アットウィキロゴ

【七月序盤―First_event―】満員電車におけるプロログス

 学園都市は学生の街だ。
 二百三十万ほどの彼らは各々の時間で起き出して、各々の時間を過ごした後、ほぼ同じような時間で登校する。当然そこに住むほぼ全ての人間が同時に移動するわけだから、それに即した交通網が整備されていないといけない。
 立場上個人の移動手段を取れない学園都市では、必然的に電車、バスなどの公共の交通網が発達するのは必然といえた。

「ねぇ、いつまでやるんですか? ナナカァ!」

 ここはそんな電車の一角、リニアがどうのという最新設備を使った高速移動手段、学園都市の誇る科学力である。

「仕方ないだろ? こういうのは最初が肝心なんだ、アレイスターの奴も言っていたろ? ここは学園都市だとな」

「そういう意味じゃないと思うんですけど」

「知ったことか、私は私、それ以外の解釈などせんよ」

 学園都市特有の制服が跋扈する満員電車の中で、堂々と私服で居座っている同年代と思われる二人組がいた。
 鳥の羽を添え、赤みがかった紐を添えられたカンカン帽に髪を片方でまとめ、首から前へ垂らしている。髪の色は紫(眉毛は黒なので染めているのがわかる)、目の色は黒、平均より小さい身長と、未来の見えない幼児ボディ。
 子供らしさの残る、まるっこい顔立ちだが、自然と不敵な笑が似合う少女。
 つきそうようにもう一人、割と長めの髪が目にかかっている、黒髪、割りとラフな白の上下。それだというのに全体的にさわやかかつ固めな印象を回りへ与え、普段着ですらきりっとした印象を持ってしまうような少年。

 少年が敬語、少女は慇懃無礼な物言い、どちらかというと少年の方が立場的に下のようである。

「郷に入っては郷に従え、基本だろう? オマエもハーフとはいえ日本人なんだからもうちょっとなじんだらどうだ?」

「こんなの瘴気の沙汰でしょう! じゃなくて、関係ないですよね、僕たちがここにいることは!」

「あぁ、それなんだがな」

「……どういうことです?」

 続きを促すように、成長期だというのにちみっこい少女――ナナカにソウイチが視線を合わせる。

「ぶっちゃけハマった、この窮屈さがたまらん」

「ざっけんな! っていうか、そんなことのために僕はこの満員地獄に一時間も放り込まれてるんですか?」

「ばっかてめー、結社の仕事はオマエが居ないとできないだろ、誰が資料用意すんだよ」

「あんたの頭の中だよ!」

 補足しておくと、これらの会話は非常に小さな声で行われているものである。なにせ割と機密事項とかも話しているので、他人に聞かれるとまずいのだ。
 ――実を言うとこの二人、学校に通わず満員電車にはまった相方とそれに付き添っている苦労人というわけではない。

 そもそも二人は学園都市の人間ですらないのだ。
 さらに言えば学園都市の学性はなにがしかの事情があろうと、例外なく能力者である。
 けれど彼女たちは違う、もっと別の法則によって動く、俗に言う“魔術師”と呼ばれる人種なのだ。

 ナナカ=フロックハート。
 ソウイチ=ガーティン。
 実はどちらも、ある名のしれた魔術結社の一員であったりする。
 さらに言えばナナカはそこの長老、リーダーだったりするのだが、実は魔術結社は現在半壊中。
 稼働しているかどうかはともかく、ナナカ達はここに逃げてきたのである。

「というか、今更気づいたんですけど、僕たちってこうやって小声で話し合う必要ってあります? 周りへの音の遮断とか、やりようはいくらでもありますよね」

「あっ」

「え、……え? あの長老?」

「何だねソウイチくん、私は今忙しいんだ、次の駅で降りよう、こんなところ、もういられないからな」

「え……ええーー? 何か理由があるんじゃないんですか? 気付きましょうよ、僕だって気づきましたよ」

「すごいなーソウイチは、天才なんじゃないか?」

「いつも僕の事をバカにしている本物の天才はどこですか!」

「何? ソウイチ、誰に馬鹿にされているんだ、今すぐ私に言え、お前は私の家族だからな、守ってやらねばならんだろう」

「……、」

 怒り心頭といった様子でソウイチが沈黙する。
 ちょうど良くというか、なんというか、電車の窓がゆっくりと開く、それと同時に、ソウイチの中の何かが“プツッ”と切れた。

「……さー長老、そろそろホテルに戻りましょうねー? そろそろキツネの対策も話し合いたいところですしー?」

「い、痛いイタイイタイ、痛いぞソウイチー、何か、長老としての私に対する遠慮って言うものが足りないんじゃないかぁ?」

 頭をぐりぐりとやられた状態で抱えられ、ナナカは、そしてそれをつれるソウイチは、電車の外へと消えていった。

執筆:暁さん

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年10月23日 00:09