再確認し、
次のとおり協定した。
第1部 権利と義務
第1章 子どもの権利と福祉
第1条(締約国の義務)
1.この憲章の締約国であるアフリカ統一機構の加盟国は、この憲章に掲げられた権利、自由および義務を認め、かつ、その憲法上の手続およびこの憲章の規定に従い、この憲章の規定を実施するために必要な立法上その他の措置を採用するため、必要な措置をとる。
2.この憲章のいかなる規定も、締約国の法もしくはその締約国において効力を有する他の国際条約または協定に含まれる規定であって、子どもの権利と福祉の実現にいっそう貢献する規定に影響を及ぼすものではない。
3.この憲章に含まれる権利および義務と相反するいかなる習慣、伝統、文化的または宗教的慣行も、その相反する範囲に従って防止される。
第2条(子どもの定義)
この憲章の運用上、子どもとは18歳未満のすべての者をいう。
第3条(差別の禁止)
すべての子どもは、子どもまたは親もしくは法定保護者の人種、民族集団、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的および社会的出身、富、出生またはその他の地位にかかわらず、この憲章で認められかつ保障されている権利および自由を有する。
第4条(子どもの最善の利益)
1.子どもにかかわるすべての活動においては、それがいかなる個人または機関によってなされたものであっても、子どもの最善の利益が第一次的に考慮される。
2.自己の意見を伝える力のある子どもに影響を与えるすべての司法的または行政的手続においては、その手続の当事者としての子どもの意見が直接的にまたは公正な代理人を通じて聴聞される機会が与えられ、かつ、その意見は、関係機関によって適当な法の規定に従って考慮される。
第5条(生存および発達)
1.すべての子どもは生命への固有の権利を有する。この権利は法によって保護される。2.この憲章の締約国は、子どもの生存、保護および発達を可能なかぎり最大限に確保する。
第6条(名前および国籍)
1.すべての子どもは、出生のときから、名前を持つ権利を有する。
2.すべての子どもは出生の後直ちに登録される。
3.すべての子どもは国籍を取得する権利を有する。
4.この憲章の締約国は、子どもが、その出生の時点で他のいかなる国によっても法律に従って国籍を与えられない場合は生まれた場所を領土とする国の国籍を取得するという原則を、自国の憲法が認めることを確保する。
第7条(表現の自由)
自己の意見を伝える力のあるすべての子どもは、すべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障され、かつ、法律によって規定されている制限に従うことを条件として、自己の見解を広く知らせる権利を保障される。
第8条(結社の自由)
すべての子どもは、法律に違反しない、自由な結社の権利および平和的な集会への権利を有する。
第9条(思想、良心および宗教の自由)
1.すべての子どもは、思想、良心および宗教の自由を有する。
2.親および適当な場合には法定保護者は、これらの権利の行使にあたって、子どもの発達しつつある能力および最善の利益を顧慮しながら、指示および指導を行なう義務を有する。
3.締約国は、その国の法律および政策に従うことを条件とするこれらの権利の享受にあたって、親および適当な場合には法定保護者が指示および指導を行なう義務を尊重する。
第10条(プライバシーの保護)
いかなる子どもも、親または法定保護者が自己の子どもの行為に対し合理的な監督を行なう権利を有することを条件として、プライバシー、家族、住居または通信に恣意的にまたは不法に干渉されず、かつ、名誉および信用を不法に攻撃されない。子どもは、このような干渉または攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。
第11条(教育)
1.すべての子どもは教育への権利を有する。
2.子どもの教育は次の目的で行なわれる。
- a) 子どもの人格、才能ならびに精神的および身体的能力を最大限可能なまで促進させかつ発達させること。
- b) 人権および基本的自由の尊重を、とくに人および人民の権利に関する種々のアフリカの文書ならびに国際的な人権宣言および条約に掲げられているものに関して、涵養させること。
- c) 明確なアフリカの道徳、伝統的価値および文化を保持しかつ強化させること。
- d) すべての諸人民間ならびに民族的、部族的および宗教的集団間の理解、寛容、対話、相互の尊重および友好の精神の下で、子どもが自由な社会において責任ある生活を送れるようにすること。
- e) 国家の独立および領土の保全を保持させること。
- f) アフリカの統一および連帯を促進させかつ達成させること。
- g) 環境および天然資源に対する尊重を発展させること。
- h) 基礎保健に対する子どもの理解を促進させること。
3.この憲章の締約国は、この権利の完全な実施を達成する目的のためにすべての必要な措置をとり、とくに次のことをする。
- a) 無償かつ義務的な基礎教育を提供すること。
- b) 中等教育が種々の形態で発展することを奨励し、かつ、それを漸進的に無償かつすべての者がアクセスできるものとすること。
- c) 高等教育を、すべての適当な方法により、能力に基づいてすべての者がアクセスできるものとすること。
- d) 学校への定期的な出席および中途退学率の減少を奨励する措置をとること。
- e) 共同体のすべての構成員に対して教育への平等なアクセスを確保するため、女性の子ども、才能の抜きん出た子どもおよび障害を持つ子どもに関して特別の措置をとること。
4.この憲章の締約国は、子どもの発達しつつある能力に一致する方法による子どもの宗教的および道徳的教育を確保するため、親および適当な場合には法定保護者が、公の機関によって設立されたもの以外の学校で、国によって承認された最低限度の基準に適合する学校を子どものために選択する権利および義務を尊重する。
5.この憲章の締約国は、学校または親による懲戒を受ける子どもが、人道的に、子どもの固有の尊厳を尊重され、かつこの憲章に従って扱われることを確保するためにあらゆる適当な措置をとる。
6.この憲章の締約国は、教育を終える前に妊娠した子どもが、その個人的能力に基づいて教育を続ける機会を有することを確保するために、あらゆる適当な措置をとる。
7.この条のいかなる規定も、個人および団体が教育機関を設置しかつ管理する自由を妨げるものと解してはならない。ただし、この条の1に定める原則が遵守されること、および当該教育機関において行なわれる教育が国によって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。
第12条(余暇、レクリエーションおよび文化的活動)
1.締約国は、子どもが、休息しかつ余暇を持つ権利、その年齢にふさわしい遊びおよびレクリエーション的活動を行なう権利、ならびに文化的生活および芸術に自由に参加する権利を認める。
2.締約国は、子どもが文化的および芸術的生活に充分に参加する権利を尊重しかつ促進し、ならびに、文化的、芸術的、レクリエーション的および余暇的活動のための適当かつ平等な機会の提供を奨励する。
第13条(障害児)
1.精神的または身体的な障害を持つすべての子どもは、尊厳を確保し、かつ、自立および共同体への積極的な参加を促進する条件のもとで、その身体的および道徳的ニーズに一致する特別な保護措置を受ける権利を有する。
2.この憲章の締約国は、利用可能な手段の下で、障害を持つ子どもおよびその養育に責任を負う者に対して、申請に基づくものであって子どもの条件に適した援助を行なうことを確保する。締約国は、とくに、障害を持つ子どもが、可能なかぎり全面的な社会的統合および個人的発達ならびに文化的および道徳的発達を達成することに貢献する方法で、訓練、雇用準備およびレクリエーションの機会に効果的にアクセスすることを確保する。
3.この憲章の締約国は、精神的および身体的に障害を持つ者の移動、ならびに、その障害者がアクセスすることを正当に望む公共の建物その他の場所へのアクセスの便宜を完全かつ漸進的に達成する目的のために、利用可能な手段をとる。
第14条(健康および保健サービス)
1.すべての子どもは、到達可能な最高の身体的および精神的健康状態を享受する権利を有する。
2.この憲章の締約国は、この権利の完全な実施を追求することを約束し、とくに次の措置をとる。
- a) 乳幼児および子どもの死亡率を低下させること。
- b) 基礎保健の発展に重点を置いて、すべての子どもに対して必要な医療上の援助および保健を与えることを確保すること。 -c) 充分な栄養および清潔な飲料水の供給を確保すること。
- d) 適当な技術を適用することを通じ、基礎保健の枠組の中で疾病および栄養不良と闘うこと。
- e) 妊娠している母親および乳児を育てている母親に対して適当な保健を確保すること。
- f) 予防保健および家族生活についての教育ならびにサービスの供給を発展させること。
- g) 国家の開発計画の中に基本的な保健サービス事業を盛り込むこと。
- h) すべての社会構成員、とくに親、子ども、地域共同体の指導者およびコミュニティ・ワーカーが、子どもの健康および栄養、母乳による育児の利点、衛生および環境衛生ならびに家庭内その他の事故の予防についての基礎的な知識を活用するにあたって、情報が提供され、支援されることを確保すること。
- i) 子どものための基本的なサービス事業を策定しかつ運営するにあたって、非政府組織、地域共同体および教会関係者の意味のある参加を確保すること。
- j) 技術的および財政的手段を通じ、子どものための基礎保健の発展における地域共同体の資源の動員を支援すること。
第15条(子どもの労働)
1.すべての子どもは、あらゆる形態の搾取から保護され、かつ、危険があり、または子どもの身体的、精神的、道徳的もしくは社会的発達に有害となるおそれのあるいかなる作業に従事することからも保護される。
2.この憲章の締約国は、フォーマル・セクターおよびインフォーマル・セクターのいずれの雇用をも対象とするこの条の完全な実施を確保するために、子どもに関する国際労働機関の文書の関連規定を顧慮しながら、あらゆる適当な立法上および行政上の措置をとる。締約国は、とくに次のことをする。
- a) 立法を通じ、あらゆる雇用についての最低就業年齢を定めること。
- b) 雇用時間および雇用条件についての適当な規則を定めること。
- c) この条の効果的実施を確保するために、適当な罰則その他の制裁措置を定めること。
- d) 共同体のすべての構成員に対し、子どもの労働が有害であることについての情報を広く知らせることを促進すること。
第16条(子どもの虐待および拷問に対する保護)
1.この憲章の締約国は、親、法定保護者または学校当局もしくは子どもの養育をする他の者による子どもの養育中に、あらゆる形態の拷問、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱い、ならびにとくに身体的または精神的な傷害もしくは虐待、放任または性的虐待を含む不当な取扱いから子どもを保護するために、立法上、行政上、社会上および教育上の具体的な措置をとる。
2.この条の保護措置には、子どもおよび子どもを養育する者に対して必要な支援を提供する特別な監視部局を設置するため、およびその他の形態による防止のための効果的な手続、ならびに、子どもの虐待および放任の事件の発見、報告、付託、調査、処置および追跡調査を行なうための効果的な手続が含まれる。
第17条(少年司法)
1.刑法に違反したとして罪を問われまたは有罪と認定されたすべての子どもは、尊厳および価値に一致し、かつ、他の者の人権および基本的自由を尊重することを強化するような方法で特別な取扱いを受ける権利を有する。
2.この憲章の締約国は、とくに次のことをする。
- a) 抑留または拘禁もしくは他の方法で自由を奪われたいかなる子どもも、拷問ならびに非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは罰を受けないことを確保すること。
- b) 子どもが抑留または拘禁の場所において成人と分離されることを確保すること。
- c) 刑法に違反したとして罪を問われている子どもが次の取扱いを受けることを確保すること。
- (i)有罪が適正に認められるまで無罪と推定されること。
- (ii)自己に対する被疑事実を、理解できる言語でかつ詳細に、迅速に告知されること、ならびに、使用されている言語を子どもが理解できない場合には通訳の援助を受ける権利を有すること。
- (iii)自己の防御の準備およびその提出にあたって法的または他の適当な援助を受けること。
- (iv)公正な裁判所によって可能なかぎり迅速に決定を受けること、ならびに、有罪と認定された場合には上級裁判所に控訴する権利を有すること。
- (v)証言または有罪の自白を強制されないこと。
- d) 報道陣および公衆を審理に立ち入らせないこと。
3.審理中における、および刑法に違反したとして有罪であると認定された場合におけるすべての子どもの取扱いの本質的目的は、その子どもの更生、家族への再統合および社会復帰とする。
4.刑法に違反する能力を有しないと推定される最低年齢が存在するものとする。
第18条(家族の保護)
1.家族は、社会の自然的単位および基盤である。家族は、その設立および発展のために国の保護および支援を享受する。
2.この憲章の締約国は、婚姻中および婚姻の解消において子どもにかかわる配偶者の権利および責任が平等であることを確保するために必要な措置をとる。婚姻の解消にあたっては、子どもが必要とする保護が提供される。
3.いかなる子どもも、親の婚姻の地位に関連して扶養を奪われない。
第19条(親のケアおよび保護)
1.すべての子どもは、親のケアおよび保護を享受する権利を有し、かつ、可能な場合には常に、その親と同居する権利を有する。いかなる子どもも、自己の意思に反して親から分離されない。ただし、司法機関が、適当な法律に従い、このような分離が子どもの最善の利益であると決定する場合はこの限りではない。
2.親の一方または双方から分離されているすべての子どもは、定期的に親双方との個人的関係および直接の接触を保つ権利を有する。
3.分離が締約国の行為によって生じる場合には、締約国は、子どもまたは適当な場合には家族の他の構成員に対して、家族の不在者の所在に関する不可欠な情報を提供する。締約国は、また、そのような申請の提出が、その申請に関係する者にいかなる不利な結果ももたらさないことを確保する。
4.子どもが締約国によって逮捕された場合には、その親または保護者は、可能なかぎり早期に、締約国による当該逮捕について通知される。
第20条(親の責任)
1.親または子どもに責任を負う他の者は、子どもの養育および発達に対する第一次的責任を有し、かつ、次の義務を有する。
- a) 子どもの最善の利益が常にその基本的関心となることを確保すること。
- b) その能力および資力の範囲内で、子どもの発達に必要な生活条件を確保すること。c) 家庭における懲戒が、人道的に、かつ子どもに固有の尊厳と一致する方法で行なわれることを確保すること。
2.この憲章の締約国は、その資力および国家的条件に従い、次の目的のためにあらゆる適当な措置をとる。
- a) 親および子どもに責任を負う他の者を援助し、必要な場合には、とくに栄養、健康、教育、衣服および住居に関して物的援助および支援事業を提供する。
- b) 育児を行なっている親および子どもに責任を負う他の者を援助し、子どものケアの提供に責任を負う機関の発展を確保すること。
- c) 働く親をもつ子どもに保育サービスおよび保育施設が提供されることを確保すること。
第21条(有害な社会的および文化的慣行に対する保護)
1.この憲章の締約国は、子どもの福祉、尊厳、正常な成長および発達に影響を与える有害な社会的および文化的慣行、とくに次のような慣行を廃止するためにあらゆる適当な措置をとる。
- a) 子どもの健康または生命に有害な習慣および慣行。
- b) 性別またはその他の地位を根拠として子どもを差別する習慣および慣行。
2.子どもの婚姻ならびに少女および少年の婚約は禁止される。最低婚姻年齢を十八歳とするためならびにすべての婚姻を公式に登録することを義務とするために、立法措置を含む効果的な措置がとられる。
第22条(武力紛争)
1.この憲章の締約国は、武力紛争において適用可能な国際人道法の規則で子どもに関連するものを尊重し、かつその尊重を確保することを約束する。
2.この憲章の締約国は、いかなる子どもも敵対行為に直接参加しないことを確保するために、かつ、とくにいかなる子どもも徴募することを差し控えるために、あらゆる必要な措置をとる。
3.この憲章の締約国は、国際人道法に基づく自国の義務に従い、武力紛争において民間人を保護し、かつ、武力紛争の影響を受ける子どもの保護およびケアを確保するためにあらゆる可能な措置をとる。このような規則は、国内の武力紛争、緊張状態および内戦の状況に置かれている子どもに対しても適用される。
第23条(難民の子ども)
1.この憲章の締約国は、難民の地位を求めている子どももしくは適用可能な国際法または国内法に従って難民とみなされる子どもが、親、法定保護者または近親者の同伴の有無にかかわらず、この憲章および自国が締約国となっている他の国際人権文書ならびに国際人道文書に掲げられた権利を享受するにあたって、適当な保護および人道的援助を受けることを確保するためにあらゆる適当な措置をとる。
2.締約国は、難民を保護しかつ援助する既存の国際組織が行なう、このような子どもを保護しかつ援助するための努力、および、家族との再開に必要な情報を得るために同伴者のない難民の子どもの親または他の近親者を追跡するための努力に協力する。
3.親、法定保護者または近親者を見つけることができない場合には、子どもは、何らかの理由により恒常的にまたは一時的に家庭環境を奪われた子どもと同一の保護が与えられる。
4.この条の規定は、天災、国内の武力紛争、内戦、経済的および社会的秩序の崩壊または他の類似の状況によって国内的に流民となった子どもに対しても、必要な変更を加えて適用される。
第24条(養子縁組)
養子縁組の制度を承認している締約国は、子どもの最善の利益が最高の考慮事項であることを確保し、次のことをする。
- a) 養子縁組の事態を決定する権限ある機関を設置すること。養子縁組が、適用可能な法律および手続に従い、関連がありかつ信頼できるあらゆる情報に基づいて実行されることを確保すること。養子縁組が、親、親族および保護者とかかわる子どもの地位に鑑みて許容されること。必要な場合には、適当な関係者が、適当なカウンセリングに基づき、養子縁組に対して情報を得た上での同意を与えることを確保すること。
- b) 子どもの権利に関する条約またはこの憲章を批准したもしくは支持する国で行なわれる国際養子縁組が、最後の手段であり、子どもが里親家族もしくは養親家族に託置されることができない場合、または、子どもがいかなる適切な方法によってもその出身国において養護されることができない場合の代替的手段とみなされることを認めること。
- c) 国際養子縁組の影響を受ける子どもが、国内養子縁組に関して存在しているのと同等の保障および基準を享受することを確保すること。
- d) 国際養子縁組において、託置が、取引にならないことまたは子どもを養子縁組しようとする者の金銭上の不当な利得とならないことを確保するためにあらゆる適当な措置をとること。
- e) 適当な場合には、二国間または多数国間の取決めまたは協定を締結することによってこの条の目的を促進し、かつ、この枠組の中で、子どもの他国への託置が権限ある機関または組織によって実行されることを確保するよう努力すること。
- f) 養子縁組された子どもの福祉を監督するための機関を設置すること。
第25条(親からの分離)
1.何らかの理由から恒常的にまたは一時的に家庭環境を奪われたいかなる子どもも、特別な保護および援助を受ける資格を有する。
2.この憲章の締約国は次のことをする。
- a) 親のいない子ども、一時的にもしくは恒常的に家庭環境を奪われた子ども、または、子どもの最善の利益に従えばその環境で育つこともしくはその環境にとどまることが容認されえない子どもが、代替的家庭養護を提供されることを確保すること。その養護には、とりわけ、里親託置または子どもの養護に適した施設への措置を含むことができる。
- b) 分離が、武力紛争または天災によって生じた国内外における流民化によって発生した場合には、子どもを追跡し、かつ、子どもと親または親族を再開させるためにあらゆる必要な措置をとること。
3.子どもの代替的家庭養護および子どもの最善の利益を検討する場合には、子どもの養育に継続性が望まれることについて、ならびに子どもの民族的、宗教的および言語的背景について正当な考慮を払う。
第26条(アパルトヘイトおよび差別に対する保護)
1.この憲章の締約国は、アパルトヘイトのもとで生活している子どもならびにアパルトヘイト政権によって軍事的動揺を受けている国で生活している子どもの特別なニーズに高い優先順位を与えることを、個別的にかつ集団的に約束する。
2.この憲章の締約国は、人種的、民族的、宗教的その他の形態の差別を行なっている政権のもとで生活している子どもならびに軍事的動揺を受けている国で生活している子どもの特別なニーズに高い優先順位を与えることを、個別的にかつ集団的に約束する。
3.締約国は、可能な場合には常に、そのような子ども、および、アフリカ大陸におけるあらゆる形態の差別ならびにアパルトヘイトを撤廃しようとするその努力に対して、物的援助を与えることを約束する。
第27条(性的搾取)
1.この憲章の締約国は、あらゆる形態の性的搾取および性的虐待から子どもを保護することを約束し、とくに次のことを防止するための措置をとる。
- a) 何らかの性的行為に従事するよう子どもを勧誘、強制または奨励すること。
- b) 売春または他の性的行為に子どもを使用すること。
- c) ポルノ的な行為、実演または題材に子どもを使用すること。
第28条(麻薬の濫用)
この憲章の締約国は、麻薬の使用ならびに関連する国際条約において定義された向精神薬の不法な使用から子どもを保護し、かつこのような物質の生産および取引に子どもを利用することを防止するためにあらゆる適当な措置をとる。
第29条(売買、取引および誘拐)
この憲章の締約国は、次のことを防止するためにあらゆる適当な措置をとる。
- a) いかなる目的またはいかなる形態で、ならびに子どもの親または法定保護者を含むいかなる者によって行なわれるかを問わず、子どもを誘拐、売買または取引すること。
- b) いかなる形態を問わず、子どもを物乞いに使用すること。
第30条(拘禁された母親をもつ子ども)
この憲章の締約国は、妊娠中の母親または乳幼児をもつ母親で、刑法に違反したとして罪を問われまたは有罪と認定された者に特別な処遇を与えることを約束し、とくに次のことをする。
- a) そのような母親の量刑にあたって、拘置をともなわない量刑が常に第一に考慮されることを確保すること。
- b) そのような母親の処遇のために、施設拘置に代わる措置を確立しかつ促進すること。
- c) そのような母親を拘置するために、特別な代替的施設を設置すること。
- d) 母親がその子どもとともに拘禁されないことを確保すること。
- e) そのような母親に死刑が科されないことを確保すること。
- f) 刑務所収容制度の本質的目的は、更生、その母親の家族への統合および社会復帰とすること。
第31条(子どもの責任)
すべての子どもは、家族、社会、国家および他の法的に認められた共同体ならびに国際社会に対する責任を負う。子どもは、その年齢および能力ならびにこの憲章に含まれる制限に従うことを条件として、次の義務を有する。
- a) 家族の統合に務め、親、年長者および老人を常に尊敬し、かつ、必要な場合には彼らを援助すること。
- b) 自己の身体的能力かつ知能を国家共同体のために役立てること。
- c) 社会的および国家的連帯を保持しかつ強化させること。
- d) 寛容、対話および協議の精神の下で、社会の他の構成員との関係においてアフリカの文化的価値を保持しかつ強化し、かつ、社会の道徳的福祉に貢献すること。
- e) 自己の国の独立および統合を保持しかつ強化すること。
- f) 常にかつあらゆる段階において、アフリカの統一の促進および達成に自己の能力を最大限貢献させること。
第2部
第2章 子どもの権利および福祉に関する委員会の設置ならびに構成
第32条(委員会)
子どもの権利および福祉を促進しかつ保護するために、アフリカ統一機構内に子どもの権利と福祉に関するアフリカ専門家委員会(以下「委員会」という)を設置する。
第33条(構成)
1.委員会は、高い徳望、誠実さおよび公正さを有し、かつ、子どもの権利および福祉に関する事柄に高い能力を有する11人の委員で構成する。
2.委員会の委員は個人の資格で職務を遂行する。
3.委員会は、1の国の国民を2人以上含むことができない。
第34条(選挙)
委員会の委員は、この憲章の発効後直ちに、この憲章の締約国によって指名された者の名簿の中から、国家元首および政府首脳会議が秘密投票によって選出する。
第35条(候補者)
この憲章の各締約国は、2人を越えない候補者を指名することができる。候補者は、この憲章のいずれかの締約国の国籍を有していなければならない。1国が2人の候補者を指名する場合には、そのうちの1人はその国の国民でない者とする。
第36条
1.アフリカ統一機構事務総長は、選挙の遅くとも6か月前までに、この憲章の締約国に対し、候補者を指名するよう要請する。
2.アフリカ統一機構事務総長は、選挙の遅くとも1か月前までに、指名された者のアルファベット順による名簿を作成し、かつ、国家元首および政府首脳に送付する。
第37条(任期)
1.委員会の委員は5年の任期で選出され、再選されることはできない。ただし、最初の選挙において選出された委員のうち4人の任期は2年の後に終了し、他の6人の任期は4年の後に終了する。〔訳者注/2015年1月のAU総会で採択された改正により、1回に限り再選が認められるようになった。〕
2.最初の選挙の後直ちに、アフリカ統一機構国家元首および政府首脳会議議長は、この条の1で言及された委員の氏名を決定するためにくじを引く。
3.アフリカ統一機構事務総長は、委員会の最初の会合を、委員会の委員の選挙から6か月以内に同機構の本部において招集する。その後は、委員会は、少なくとも年1回、必要に応じて委員会の議長によって招集される。
第38条(手続)
1.委員会は、手続規則を定める。
2.委員会は、役員を2年の任期で選出する。
3.7人の委員をもって定足数とする。
4.可否同数の場合は、議長が決定投票権を有する。
五、委員会の作業言語は、OAUの公用語とする。
第39条(空席)
委員会の委員が、通常の任期終了以外の理由で委員であることをやめる場合には、その委員を指名した国は、国家元首および政府首脳会議の承認を条件として、残りの期間職務を遂行する他の者を自国民の中から任命する。
第40条(事務局)
アフリカ統一機構事務総長は、委員会の事務局長を任命する。
第41条(特権および免除)
委員会の委員は、その職務の遂行にあたって、アフリカ統一機構の特権および免除に関する一般条約に規定される特権および免除を享受する。
第3章 委員会の権限および手続
第42条(権限)
委員会は、次のことを任務とする。
- a) この憲章に掲げられた権利を促進しかつ保護し、とくに次のことをすること。
- (i)子どもの権利および福祉の分野におけるアフリカの問題に関する情報を収集しかつ記録し、その状況の学際的評価を行なうこと、会議を組織すること、子どもの権利および福祉にかかわる国家的および地域的機関を活性化させること、ならびに必要な場合に政府に対して意見を述べかつ勧告を行なうこと。
- (ii)アフリカにおける子どもの権利および福祉を保護することを目的とした手続および規則を作成しかつ定めること。
- (iii)子どもの権利および福祉の促進および保護にかかわる他のアフリカの機関および組織、国際的機関および組織ならびに地域的機関および組織と協力すること。
- b) この憲章に掲げられた権利の実施を監督し、かつ、その保護を確保すること。
- c) 締約国、アフリカ統一機構の機関、もしくはアフリカ統一機構または締約国によって認められた他の者もしくは機関の要請により、この憲章の規定を解釈すること。
- d) 政府首脳および国家元首会議、OAU事務総長ならびにOAUの他の機関もしくは国際連合によって委ねられるその他の職務を遂行すること。
第43条(報告手続)
1.この憲章のすべての締約国は、a)当該締約国についてこの憲章が効力を生ずるときから2年以内に、b)その後は3年ごとに、この憲章の規定を実施するためにとった措置およびこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を、アフリカ統一機構事務総長を通じて委員会に提出することを約束する。
2.この条に基づいて作成されるすべての報告は、以下の条件を満たすものとする。
- a) この憲章の実施について、当該締約国におけるこの条約の実施について委員が包括的に理解するための充分な情報を記載すること。
- b) この憲章に記された義務の履行に影響を及ぼす要因および傷害が存在する場合には、それらを記載すること。
3.委員会に包括的な最初の報告を提出している締約国は、この条の1のa)に従って提出されるその後の報告においては、以前に提出した基本的な情報を繰り返す必要はない。
第44条(通報)
1.委員会は、アフリカ統一機構、締約国または国際連合によって認められたいかなる個人、集団または非政府組織からも、この憲章で対象とされているいかなる事柄についても通報を受領することができる。
2.委員会に対するすべての通報は、通報者の氏名および住所を記載し、かつ、秘密に取り扱われる。
第45条(委員会による調査)
1.委員会は、この憲章の範囲内にあるいかなる事柄についてもいずれかの適当な方法によって調査することができ、かつ、この憲章の実施に関するいかなる情報をも締約国に対して求めることができる。委員会は、また、締約国がこの憲章を実施するためにとった措置をいずれかの適当な方法によって調査することができる。
2.委員会は、2年おきに開かれる国家元首および政府首脳会議の各通常会期に対して、その活動およびこの憲章の第46条に基づいて行なわれた通報についての報告を提出する。
3.委員会は、その報告を、国家元首および政府首脳会議の検討を経た後に公表する。
4.締約国は、委員会の報告を、国内において公衆が広く利用できるようにする。
第4章 その他の規定
第46条(示唆の源)
委員会は、人権に関する国際法、とくに人および人民の権利に関するアフリカ憲章、アフリカ統一機構憲章、世界人権宣言、子どもの権利に関する国際条約ならびに人権の分野で国際連合およびアフリカ諸国によって採択された他の文書から、ならびにアフリカの価値および伝統から示唆を受ける。
第47条(署名、批准または加入)
1.この憲章は、アフリカ統一機構のすべての加盟国による署名のために開放しておく。2.この憲章は、アフリカ統一機構の加盟国によって批准または加入されなければならない。この憲章の批准書または加入書は、アフリカ統一機構事務総長に寄託する。
3.この憲章は、アフリカ統一機構の加盟国15か国の批准書または加入書がアフリカ統一機構事務総長によって受領されてから30日後に効力を生ずる。
第48条(この憲章の改正および修正)
1.この憲章は、いずれかの締約国がアフリカ統一機構事務総長に対し書面により要請をする場合には、改正または修正されることができる。ただし、当該改正案は、すべての締約国がその改正案について適正に通知され、かつ、委員会がその改正について意見を述べるまで、国家元首および政府首脳会議に提出されない。
2.改正は、締約国の単純多数によって承認される。
最終更新:2025年05月07日 07:49