――某中学校の裏にて。
夏らしく半そでのセーラー服を着て、白い髪の毛をした少女が、タバコをくわえていた。頬にある黒十字が謎めいている。顔にはすこし化粧をしているらしく、セーラー服もよく見ればスカート丈が短かったり、リボンをゆるく締めていたりと、所々が違反している。
しばらくして、一人の柄の悪そうな男が少女の隣に座った。少女は相変わらずタバコをふかしている。
「風紀委員の姉ちゃんがこんなところでタバコ吸ってんじゃねえよ、柿」
男が話す。
柿と呼ばれた少女はタバコを口から離して、でも男の方には目を決して向けずに答える。
「弟の前で吸えないんよ」
男はしばらく考え込んでいたが、しばらくして思いついたように、
「ああ、お前の弟、……」
と切り出した。
そこへ、
「おい柿ぃ! 貴様そろそろええ加減にせえよ! 風紀委員としても弟としても喫煙は認められんわっ!」
柿を、ちょっと高めのボーイソプラノで呼びかける声があった。
裏から覗くと、柿にそっくりだが少し釣り目気味で、頬には赤十字があって、学ランを羽織った小さい少年の姿があった。その身長は幼児に匹敵する。
柿は頭をかいて、ため息を付いた後、「ちぃとばっか行って来るわ。すぐ終わるから」と言い残し、その場を去った。男は黙ったままじっと前を見ていた。
* *
場所は打って変わって、先ほどの少年の前。
もうタバコは吸っていないが、柿はふてくされた表情で少年の前に正座している。……だんだんかったるくなってきたのか、仕舞いには胡坐になっていたが。
少年――先ほどの発言から、恐らく彼女の弟なのだろう――は、自分より大きい柿に屈することなく大声で説教を続けている。いったいその小さいからだのどこからそんな声が出るのか、と突っ込みたくなるくらい、大きい声だ。
「柿! また喫煙しとったんか! ええ加減やめんか!」
「柚子、せやけど、もう癖になってもうて辞めろいわれても無理や~」
胡坐のままふてくされて答える柿。柚子と呼ばれた弟は更に怒った様子で、
「……説教されながらなんじゃその態度は!」
と言いながら続けた。
未成年の喫煙がどれほど悪いことか、それが脳にどういう悪影響を及ぼすか、法律で禁止されてるとか、君はまだ若いとか、そんなことを(声変わりが終わっていないボーイソプラノで)延々と繰り返し、最後に、
「……それに、俺、炎を見ると怖くなるの、知ってるやろ? ……せやからタバコは堪忍な」
と締めくくった。
その次は柿が反論した。
自分の知り合いの神父は14のクセに喫煙をしてる、だから大丈夫だ。
なんだか無茶苦茶な理論だが、柿の知り合いにそういう神父がいる、というのは紛れもない真実だ。だから柿は今まで躊躇せずに煙草を吸ってきた。
「理由になってへんやん!」
と柚子が言い返したがもうどうしようもなく、この場はお流れになった。
去り際に、柚子が、
「柿」
と呼び止めた。怪訝そうな顔で振り返る柿に、柚子は泣きそうになりながらも必死で伝えた。
「あ、あのな……この辺りで、能力者にスキルアウトが襲われる事件が、多発してんねや……気をつけてな、柿」
「そんなもん忠告してもらわんでも解ってるわ」
少し強がって答える柿。
「仲間内で情報は来んねん。……何人かが、すごい大怪我したらしいし……。でもウチは大丈夫や。ウチ強いし」
柚子は少し肩をすくめてから、こう返した。
「そんなことばっかいってて、襲われても知らんよ?」
「それはそっちの台詞や。まさかとは思うけど、スキルアウトが復讐にくる……なーんてことがあったら、柚子、アンタも標的になるかもしれんで?」
「大丈夫。俺も強いし」
この不思議な身長差がある姉弟は、顔を見合わせてから笑った。
お互いのことを知り尽くしているような不思議な笑いだった。
* *
「たっだいま~。予想外に長くかかってごめんな、まだ――」
そう男に語りかけようとする柿。
しかし男はいない。
「……? おーい、どこやー?」
呼んでも男は出てこない。
柿は何となく心細くなって、裏路地に一歩足を踏み入れた。
途端に、足の方で、べちょ、という嫌な感触を覚えた。
足を見る。
すると、
「え……? う、嘘やろ?」
さっきまで話していた男が、真っ赤な水の中で倒れていた。
真っ赤な水は男の体からまだ流れ続けて、目は恐怖を感じたように大きく見開かれている。
その目には生気がなく、ただただ恐怖の記憶だけが浮かび上がっていた。
「………う、嘘や、こ、こんなん……」
柿は目の前で人が死にかけている、というのを見てただただ動揺するばかりだった。
「と、とにかくしっかりしい! すぐ保健室へ――」
執筆:レア
最終更新:2011年10月23日 10:44