桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

この夏の目標・お姫様抱っこ

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プールで溺れかけたチアキが藤岡にお姫様抱っこをしてもらったのを見て、
羨ましく思った内田は自分もしてもらおうと思い、この目標を掲げだした。
友達の吉野のアドバイスから溺れたフリをしてお姫様抱っこをしてもらうという作戦を思いついたのだが、
本当に溺れないように溺れたフリをするにはどうしたらいいかを真剣に悩んでいた。
「チアキに感想を聞いた方が手っ取り早いんじゃない?」
「でも、やっぱりしてもらいたいよぉ」
そんな内田に呆れて、どうにか妥協させようとする吉野だが、内田は諦めが悪く、どうも上手くいかない。
この友人を良き方向に導くことを中々達成できそうになく、思っていたよりも難しそうだ。
「う~ん、こうやるのはちょっとわざとらしいかも。でも、ちゃんとやれば、もしかしたら…。
けど、やりすぎると本当に溺れちゃいそうでやだなぁ…」
そのやる気を他のことに回せばいいのにとため息をついている吉野に見守られ、
内田は実際に身体を動かし、どういうふうに溺れたフリをするかを色々試している。
しかし、単に手を大げさに動かしているようにしか見えなく、とても溺れているようには見えない。
「だけど、やっぱ手だけじゃダメかな? 足もバタつかせて…」
そう言って足を水中で動かしてみるが、急に足を動かしたのがいけなかった。
「いたっ!」
足が吊ってしまい、バランスを崩し、そのまま水中へと引きずり込まれてしまった。
ロクに動かせない足の代わりに手だけでどうにかしようとしても無駄なことであり、
むしろ深く沈んでいってしまい、状況は悪化するだけだった。
呼吸ができず、口から泡を吐き出し、頭の中がパニックになっている。
「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!?」
どう見ても演技とは見えない溺れ方に吉野は珍しく慌ててしまい、内田に駆け寄る。
しかし、それよりも早く内田に駆け寄り、水の中に潜った男がいた。

「大丈夫?」
自分に気をかける声を聞いて、内田は自分が水中から助けられたのを理解できた。
酸素を存分に取り入れつつ、自分を助けてくれた人物の顔に視線を送る。
「ふ、藤岡君…」
背中と膝の裏に腕が回され、自分の身体をサッカーで鍛えられた肉体に引き寄せ、受け止めてくれている。
自分を助けてくれたのはありがたいが、お互いの顔が近い状態なため、嬉しさよりも照れくささが出てくる。
自分を助けたのは誰かを確認すると、内田は顔を赤くして俯いてしまった。
「遊んでいた所をたまたま見ていたから良かったけど、急に溺れるからビックリしたよ。どうしたの?」
「……………」
何か言わなければならないが、あまりの恥ずかしさで唇をまごまご動かす程度しかできなかった。
おまけに顔を合わすこともしないので、当然のことながら相手には全く何も伝わらない。
「う~ん、ひょっとして気を失っちゃったのかな?」
「えっと…、どうだろ?」
俯いたまま何も答えないからか、内田が気絶したと勘違いした藤岡に対し、吉野は曖昧な返事しかしなかった。
「とりあえず、休める所に行った方がいいんじゃない?」
「うん、そうだね。そうしようか」
勝手に気絶したことにされたようだが、内田は話の流れに逆らえず、目を瞑り気絶したフリに徹することにした。
しかし、これは内田にとっては都合が良かった。藤岡と直接視線が合うことはないので、
さっきよりも随分恥ずかしくなくなり、その上、自分が待ち焦がれていたお姫様抱っこを堪能できるというものだ。
最初は恥ずかしく思ったお姫様抱っこだが、慣れてくるとそれも薄れてきた。
むしろ、しっかり自分を抱きかかえてくれていることに安心感を覚える。また、肌と肌が密着しているため、
藤岡の体温が伝わってくるが、それも温かくて心地よく、つい藤岡の胸に頭を預けてしまう。
その時マズイと思ったが、バレないですんだので、しばらくこの体験を味わっておこうと思った。



「この辺りでいいかな?」
「そうだね、日当たりもいいし」
プールサイドの日に当たった部分に身体を優しく置かれ、心地よい一時が終わりを告げた。
確かにこれはこれで温かくて冷えた身体には気持ちいいのだが、藤岡の体温の方がずっと心地よかった。
「う~ん、まだ目を覚まさないみたいだね。誰か呼んで来た方がいいのかも」
「あ、じゃあ私が人を呼んでくるよ」
未だに気絶したと勘違いをされているため、大事になりかねない流れになっている。
実際は最初から意識なんて失っていなかったのに、大騒ぎになってしまうのではと心の中で焦り始めた。
「でも、それで手遅れになっちゃったら、元も子もないよね。
 …そうだ! 私が呼びに行ってる間、藤岡君は人工呼吸を…」
「人工呼吸!?」
「うわ!?」
人工呼吸という言葉に反応して、内田は驚きの声を上げて、思わずガバッと起き上がってしまった。
「あ、目が覚めたんだ? よかった」
突然起き上がった内田にビックリしている藤岡とは違い、吉野は驚くこともなく、笑顔でそんなことを言う。
もしかしたら気絶したフリに気づいていたのではないかと思うぐらい落ち着いている。
2人の様子を見て、自分が墓穴を掘ってしまったことに気づき、内田は気まずくなってしまう。
「あぅ…」
悪意はないとはいえ、2人を騙す結果になり、申し訳ない気持ちになり、黙り込んでしまった。
謝ろうと思っても、2人が怒っていたらどうしようと不安な気持ちで中々口を開くことができない。
「良かった、それだけ元気なら大丈夫だよね?」
罪悪感で無言の内田に対し、藤岡は笑顔でそう答えてくれた。その笑顔に皮肉はなく、
本当に内田の無事を喜んでいるのがわかる。吉野も藤岡と同じらしく、笑顔を絶やさない。
「うん、ごめんなさい…」
2人が怒っていないとわかると、内田も少しは気が軽くなったのか、謝ることができた。

それから、2人に自分が溺れたのは足を吊ってしまったからだと教えておいた。
思い返してみると、チアキにプールに突き落とされてから、準備運動をするのを忘れていた。
ちなみに何故気絶のフリをしたかについては話していない。また、2人も何も聞いてこなかった。
「ふぅ…」
今は藤岡は側にはおらず、心なしかうんざりしているように見える吉野についていてもらっている。
さすがに藤岡にそこまでしてもらうのは気が引けてしまうからというのもあるが、他にも理由があった。
「はぁ…」
藤岡と別れてから、内田はずっとこのような調子でため息をついている。
しかし、その表情は憂鬱というわけではなく、恍惚といった表情だ。
これはお姫様抱っこをしてもらっている時の安心感や心地よさ、
そして自分を許してくれた時の笑みを何度も思い出してはニヤけるという繰り返しの結果である。
藤岡にしてもらったことは内田の脳内ではどれも、特に許してくれた時の笑顔が輝いて再生されていた。
あの時はそんな精神的な余裕はなかったが、考えてみれば、藤岡は見た目も様になっている。
そんな男に優しさに満ちた微笑みを向けられたのを思い出しただけで、顔が緩んでしまう。
ただでさえこんな調子なのに藤岡が側にいたら、頭が壊れてしまうかもしれない。
「王子様っているもんなんだねぇ…」
終いには頬を染め、うっとりとしながら、そんなことを言い出す始末である。
吉野はこの友人を良い方向に導くことの難しさを改めて痛感し、
内田とは違った意味でため息をつくことしかできなかった。


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