夕日は完全に沈み、真っ暗な夜を迎えていた。
その町の建物の屋上で白い頭巾で顔を蔽い隠した少女がいた。
彼女の名は天照 光(あまてら ひかり)。
能力のレベルは4、眼球光線(アイビーム)である。
光を眼に集めて放つ光線は意外にも殺傷能力が高く、彼女がその気になれば猛獣すら倒せるらしい。
そんな彼女が何をしているかというと狩りの対象を探しているのである。
その対象とは“チンピラ及びそれに類するモノ”、彼女が最も嫌悪感を抱いているモノだ。
――うふふふ、今日は何匹チンピラを狩れるかな~♪
そうワクワクしながら下を見下ろすと少女がチンピラに追いかけられているのが見えた。
その少女を見た光は突然、驚いた表情になった。
(あれ?あの子、モモちゃんじゃない!?)
そう思った瞬間、少女は前に立ちふさがった二人の男女に足止めを喰らった。
見たところ、二人が盾をモチーフにした腕章をつけているところから風紀委員(ジャッジメント)の人間だろう。
そう思った光は獲物を盗られたと少し落胆し、屋上の給水タンクにもたれ込む。
だが、予想だにしないことが突然起こった。
――いやあああああ!!
それは少女の悲鳴だった。
何事かと思って下を覗くと下着姿にされた少女がチンピラに羽交い締めにされていた。
さらに信じられないことに二人の風紀委員がそれを見て笑っていたのだ。
「お、こいつ着やせするタイプだなあ。で、こいつの名前は?」
男性風紀委員の問いかけに女性風紀委員が端末を使って調べる。
「ええっと、桜庭 李(さくらば すもも)ね。」
「よう、桜庭。お前、最近起きてる事件の首謀者だろ?正直に答えたらお兄さんと楽しい夜を過ごせるぜ?」
「ち、違います!!私、そんな酷いこと……あぁぁっ!?」
李の問いかけに、まるで惚けるなと言わんばかりに男性風紀委員はボディーブローをかました。
次に女性風紀委員が李の胸の谷間に火をつけたタバコを押し付ける。
李はあまりの熱さに苦痛の叫びをあげる。
「ちょっと能力使えるからって調子に乗ってんじゃないわよ!?みんな好きで無能力者でいるわけじゃないのにさ!!」
「そうっすよ!!風紀委員さんよ、こいつを二度と生意気な口を聞けないようにしてやってくだせえ!!」
「おう、今回は風紀委員にも特別に手当が入るみてえだからお前にも焼肉奢ってやるよ!!」
「今日は最高っすねえ!!ムシャムシャしてたのになんかスカっとしてきたぜ!!」
(嘘でしょ?どうして風紀委員がチンピラなんかに肩入れしてるの?)
もちろん風紀委員は無能力者狩りを取り締まる側なのだから、ある程度は能力者に厳しい態度をとっても仕方がないのかもしれない。
しかし、これは明らかにチンピラ側についている。
寧ろ、完全にチンピラに共感してるというか、風紀委員もチンピラ化していると見ていいだろう。
「………絶対に許さない。」
やがて光の疑念は怒りや憎悪に変わり、眼に光を集めだした。
怒りに身を任せて集めたためか、瞳孔が確認できないほど眼が白く光っていた。
そして照準を男性風紀委員の肩辺りに合わせ、動かれる前にすかさず発射した。
“ぐわあああああああ!!”
もちろん悲鳴は男性風紀委員のものだ。
上から襲いかかってきた光線は彼の肩から胸へと貫き、コンクリートの床へと当たってそこを焦がした。
体を貫かれた男性風紀委員は血を噴き出しながら仰向けに倒れ込んだ。
周囲にいた三人は突然の出来事に驚きの表情を隠せなかった。
「上から光線が?……私が見てくるから、その女をお願い。」
「分かったよ。おい、一歩でも動いたらぶっ殺すからな!?」
女性風紀委員とチンピラがお互い頷くと、前者は光線が飛んできた建物へ、後者は李を羽交い締めにしたままその場に留まった。
しばらくして、李はもちろんのこと、チンピラまでもが震えだした。
「は、早く放してよ!?私までやられちゃう……。」
「う、うるせえ!!風紀委員の奴が戻ってくるまでここにいるんだよ!!」
「貴方もやられるかもしれないのよ!?こんなところに留まってたら……。」
「うん、死んじゃうかもよ?チンピラが。」
李は違う声の主に“誰?”と思ったが、その頃には何故かチンピラの束縛から解放されていた。
訳も分からず辺りを見回すと、さっきまで自分を羽交い締めにしていたチンピラが横たわって血溜まりを作っていた。
「さあ、もう大丈夫よ。」
「いや、来ないで!?」
「大丈夫よ、私は……。」
「嘘よ、貴方も何だかんだ言って……!?」
そう言いきる前に李の頬を擦れ擦れに光線が飛んだ。
「……いい加減にしてね。アンタも撃たれたいの?」
少し脅迫的になった光に李は恐る恐る首を横に振った。
「よし、じゃあまずは脱がされた服を着て頂戴。」
すると李は道路に散らばっていた服を急いで着た。
「うん、じゃあちょっとそこの物陰に隠れてて。ゴミの後始末するから。」
それを聞いた李は光の指示に従って物陰に隠れた。
「……いない。どこに行ったのよ!?」
女性風紀委員は屋上を探しまわってるが、光線を放った主はそこにはいなかった。
それは当然のことだ。
何故なら彼女はその頃、チンピラに光線を放っていたのだから。
女性風紀委員は諦めて屋上をあとにした。
屋内に入ると先ほどまでなかった殺気が何故か漂っていた。
(何、この殺気?さっき光線を撃ってきた奴の……?)
冷や汗をかきながら、女性風紀委員は廊下を進んでいく。
すると途中で奥から道しるべのごとく血が床にこびりついており、それはある一室に繋がっていた。
女性風紀委員は恐る恐るドアに手をかける。
そしてドアを引くと中から何か重いモノが倒れ込み、彼女に圧し掛かってきた。
よく見るとそれは一番最初に撃たれた男性風紀委員だった。
「ひいいいいいい!!」
あまりの凄惨な光景に女性風紀委員は思わず悲鳴をあげてしまった。
もうここから逃げたい、そう思って男性風紀委員を払い退け、外へ向かって逃げる。
だがそれも叶わず、彼女は右足に激痛を感じて倒れこんでしまう。
痛む右足を見るとそこから血が滲み出ていた。
「あははは、バチが当たったんだね~。」
声のするほうを見るとそこには光がいた。
白い頭巾を被っているので表情がよく読み取れないが、口調からして笑っているように感じる。
だが、それは嬉しさや楽しさではなく、怒りと憎悪からきてるものだ。
「さて、どうして風紀委員の人がチンピラの味方をしてるのかな~?」
「当り前でしょ!?ちょっと能力が使えるぐらいで自惚れて……。そんな奴らに媚びるぐらいならチンピラにすがりついたほうがマシよ!!」
それを聞いた光は怒りに身を任せて光線を女性風紀委員の背中に放つ。
あまりの痛さに女性風紀委員は声にもならない悲鳴をあげ、目が涙ぐんでいた。
「…私一人をやったところで、……何も変わらないわ。寧ろ…、状況が悪化するだけよ。」
「変えてみせるわ。チンピラを根絶やしにすればただの無能力者が変な目で見られずに済むの。……それじゃあ、さよなら。」
「もう出てきていいよ。」
建物から出てきた光は物陰に隠れている李を呼んだ。
彼女が言われたとおりに出てきたのは想定内だったが、いきなり自分より小さな光に抱きつき泣き出したのだ。
「うぅっ、私、何もしてないのに……。ただ能力を将来、社会で役立たせたいだけなのに…。どうして、どうして……。」
「モモちゃん、怖かったんだね……。」
「え?なんで私の呼び名を?それにその声、もしかして……。」
「今は名前を呼ばないで。明日、学校で落ち合いましょう。」
「う、うん。」
光は震えている李の手を掴み、急いでその場をあとにした。
執筆:アブソリュートさん
最終更新:2011年11月04日 22:01