750 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:27:51 ID:???
1/31

私、長谷川千雨は、ふと、ミカンを食べたいと思った。
なので。
「ザジーーー、コタツの上のミカン取ってくれー」
コタツでぬくぬくと仰向けに寝そべったまま、台所にいるはずの
ザジに呼びかけた。
コタツに入っている私の方がミカンに近いのは自明なのだが、
起き上がりたくない。メンドくさいのだ。
ザジがみんなやってくれるのに起き上がるわけがないじゃないか。
私は、冬休みに入って以降、コタツから出るのはトイレと風呂の時
ぐらい、という生活を送っている。
飯を作るのはザジがやってくれている。さらに、どうしても動き
たくない時は、膝枕で食べさせてもらってもいる。あーんをせずとも、
ザジはタイミングを見計らって口に入れてくれる。テレビを見て横を
向いている時でも、上手く食べさせてくれる。
客の応対もザジがやってくれている。朝倉やメガネあたりが
ちょくちょく来ていたようだが、私は全く会っていない。ザジに帰って
もらうように言ったから。誰が外なんか出るかっつーの。
年末のイベントだろうが、初詣撮影会だろうが、『コタツでごろごろ』に
勝る重要行事なんてねーっーの。
掃除もザジがやってくれる。衣装の整理・手入れも任せていたりする。
どうせ、もうばれてるんだし。私とザジの仲だ。隠す必要なんてないさ。
そうそう、年末大掃除の時は、ザジは一人で本当によくやってくれた。
コタツの中から応援していた私もくたくたになったものだ。……のぼ
せたわけでも、だらけ過ぎたわけでも、ないぞ。
年末といえば、年賀状書きもザジにやってもらった。代筆・代入力・
代印刷してもらった、だけ、だが。文章はちゃんと自分で考えた。
「あけましておめでとう」……良い言葉だと思わんか?一言で全てが
通じるんだぞ。ナイスチョイス、私。


751 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:28:44 ID:???
2/31

ホームページは「正月は休み。新年は9日より再開」と告知してある。
ザジにそう更新してもらった。私とザジの(ry)ないさ。とにかく、そう
いう訳だから、やんなくて良い。
つーわけで、ゴロゴロだ。毎日、ゴロゴロだ。
ああ、なんと甘美な生活。ああ、何と楽々な生活。
素晴らしきかな、正月。素晴らしきかな、冬休み。
ああ、だがしかし、その冬休みも随分経っちまった。
今日は1月3日。
世間では、そろそろお正月気分から抜け出て、日常生活のリズムに
戻り始める頃らしい。
私は嫌だが。
もうじき新学期だって?それがどうした。
今は、冬休みだ。
どうしてこんな快適な冬休み生活から抜け出せようか。いや、抜け
出せない。反語表現だ。ふふ、我ながら機知に富んだ言い回しだ。
新年早々、頭脳からウィットがこぼれ落ちてくるのを止められないぜー。
フゥワーハハハハァー。
……そりゃあ、まあ、少しはこの生活から抜け出た方がいいかな、
と思うことも、あるよ。
正月が来るよりも早く、去年のクリスマス頃から、ずーっと正月
気分の食っちゃ寝生活を続けているものだから、身一つ起こすこと
さえも今は億劫になってきている。
家事もしないから、本当に、運動ゼロだ。
ぶっちゃけ、腹の肉がヤバイ。


752 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:29:27 ID:???
3/31

ちょっと触ってみる。
ぷに。
ぷにぷに。
ぷに。
うん。
問題ない。
大丈夫だ、問題なし。
だって、私にはザジがいるからっ!
ザジは「どんな千雨でも千雨が千雨なら、それでいい」って普段から
言ってくれてるしな!
それなら、OK。問題なしっ。
少しくらい腹がブタのようになったところで、ザジとの仲が変わる
ことなどはないっ。
……あー、しかし。ところで。
ザジ、来てくれないな。
聞こえてないのか?
しょうがないな。
重い身をよじって、もう一度呼びかける。
「おーい、ザ」
ガチャリ
開くドアの向こうに、ザジの姿が見えた。
何だ、外に出ていたのか。あー、年賀状取りに行ってくれてたのか。
まだ、一足遅い年賀状が届く日数だもんな。
ザジが靴を脱いで、こちらを見た。ザジの唇が動いた。
「ブタ……」
…………………
「 え? 」


753 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:30:19 ID:???
4/31

ザジが部屋の中に入ってくる。ザジの唇がまた音を紡ぐ。
「ブタが……」
「  え?  」
ザジはうつ伏せになっている私の頭上、眼前に立ち、私を見下ろし、
確かに言った。
「ブタめ」
「うわあああああああああああああああああっっっ!!!!!」
一瞬で身を起こし、ザジの下半身に抱きついた。
「私が悪かったぁぁぁぁぁぁぁっっ!!家事全部押し付けて悪かった!
ブタのようにゴロゴロし続けて悪かったぁぁっ!反省するっ!
反省するから、だから、そんな目で私を見ないでくれぇぇぇぇぇっっ!!!」
勢いのついた私の抱擁を受けて、ザジが尻餅をついた。
目線の高さが同じになる。私はザジの腰に抱きついたまま、半泣きで
ザジの顔を見つめた。
見つめたザジの目はいつも通りの感じがした。いつものように何も
言わないけれど、いつものような優しい、けっして冷たくない目だった。
不安感と安心感がない交ぜになった私に、ぴ、と一枚の紙が突き
つけられる。葉書のようだ。
葉書に書かれていた文字の内、目立った文字はこうだった。
まず『ブ』。
さらに『タ』。
その次に『めくり大会』。
続けて読んで。
「ブタめくり大会ぃーーーっ?ブタめくり……ブタめく……ブタめ…
…そ、そうか、お前今、葉書のこと言いながら入ってきたんだなっ?」
「……」
こく。


754 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:31:02 ID:???
5/31

ザジの頷きが私を心底安堵させてくれた。
「よ、良かったぁーーーーー」
嫌われたわけじゃなかった。
脱力して、ザジの腰からズルズル下がる。
で、もう一回コタツの中へ。
「それじゃ改めて、ザジ。ミカン取っ」
ぺし。
当初の注文を言いかけたら、葉書で顔をはたかれた。
顔を葉書から逸らし、ザジの顔を見ようとするが、葉書でシャット
アウトされる。葉書をよく見ろ、ということらしい。
「なになに……『謹賀新年……』」
ここら辺は定番のあいさつ文だった。重要なのはそれからだ。
「『3-Aの皆様におかれましては、きっと、自堕落でグータラで
どーしよーもない毎日を、もしくは、そんな同居人をただ悲しく
見つめるだけの日々をお過ごしのことと思います。そんな本日1月3日、
私ども超包子は一つのイベントを本日開催したいと思います。詳しい
内容はイベント会場、広場内『ナイトメアサーカステント』にて
ご説明致します。少々広い室内空間が必要だったのですが、N・サーカス様の
御厚意で、充実したイベント環境をご用意することができました。
きっと、素晴らしい一日になることを御約束致します。是非、皆様
お誘い合わせの上、動き易い服で、ご参加下さいませ。では、皆様、
後ほどお会い致しましょう。超包子代表 超鈴音』……なんだこりゃ」
年賀状の内容を音読し終えた私は、ぐいと引っ張り起こされた。
「ん?お、おい、何だ、ぶっ」
顔に布がぶつかる。手に取ってみると、それはジャージだった。
「おい、まさか」
「行こう」
そう呟くザジは、もうジャージに着替え終えていた。


755 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:31:41 ID:???
6/31

超包子が、広場の近くで展開していた。
途中で温かい飲み物を買ってちょっとずつ飲みながら、ゆっくり
到着した。この時には、クラスメイトの多くがもう集まっていて、
場はすでに盛り上がっていた。
《お、最後の二人が来たねー。これで、全員だー。寒い中&忙しいかも
しれない中、みんな集まってくれて、ありがとー!》
朝倉が超包子前で司会役を務めている。新年早々、エンジン全開で、
マイクを握っている。
超はその後ろで、茶々丸さん、ハカセさん、四葉さんとなにやら
話しこんでいる。イベントの打ち合わせかな。
まあ、そんな面白みのある姿でもない。
壇上から他へ視線を移した。
その時。奇妙なものが視界に入った。超包子の入り口に白い塊が
横たわっていたのだ。
あれは……古か?
白いチャイナ服を着た古が階段で横になっている。身動き一つせずに、
頭を上段に載せて、ぼーっと空を見ていた。
あそこでは背中が痛いだろうに。寝易い所に動けばいいのになぁ。
そんな気力も無い、のか?
なんだか、随分疲れた顔をしていた。
イベントの準備にハードワークでもやらされたのかね。
《はーーい、それではこっちの準備が整ったので、みんな広場の
サーカステント内に移動してーーー!》
まあ、考えても分かることではない。
「……行くか」
こく。
移動しながら、考え事を切り替えた。
それ以上に考えるべきことが、別にあったのだ。


756 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:32:20 ID:???
7/31

「これで全員来てる……のか?ひい、ふう、みい……ネギ先生を含めて
30人はいるみたいだけど、クラスメイト以外もいるぞ。あれとか、
あれとか。力士が混じってんじゃねーか。なあ」
私たちの前を歩く人物の背中をザジに示した。
すると、ザジは、ふるふる、と首を横に振り、私に耳打ちした。
「……え?あれ、が、(自主規制)?」
ザジは淡々と、力士のような面々にクラスメイトの名を付けた。
「う、嘘だろっ!じゃあ、あの一番向こうの、どうしても大晦日の
試合に勝てない元横綱みたいなのは……(自主規制2)だってぇ!?
し、しかも、あっちの、木にミシミシいわせながら小休止している
のが(自主規制3)!!?」
そんな、何で、何で……こんなことが……ハッ!
「……正月太り……?」
こ く り
いつになく力を込めて頷くザジ。
その肯定を受けても、私はこの現実が信じられなかった。
あの、(自主規制)が!いつも―――で、―――で、―――だった、
あの(自主規制)が、たかだか数日であんな力士にっ!
あっちの(自主規制2)もそうだ!常日頃から「―――」とか言って
いたあの女が、一時の休みの内にあんな有様になりえるものなのかっ!?
(自主規制3)だってそうだ……こんなバカなことが、現実に……
ありえるのか……?
「これが現実」


757 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:31:58 ID:???
>>史伽にゅーす
・ちょ、三位がおかしい
・裕奈、正しい意見だ
・雪がゴミくずとか、アンタはそんなキャラじゃなかった筈だ

>>リクカプ様
一日も早く戻って来て


758 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:32:54 ID:???
8/31

ザジが私の目を真っ直ぐに見つめて、非情に宣告する。
「これは夢じゃない。悪夢でもない。本当の、リアル」
頬に触れていたザジの指が段々と下る。やがて腹部まで来た、時。
「あと数日遅ければ、きっと」
貴女も力士だった、とザジの瞳は告げた。
膝が崩れ落ちそうだった。
《おーーーい!お二人さーん、中、入って入ってーーーっ。イベント
主催者が挨拶と説明始めるよーーっ》
朝倉の声で、現実に戻ってくる
私が信じがたい現実を受け入れようとしている間に、みんなは先に
テント内に入ってしまったようだった。
「行こう」
ザジに引っ張られながら、私はテント内に足を踏み入れた。


759 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:33:33 ID:???
9/31

入り口はサーカスの中央部の更地、団員が演技を披露する場所、に
繋がっていた。
超たちが見当たらなかった。見回すと、観客席に超たちはいた。
《新年快楽(シン ニエン クァイ ラー)!あけましておめでとう、皆サン。
よく集まってくれたネ。来てくれたみんなは、配布した年賀状を
読んでくれたとは思うケド》
『ブタめくり』。あの年賀状には、迷惑極まりないイベント名以外、
他には何も重要なことは書いていなかった。それらは全て会場で説明
するから、と。
《順序良く説明するネ。まず、ぶっちゃけた話。このイベントの
コンセプト、目的は!》
突然響きだしたドラムロールの中、超が両手を天に向ける。
武道会の時のようだ。
《   ダイエット  ネ!!》
ざわっ……
動揺、戸惑い、不安。ザワザワの中に、個々の様々な感情が混ざり
合って、音を成した。
《このところ、五月の元に十数名もの相談があったのヨ。曰く『同居
人がゴロ寝ばかりしている』。曰く『愛する人が見る影もない有り様
になった』。どの相談者も涙ながら語ったそうネ》


760 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:34:10 ID:???
10/31

「……ザジ?」
隣にいる御人に、ふぃ、とそっぽを向かれた。
《始めの内は、五月が個別にヘルシー料理の伝授をしていたそうだけど、
何度も来る人も多かったので、五月が私に相談してきたのヨ。そして、
私は思いついた。この新春・賞金付きダイエット『ブタめくり会』を!!》
ざわ……ざわ……
《みんなには、今日ここで、ある種のカルタめくりをしてもらいたい。
カルタは上方いろはカルタを読み上げるヨ。ただし、取ってもらう
カルタは地面に置かれるのではなく、動く仕様ネ。そう》
パチン、と超が指を鳴らす。
すると、参加者が使った入り口とは反対側、もう一方の入り口から
茶々丸さんが出てきた。後ろに、数匹のイノシシを従えて。
「わー、ちっちゃーい」
「あ、可愛いー」
《葉書の予告では『ブタ』と描いたのだけれど……ごめんネ、こちらの
諸事情でブタが用意できなかったヨ。代わりに、イノシシを用意したネ。
そのイノシシたちには、一枚ずつカルタをくっつけてある。こちらが
札を読み上げるから、合った札を持つイノシシを捕まえてもらいたい。
本当は、「めくり」ということで、じっとしている巨大なブタを何とか
ひっくり返してもらう、つもりだったんだけどネ》


761 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:34:49 ID:???
11/31

超がそこまで言い終えると、不平の声が上がった。
「え~~~っ。無理ーーーっ」
「怖いよ~」
「ぶつかったら危ない……」
うん。その通りだ。正月早々、大怪我なんて嫌だぞ、あたしは。
《大丈夫ヨ……ちょっと実践してみようカ。茶々丸》
「はい」 
茶々丸さんがしゃがみ、足元にいた一匹に手を延ばした。
茶々丸さんの手がそのイノシシに触れ、なかった。触れるはずの手が
イノシシの体を通過したのだ。
おおっ!と驚きの声。
《工学部特製ホログラム、ネ。本物のイノシシたちは、別の所にいる。
そのイノシシたちは映像でこちらに持ってきているだけ。みんなの映像も、
イノシシたちがいる所に映すから、イノシシたちはみんなを避けるように
逃げる。それを追いかけてもらう。特別なグローブを配るヨ。それで
触れると、タッチできる仕組みになっている。イノシシを素手で持ち
上げたり、蹴ったりすることは不可能。翻って、イノシシに激突される
こともない。安心ヨ》
「お~、面白そ~」
「まあ、安全なら、良い運動になるかな」
やる気になった数名が、笑いあう。
私はやる気にならなかったが。
《それじゃ、ゲームに参加する人は茶々丸からグローブを受け取ってネ。
参加しないという人は観客席の方にどうぞ》
聞くが早いか、私は早速観客席に向かうことを決定した。
ここまでリアルなホログラムを実現できる技術力も素晴らしい。そんな
素晴らしい技術を活かしたゲームを体感できるのも貴重なことだろう。


762 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:35:27 ID:???
12/31

だが、面倒くさい。リアルゲームなんて、バーチャルゲームの何倍も
疲れるじゃないか。
それに、出場選手次第では、ただでは済まない展開にもなりうる。
選手同士で衝突する可能性も無いわけじゃないんだ。バカみたいに
頑丈な体も、超回避が出来る反射神経も、私は持ち合わせちゃいない。
普通にカルタ取りするって言うんなら、まだ参加しないことも
無かっただろうがな。
ああそうだ、加えて言うなら、あの超の主催だからな。賞金も結構な
額になるのだろう。それは美味しい。参加する奴はそれ目当てに全力を
出してくるんだろうなぁ。
恥ずい。絶対。そんな姿をさらすのは。
ま、とにかく観客席に上がろ。
ふと。でも、私、ここから観客席への行き方知らねーや。
「ザジー、ここから観客席ってどうやって行くんだ?」
傍にくっ付いているサーカス関係者に尋ねる。
だが、答えてくれない。
「ん?何だよ、教えてくれよ」
だが、教えてくれない。
ただじっと私の顔を見つめてくる。
「まさか、私に参加しろって言うのか?」


763 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:36:04 ID:???
13/31

こく。
おいおいおい。
私たちの周囲では、数人がグローブを受け取っていた。周りの人間に
参加を熱心に促されている力士や、そんなに外見が変わったように
見えないが、参加を決めている者がいた。
「周りを見てみろ。グローブ受け取っているのは、運動大得意な
連中や力士……いろんな意味で曲者な奴ばっかりだぞ。私が万が一にも
あいつらとぶつかったらどうなると思う?軽い怪我じゃ済まなくなる
かも知れないんだぞぉ」
熱意を込めて、私の身を案じてくれるようザジに求めた。
少し、ザジが下を向いた。考え始めてくれたようだ。
いけるか……と少し希望を持った時、ザジの顔が上を向いた。
「え、案内してくれる?よし、じゃ早速……『その前にお手洗い
行きたい』?『途中まで同じ道だから一緒に』?ん、OK。行こうぜ」
よーし、説得成功―。
ふと、周りの連中はどうしているのかと思った。
よくよく見てみると、参加しない面々は茶々丸さんに道を教えてもらって、
移動している。
あ、そうか、茶々丸さんに聞けば良かったのか。
そんなことを考えながら、私はみんなとは反対側の出入り口を、
ザジにくっ付いて、通って行った。


764 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:36:43 ID:???
14/31

《お待たせしましたー。参加者総勢8名が決定したので、『第一回・
ブタめくり大会改め、イノシシ取り大会』を始めます!!》
朝倉が観客席近くに設置された司会者用ブースに座り、宣言した。
《では、まずは選手の紹介から。知ってる顔ばっかだけど、せっかく
だしねっ。グローブ番号1番『参加者の中で出場をイの一番に表明!・
無敵の必殺痛恨仕事人』龍宮真名さーーーーーんっ!!》
「アキラ……必ず勝つからなっ!」
わーーーーっ! パチパチパチパチパチ!
歓声と拍手が送られる。
《グローブ番号2番『清く正しく美しくっ!ついでに、エロくやらしく
逞しくっ・ゴージャスクラスリーダー』雪広あやかーーーーーっ!!》
「ふふ、文武両道の私の為にあるような競技ですわねっ」
わー(ry) パチ(ry) 歓声(ry)
《グローブ3番『対カルタ取り、イメージ的には最強だ!この競技では
どうやろな?・3‐Aのミス雅やか』近衛木乃香ーーーーーっ!!》
「せっちゃん見ててなーーっ」
わー(ry)


765 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:38:50 ID:???
15/31

《4番『危険の少ない(予定の)本競技、その不死身具合はどこまで
活かせるか!・図書館組の頭(ヘッド)』早乙女ハルナぁーーーーーっ!!》
「のどか、夕映ーーー、終わったらパァーーっと食べに行くよーっ」
わ(ry)
《5番『仕方ねーだろ!メインの絡み相手は先生とロリっ娘なんだから!・
唯一の自己推薦』春日美空ーーーーーっ!!》
「うるせーーーいっ!」
w(ry)
《6番『身体は子供でも心は大人!・威厳をどっかに落とした専制君主』
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルぅーーーーーっ!!》
「茶々丸、貴様ぁーーーーーーーーーっ!ぎゃぴーーーーーっ!!!」
(ry)
《7番『争い・戦(いくさ)・勝負事に惹かれるのは本能ゆえか・
人類ネコk、ゲフンゲフンッ』あ、明石裕奈ーーーーーっ!!》
「ナオーーーーーーーーンッ」
(r)
出場選手がみんな、七人七様の紹介・声援を受けて、スポット
ライトを浴びている。みんなギラギラして見える。何が彼女たちを
そこまでやる気にさせているんだろうか。
とても眩しい。
スポットライトが。


766 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:39:46 ID:???
16/31

《そして最後に、グローブ番号8番》
で、それで、何で。
《『な、なんですか、ここ?私これから何させられるんですか?
それはもちろん、イノシシ取りさっ!・迷える自称一般人』》
私はライトを浴びているんですか?
《長谷川千雨ちゃーーーーーんっ!!》
「……………………ココハドコ?」
ワタシハダァレ?
あのひとはだれ?
ザジだ。
観客席から私を見下ろしている。
私は見下ろされている。そういう位置関係だ。
……何故こんな位置関係になっている?
回想してみる。
ザジに途中まで付いて行って……お手洗いで別れた。
で、そこからは行き方を教えてもらって。一人で、教わった通りに
歩いていった。ぐるーーーっと歩いていった。で、明るい所が見えた。
着いたと思って、出入り口を潜り抜けて、一歩踏み出したら。
ガシャーン、と。音がして。振り返ったら、出入り口が塞がってて。
もう一回、前を向いたら。
元の場所でした。
何故だろう?
念のため、もう一度回想してみる。
同じシーンが脳内で再生された。
何故だろう?
「………………謀られたからだよ……」



767 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:40:19 ID:???
17/31

人前だとは分かっているが、思わず地に両手両膝をつけてしまった。
ザジが私を騙すなんて……そんなに、参加させたかったのか?
顔を上げ、ザジを見る。ザジの口がパクパクしていた。
声は聞こえなかった。が、唇は読めた。
「がんばれ」
……
分かったよ。
今日は、とりあえず、がんばってみるよ。
それでは、とばかりに、改めて対戦相手をチェックする。
私を除くと、7人。内、3人が力士だ。(自主規制)と、(自主規制2)と、
(自主規制3)がそうだ。
勝てる訳ねぇ~~~~~。
ついでに言うと、残りの二人も、体重差は関係無しに、強力な
対戦相手だ。
一気にやる気が無くなった。獲得枚数0も覚悟だな。
周りにぶつからない様に安全地帯に避難し続けよう。
それで良いだろう? ザジ。
振り返ることなく、心の中で言ってみた。
「調子はドウカ?」
「うおっ」
超に、いつの間にか背後を取られていた。
いいけどさ。こいつなら何が出来てもおかしくない。
《審判役・超りんもスタンバイできましたーーっ》


768 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:40:57 ID:???
18/31

「お前がやるのか。機械判定とかじゃないのか?」
「そこまでの機能をグローブ等に付ける時間が無かったのヨ。朝倉では
この面々のスピードに追いつけないしネ。千雨サンぐらいの選手ばっかり
ならば、ともかくとして」
「近衛だって、運動面はそんなに凄くないぞ」
「京都人を舐めてはいかんヨ……ことカルタに関して、この時代の
京都人は最新式の軍用強、ゲフンゲフン」
今さら隠さんでも良いだろうに。
そうだ。ちょうどいい。気にはなっていたんだ。集合場所で見た
古のことを尋ねた。
「古?ああ、心配ないヨ、身体に異状はない。ただの疲労。ブタを
集められなかったのは、古のミスでネ。本当なら、ブタはレンタル
するか、買って集めるはずだったんだけど、それが出来なくなって
シマッタ。しょうがないから、古を山へ行かせて、徹夜で集めさせて
来たのヨ」
……鳥獣なんたら法、は……?
「私は悪い魔法使いダ」
「それは他人の決め科白だろーが」
世界を覆しかけた正義の味方サマが何を言う。
《茶々丸さん、用意できた?……OK。お待たせーーーッ、それじゃ、
始めようかぁーっ! 超りん?》
「ウム」


769 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:42:16 ID:???
19/31

《開始の宣言『ファイト!』と同時に、向こうのイノシシたちの所に、
あんたたちの画像が行くから、一気にイノシシは逃げ回ると思う。
迫力あるだろうから、気をつけてね。トイレ行った?》
「無論」
「当然」
「うん」
「念のため」
「常識っしょ」
「そうか……だからこんな物を履かさ……」
「にゃ」
「……超。私、まだ行ってな」
《OK!レディ!!》
言い終わる前に、勝負の火蓋に朝倉の手がかけられた。
ブゥゥゥゥゥゥゥンッ
目の前、すぐ傍に、二・三匹のイノシシが出現する。
って。これ。一匹、一匹が、身の丈1メートル以上あるぞ!?
「さっきのは参考用だったからネ。大丈夫。痛くナイ」
「いやでも、迫力ありす……って、だから私トイレ行きた」
《ファイト!!!!!!!!!》
火蓋が切って落とされてしまった。
その瞬間、イノシシと目が合った。あ、なるほど。きっと、こいつは
今向こうに伝わったホログラム画像の私を見ているんだな。
と、ほんの少しの間ながら、のんきなことを考えていると。
突進されました。イノシシに。なぜか、同時に10匹ほどに。
「うわぁぁぁぁぁぁあっっ!!」
逃げるどころか立ち向かって来るじゃねーーーかぁっ!!!
何でだ!?体質かっ!!?


770 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:43:10 ID:???
20/31

とにかく、怖っ!!!
いや。
いやいやいやいやいや大丈夫、怖くない怖くない、絶対当たらない。
落ち着け。Be cool.
《それじゃ、一枚目の札読みまーっす。えーと『雀百まで――』》
そうだ、これ一応、カルタ取りだった。
縦横無尽に、さらには私の身体を幾度も通り抜ける数十のイノシシたち。
その背にはカルタらしきものが確かにくっ付いている。
しかし、見えん。絵も字も、よく読み取れん。イノシシが速過ぎて。
あー、こりゃホントに勝つのは無理だ。
この速度で、カルタの絵が見えるのは龍宮さんくらいじゃ……
ん?
「そこだーーーーーーっ!!」
「それなのーーーーーっ!?」
怒涛の勢いで参加者全員が私に向かって疾走してくる!!!それも、
四方八方からだっ!!!!!
「何で!?」
そう口では言いながらも、私の頭の片隅では理知的にその原因が
推測されていた。
1.絵・字は龍宮さんしか見えない→龍宮さんは目標へダッシュ。
2.他のみんなは全然読めない→龍宮さんが走る方にとりあえず走る。
3.今の札は、きっと私の方にいるイノシシなんだろう。
うむ、なるほど。
で、だ。どうしようか。
避ける場所が、ねぇええええっ!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
咄嗟にしゃがみ込む。突っ立っている度胸なんて無かったからだ。
これが、功を奏した。


771 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:43:50 ID:???
21/31

突っ込んできたみんなが私の頭上をダイビングして越えていく。
ドンガラガッシャぁぁぁぁぁんッッ
背後から、何かと何かが多数ぶつかり合った轟音。
振り向いてみると、なんつーか、みんな……こんがらがっていた。
ピピィーーーーーッ!!
《一枚目終了―っ!!さあ、果たして誰がゲットしたのかぁーーー!?》
審判の笛が鳴り、実況の声が場を盛り上げる。大多数がこんがら
がったままでも、ゲームは間断なく進められていく。
「一枚目は……2番!委員長ネ!!」
おおっ!!
観客席から歓声が上がる。ついでに、紙切れも何枚かが宙に上がる。
競馬場のようだ……何となくそう思った。つーか、あれ、何の紙?
地上に視線を戻すと、こんがらがっていた塊が少しずつほどけ
始めていた。
「くっ、次こそは……」
「この私が後れを取るとは……」
「あ~~~ん……」
もぞもぞと一人一人が塊からばらけて、立ち上がる。
轟音発生跡地から、一人が動かない。
おーい、その委員長、失神してないか?


772 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:44:20 ID:???
22/31

《おおーっと、記念すべき一枚目を獲得した委員長がダウーーーンッ!
超科学の粋を結集して企画された安全極まりないはずの本競技にて、
何たる悲劇っ!これは、如何に科学が進歩しようとも、人的ミスは
なくならない、そんな現代社会への身を呈した風刺なのかっ!?
人的ミス……主催側にはもうどーしよーもありませんっ!……
他のみんなはこれから、各自で気をつけてね?》
安全への気遣いは、参加者任せが確定したな……ぶるり。
みんなもこれで少しは冷静になろうとするだろうけど。みんなの
表情を窺ってみた。
みんなは。
《では二枚目~。『笑う門には~』》
笑ってた。
楽しげに、ではなく。痛快に。
面倒な、とか、何でこんなバカらしい真似を、とか。そういうことを
少しも考えていない顔だった。
何でだろう。
あいつらはこんなお遊びで、何がしたいのだろうか。
スドドドドンッ!!!
ぼさっとしている間に、次の札の獲得競争が終わった。
「ん、1番龍宮サンっ」
今度は気絶者ゼロだ。中央部での争奪戦だったからかな。
みんなはまた笑っている。
次の札がまた読み上げられた。


773 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:45:19 ID:???
23/31

三枚目。十枚目。二十二枚目。
読まれて、取られ。読まれて、取られ。読まれて、また取られる。
札を取った者はギャラリーに向かって笑う。嬉しげに。逞しげに。
その姿にギャラリーが歓声を上げる。嬉しそうに。安堵したように。
たまに、委員長のようなリタイア者が出るが、場は続く。
盛り上がっている。
何がそんなに楽しいのか。
新年早々のこんなバカ騒ぎに何の面白みがあるのか。
何故、どいつもこいつもそんなに頑張るのか。
賞金の為か。
他の理由か。
自分のためか。
人のためか。
自分の隣の人のためか。
その人からの想いのためか。
その人への想いためか。
「うおりゃっちゃっぁぁぁぁぁっ!!」
「茶々丸のアホがぁーーーーーっ!!」
……一部は、意地のためかな。
意地か。
寝てるだけの生活には、張る機会も、暇もなかったな。
みんなも、そうだったのかな。だから、太ったのか。
だから、心配させてしまったのか。
だから、大丈夫だ、と。ちゃんとやれる、と。
そう言わんばかりに頑張るのか。
頑張っている姿を見せたいのか。


774 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:45:49 ID:???
24/31

「どららららららラララララぁっ」
「茶々丸のバカがぁーーーーーっ」
……一部は、違うか。
ピィ~~~~~ッ!
二十五枚目が取られた。
これが、ダイエットを目的とした本大会が中盤を通り過ぎたことを
意味した。
ダイエットも意地の問題だ。
みっともない、と思うから、ダイエットをする。
私はそんな風に見られる人間じゃない、という意地が、人に
ダイエットをさせる。
綺麗な服を着こなすことも、化粧をすることも、フォトショップで
画像加工することも。
ネットアイドルとしての意地からだ。
最近少し、張ってこなかった意地からだ。
張るか。もう一度。
今日は1月6日。サイト再開日は9日。
良いきっかけだ。
《では三十一枚目。『袖の振り合わせも他生の縁』っ!》
龍宮さんが走る。みんなが追う。
みんなの狙いが分かった。
狙いのイノシシは、私の真っ正面に突っ込んで来るっ。
「ラッキィッ!」
やはり体質なんだろうか。イノシシが突っ込まれるのは。
いいさ。怖くはない。相手は画像なんだから。
だから力も込めなくていいんだけれど、つい力を込めて手の平を
ぶつけしまった。


775 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:46:26 ID:???
25/31

触れた感触はなかった。
だが、確かに触れたのだと主張するかのように、私の手の平が通過
したあとに、フッと掻き消えるようにイノシシの姿は消失した。
勢いがつきすぎて、そのまま倒れてしまう。
そこへ。同じく勢いのつき過ぎて止まれない選手の面々が。
ああ、こうなるから、札取った奴は避けれなかったんだ。
ピピ~~~~~~~ッ
《おおーーっ、ついに長い沈黙を破って、千雨ちゃんが本格参戦!
自身にとっての初のカルタをゲットっ!しかし、またもや選手全員が
団子状態にっ!果たしてみんな無事なのかぁー?……おっ》
私は塊の中から這い出て、立ち上がる。
観客席に向かって、にやりと笑って見せた。
ザジが微笑んでいた。
「意地を見せたカ」
「これからもっと見せるさ」
超に背中越しに手を振りながら、どのイノシシとも適当な距離が
取れる位置に動いた。
さあ、意地の時間だ。


776 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:47:03 ID:???
26/31

また、取れた。
「そこまでっ。最後のカルタの獲得者は、千雨サーンっ」
《おめでとうっ。千雨ちゃんっ!》
みっともなくも、仰向けになって、私は最後のカルタを眺めていた。
終わったか。やっと、のような、もう、のような。途中参加の私が
言えることでもないかもしれないが。
《さぁて、名残惜しい気もするけど、競技はこれにて終了でーーーすっ》
むく、と起き上がる。
周りを見渡し、参加者たちの姿を確認する。
結局、最終的に参加者は、7人全員が揃っていたりする。気絶した面々も
途中で復活してきたのだ。
恐るべき、意地。
私にも、それがある、とあいつに見せられたかな。
《選手のみんなー、お疲れの所申し訳ないけど、熱気冷め遣らぬうちに超りんに結果発表してもらいたいと思いまーすっ!!聞いててねー》
私は……何枚取ったっけな?10枚いってないと思うが。
いつの間にやら、超が司会者ブースまで上って、マイクを握っている。
「優勝者は……獲得枚数27枚の、グローブ番号1番龍宮真名サンネ!!」
わぁっ!!
パチパチパチパチパチッ!
パチパチパチ。
大河内のささやかな拍手が目立って聞こえてきた。
《おめでとう、龍宮さん。おめでとうっ!そして、感動的な戦いを
ありがとうっ!》
「「「おめでとー!」」」



777 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:47:47 ID:???
27/31

「オメデトウ。龍宮サン。コメント、アルカ?」
再び、いつの間にか、下りて来ていた超が龍宮さんにマイクを渡す。
「……こういう時は、みんなに向かって言うべきなのかも知れないが。
ここは、一人のために言わせて貰いたい。……アキラ、これからはまた……
ちゃんと仕事請けるからぁっ!!!!!もう内職なんてさせないからっ!!
リサイクルショップに物を売りに行ったり、ネギを持った借金取りに
追い掛け回される生活なんてさせないからなぁっ!!!」
請けてなかったのか……つーか、この正月、どういう暮らししてたんだ。
こいつも自分の意地をかけるものを丸っきり休んでた、ってことか。
恐るべし、正月休み。
《さて、それでは賞金の授与にいきましょう》
「まあ、今日のことに関しては、別に報酬なんてもらえなくても
良いんだがな。(借金は一応返せているし。)でも、ま、今年の仕事始めと
させてもらおうか……みんな、今日は私が好きなだけおごるぞっっ!!」
おおおおおーーーーーっ
みんな、主に観客側がどよめく。
「焼肉、焼肉ぅーーーーーーっ」
「お寿司、お寿司ぃーーーーーーっ」
「よーーーし、食いまくるぞおぉーーー!!」
遠慮を知らん現代の若者たちの叫びに、龍宮さんは悠々と構える。
「はっはっはっ、いくらでもいいぞー。私が必ず全部、持つからなっ」
「……豪気ネ。さ、これが賞金ネ」
「ああ」
賞金の熨斗袋を渡す超。笑顔で受け取る龍宮さん……の表情が、
受け取った瞬間、怪訝なものに変わる。
「超、これ、小銭が入ってないか。いや、紙幣もちゃんと入っているが」
「入ってるヨ」
「そういえば、賞金額聞いてなかった、な」


778 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:48:27 ID:???
28/31

「うん、言ってないヨ。やる気を削ぐといけないから、言わなかったネ」
「……いくら?」
「 1177円 ネ」
「せん、ひゃく、ななじゅう、なな」
「そうヨ」
「……万円?」
「万は要らないヨ。薄い熨斗袋にそんな額は入らないネ」
龍宮さんが無言で熨斗袋の中を覗く。
「……本当だ」
「いや、当初はネ、賞金も100万円ほど用意してたのヨ。でも、
超包子の営業準備で、古に買い出しを頼んだら……古がうっかり
賞金・ミニブタ調達等のイベント用のお金を、買い出しのお金と
間違って、ほとんど使って来ちゃったのヨ。で、賞金額が買出しの
お釣り分になっちゃったわけネ」
「流石に100万円で買える量はいっぱいだったアル~」
楽しげに語る、バカイエロー。
アル~、じゃねーって。固まってんぞ、優勝者。ぬか喜びにも
程があるしなー。
「真名……」
名を呼ばれ、石化から復帰する王者。声の主を振り向くと。
じーーーーーーっ
何か言いたげな観客たちが目で語りまくっている。
「……えーーーと……………おごるぞおおおおおっっっっっ!!変わらんっ!
方針は変わらんっ!!今日は絶対おごるからなぁぁぁぁぁっっっ!!!
だから、ちょっと……3時間ほど待ってってくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
龍宮さんが絶叫しながら、どこかへ走り去っていく。
稼ぎに、行ったのか……?律儀なのか、ヤケなのか……
意地のためか。
やれやれだぜ。


779 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:48:57 ID:???
29/31

《……えー、優勝者には悲しい結末となりましたがー》
朝倉が締めの挨拶を始めた。
《これにて、賞金の授与式、並びに、第一回イノシシ取り大会を終わりますっ。
みんな、参加ありがとーうございましたーーっ!!えーと、今、あと
ちょっとで5時になるから、そろそろ部屋に帰ろうねー》
舞台と観客席との、背の高い仕切りにもたれかかって、私は大会の
終了宣言を聞いた。
おしまい、か。
それじゃあ。
「帰るか?」
「うん」
私が見上げた、すぐそこで、ザジは返事をした。


780 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:49:31 ID:???
30/31

「本当は、千雨がどうなっても、構わない」
帰り道。ザジは歩きながら、そう言った。
「千雨が太ろうと思うのなら、それはそれでいい。太っていることを
売りにしているモデルも世の中にはいるから、ネットアイドルだって
きっと続けていけるんだと思う。でも」
私を見上げる。
「太る気がない千雨には、太って欲しくない」
二人で、立ち止まる。
「千雨が望むのなら、ブタのような身体になろうと、枯れ木みたいな
四肢になろうと、たとえ人間を辞めてゲル状生命体になろうとも、
少しも構わない。ザジはずっと千雨を好きでいる。好きでいられる。
それでも、一つだけ変えないでいて欲しいことがある」
私の頬をそっと両手で包む。
「なりたい自分を目指す自分を、捨てないで」
頬に添えられたザジの手を、片手ずつ覆う。
「絶対なってやる、絶対こんな風に思われてやる、っていう、気持ち。
それを、どこかに押しやらないで。どうなったっていいや、を
引き寄せないで。何になってもいい、何を目指してもいい。
ザジは絶対に貴方から立ち去らない。永遠に愛して、永劫に支えて、
永久に盾になり続ける。時には罵倒だってする。だから、お願い。
ただ貴方は」


781 : マロン名無しさん 2007/01/08(月) 00:50:03 ID:???
31/31

私の瞳に、ザジと、ザジの瞳の中の私が、映る。
「自分自身よりも強くいて」
「うん」
新年、1月3日。
夕日が照らす中。
長谷川千雨は去年よりも意地っ張りになった。

Fin

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年10月26日 23:31