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【七月序盤―First_event―】矛盾を抱えし少女の場合。

学園都市。
―――それはこの世界で最も科学の技術の進歩が著しく、他国の追随を許さない凄まじい発展を遂げている都市。

学園都市。
―――それはこの世界で最も力による上下関係が目に見えてハッキリとしている都市。

素晴らしく綺麗な表側の部分の裏で、今日もどす黒い感情が渦を巻く。


「オラオラどうしたんだよぉ……さっきまでの馬鹿らしいほど粋がってた威勢は一体どこに行ったんだ?」

堅いコンクリートの上に転がる数人の男のうちの一人の脇腹を、無造作に蹴り上げる。
その瞬間、蹴られた男はゴハッと肺の内の空気を一気に押し出され苦痛に悶える。
それを見て一人立つ男は愉悦に浸る。

「けっへへ…これだからよえー奴を嬲るのはたまんねえなァ! 少し気が弱いとこ見せりゃ蟻みたいにホイホイ群がってきやがってよぉ…俺はテメエらとは格が違うんだよっ…と」

言葉とともに男は掌から大きな炎の塊を出す。
レベル3の発火能力者(パイロキネシスト)―――それが男の正体だった。
男は更に醜悪に顔を歪ませる。

「ばいばいちっちゃなちっちゃなアリンコちゃん―――もう二度と俺の前に姿を現さないでねっ――――!?」

男が投げた炎は倒れている男たち全員を飲み込めるほどの大きさだった。
それはこの男が出せる最大の炎よりも少しばかり小さめだったが、それでも充分の自信作だった。
―――だったのだが。


それは、たった一本のナイフによって、かき消されたのだった。


自分の自信作をアッサリと消されて唖然とする一方、顔をイラつきと怒りで歪ませてナイフの飛んできた方へとグリンと顔を向ける。
一体誰が、どんな奴が、と思ったのだが、その人物はとても意外なものだった。

もみあげが異様に伸びた黒のセミロングに、神秘的な紫混じりの黒い目。
黒と白のチャック式パーカーを半分閉じた状態で着用し、紺色のレギンスを履いている。
両手首に銀のブレスをつけた、自分と同じ年程度の少女だ。

だが、少女の手にあるナイフを見て男はキッと少女をにらみつける。

「何なんだよテメー。お前もこいつらと同じ目に遭いたいってのか」

少女は何も答えない。
答えなど出さない代わりに、手にもつナイフを胸元にしまいこみ、フッと小さく息を吐く。
すると、どこからともなく出でた二振りの青白く光る小型剣が少女の手にはあった。

男は醜い笑みを浮かべて掌から炎を出す。

「やろうってのか…良い度胸じゃねえか。何の能力者かは知らねえがやってやろうじゃねえか」

少女の身体が動くのを察知し、男も両手の炎を維持しながら少女へと突貫する。



―――この瞬間、極々小規模ながら、科学と魔術が交差したのだった。


*********


少女―――屠姫川霞嵐が目を覚ましたのは、学園都市のとある公園の一角であった。
すぐさま霞嵐は頭の中で記憶の整理を試みる。

イギリス清教『必要悪の教会』所属、屠姫川霞嵐という存在とその意味、教会所属メンバー…などなど。

様々なことを頭に思い浮かべては、『在る』と認知して適当に放り出す。
色々思い浮かべているうちに、ふと霞嵐の思考がピタリと止まった。


昨 日 は 一 体 何 を し て い た ん だ っ け 。


誰かを倒したことは記憶に残ってはいる。
しかし、それが誰なのか、何故戦ったのか、どのように戦ったのか、そもそもそれ以前に昨日は何をしていたのかが全くと言っていいほど思い出せなかった。

だが霞嵐は微塵も記憶のないことに関して気にしたような素振りは見せなかった。
いつものことであると言わんばかりに特に何も思わず今日は何をしようかな、などとごく平凡なことを思考する。
…そこでお腹がぐぎゅるるると大きな音を鳴らさなければ。

「お腹、すきました…お腹」

そこで思い浮かぶのは今まで自分はどうやって過ごしていたのかという事。
何か仕事をしていたか、と考えてみてもそのような記憶はない。
誰かに援助してもらっていたという記憶もない。
実は自分はお金持ち…などという考えは胸元に入れていた財布の中身を見て消し飛んだ。

どうしようか、と必死で頭を回転させてみるも尽くそれは空腹によって邪魔される。

「仕方ない、こればかりは仕方ない」

とりあえずバイトを探しに行こう。
そう結論付けた霞嵐は、「チェイサーッ!!」などと聞こえてくる公園を後にして、街の中へと姿を消していく。


彼女の名前は屠姫川霞嵐。
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の、愛しく哀しき矛盾を背負った魔術師であった。

執筆:ロキさん

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最終更新:2011年10月23日 00:08