闇神純也が不良どもに襲われた後、少しして。
「はいはーい、こちら海ちゃんでーす。海ちゃんは只今無能力者狩りをする不埒な生徒を取り締まるべくパトロール中ですよーと言いたいんだな、僕は」
っていうかなんで僕は説明口調なんだ、というツッコミを心の中でして、一人の教員がある路地裏を歩いていた。赤いぼさぼさの髪に眼鏡をかけた垂れ目気味な丸い瞳。ちゃんと締めたネクタイによれよれのスーツ、そして手には「携帯みたいな何か」を持っていた。
どうかんがえても役に立たなさそうな見た目をした彼の名前は海ちゃんこと不知火 海。ある一介の警備員(アンチスキル)である。
先ほどの言葉にもあった通り、海は「無能力者狩り」の取り締まりでパトロール中。
役に立たなさそうなぼんやりした見た目の割には、仕事をきちんとやっているみたいだ。
そんな彼が、「こんなことをしているよりは、悪質な悪戯の一つや二つでもしたいですねぇと言いたいんだな、僕は」と模範的な健全教員とはとても思えない発言を呟いた後、路地裏から抜け出した。
そして、そこで彼は一人の少年を見かけた。銀髪のはねっ毛で、青い瞳をしている。
覚えがある。確か、ジュ……なんとか、っていう生徒だ。たしかフルネームは闇神じゅ……なんとかである。純奈という妹がいる生徒だ。
ジュなんとかに海は接近した。見た感じ、彼は焦っているようだ。携帯で相手と会話していたので、会話が終わってから海が接近した。
「警備員(アンチスキル)参上ですよと言いたいんだな、僕は」
海が跳ねる。一応、参上のポーズのようだ。
「……いかん、さっきの何とも言えない悪臭で頭痛が」
「無視ですかがびーんと言いたいんだな、僕は」
「冗談ですよ。えっと、確か……不知火先生ですよね?」
反応してくれて嬉しそうな顔をする海。
「正解です。君は……闇神くん、そうだ、闇神純平くん、かなと言いたいんだな、僕は」
一転、純也の表情が変わった。
驚きにも似た表情だが、怒りや悲しみも内包しているように見える。でも大半は諦めであろう。
「あのね、先生」
純也は静かに、でも泣きそうな声で続ける。
「純平じゃありません、俺は純也です。闇神純也」
「そうかわかりました純平くん」
「わざとでしょ先生!」
「いえいえ僕は純平くんの名前なんか忘れたりしません」
「忘れてますよ! 俺の名前だけじゃなくていつもつけてる語尾とかいろいろ忘れてますよ先生!」
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「で? 一体君はここに何しに来たのかな純平くんと言いたいんだな、僕は」
「名前の件についてはもう諦めます」
純也が溜息をつく。そんな彼のブロークンハートなんか知るか、というふうに、能天気に海は続ける。
「路地裏なんかは危ないですよ。無能力者狩りがうじゃうじゃいますから……。純平くんは無能力者ですから、気を付けてくださいと言いたいんだな、僕は」
すでに無能力者狩りに遭いかけたばかり(しかも風紀委員に連絡済み)なのに、と複雑な気分になった純也はとりあえず頷いた。
「わかりました」
「わかればよろしい」
かみ合ってない。
その時、ものすごい勢い(ただし、速度は遅い)で、何かを引きずって走ってくる影があった。
「や、闇神くん!! 大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!? とにかく無事そうでよかったです!! れ、連絡があったので飛んできました!」
「引きずられた私が重傷なんですが。だれか手当てをしてくれないかな」
海船帆波と天音響(引きずられてきた)であった。天音の髪の毛はボサボサで、服にも汚れがついており、見るからにみすぼらしい外見だ。恐らく、引きずられてきたのが原因だろう。
「海船……と響!」
純也にとっては救いだった。自分が連絡してわざわざ風紀委員に来てもらったのだから。でもそう言う場合本来連絡すべき人物がいま君の目の前にいる、気づけ純平、いや純也。
本来、こういう場合は学校外になるため、風紀委員ではなく警備員に連絡するべき……なのだが、純也は気が動転していたのだろう、風紀委員に電話していた。
「おお、風紀委員のお二人じゃないですかと言いたいんだな、僕は」
そしてこの警備員、全く気づいてないんである。気づけ。
「あ、不知火先生! こんにちは」
「男の教師の名前なんて覚えていないなぁ」
対照的な二人の対応を見て、さすがの海も苦笑い。
「えっと、話をまとめると、御坂美琴っていう小学生くらい子に助けてもらったんですよね……ってえっ?」
海船がその人物の名前を出したとき、不意に海船は首を傾げた。
「どうした?」
「い、いや……その人って……御坂美琴は中学生だよ。いくらなんでも、そんな子供ではないはずだけど……」
「あれ? でも、異能力者、レベル2だって言ってたぞ。その御坂って奴は小学生並みに小さい奴だったのか?」
それを聞いた響が、不思議そうにつぶやいた。
「彼女は学園都市内にも7人しかいない超能力者――レベル5の一人だ。レベル2なんていうちんまいものではないよ」
純也の思考はだんだん混乱してくる。
「じゃ、じゃあ能力を偽っていて、それでボクっ子だったってことか、御坂は!?」
ここで、いままで黙っていた海も、とうとう乗り出してきた。
「僕の記憶上でいうけど、御坂美琴がボクと自らをよんでいた記憶はありませんねと言いたいわけですよ、純平くん」
「じゃ、じゃあ、あいつの名乗っていた名前は……」
「偽名、だと思うよ……」
「分かりやすぎるね」
「十中八九そうですね」
だとしたら、純也を助けたのは誰なんだ?
純也、海船、響、海は、そろいもそろって思考の迷路にハマりつづける。
執筆:レア
最終更新:2011年11月06日 22:23