それは、研究所とは名ばかりのごく普通の民家だった。
「たけきの料理研究所」と書かれた看板が打ち付けられてはいるのだが、表札とほとんど変わらない大きさなので、それはほとんど目立たない。

だが、玄関の扉を開けると、そこに飾られているのは、古くからどこかの国に伝わる名言であった。

「腹が減っては戦はできぬ」


それは、けだし名言である。人間、空腹では力が出ない。ろくなことを考えない。
ましてや、戦など出来るはずがない。

これ以上ないくらい力強い筆跡で記された書は、どういう訳か見ているだけで空腹を誘う。
それは、古くから語り継がれてきた言葉自体が持つ力なのかもしれないし、心を込めてそれを書いた人間が今にも背中とくっつきそうな空腹を抱えていたからかもしれなかった。

研究所と称されるその民家には玄関を堂々と飾る名言の書よりも更に強烈に、人々に働きかけるものがあった。
それは、研究所の奥から漂ってくる美味しそうな食べ物の匂いだ。
食欲に打ち勝てる者はそう多くはない。
だからこそ、その匂いにつられるように、今日も人々は研究所に集まってくるのだ。

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美味しい匂いに誘われてやってきた皆様、たけきの料理研究所へようこそ!

研究所の門戸はいつでも開け放たれています。
この戦いを終わらせるため、自分に出来ることを信じて一緒に美味しい料理を作りましょう。
なんといっても、腹が減っては戦はできないのですから。
(文:りあらりん)

最終更新:2007年05月12日 01:40