第二話『であい そのに』
同時刻。放送塔。
風が吹きぬけ、本来誰も登って来れないはずの鉄骨の上に少女は座っていた。
「ったく、しけてんなぁ」
赤い髪に小柄な体躯。チャームポイントの釣り目と八重歯は小悪魔的な印象を感じさせる。
しかしその眼光は鋭い。肉食獣のような、射抜くようななにかを感じさせた。
「馬券馬券馬券、しかも全部外れ。なんでとっとくんだか」
しかしもうちっと有意義な事に使えんかね。大人は。
少女は大量の外れ馬券が入った財布を地上に投げる。
佐倉杏子。
巴マミが死んだ事を知り、最近この見瀧原町に活動拠点を移した魔法少女である。
「しっかし、あいつもようやるよ」
美樹さやか。あんな無駄な事して。マミのやつの後でも継いだつもりなのか。
マミだって、自らのソウルジェムの状態を常に計算して取り捨て選択してたのにな。
杏子は徹頭徹尾、自分のためにしか魔法を使わない。対象は魔女だろうが使い魔だろうが同じ魔法少女だろうが人間だろうが関係なく、邪魔になるものは徹底的に潰す。
彼女はそれを貫く事によって、魔法少女として一つの理を守っている。
――自分のためだけに戦う。
命のやり取りは、結局自らを第一義にしないとやっていけない。
「ひと」のためにと戦う魔法少女は、理想と現実の狭間でいつか絶対に押しつぶされる。
彼女はその事を誰よりも良く分かっている。
なぜなら、かつての彼女は誰よりもそうだったから。
もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
「――ん?」
大量のハンバーガー――基本的に彼女はジャンクフード嗜好者である――を食べていた彼女は、「上空」から突然の気配を感じた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「――落ちちゃうですぅ!」
そして遥か上空から「落下」してきたのは、同じく赤い髪のツインテールの少女。
ごつん。
二人の少女は、頭から激突した。
そこは、幾何学模様の白い部屋だった。
真円状に置かれた様々な種類の椅子。
円卓こそ無いものの、そこは誰かが住むという風情ではなく、会議場を連想させる。
「--ん」
覚醒した少女は、ゆっくりと起き上がった。辺りを見回す。初めて見る光景。
「--ここは」
すらりとした長身に、眼鏡の奥に秘めた怜悧な瞳。
無駄をそぎ落とした、風貌。
「--どうしてあなたはここにいるの?」
真後ろには、黒髪の少女が立っていた。
その姿は清楚だが、眼鏡の少女と同じ様に、どこまでも冷静に、どこまでも冷徹に見つめる瞳。
「--あなたは」
157 名前:『マギカ☆フォルテッシモ』[sage] 投稿日:2011/03/11(金) 21:02:20.71 ID:TLqnAjKD [4/10]
気づいたら、誰もいない部屋だった。広く、綺麗に整理された可愛らしい部屋。
だけど、からっぽの、誰もいない部屋。
白い男性用学生服--所謂『白ラン』である--を見につけ、さっぱりとカットされた亜麻色のショートヘアー。ボーイッシュであるがしかし、その顔立ち、身体付きは少女のものだ。
「いつき、だれもいないでしゅ? ここはどこでしゅか?」
彼女の肩に乗った幼い妖精は、彼女に聞く。
うん、と彼女は頷く。どこだろう。
そして、机にポツンと置かれていたノートを手に取った。
「--巴、マミ?」
それは、それぞれの出会いの始まり。
「--助けてくれたのはありがとう。感謝する。でもどういう事? 魔法少女じゃないって」
- あんた一体--そう言い掛けたさやかに、キュゥべえは割ってはいる。
「簡単な事だよさやか。彼女にはぼくとの契約の証したるソウルジェムがない」
「え、それって……」
「少なくともぼくは彼女と契約した覚えはないし、願いを叶えてあげたこともない。
掛け値なしの真実さ」
少女は変身を解除する。セミロングの跳ねた青い髪に、浮き立たないがセンスの良さと可憐さを感じさせるファッション。可愛いけれど、やはり身長も相まって小学生にしかみえない。
「あたしだって聞きたいんだけど。さっきのやつはなんなの? 砂漠の使徒の残党? デザトリアンではなかったけどさ。こころの花も無かったし」
「--『砂漠の使徒』? 『デザトリアン』? 『こころの花』? いやあれは魔女で、ころころと転がったのはグリーフシードで」
「--『魔女』? 『グリーフシード』? 大体『魔法少女』ってなんなの?」
会話が通じない。
そういえばグリーフシードも知らなかったみたいだし。
「さやかちゃん。ここは一旦部屋で話し合ったほうが良いんじゃないかな。--もしかしたら仲間になってくれるかもしれないよ。悪い子にはみえないもん」
まどかは安堵と期待の目でさやかを見つめる。事情を話して、仲間になってくれたら。
さやかは溜息を吐く。
結局このザマだ。
結局何も出来ないまま勝手に死にそうになって。
結局まどかを戦いに追い込むことになりそうになって。
結局なんか変な奴に助けられて。
何だかんだいって、これ以上まどかに心配させるわけにはいかない。
素性もわからず、魔法少女でも無い癖に魔女をぶちのめすなんて非常識なやつを迂闊に信用できないけれど、仕方ない。
さやかはもう一度深く溜息を吐いた。
「わかった。いいよ。あたしの家、行こうか」
「いってぇんだよ! なにすんだこのバカ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ごめんで住んだら警察イラネェんだよ! ていうかてめぇ、どこから降ってきやがった!」
「どこからって……こころの大樹?」
「は? こころの……? もしかして頭が大変な事になってる人専用病院から来たとか?」
「なってませんよ! 大体なんですかその言い方!
私にも、大変な事になってる人にも失礼です! 堪忍袋の緒が切れますよ!」
「……いや、既に切れてるぞ。……頭」
ツインテールの少女は、額にずれていた眼鏡を調整し、自らの額をぺたぺたと触る。
切れていた。結構な量の血が手にべっとりとつく。
「--ん。あ、血が……血が--!」
パニックになった少女は思う下を見てしまう。
風が吹き抜ける中、人や車が消しゴムの消しカスのような大きさだ。
なまじ足場は放送塔の鉄骨である。お世辞にも安定性が高いとはいえない。
無論ガタガタ揺れたりする。
「高い……」
「--おい、」
ぶるぶる震えてんぞ、と指摘する前に少女は涙目になっていた。
「一体ここはどこですかぁ……」
来海えりか、と少女は名乗った。
そして伝説の戦士、『プリキュア』。キュアマリンであると。
まどかたちと同じ、昨年、中学2年の時にこころの大樹の妖精コフレと契約し、地球と人々の「こころ」の砂漠化を狙う宇宙からの使徒、『砂漠の使徒』と戦いぬいたのだと。
クチャクチャもぐもぐクチャクチャもぐもぐクチャクチャもぐもぐ。
一応なりとも礼儀として出されたクッキーが脅威の勢いでえりか一人に消化されている。
空気を読まない。遠慮もない。
「そんでね、地球全部砂漠化しちゃったから最後は宇宙で戦う事になってね、スナッキーの大群を殴り飛ばしてね、
ジャキジャキいう熊本さんも殴り飛ばしてね、最後は」
えりかは無い胸をはる。
「『すごい事をしてしまった』んだ! あたしすごいっしょ! あ、クッキーおかわり頂戴」
「もうない。というか手元に大量に残ってるじゃない」
「おいしんだから良いじゃん」
クチャクチャもぐもぐクチャクチャもぐもぐクチャクチャもぐもぐ。
「わけがわからないよ。えりか、もうちょっと丁寧に言ってくれないかな」
「えー。充分丁寧じゃん。言葉で表現するとそうなんだから」
「丁寧です!」
クチャクチャもぐもぐクチャクチャもぐもぐクチャクチャもぐもぐ。
「あの、えっと、えりかさん。昨年中学二年生だったって事は……」
「うん。いま中三。まだ14だけど」
マミさんと同学年。
正直、信じられない。
まあ、マミさんは学校の方でも特別スタイルが良い方だったけれど、それでもやっぱり小学4、5年生にしかみえない。
「え、じゃあ、えりか先輩」
「えりかでいいって! 同い年だし」
クチャクチャもぐもぐクチャクチャもぐもぐクチャクチャもぐもぐ。
「じゃ、じゃあ、えりかちゃん」
「……どうしてプリキュアになったの?」
まどかは安堵していた。雰囲気も何もかも、全く逆方向だけど、この子はマミさんと同じだ。
魔法少女であろうが、プリキュアであろうが関係無い。この子は多分、嘘をつかない。
だからこそ、聞きたかった。なぜ戦うか。なぜ生命を捧げるか。たった一つの願いのために。
あの赤い子やほむらに聞けなかった事を。
「……」
クッキーを食べる手が止まった。さやかも真剣な表情でえりかを見つめる。
「あたしも聞きたい。あんたがどんな願いで契約したかを」
「…………」
えりかは黙り込み続ける。
「あたしはあんたの事を正直、信用してない。それどころか怪しいヤツだと思ってる。
まどかに言われなきゃ、当然この家に上がらせてない。もしあんたの目的が少しでも人に危害を加えるんであれば、あたしはあんたの敵になる。
どんな事があっても、徹底的に叩き潰す」
「さやかちゃん……」
「まどかは黙ってて。答えられないの? 答えられないんだったらあたしは--」
「--『ズバッ』と」
「……ずばっと?」
「砂漠の使徒がドンダカドンダカって感じに来て、バキンバキンって感じに悪い事やるもんだから、『ズバッ』と解決して、『バギッ』と成敗しちゃるって思ったから」
えりかは、コフレを鉄の爪のごとく鷲掴みする。あくまで真剣な表情。
「……だから、こいつと契約したんだ」
「そうです!」
「……願いは?」
「そんなものないよ?」
「何も願わずに、契約したって事?」
「そもそもそんな事、言わなかったよね、コフレ?」
「そもそも願いを叶えるなんて、そんな魔法みたいな事できないです!」
答えにまるでなってない。
「ふざけないで」
思わず、口に出ていた。止まらない。腹が立つ。
マミさんだって、杏子だって、あのほむらだって、命を渡す覚悟と思いがあるから契約した。
たった一つの願いのために、全てを捨てる。
- いや、捨てざるをえない状況に追い込まれて、その上で選択するのだ。
「死」以外の終わりのない悲喜劇に、参加するのかしないのか。
だから腹が立つ。こいつは「あの日」までの「自分」と同じだ。馬鹿だ。
何でも願い事がかなって、
おまけに魔法少女という誰も持ってない「非日常」も手に入る。
それ位にしか考えず、マミさんの孤独をなんにも考えてなかった自分と、同じだ。
「そんな何も考えずに契約して、願いもなにもかなえられずにプリキュアになって、砂漠の使徒ってやつらぶったおして正義の味方気分? 今日も気持ちよかったんでしょ。あたしっていう弱い癖に戦うやつ救えて」
「……さやかちゃん、あの、やめて」
止まらない。一旦堰を切った感情は、止まらない。
「だけどね、あたしはもう何も痛くないんだから」
あの時はソウルジェムが濁ってたから。途中で痛くなったのは、濁って能力が完全に発揮できなかっただけだから。だから。
「痛覚を遮断すればもう何も痛くないし、脳内麻薬を魔力で出せば戦うのは「気持ち良い」し「幸せ」なの。殴られたって蹴られたって斬られたって。死ぬ時だって何も痛くないし、怖くない。
「気持ち良い」まま、「幸せ」なまま死ねるんだから。だから--」
「いや、痛いでしょそれ」
「----!」
あんたの助けは今後一切必要ない、とたたみかける前に、えりかは自然に言った。
説教するというつもりも、何もなく。ただクッキーを頬張りながら。
「あたしは痛いのカットするなんて器用な事無理だしさ、その感覚、良くわかんないけど。
でも殴られたり蹴られたり斬られたりするのって、痛いよ? 死ぬような目にあったら、怖いよ?」
「……」
「さやかってさ、がんばりすぎてんじゃない?」
「-----うるさい!」
美樹さやかは立ち上がる。自らの部屋から出、玄関に。
鹿目まどかは追いかける。部屋から出、さやかの前に。
見つめ合った。
「……ごめんまどか。ついてこないで」
そしてさやかは、外の闇に再び出て行く。
そのソウルジェムは、既に濁っている。
同時刻。
見瀧原公園の椅子に、杏子と花咲つぼみ--放送塔から杏子の力でなんとか降りた後、少女は過呼吸を繰り返しながらそう自己紹介した--は座っていた。
もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
二人でハンバーガーをもくもく、もぐもぐと食べている。
どうしてあんなとこから落ちてきたのか、おまえ誰なんだという口論を延々しつづけ、そのあまりのラチのあかなさに二人とも、腹の虫が鳴ったのである。
「美味いか」
「初めてですけど。正直、脂っこいです」
「じゃあ食うな」
あ、とつぼみが言う前に、杏子はつぼみのハンバーガーを取り上げ、パクついた。
「……どうしたよ」
つぼみは顔面が沸騰していた。
「だだって、だって、杏子さん! 間接キスですよ。しかも女の子同士で! しかも初対面なのに!」
「はぁ? そんなんどうでもいいだろ。食えりゃあ」
ハムスターのごとく頬いっぱいにハンバーガーをつめながら、器用に杏子は答える。
「大体食べモンでそんな事言ってるやつらは飽食なんだよ。断食ダイエットとかいってるヤツラと同じ位、馬鹿でマヌケだ」
「……」
「おい、どうした?」
「--何か、来ます」
公園は、一瞬にして暗黒舞踊の舞台と化した。
ォォぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん。
抽象画の如く突如沸き立つ魔物、使い魔。
魔女たちの忠実なる僕にして、夢の残骸。
「ちっ」
こんなとこで。
こんなわけわかんないヤツと一緒に。
だが、ここはやるしかない。
杏子は自らのソウルジェムを振りかざし、変身しようと?
「プリキュアの種、いくですぅ!」
「プリキュア・オープン・マイハート!」
「へ?」
突如として輝く赤い光。それは、魔法少女とプリキュアの、二つ目の遭遇。
「大地に咲く一輪の花! キュアブロッサム!」
次回予告
「てめぇ、意味わかんねえ事いいやがって! そんな奇天烈なカッコするやつが魔法少女じゃなくてなんだってんだ!」
「プ・リ・キュ・アですよ! それにさっきからその言葉遣いなんですか!
お父さんお母さんに注意されなかったんですか!」
「うぜえ、超うぜえ……」
「こっちだって堪忍袋の緒が切れそうです!」
「……今時の切れる若者ってやつか?」
「……杏子さんもですね」
第三話『であい そのさん』
※次回予告はその場のノリで適当に書いています。
なので書いてるシーンが本編で出てきたり全然出なかったりします。
最終更新:2011年03月15日 22:51