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【七月序盤―First_event―】風紀委員の少女とクラスメート



そこは、所謂『バカ校』というものではなかった。
確かに無能力者(レベル0)は多いが、低能力者(レベル1)以上の能力者だって多くいる。

では、所謂『エリート校』というものなのか。そう問われたとすれば、首を横に振らざるをえない。
この高校に在学している高位の能力者は精々強能力者(レベル3)程度なのである。
しかも、その強能力者も全学年合わせて十数人程度。

『バカ校』ってほど落ち零れてはいないが、『エリート校』ってほど優れてもいない。
よくも悪くも『普通』の学校だ。


「よい……しょっと」

廊下に、両手が塞がってしまうほどの資料を運ぶ少女の姿があった。
この高校に在学している数少ない強能力者の一人――それがこの少女、風紀委員(ジャッジメント)に所属している海船帆波だ。
海船が運んでいる資料は風紀委員のものではない。ある教師に頼まれ、職員室に運んでいる途中だった。

真面目で成績もいい彼女は教師からの信頼が厚く、更に風紀委員ということもあり、こうして頼まれごとをされるのも少なくない。
彼女が断るということを殆どしないから、というのもあり、どうも頼られがちになってしまうようだ。

しかし、この資料、重い。
風紀委員で鍛えているとはいえ、厚めの参考書やファイルを何冊も重ねられるのは少女の細腕には少々キツいものがある。

更にそこへ追い討ちをかけるように、慌てた様子で一人の生徒が走ってくる。
そして海船とぶつかった。

「きゃっ!?」
「うわわ、ごめん海船さん! 急いでるから!」

謝りながらも、「廊下は走るべからず」のポスターをガン無視して全力ダッシュする生徒。
廊下にぶちまけられた資料。
そこに立ち尽くす、海船。

「……はぁ……」

別に先ほどの生徒を恨んでいる訳ではないのだが、思わず溜め息が出た。
けれど溜め息をついた所でピザの上のチーズみたいにぶちまけられた資料が彼女の手元に集まってくれるわけでもないので、しゃがんで一冊一冊資料を集めていく。

「……こんな時、念動力(テレキネシス)だったら指先一つで資料が片付けられるのにな……」
「大丈夫か? 海船」
「ふぇ?」

海船が顔を上げると、彼女のよく知る人物がぶちまけられた資料を拾ってくれていた。

「闇神くん……」
「風紀委員って大変だな。こんな資料運ばなきゃいけないのか?」
「え、いや、これは先生に個人的に頼まれたもので……あっ! ご、ごめんなさい! あとは私がやるから!」
「いいって。ついでに運ぶのも手伝うよ」

恩を売ろうとするとか、そういう押し付けがましいものではなく、ただクラスメートが困っているようだから手伝う。
闇神純也が資料を集める理由はそれだけ。
その優しい声色に海船の胸の奥が少し高鳴った。


彼女は、闇神に恋をしていた。




資料運びが終わって教室に戻れば、いい具合にざわめいていた。

「よーう闇神ー! 海船さんと一緒に戻ってくるとかどうした? 春がきたかー? 今夏だけど!」
「おいおい、茶化すなよ」

緑色に染めた髪と手の甲に入れた鮫っぽいタトゥーが特徴の少年の言葉に、闇神が苦笑しながらそう返す。
海船が頬を染めて俯いたことには全く気づいていないらしい。

「ちゅーか夏休みまだかなー。プール行きたいプール」
「お前、能力開発(かいはつ)の補習なかったっけ?」

横から茶髪の少年(こちらは地毛である)がそう突っ込むと、緑髪タトゥーはガンッと勢いよく机に額をぶつけた。
海船が心配そうな顔をするのも気にせずに叫ぶ。

「くっそォ! くっそオオォォォ!! 能力開発の馬鹿野郎ォォォォォォ!!!」
「そもそもお前能力開発だけじゃなくて通常教科の補習もあるじゃん。闇神と違ってさ」
「よしこうしよう闇神。能力開発プラス英語数学物理は俺が受けるので残りの俺の補習はお前が受けると」
「黙れ馬鹿野郎」

ぐああああああ、とのたうち回る緑髪タトゥー。
この緑髪タトゥーも闇神純也も、所謂無能力者であった。
どんなに通常教科の成績がよくても強度(レベル)が0のままでは能力開発の単位をとることが出来ず、結果補習をする羽目になってしまう。

「っちゅーかさぁ! お前も確か無能力者だったよな!? なああああああに一人だけ涼しい顔しちゃってますかねぇこのリア充はあああああああ!?」
「あ、そのことなんだけど」

茶髪の少年(彼女持ち。爆発しろ)はアイドル顔負けの爽やかな笑みを浮かべると、

「実はおれ、この間の身体検査(システムスキャン)でめでたく低能力者となりましたー。ギリっギリで補習を免れたわけでーす」

ペロッと舌を出して見せた。


「……裏切り者おおお!! ちゅーか覚悟しろキサマなぞこうしてくれるこうしてくれるううううう!!」
「ちょっ待てタンマ脇腹はやめろってー!!」


巻き込まれないよう少し遠くから「程ほどにしておけよ」と言う闇神だが、おそらく二人には聞こえていないし、そもそも闇神にも聞かせる気はないだろう。
クラスの中にはいいぞもっとやれと煽る者もいえば、悪乗りして大乱闘なんとかブラザーズに混ざる者もいた。

そんな中。

(――レベル、0……)

近頃起きている“能力者が無能力者を次々と襲う事件。
それをふと思い出した海船は、なにやらムズカシイ顔をしながら自分の世界に浸っていた。

……「乱闘を鎮めて風紀を守る」という、風紀委員の仕事を珍しく忘れて。

執筆:長月さん

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最終更新:2011年10月23日 22:25