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【七月序盤―First_event―】存在偽証の存在証明

 『彼女』は、目を覚ます。

 喧騒に包まれたゲームセンター。にぎやかな明かりに軽やかに響くゲーム音、そして騒音で訴えられてもおかしくなさそうな、アップテンポのBGM。行き来する人間に、順番待ちで喧嘩をする子供。礼儀正しく並ぶ大人は子供を引き離したしなめる。頬を膨らませる子供。喧嘩はだめだと駆け出す係員――。目が眩みそうになる光景。
 『彼女』も明かりと音に驚き、目を眩ませ、耳を塞ぐ。途端、『彼女』は妙な感覚に襲われた。自分がいるのが『どこ』だとか、自分は『誰』だか解らなくなる不思議な感覚。

 ――あれ?

 私は、いつの間にこんな明るいゲームセンターへ来ていたの?
 暗い路地裏で確か、誰かに襲われて、倒れたはずなのに。
 そうだ、確か路地裏で不良の子にあって……。

 その瞬間の記憶がない。

 誰かに、ここまで運んできてもらったのかな? だとしてもどうして、こんなゲームセンターに? 普通は病院とかに運ぶはずなのに。……何か事情でもあったのだろうか?
 何を思い出そうとしても、その瞬間の記憶だけが、すっぽりと『ない』。
 まるで、自分がその瞬間、『眠っていた』かのように。

「あれ? 雪崩先生じゃないですかー。ここで何してるんですか?」

 『彼女』を呼ぶ声がする。『彼女』は振り向いた。
 緑色の髪の毛をした少年が問いかけるのを感じる。『彼女』は何もなかったかのように、

「君は、……寄り道しちゃダメだって言ったでしょ!? ただでさえ無能力者なんだから、襲われちゃ危ないのに……」
 と返す。
 少年は、肩をすくめて走り去る。
 『彼女』はため息をつく。

 ――――ザザッ――――

 『彼女』の記憶に、『砂嵐』が混ざる。
 そういえば、前にも、こんなことがあったっけ……。
 『砂嵐』は、彼女の記憶を曖昧にぼかして去っていく。

「……」

 意識がはっきりして、『彼女』は立ち上がった。

「早く帰らなきゃ! 明日も仕事があるのに!」

 独り言のように呟く。そして早足でその場を去る。後には『彼女』の体温が残した『温もり』だけが残る。それは『彼女』が確かにそこに『居た』という存在証明。
 しかしこの存在証明は永遠の物ではない。いずれ消え去る。



 『彼女』――『飲空雪崩』の能力は、『存在偽証』。


 能力者が『居る』と認識することで『居る』ということになり具現化することができる。
 具現化さえすれば、物に触ることもできる。温もりを残すこともできる。存在証明もすることができる。
 しかし能力者が『居ない』と認識すれば……彼女の存在は消え去る。




 つまり、






 『飲空雪崩』は、実在しない。


         ――存在しない。


執筆:レア

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最終更新:2011年11月04日 22:00