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【七月序盤―First_event―】邂逅、そして勧誘

――――純也たちが集ったその日の夜。


一人の少女は軽快な足取りで人気少ない路地をひた歩く。
彼女の胸元にはそれなりに膨らんだ封筒が潜んでいる。
今日一日、彼女は急遽募集されていた特撮ヒーローの野外舞台のゲスト魔法少女のバイトをしていたのだった。
なんでも急に魔法少女役の人物が来れなくなったとかで、偶然近くを通りかかった少女に声はかけられた。
急な申し出ではあったが、なかなかに太っ腹なお給料であったために少女の機嫌はすこぶる良かった。
そんな時だった。


――――軽快ご機嫌少女、屠姫川霞嵐はキッと目を細め路地の裏へと目を向ける。


誰かの悲鳴が聞こえたのだ、それも酷く怯えきったもの。
屠姫川は躊躇せずに走りだす。

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悲鳴の元へ屠姫川が辿り着くと、そこには地面にペタリと座り込んだ一人の少年と、四人の制服を着崩した青年がいた。
怯えきった表情の少年をグルッと囲むように青年たちはそこに立ち、少年を見下ろしている。

その時、屠姫川の脳内では即座に、少年<青年たちの強弱の構図が出来上がる。
屠姫川は臆することなくカツンとわざとらしく靴音を響かせる。
すると屠姫川の存在に気付いた青年たちはめんどくさそうな趣で振り返る。

「ああー? なんだお嬢ちゃん…なんか用か」
「は、はぅおわあわぁ! 俺の心臓に激ヤバベリベリどストライクぅ! よろしい、ならば捕獲だ」
「…胸糞わりぃから、頭悪そうな発言スンナ。で、一体何もんだ嬢ちゃん。まさか風紀委員ってか?」
「ま、風紀委員なんか簡単にあしらえる馬鹿正直な奴らばっかだから、怖くねえけどな!」

ドっと青年たちの輪の中で笑いが巻き起こる。
対して屠姫川はその戦闘時特有の無機質な表情を崩さず言い放つ。


「―――正義の味方、魔法少女…もとい魔術少女がお相手します。魔術少女が」


次の瞬間、青年たちは華麗に空を舞った。

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「あ、ありがとうございます!」

片づけという名の掃討を終えた屠姫川がその場を去ろうとした時、なよなよとした感じの少年が声を掛けてきた。
短く切り揃えた黒髪に黒縁眼鏡と、いかにも文学少年といった感じだ。
少年は嬉々として話を続ける。

「やっぱり、あの噂は本当だったんですね!」
「…?」

少年の言う噂というものは屠姫川にとっては初耳のものだった。
一体なんだというのだろうか。

「ピンチの時には、どこからともなく可憐な少女が現れて助けてくれるっていう噂ですよ! いやー、まさか本物に会えるとはなー…僕、憧れてたんですよ」
「…そう、…そう」

正直に書こう。
この瞬間の屠姫川、非常に鬱陶しそうな表情である。
それに比べて少年はやや興奮気味に迫っている感じである。
が、次の瞬間、少年の雰囲気がガラリと変わり、口元が人には分からない程度に歪んだ。

「ねえお姉さん……もっと人助けをしたくない?」

それは、天使のものとも悪魔のものとも取れる囁きだった。

「どういう、こと…? どういう…」

少年の『人助け』という単語に反応してしまう屠姫川。
彼女はその一点において、酷く純粋で、酷く愚かだった。

少年は無邪気な瞳で屠姫川を見つめる。


「だって、お姉さんがそんな慈善活動みたいなこと自主的にしてるってことは、何かそういう信念みたいなものがあるのでしょう? 例えば、弱きを助け強きを挫く、みたいな」

「………………」


図星だった。
今の少年は、先ほどまで怯えきっていた少年とは何かが違う。
屠姫川は本能的にそれを察知していたが、あくまでそれは本能的にであり、それを意識することはなかった。


「さっきの奴らはね、武装無能力者集団(スキルアウト)って言ってね、全く才能のない奴らの集まりなんだ。
奴らはそれを疎ましく思って、近頃能力者…レベル1やレベル2といった、能力的に低い人たちを襲っているんだ」

「……この学園都市においては能力は絶対であると聞いています。なぜ、能力のないものが能力のあるものに力を振るえるのですか、力を」

「それは簡単。能力者といっても、その力の大小はピンキリ。レベル1や2程度ならば能力がなくても、単純な数と腕力があれば勝てるんだ」

過去数十年、数百年、数千年の戦いの場においても、数の力とは圧倒的である。
それは数の暴力に任せて圧倒的な物量で押し切るというシンプルかつ効果的なものだ。
そこに、たかが多少腕に覚えのある程度の者が差し込める隙間はない。
要はそういうことである。


「だから僕は、僕たち能力保持者は、無能力者たちを制裁することに決めたんだ。その為の組織も小さいながらにある。
どうかな、無粋な暴力を一方的に弱き人々に押しつける奴らを、一緒に駆逐してはくれないかな」
「……………………」


少年の言葉には確かな意義が存在していた。
醜悪な力から弱き者を守るために立ち上がることは、まさに屠姫川が望まんとしていることである。
だが、屠姫川はあることを切り出す。


「以前、私は貴方の言う能力者が、一方的に人を弄っていたのを見たのですが。以前」


この事について、何かやましい事があれば表情に多少の変化が見られるはずである。
えてして人間とはそういうものだ。
その変化を隠し通すことは生半可な使い手ではまず成し得ない。
だが。


「ああ。それは確かに以前報告にありましたね。あいつは馬鹿な男でした。決して僕たちからは仕掛けるなと言い含めておいたというのに。
結局力に溺れてお姉さんに粛清されたというわけです、むしろ当然の末路です。
僕たちは無差別に本能だけで行動するけものじゃありません。
僕たちはただ、弱いものを、理不尽な力から守り通す為だけに力を行使するのです。
お姉さん、僕たちだけでは守れるものも守りきれないかもしれません…どうか僕たちに力を貸してください!」


少年の顔には一切の曇りが見られず、それどころか真摯な想いだけが伝わってくる。
その言葉に屠姫川は価値を見出した。
この少年の放つ言葉はすべて本心である、と。

彼女は、人を救うことに一途で、全力で、純粋で、清廉で…そして愚かだった。


「わかりました。あまりお役には立てないかもしれませんが、全身全霊で貴方を支えさせていただきます…全身全霊で」


その瞬間、少年の顔が喜びの色一色に染まりあがる。


「ありがとうございます! お姉さんがいれば百人力、いや千人力ですよ!」
「私の名前は屠姫川霞嵐。どうか、この力…お役立てください。どうか」


少年の笑顔は確実に歪む。
黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く…そして真っ黒に。
だが少女はそれには気づかない。


「はい! よろしくお願いしますね。僕の名前は――――」


この瞬間、あってはならない科学と魔術の交錯が起きてしまったのだった。


執筆:ロキさん

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最終更新:2011年11月07日 23:32