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──────月が、彼らを見下ろしている。

 聖杯にて招かれたそのサーヴァントは、実に一時間も経たぬうちに敵手の御首を獲ってみせた。
文字通り、首と胴体が分断された凄惨極まる死体を見下ろして、表情が何一つ動かない。殺した相手への興味を一切持つことすらない、冷酷な貌であった。
 下手人たるサーヴァントのその常人とはかけ離れた殺しの手際とは裏腹な、齢十年もいかないあどけなさと青臭さが残った童顔が、ここで笑みを形作った。
 もしもこの場に死骸がなく、サーヴァントのきめ細かな肌に返り血が付着していなければ、『コロリ』とやられてしまう尻軽は、さぞ多かろう。
 肩まで伸びた白磁の頭髪が、風に揺られてなびく。
深夜を回った今においても、いや深夜だからこそ目立つ美麗さを伴って、存在感を放つそれは、サーヴァントの生来のものである。老齢の脱色、ましてや染毛によるものでは断じてなかった。
 この東京という都市、いや日本という国で見てもそうはお目にかかれない、天然物のプラチナ・ブロンドである。
 すわ、ロシア出身であるとか、その血を引いた所謂ハーフであるとか、この地に住まう多くの住人が勘繰る所であろうが、サーヴァント……『カダージュ』はそのどれでもなかった。

「ま、こんなところかな。聖杯戦争ってのも歯応えがなくてつまんないや」

 言いながら、手にした刀を天へ掲げる。月光を反射し鈍い銀色を放つ刀身も、赤い血で汚れてくすんでしまう。
 一つの柄に、二つの刀身を載せた、言わば二枚刃。特殊な形状をしたそれがカダージュの足元に転がるマスターの首を両断したことは、誰の目にも明らかだった。

「で、これで僕の“実力”ってのは測れたのかな?マスター」

 何処を見るでもなく、浮ついたような、どこか地に付かない軽い調子でカダージュは言った。
 彼から見た後方、夜の闇に覆われて手を伸ばした先すらも不明瞭な路地の奥。
 其処には、もう一人の男がカダージュと同じく笑みを零して立っている。

「ああ。十分に見せて貰ったとも」

 かつん、という渇いた足音と共に、男は言った。穏やかな波風の如く、しかし全身の産毛が逆立つような、威圧感を湛えた声音。
 カダージュのものと比べて低く、思わず身が縮こまってしまう重厚感に満ちたものだった。
 だというのに何故、この男の声色は心根を感涙で震わす麗しきハープの音色を彷彿とさせる?何故、この男の発する声に安らぎを見出してしまうというのか。

「なら良かったよ。僕も母さんに会うためにはマスターの力がいるからね。見限られたら大変だ」

只人が聞けば一瞬で腰が砕け歩くことすらままならなくなり兼ねないその声を、物ともせずに軽口を叩くカダージュ。
軽く無視して、マスターである男は、哀れ首無しとなった惨殺体を検分するかのように近づいた。

「もう死んでるよ、それ」

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最終更新:2022年08月29日 23:53