261 : クッキとビッケ 2006/11/17(金) 01:43:48 ID:???
1/7
クッキとビッケ
「茶々丸、すぐ戻るからここで待っていろ」
「はい、マスター」
そう返事をして、ベンチに座って待っていたのですが…
今は少し動けません。
膝の上に猫がお二人、丸くなって眠っているのです。
先程、ベンチの下からひょっこり出てきまして、二人とも私をじっと見ると、
短く鳴いてからベンチに上がって、私の膝の上にやってこられたのです。
最初はゴロゴロと、喉を鳴らしていたのですが、今は静かに目を閉じて、呼吸をするのみです。
とても気持ちよくお休みのようです。
首輪をしているので、どなたかが飼われているのでしょう。 とてもよく人に馴れています。
人に… 私は…
「あ…」
短く声がしました。 あれは…アキラさん。
猫さんが膝の上にいるので、座ったまま頭を下げて挨拶をします。
アキラさんも軽く会釈をすると、近づいてきて猫さん達を観察します。
「… 桜子のところのクッキとビッケだね」
「そうでしたか、では…」
立ち上がり、猫さん達―クッキさんとビッケさんを起こそうとしたところでアキラさんに止められました。
「ああ、そんな起こさなくても…」
しかし、クッキさんとビッケさんも桜子さんの所にいるのは一番では?
「んー、茶々丸さん、クッキとビッケが嫌い?」
いえ、そんなことは…
「今、困ってる?」
もし、マスターが来れば少し困るかもしれませんが… 困る? なにを?
私が少しクッキさんとビッケさんを見ながら返答にすべき答えを検索していると、
アキラさんはすっと、立ち上がり
「私が桜子に伝えてくるよ、それまでみててあげて」
ちょいと、クッキさんとビッケさんを指で軽くなでて、そう言って立ち去られました。
なんでしょう、私の中に何か表現しがたいものが浮かびます。
262 : クッキとビッケ 2006/11/17(金) 01:44:24 ID:???
2/7
風が静かに過ぎていきます。 私達は木陰で、暑すぎもせず、寒くもありません。
クッキさんとビッケさんは静かに、静かに寝ています。
向こうからどなたかいらっしゃいます。 長身に褐色の肌、そしてギターケース。 あれは…
「茶々丸、一人… じゃないか」
龍宮さんが私の前で立ち止まり、クッキさんとビッケさんを見下ろします。
… なんでしょうか、雰囲気と表現すればいいのでしょうか。 すこし、いつもの龍宮さんと違う気がします。
「フフ、懐かれてるな」
口調はからかうような、でも、表情は違います。
マスターがたまにネギ先生に見られないようにつくる、そんな表情に近い気がします。
なぜか私はここまでの経緯を簡単に説明しました。
「ふぅむ… なあ茶々丸、もしここでエヴァンジェリンが戻ってきたら、どうする?」
それは… 私は、マスターの、命令に、従うだけ…
「それでいいのかい?」
龍宮さんが私を見ます。 口元は笑っているようですが、眼は…
私の後ろに焦点を合わすように、じっと、見据えています。
私はマスターの命を最優先にします。 それは確かに…
「… フフフッ、冗談だ」
不意に視線を外して、軽く笑います。 眼に先程の鋭さありません。
かがみこみクッキさんとビッケさんを、軽く、触れるか触れないかくらいに撫でました。
クッキさんとビッケさんが、ふるふるっと、反応してもう少し小さく丸くなりました。
「邪魔をしたな」
龍宮さんが軽く手を上げながら、立ち去りました。
また静かになりました。
263 : クッキとビッケ 2006/11/17(金) 01:44:56 ID:???
3/7
静かに静かに、ただ、遠くから他の生徒の声、近くからは風の音がしかしない中、
彼女はいつの間にか、いました。
褐色の肌に銀髪、そしてフェイスペイントが特徴の彼女は、私が認識する間もなく、
当然のように、私の膝のすぐ近くにしゃがみこみ、ひじを膝に乗せ、
あごを両手で支えながらクッキさんとビッケさんをじっと、見ています。
ザジさん… 一体いつ…
少し大きな声を発しそうになった私を、ザジさんは指を一本縦に唇に当てて制しました。
あ…
彼女は何も言いません、ですが、何がいいたいかは理解できた気がしました。
私が口を閉じると、ザジさんはまた、何も言わずにクッキさんとビッケさんを見つめます。
いつもは無表情な彼女ですが、今日は少し、違うようです。
具体的に例える事はできませんが… 今日の私は少し調子が悪いのでしょうか?
あとで、ハカセに相談してみた方が良いかもしれません。
静かです。 ザジさんも何も言わず、私も何も言わず、クッキさんとビッケさんは、
静かに、静かに、それでもこの場では大きく感じれるような寝息を立ててます。
264 : クッキとビッケ 2006/11/17(金) 01:45:33 ID:???
4/7 向こうからどなたか近づいてきます。 マスターでないことはわかります。
その時、ザジさんの髪の毛が一本立ったように見えましたが… きっと錯覚というやつでしょう。
あれは… 千雨さんですね。 ザジさんがしきりに指を口に当てて、静かにとジェスチャーしています。
「あー…」
近くまできて状況を確認した千雨さんは何かを言おうとしましたが、やめて、少し軽くため息をつきました。
そうしてザジさんの背後に立ち、気のない様子で私たちを眺めてます。
誰も何も言いません。
時間だけが過ぎていきます。
「ザジ」
千雨さんが不意に小さく、短くザジさんを呼び、時計を指差しました。
それを見たザジさんはコクンと小さく頷き、立ち上がります。
「じゃあな」
千雨さんはやはり、短く小さく挨拶をし、ザジさんはぴょこんと、私達に頭を下げると千雨さんと共に立ち去ろうとしました。
その時です。
くしゅんっ
くしゃみです、小さな小さなくしゃみ。 私の膝の上から!
ああ、どうしましょう、風邪なんでしょうか? 獣医に連れて行かなくては?
ザジさんも無言で慌ててます。 なにかなにか…
「ああもう、お前らは…」
千雨さんがザジさんを押しのけると、ポケットからハンカチを取り出しクッキさんとビッケさんに
ふわりと、優しくかけます。
「ほら、ザジも」
気付いたザジさんがポケットからハンカチを取り出します。
一枚二枚三枚… そういえばマジックが得意でしたね。
「そんなにたくさんいらないぞ…」
千雨さんが五枚ほどハンカチを取ると、やはり優しく布団のようにかけます。
「… 桜子んトコのだろ、こいつら。 会ったら伝えておくし、茶々丸さんもそうしてくれよ」
あ、はい…
私にと言うより、ザジさんに言い聞かすように千雨さんがつぶやきました。
「じゃ、な」
少し名残惜しそうなザジさんを引きずるようにして、千雨さんが行きました。
私の膝の上は少しカラフルになりました。
265 : クッキとビッケ 2006/11/17(金) 01:46:04 ID:???
5/7
少し日が翳ってきました。 しかしお二人とも小さな布団のおかげか、もうくしゃみなどは出ません。
…! これは…
お帰りになられたようです。 考えてみれば少し遅かったような気もします。
では、お二人をそっとベンチの上に置かなければ…
………
……
…
「待たせたな茶々丸」
あ…
動かせませんでした。 ああ、でももうマスターが目の前に。
立って、帰りますかと、聞かなければ。
マスターが半瞬私を見ます。 立たないと…
ですが、動こうとした私に手をかざし、私の動作を封じました。
マスター?
「… 少し疲れた。 休んでいくからそのまま待っていろ」
… ハイ、マスター
マスターは私の隣に静かに座ると、頭の後ろで手を組み、膝も組んで眼を閉じて…
静かに静かに風が過ぎていきます。
6/7
266 : クッキとビッケ 2006/11/17(金) 01:46:35 ID:???
6/7
お二人がいきなりむくりと、起き上がりました。
小さなお布団から、向こうから来る人を見つめます。 それはきっと…
「茶々丸ちゃーん!」
くるると、小さくのどの鳴る振動が響いてきます。
桜子さん、お迎えにきたのですね。
「あり、エバちゃんもいたんだ」
「… いて悪いか、椎名桜子。 それよりもこいつらは貴様のペットか」
「うん、そうだよー、クッキとビッケっていうの。 アキラちゃんに聞いたの、
ここでクッキとビッケを茶々丸ちゃんが預かってるって」
「… だったら、さっさと連れて帰れ。 もう、冷えてくるぞ」
「はーい、クッキ、ビッケ、おいで~」
お二人は私の膝の上で立ち上がり、伸びをしてそのまま桜子さんの元へ…
「あり?」
… 行きません、私の顔をじっと見てます。 これは…?
にゃー、と、少し鼻にかかるような声で鳴きます。
「にゃははは、茶々丸ちゃん好かれてるにゃ」
あ…
お二人は頭を私にこすりつけてから、ひょいと地面に降りました。
「ありがとう、茶々丸ちゃん」
にゃーにゃー
桜子さんのお礼の声に合わせるようにお二人も鳴きます。
いえ、私は別に…
桜子さんとお二人は振り返り、振り返り私にお礼をしながら帰っていかれました。
やがて、三人が見えなくなるとマスターが短く告げました。
「帰るぞ茶々丸」
267 : クッキとビッケ 2006/11/17(金) 01:47:08 ID:???
7/7
「くしゅん」
マスター、風邪ですが?
「心配ない。 … さっきな、真名に会った」
龍宮さんに?
「なぜか、どうでもいい話題で引き止めてきてな… まったく、どいつもこいつも」
…
「ま、どーでもいいことだ」
今日のことを再生します。 今日会った人たちのこと。
「茶々丸?」
いえ、何でもありません
けれどもマスター、今私が思考していることを聞いたら、マスターはなんて答えてくれるのでしょう?
ハカセは?
これはなんと表現すればいいのでしょうか、わかりませんが、とても大事な記憶になると思います。
クッキとビッケ 終
278 : COCOON 2006/11/17(金) 16:10:28 ID:???
COCOON
1/5
「あれっ? まだアキラ来いひんの?」
放課後になり、真っ先に私の部屋を訪れたのは和泉亜子であった。
「ん、まあな」
私は淡々と答える。何がおかしいのか、そんな私の様子を盗み見て刹那はくすりと口元を緩めていた。
「どうぞ和泉さん。上がってください」
「ほな、おじゃましますー」
刹那に促され、和泉はぱたぱたと部屋に上がり込む。そして、
「龍宮さん、お誕生日おめでとうな! これ、ウチからのプレゼントやっ!!」
満面の笑顔で私にやや大きめのプレゼントを手渡したのだ。
「あ、ああ……、ありがとう」
既に刹那の奴はくすくすと声を漏らしている。そんなに私の表情がおかしいのか、相棒よ。
「開けてもいいかな?」
私が問うと、和泉は素直に頷く。リボンを解き、中から現れたのは……、ワンちゃん!?
「えへへ、アキラに訊いたんよ。龍宮さんも犬好きや、って!」
「う、うむ……。ありがとう」
子犬のぬいぐるみを受け取った私は、それはそれは味のある表情をしていたらしい。
たまらず腹を抱えて必死に笑いを堪えている刹那の様子が、如実に物語っていた。
どうやら刹那君には後でたっぷりと教育しなければなるまい。
しかし和泉も和泉だ。修学旅行以外ではあまり接点の無い私に、どうしてここまでフレンドリーに
接してくるのだ?
「済まないな和泉。君にここまでしてもらうような覚えはないのだが……」
「あん、せやかて龍宮さんにはいつもアキラがお世話になっとるやん。ウチらかて修学旅行で一緒やったし。
それに、クラスメイトやもん!!」
あっけらかんと言い切る和泉に、私は少しだけ目眩を覚えた。
すると何か? 今日はこんな調子でクラスの連中が私の元へ押し寄せて来るというのか?
279 : COCOON 2006/11/17(金) 16:11:03 ID:???
2/5
「まあ、木乃香お嬢様も後で伺うそうだ」
私の思考を読むな、刹那め……。
「まだ時間はありますが、和泉さんはどうなさいます?」
「せやね……。パーティーの準備とか手伝うコトあらへん?」
待て待て待て。私の誕生パーティーなんて聞いていないぞ。助けてくれ、アキラ。
「そうですね……。木乃香お嬢様がお料理の方をやりたいそうなので、和泉さんは私と部屋の飾り付けを
お願い出来ますか?」
「うん、ええよ~♪」
刹那が私の方を見て笑っている。そうか。貴様の考えはよーく分かった。
「ケーキはどうするつもりだ?」
やけくそになった私が問い質すと、
「ああ、成程な~。アキラのコトやから最後まで時間掛けてデコレーションとかに凝っとるんやろうね♪」
妙に納得した様子で和泉はうんうん頷いている。今の一言で私にも事情が読めた。
そうか、アキラも乗ったのか……。誰だこんな事を計画したのは?
私の脳裏に糸目の忍者が浮んだ。奴だ、奴に違いない。下手にどっきりを仕掛けるより、こうして当日になって、
目の前でなし崩しにパーティーに持ち込んだ方が私が狼狽すると知っているのは、刹那か楓、後は古くらいだ。
そして、そんな小憎らしい芸当は刹那や古には出来ないだろう。
取り合えずあの糸目にはどんな報復をしてやろうか? 私がそんな事を考えていると、
「なあなあ、龍宮さんはアキラのどういったトコが好きなん?」
唐突に和泉が質問してきた。それもまあ、無邪気な顔で……。
「確かにそれは興味深いですね」
刹那君、今日はやけに強気ですね?
「そうだな……」
私は大きく息を吐き、観念する事にした。ギロリと刹那を睨み付けながら、な。
どうせ今からこんな調子なのでは諦めが肝心だ。後からアキラが来るとあっては逃げ出す訳にもいくまい。
それに、相手が和泉ならまだ可愛い方だ。今の内に話せるレベルの内容は洗いざらい暴露して、
後で訊かれたら刹那に聞けと言って逃げよう、うむ。
腹を括った私は、ゆっくりと語り始めた―――
280 : COCOON 2006/11/17(金) 16:11:45 ID:???
3/5
「そうだな……。ちょっとアキラの顔を想像してみてくれ」
聞き手の二人に問い掛け、私は静かに目を閉じる。
笑っている。満面の笑みではなく、ただ穏やかに、私の中のアキラは笑っている。
「―――いい表情をしているだろう?」
私が訊くと、和泉はにこにこと頷き、刹那もまた小さく首を縦に振った。
「今まで、アキラのような子に巡り逢えた事は無かった。素直で、誠実で、口数は少ないが、
決して間違った事は言わない、心優しい子……。そんなアキラが、昔は苦手だったよ」
「そうやったん?」
苦手、と聞いて和泉は驚いたように問い掛けてくる。
「ああ。当時の私は、ね。アキラという存在はとにかく眩しすぎたんだ。だが―――」
今も覚えている。根気良く挨拶をしてくれるアキラの姿を。たった一言の挨拶が、会う度に続いていた。
私もアキラもおしゃべり好きという訳でもない。どちらかといえば口下手なくらいだ。
「私は人に壁を作って接する人間だった。なのに、アキラだけは違ったんだ。彼女との会話は不思議なくらいに
楽しかった。アキラのお陰で、私は人と触れ合う事を思い出したのだろうな」
私は一旦言葉を切る。和泉も、刹那さえも神妙な面持ちで聞き入っている。二人の脳裏にあるのは、
互いのパートナーであろうか?
アキラのいない生活。考えただけでぞっとする。アキラが居てくれるから、私は人として生きていけるのだ。
機械のように任務をこなすだけのモノではなく、人として―――
「今の私はアキラと共にある。アキラが、今の私を作ってくれた。だから、アキラは私の棲家、
生まれ故郷のようなものだ。私にとって大河内アキラという存在は全てなんだ―――」
守るべきもの。
私に光に満ちた世界へと導いた、かけがえのない人。
「龍宮……」
ぽつり、と刹那が呟いた。
「お前とて一緒だろう?」
私の問いに、刹那はしみじみと頷く。そして、和泉に至っては……、
「えへへ、アキラは幸せやね……」
私の手を取り、しきりに頷いていた。その瞳にうっすらと涙を浮かべながら。
281 : COCOON 2006/11/17(金) 16:12:47 ID:???
4/5
「ウチ、今の話聞いて龍宮さんの印象変わった気いするわ! 龍宮さんて、クールでめっちゃかっこええ人や
思うててんけど、ホンマはアキラとおんなじなんやね……」
「アキラと同じ、か」
「うんっ! 似たモン同士、って感じやね」
そう言って和泉は笑う。アキラと一緒、と言われると悪い気ははないな。
「みんな変わるもんなんやね。龍宮さんも桜咲さんも、昔はめっちゃ近寄りがたかってんよー?」
「わ、私もですか?」
「何をいう。私はまだマシな方だ。昔のお前に比べればな」
きょとんとする刹那に、私はすかさず追い討ちを掛ける。
「近衛は大したものだ。あの刹那が今では普通にみんなとよろしくやっているのだからな」
「今の桜咲さん、ウチは好きやで~?」
お、いいぞ和泉。お前もどんどん言ってやれ。刹那にはたっぷり礼をしなくては、な!
「い、いや私は、その……」
と、刹那がすっかり狼狽していた時だ。
「こんちわ~。お料理ぎょーさんつくってきたえ~♪」
完全にとどめを刺すようなタイミングで近衛がやって来たのだ。
「済まないな近衛。さあ上がってくれ、刹那がお待ちかねだ」
「たっ、龍宮っ!?」
「えへへ、せっちゃんお待たせや~」
真っ赤になっている刹那にお構いなしで突撃する近衛。うむ、期待通りだ。近衛はいい仕事をしてくれる。
私がしたり顔で二人を見守っていると、和泉と目が合う。そして、にっこり微笑んだ。
「ちわーっ!! たつみーお誕生日おめでと~っ!!」
やがて、ぞろぞろとクラスメイト達が集まってきた。おいおいかなりの人数だな。その中には楓の姿も見える。
「おいおい、貴様何人に声を掛けたのだ?」
「はて、何の事でござるかな?」
楓はしらじらしくとぼけるばかり。全く、こいつめ……。
282 : COCOON 2006/11/17(金) 16:13:30 ID:???
5/5
「まあまあ。いい機会ではござらんか。みんな真名と仲良くしたいのでござろう」
「ふっ、このお節介め」
私が毒づくと、楓はくすりと口元を緩めた。
「龍宮さん! アキラが来たで~!」
「ほらほらたつみー! こっちこっち!」
和泉と明石に引っ張られる形で、私は玄関に向かう。
「まあ、たまにはこういうのも悪くないな……」
ぽつりと囁くと、和泉の奴はにこにこ笑う。そして、
「ハッピーバースディ、真名」
「ありがとう、アキラ」
私は最愛の人と対面する。そして、アキラの手を取った。
離したくは無い。この手だけは……。
私は、アキラと共に光に生きる。そう決意したのだから―――
(おしまい)
283 : KANSHA(1/2) 2006/11/17(金) 16:38:14 ID:???
「ねぇ龍宮(たつみや)さん、お願いがあるんだけど。」
私はとても嫌な予感がした。
「断る。」
「そんなこと言わないでよ。お願いったらお・ね・が・いっ。」
まただ、この女は〆切が近付く度に私に手伝いを要求する。
いつも思うのだが、もっと早く準備に取り掛かれないのか。
「だいたい、宮崎や綾瀬には頼まないのか。」
「二人とも逃げちゃったの。だから真名(まな)さん、手伝ってえ。」
「嫌だと言ってるだろ。下の名前で呼んだって駄目なものは駄目だ。」
「今度あんみつ奢るからさ。」
「仕方ないな。」
甘えた声で私に頼むこの眼鏡の女は、早乙女ハルナと言って、同人サークル「早乙女工房」の代表だそうだ。けっこう大手らしい。
早乙女が言うには、明日発送しなければならないのに、あと9ページ描かなきゃならないそうだ。
全く調子に乗って、ゲストの依頼を受けるからだ。しかも10ページも。ゲストの依頼なら一ヶ月前に来てるのに、全く何をやってるんだ。
そういえば最近、毎回手伝ってるな。もう私も立派な「早乙女工房」の一員だ。
しかし、今日は私の誕生日なのに、徹夜とはなんてついてないんだ。
284 : KANSHA(2/2) 2006/11/17(金) 16:40:25 ID:???
ま、世界中を旅していたあの頃に比べれば、断然平和なんだけどな。
翌朝。ようやく原稿を完成させた私達は、精も根も尽き果てていた。
「早速送らなきゃ。」
「用は済んだだろ。私は帰るぞ。」
「もうちょっと待ってね。郵便局から帰ったら、渡すものがあるから。」
やれやれ、もう少し待たなきゃならんのか。早く寝たいんだが。
昼。早乙女が帰ってきた。
「昨日誕生日だったんだよね。はい、プレゼント。」
それは、早乙女が描いた私の似顔絵だ。同人で漫画を描いてるだけあって、とてもよく描けている。
「日頃手伝ってもらってる感謝の意味を込めて描いたんだ。」
「あ、ありがとう。」
改めて言われると、なんか照れるな。しかしプレゼントに似顔絵なんて、早乙女も可愛いとこあるな。
「今度はもう少し、早くから取り掛かかれよ。」
しかし、早乙女はこの次の本も、〆切直前になって私に手伝いを依頼した。でもこういうのもいいかも知れない。友情というのは、こうやって育まれるものだろうから。
その日の夕方、刹那からも誕生日のプレゼントとして似顔絵を貰った。しかし刹那の奴、なんでこんなに絵が下手なんだ?
288 : 真名ちゃんもっこり日記 裏話 2006/11/17(金) 22:09:46 ID:???
真名ちゃんもっこり日記 裏話
今、大学ノートを貼り付けてこの日記の最後についてかたろうと思う。
何しろ私の誕生日前にこんなことになってしまったのは残念だ。
だが二冊目を買う余裕なんてない。
アキラが私の依頼を受けた収入を含めたすべての財布の紐を握ってしまったからだ。
なけなしの小遣いはたいてもノートを買うお金がない。
超に唆され第二の分析隊を結成したのも、スポンサー収入による別口座への報酬の期待があるからだ。
いろんな人からのスポンサーを募集している。
さて、話は変わって私の誕生日なのだが…
実は昨日、アキラに浮気したのがばれて口を聞いてくれない。どうしよう。
何とか仲直りをしたいのだが、おや?キッチンで話しているのはアキラと四葉?
「それで、ケーキはどういった風に?」
「普通のショートケーキでいいよ、真名もそれで喜ぶから」
うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
アキラすまなかったアキラ。私はお前の愛をしっかりと受け取った!
しっかり謝って今後ともお付き合いを………?
「生地、焦がしてしまいましたね」
「大丈夫だよ、上だけだしクリーム塗ったら分からないから」
えええええええええええええええええええええ!?
「ハッピーバースディ真名」
「…う、うん」
「ケーキ食べて、私が作ったの。あ、昨日のことはもう怒ってないよ」
いや怒ってます、絶対怒ってます…
「食べて」
はい…い、いただきま
291 : 幻の彼方の温もりを (1/6) 2006/11/17(金) 22:13:11 ID:???
* *
……今でも時折、彼女は夢に見る。
『彼』の大きな背中。『彼』の手の温もり。『彼』の声。
『彼』と過ごした日々。『彼』と並んで待った夜明け。
『彼』と共に駆け抜けた戦場。『彼』と共に勝ち得た、人々の笑顔。
大変だったけれども充実していたあの頃。満たされていたあの頃。
そして――『彼』との、最後の日。
『彼女』は、そして絶望と共に心の奥深くに閉じ篭もる。
魂の最も深いところ、深淵の奥底の暗闇に、彼女は引き篭もる。
顔には出さない。顔だけならば時折笑みさえ浮かべて見せる。
けれども、『彼女』は笑わない。心の奥底で膝を抱えた『彼女』は、笑わない。
『彼女』が欲しいのは、『彼』ただ1人だけ。他の誰にもその代わりは務まらない。
彼女の心の底で、『彼女』は溜息と共に呟く。
『マスター……。どうして、私だけ、こんな所に残して……。いっそ、私も一緒に……』
しかし『彼女』の呟きに応える者はない。
『彼女』は、彼女の中の『女』は、失われた面影を求め続ける。
あれから時は流れて、心の傷もだいぶ癒えた。
友達も増えた。心許せる相手もできた。
大切な存在も、できた。
けれども、彼女が『女』として愛を捧げる相手は、もう居ない。
今、彼女が最も大切に思っている人も、しかし『女として』愛しているのかと問われると、少し違う。
失われた愛に、未だに縛られ続けている。
今でも危険な『仕事』を続けているのも、硝煙の向こうに『彼』の幻が垣間見えるからで――
けれども一方で、それはひょっとしたら、自己欺瞞に満ちた遠回しな自殺志願なのかもしれなくて――
* *
「……で、お前は一体何をしているんだ、こんな所で?」
「散歩でござるよ♪ 月がこんなに綺麗な夜でござるからなァ♪」
292 : 幻の彼方の温もりを (2/6) 2006/11/17(金) 22:14:19 ID:???
突然背後に現れた気配に反射的に引き金を引き、しかしその銃弾はクナイに弾かれて。
改めて暗がりにいる相手をよくよく見れば――それは『ターゲット』でなく、級友だった。
長瀬楓。3年A組出席番号20番。真名に匹敵する体格の、忍術の使い手。
絶大なる運動能力を持っているくせに、所属しているのは「さんぽ部」のみ、というふざけた人物である。
麻帆良学園を取り巻く森の中、貴重な銃弾を無駄遣いしてしまった真名は睨みつけるが。
楓は相変わらずの涼しい表情で、木の枝からヒョイと飛び降りて来る。
「そういう真名殿は、何か仕事でござるかな?」
「……ああ。大した奴ではないらしいが、化け物が侵入したらしい。その始末だよ」
緊張感のない楓に対し、真名は厳しい表情で応える。
侵入したのはちょっとした妖怪のようなものであり、真名たちのレベルからすれば雑魚でしかない。
けれど、一般人にとっては十分な脅威にもなりうる悪意の塊だ。早いところ始末するに限る。
「ふむ。よし、拙者もヒマだし、手伝うでござるよ?」
「いらん。私1人で十分だ。大体これは、私の受けた仕事だしな」
「……つれないでござるなァ」
ありがたい申し出を、しかし真名は断る。
楓の強さはよく知っているが、しかしこれは真名のプライドの問題。
取り付く島もない真名の様子に、しかし楓はニコニコと笑顔のまま。
「では、真名殿の仕事っぷりを見学させて貰うでござる。何、邪魔にはならないでござるよ」
「……勝手にしろ」
真名は投げやりに答える。この調子では、どうせ嫌だと言ってもついてくるに違いない。
実際、楓の実力なら邪魔になることはあるまいが、しかしどうしてこうも懐いてくるのか。
真名はそれらしいきっかけに思い至り、数日前の自分の迂闊さに溜息をつく。
「時給1万円……。
あの時は当座の現金が必要な状況だったが、しかしあの依頼は断るべきだったか……?」
「何か言ったでござるか?」
「独り言だ。気にするな。…………ッ!?」
293 : 幻の彼方の温もりを (3/6) 2006/11/17(金) 22:15:14 ID:???
楓の言葉に、突き放すように答えた真名は――唐突に、殺気を感じた。それも複数。
視界の隅に子鬼のような小さな影を認めた時には、考えるよりも先に身体が動いている。
『それ』が放った気弾?を、大きく跳躍して避けつつ、拳銃を抜くと同時に発砲。
術を施された弾丸が正確な射撃によって子鬼の額に吸い込まれ、小さな悲鳴と共に『それ』は塵に還る。
だが敵は1体ではない。周囲を取り囲む同種の気配に、真名は駆け、跳びながら銃を乱射する。
真名の銃が火を噴くたびに、悲鳴が上がり、気配が1つ減る。
近くに居るはずの楓のことは、考えない。
心配しなくても楓は流れ弾に当たるような間抜けではない。この程度の化け物にどうこうされる奴でもない。
……しかし「考えない」、と頭の中で呟いている時点で、実は少しだけ、注意力が削がれていたのだった。
「これで最後ッ……!?」
無数の小妖怪たちとの戦いの中、駆け回るうちに一本の太い木の枝の上に跳び乗っていた真名。
彼女はそして、最後の一体を撃ち抜いて――
しかし同時に、『それ』が放った最期の気弾が、真名の立つ木の枝を撃ち抜いていた。
「しまったッ……!」
タイミングが悪すぎた。最後の敵を狙った最後の射撃の直後、僅かに姿勢が崩れていた真名。
バランスを取り戻す前に足場を崩され、落下する。
体勢が悪い。地面まで近過ぎる。ついてないことに落下地点には大きな岩。受身が間に合わない。
「くッ……!」
目の前に岩が迫る。危ない角度からの落下。真名の脳裏に、走馬灯のように過去の記憶が蘇る――
* *
「くッ……!」
激しい戦闘がまさに決着しようというその時、突然崩れた足場。ふわりと浮く身体。
ミスった、と思ったマナは、次の瞬間、力強い腕にがっしと抱き上げられていた。
片腕を背中に、片腕を膝の裏に。いわゆる、『お姫様だっこ』の姿勢である。
「……大丈夫かい、マナ?」
「ま、マスター……!?」
294 : 幻の彼方の温もりを (4/6) 2006/11/17(金) 22:16:05 ID:???
マナが撃った最後の敵が力なく倒れていくのが、視界の隅に見える。
けれどマナにはそちらよりも、間近に迫った『彼』の顔に目が釘付けで。
少女の小柄な身体を抱き、軽々と跳躍しながら、『彼』は彼女の視線に気付いてフッと笑う。
「どうかしたかな? 怪我はないかい?」
「い、いや、大丈夫、だけど……」
至近距離から向けられた『彼』の笑顔に、マナは彼女らしくもなく頬を染める。
思わずドギマギして、慌てて、そしてすぐにその感情は自己嫌悪に変わる。
自分は従者だ。『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』を守る従者だ。
それがこんな――自分のミスで足を滑らせて、逆にマスターに助けてもらうハメになるなんて――
「いいんだよ」
「え?」
「気にすることはない。ピンチの時は、お互い様さ」
「…………」
彼は悠々と着地しながら、小さく呟く。マナの心の中を見通したような言葉。
マナは一瞬驚いて、そしげすぐに安心したような微笑を浮かべ、頷いた。
黙って『彼女』は、『彼』の胸に頭を預ける。
逞しい腕。逞しい胸板。肌に感じる『彼』の体温も、僅かに香る『彼』の体臭も、むしろ心地よくて。
しばしの間、マナは『彼』の腕に身を委ねる。
それは2人が2人で居られた頃の、大切な思い出――
* *
「――などの。真名殿!?」
「んんっ……!?」
「良かった。大丈夫でござるか、真名殿」
迂闊にも一瞬、意識が飛びかけていたらしい。
真名が正気を取り戻した時、彼女が最初に見たのは、近い距離にある微笑。最初に感じたのは浮遊感。
楓は笑っている。相変わらずの細い目で、笑っている。
295 : 幻の彼方の温もりを (5/6) 2006/11/17(金) 22:16:55 ID:???
ちょっとの混乱の後、やがて真名は状況を把握する。
最後の化け物を倒し、しかしそれと同時に枝から落ちかけた真名。
それを、近くで「見学」していた楓が、咄嗟に飛び出して救出したのだ。
空中で真名を掻っ攫った勢いで宙を舞っていた楓が、一本の大木の枝に着地する。
重力の方向が変わって初めて、真名は自分の背中と膝の裏に楓の腕があることに気付く。
いわゆる『お姫様だっこ』の姿勢。
記憶の彼方にあった『彼』との思い出の姿勢。
つい先日、時給1万円の報酬で、他ならぬ楓を抱き上げた時の姿勢。
「ちょっ、まっ……!」
「いやはや、らしくないでござるよ、真名殿。
こういうのを猿の川流れ・河童も木から落ちる、とでも言うのでござるかな?
いやはやしかし、無事で良かったでござる。拙者が居て良かったでござるなぁ。
まあ、困った時はお互い様でござる。気にすることはないでござるよ。
……真名殿? どうかなされたかな? 顔が赤いでござるよ?」
「…………」
赤面し、少しの間あたふたしていた真名は。ちょっと迷った後、呟いた。
「……楓。2つばかり、頼みがある。恥を忍んで、頼みがある」
「なんでござるかな?」
「しばらく、黙っててくれないか。そして――何も聞かず、もう少しこのままで、いさせてくれ」
「……あいあい♪」
真名らしくもない、消え入るような声でのお願い。楓は相変わらずの飄々とした笑みと共に頷く。
高い木の枝の上、月を見上げる楓。真名はその豊かな胸に、頭を預ける。
細いけれど力強い腕。肌から伝わってくる体温。僅かに香る楓の体臭。
そして、『あの時』と同じ、自分の姿勢。
楓の笑顔を間近から見上げながら、真名はゆっくりと目を閉じて――
296 : 幻の彼方の温もりを (6/6) 2006/11/17(金) 22:17:59 ID:???
* *
彼女の魂の奥底で、そして『彼女』は、顔を上げた。
暗闇の中で膝を抱えたまま、寂しげに、それでも『彼女』は小さな笑みを浮かべた。
頑張って笑みを浮かべて、呟く。聞く者が居ないことを知りつつ、なお呟く。
『……マスター。私は、なんとかやっていけるかもしれない。もうちょっと、頑張れると思う』
彼女は優しい温もりの中、胸に提げたペンダントをギュッと握り締めた。
* *
空には綺麗な月。木の上の2人をいつまでも、静かな月の光が照らしている。
(終わり)
300 : 真名 幻想入浴剤 2006/11/17(金) 23:25:25 ID:???
真名 幻想入浴剤
1/4
誕生日。今の私には気にならないが、そのうち気になってくるというものらしい
たぶんは私は気にならないほうだと・・・思う
そんな私の誕生日に一つのプレゼントが届いた
送り人は”超 鈴音”、我が学園の天才の一人だ
手に持つと、小さな小包からは少しばかり良い香りがした。香水か何かであろうか?
リボンを解き、包みを開ける。すると中から出てきたのは緑色の粉の入った小さな小瓶であった
コルクを取り、中の匂いを嗅いでみる。先ほどからの良い香りの元はコイツであることがわかる
一緒に添えられていた紙にこの中身のことが書いてあった
”これは特製入浴剤ネ、お風呂に入れて使って欲しいヨ。きっと気持ちよくなれるネ”
なるほど、入浴剤ならこの粉の意味がわかる。しかし容量から見て一回分ぐらいか?
せっかくのご厚意だ。それに甘えようと私は思った
少しぬるめのお湯を張り、私はお風呂の準備を進める
瓶のコルクを取り、その中身をバスタブに注いだ。すると、ふわりと薔薇に似たような甘い香りがお風呂の中に広がった
普段、香りなどは気にしたことはないが、これは良いものだと思う
身を清め、私は乳緑色になった湯に体を沈めた。少しぬるっとなった湯が体にまとわりつく
しかしそれは決して気持ち悪いものではない。むしろ肌を優しく包んでくれるものであった
真名 「ふぅ・・・」
心地よさのあまり、ついため息が出てしまう
一つ息を吸って吐くごとに心は安らいでゆく。全身の筋肉の緊張は解け、心と同様に安らいでいった
そして・・・気がつかないうちに私の意識も安らいでしまったようだ
301 : 真名 幻想入浴剤 2006/11/17(金) 23:25:57 ID:G4Zf4qnX
2/4
見上げれば暗闇、そこには星一つ煌めいてはいない
吐く息は白くなり、今自分のいる場所は少し湿り始めてきていることに気がつく
それでも不思議と寒さは感じかなった。それはこの全身を覆っている毛のせいだろう
手を見てみた。肉球が真っ赤になっている。たぶんそこだけは寒さを感じているのだろう
身を乗り出そうと壁に手をついてみた。しかし自分より遙かに高いその壁は私がどうにか出来るものでは無かった
四方を見てみる、同じような壁がぐるりと私を囲んでいた。つまり、逃げられない
私は実を丸めると、自分の尻尾を抱きしめた。寂しいときはこうしたほうが心が安らぐ
どのくらい時間が経ったのかはわからない。空は相変わらずの暗闇だった
誰かがぽつんと私の体を叩いた。見回してみるが誰もいない
はて?
そしてまたぽつんと誰かが叩いた。しかしやっぱり誰もいない
ぽつん、ぽつん、ぽつん・・・
誰かが叩く回数が増えてきた。止めてくれ、気持ち悪いじゃないか
しかしその誰かは叩くのを止めてくれない
やがて私の体が濡れてきた。初めは血でも出たのかと思ったが、そんな匂いはしない
これは・・・水だった。一体どこから?
そう思っていると、誰かが私の鼻っ面をぽつんと叩いた
初めて見るそれ、指先ほどもある水滴が空から降って来たのだ
ああ、なるほど。さっきから叩いていたのはこれだったのか
私はこれ以上濡れると寒くなると思ったので、天に向かって叫んでみた
”わん!!!”
しかし天は水滴を降らすのを止めてはくれなかった
302 : 真名 幻想入浴剤 2006/11/17(金) 23:26:26 ID:???
3/4
私は何度も叫んでみた。しかし天はいうことを聞いてはくれない
やめてくれ、寒くなってきたじゃないか。それにお腹が空いてきた
”誰かいないのか”
そう叫ぶようになっていた
やがて私は叩かれ続けながら叫ぶのを止めた。疲れたからだ
お腹が空き、寒くなってきた
そして何より寂しい
私は初めから一人であったろうか?違う気がする
暖かい誰かがいて、邪魔だと思ったけど誰かがいて・・・
みんなどこへ行った?どうして私が一人にならなければならない
だれか・・・だれか・・・
”わん!!!”
思いっきり叫んだら、今度は怖くなってきた
そのときだった。誰かが近づいてくることに気がついた
それは壁の向こう。誰でもいい、私を一人にしないで!!!
”わん!!!”
天がさらに暗くなった。だけどその天には匂いがある。そしてそれは天ではなく、誰かだった
?? 「捨てられちゃったんだね。大丈夫、もう怖くない・・・」
303 : 真名 幻想入浴剤 2006/11/17(金) 23:27:27 ID:???
4/4
その誰かが、私の体に触れたようだ。とても暖かく、心地よい
私は抱きかかえられたようで、空へと浮かんだ
”わん!”
自然と尻尾を振りたくなった。以前にもあったこんな感情、それは嬉しいという感情
?? 「一緒に行こう。お腹、空いてるだろう」
何を言っているかはわからないが、どうやら一緒にいてくれるようだ
そして気がつくと、誰かに叩かれなくなっていた。もう、寒くはない
アキラ 「真名・・・真名・・・お風呂に入っているの?」
私はアキラの声でハッとなった。どうやらあまりの心地良さに眠ってしまい夢を見ていた様だ
真名 「あ、ああ。もう出るよ、次はいるか?」
するとアキラは慌てた様子でこう言った
アキラ 「あの、この子をお風呂に入れて欲しいんだ。雨で濡れてきっと体が冷えているから」
ドアが少しだけ開くと、そこからアキラの手が出てきた
その手には取れたての・・・もとい仔犬が抱かれている
真名 「わかった。それにしてもどうしたんだ、この子?」
アキラ 「・・・捨てられていた。この寒空の雨に濡れて震えていたんだ」
果たしてこれは・・・超の仕業なのか?まあ、どうでも良いか
真名 「ほら、お風呂だぞ。とは言っても溺れてしまうだろうから、お前はこの桶の中だ」
私は手桶に浴槽のお湯を入れると、そこに仔犬を入れた
仔犬は初めは少し暴れたが、やがて大人しくなった
そう言えばどう呼べばいいのだろうか。さて、君の名前は・・・
完
最終更新:2008年10月26日 02:33