「シロップ!急ぐナツ!」
「これで精一杯のスピードロプ!」
晴れ上がった空に、一匹の巨大な怪鳥が空を舞っていた。
オレンジ色の毛皮をした全長十メートルはあろうかという巨体だ。
怪鳥はシロップ、異世界を行き来することが出来る配達人である。
背中に作られた十人は軽く乗れるであろうスペースに居座った茶色の大型のリス、ナッツがシロップへ急かすように声を掛ける。
とは言えシロップもこれが全速力である。
無駄口を叩く暇すらなく自分の全力で飛行しているのだ。
それはナッツにも分かっている、だが急かさずにはいられなかった。
あの時に現れた銀色の怪人が復活してしまったのだ。
―――― FINAL VENT ――――
「ロプ……!?」
突如頭上から響いた、男の声を思わせる機械音。
シロップは周囲を見渡すが音声を発するような物は自身と背中のナッツしか存在しない。
しかし、あの音はとても空耳とは思えないほどはっきりとした音。
とは言え辺りには何もない。
どんなはっきりとした物音が聞こえようとも視界に入らないのならば、やはり空耳であろう。
今はとにかく先を急がなければいけない。
だが、シロップの左翼に一つの衝撃と激痛が走る。
「ロプゥ!?」
驚愕と痛みの悲鳴を上げるシロップ。
片翼が射ぬかれたことにより、安定した飛行を不可能とさせる。
痛みを感じ取りながら、必死に襲撃者の姿を探す。
シロップの下方に当たる位置に、銀色の影が会った。
騎士を思わせる仮面と剣を持った、水銀の人形のような男。
フュージョンは仮面ライダーディエンドの知識を元に作り出した、仮面ライダーナイトのまがい物。
だが、その能力の詳細はほぼナイトと同じ。
先程の飛翔斬によりシロップの左翼を貫いたのだ。
「シロップ!大丈夫ナツか!?」
シロップにはナッツの悲鳴が何処か他人事のように感じた。
脂汗を流しながらなんとか着地出来る場所を探すが、幸いと言うべきか目的地であるタコカフェまでたどり着けそうである。
この調子ならばあそこまでは行ける、そう確信した瞬間だった。
背の高いビルの屋上に、シロップは一つの影を見つけた。
巨大なランチャーを構えた、一つの影。
人が持つには巨大すぎるランチャーを構えた銃士の名は仮面ライダーゾルダ。
ナイトと同じく、フュージョンにより複製されたライダーのレプリカだ。
背筋に嫌な汗が走る、なんてものじゃない。
今度こそシロップは確実に死が忍び寄ってきているのを感じ取る。
「ナッツ!悪いけど、ここまでだロプ!」
シロップは急ブレーキをかけて背中を斜めに傾けて、ナッツを背中から放り投げる。
慣性の法則にしたがって、ナッツの身体を宙へと放り出される。
「ナ、ナツゥゥゥゥゥゥ……!」
もちろんシロップも何の考えもなくナッツを放り出したわけではない。
ナッツはアレでも耐久力は大したものだ、死にはしない。
なによりあの方向はタコカフェの方向。
この時間ならば恐らくキュアブラックかキュアホワイト、シャイニールミナスのグループが既に居るだろう。
あの三人ならば、ナッツを守ることが出来る。
そう思った瞬間、一人の男がタコカフェから顔を出すのが見えた。
シロップは配達業を生業としており、このように空を舞うことが多いことから目がかなり良い。
故にタコカフェに居た男を見つけることが出きたのだ。
その男をシロップは見て、自分と似ている、と思った。
シロップはキュアローズガーデンの住人、どの世界に行っても『同種』ではなかった。
それと同じ、帰る家をなくした迷子のような雰囲気を持っている。
シロップが最後に見つけた、タコカフェのアルバイトらしき男の名は門矢士。
仮面ライダーディケイドとして世界を巡り、その世界で役割を果たす男である。
その瞳はこの世界で何を映し、何を思うのか。
仮面ライダーディケイド×プリキュアオールスターズDX みんなともだち☆奇跡の全員大集合!
【対決! オールプリキュアVSレプリカライダーズ!】
「それにしても、ひかりったら遅いなぁ……せっかく友達が来てくれたっていうのに」
「ひかり?」
士はテーブルを拭きながら、女店主・藤田アカネが漏らした名前に反応を示す。
その士の疑問の言葉にアカネは「あれぇ、言ってなかったっけ?」という逆に疑問の言葉で返す。
「あたしの従妹で一緒に暮らしてるから、いつも手伝ってくれてるのよ。
今日は買出しを頼んだんだけど、帰ってくるのがみょーに遅くてさぁ」
「寄り道でもしてるんじゃないのか?」
「うーん、なぎさ達の所に行ったのかなー。今日は遠くから友達が来るから一緒に来るつもりなのかもしれないね」
アカネは心配そうに公園の外を眺める。
さっぱりとした性格なようだと思っていたが、心配性な一面もあるようだ。
そんなことを考えていると、『決めた!』とアカネは弾んだ声を出してエプロンを外しながら士へと声を掛ける。
「あー、実はちょっと買い置き切らしてるのにさっき気づいてさぁ。
悪いけどちょっと店番頼めるかな。あたし、買出し行ってくるから。
こればっかりは自分の目で確かめないと気が済まなくてね」
「ああ、こっちも仕事だから構わない。仕事の内容もだいたい分かったしな」
テーブルを拭きながら士は軽く返事をする。
実際にもう一人でやっていけると思ったから当然だ。
「んー、旨かった! じゃあ士、俺はちょっとブラーっとしてくるからなー」
「ああ、分かった。テキトーにやっておけ」
士はトレイに乗せた大量の入れざらとコップを片手に、ユウスケからお代を受け取る。
そして、屋台の中へと入る。
まだ昼前のためかお客はそう多くはない。
恐らくアカネもそれを承知したから士一人に店番を任せたのだろう。
それにしてもよく晴れた空だ、と士は思いながら空を眺める。
この世界ではいつもの事件らしきものも起きる気配すらない。
あるいは、このままここでバイトをして自由に出来る金を増やすと言うのも良いのかもしれない。
ブレイドの世界以来となる収入だ、大事にしておきたいところだ。
だが、士は忘れていた。
事件とはいつも唐突に、気配すら感じさせずに、影のように常に後ろにぴったりと引っ付いてくることを。
「……ゥゥゥ!」
「ん……なんだ……?」
何処からか響く、甲高い声。
一瞬空耳かとも思ったが、外に居る四人もキョロキョロと周囲を見渡している。
となると単なる空耳ではなく、なにかの生き物の鳴き声。
だが、何処から聞こえてくるのだ?
士が珍しく不思議そうな顔をして、もう一度空を眺めると。
「ナツゥゥゥゥゥゥ!」
「なっ!?」
ポコリ、と間抜けな音がして士の顔面に柔らかいものがぶつかった。
痛みは少ないが、驚きは大きい。
真っ暗になった視界から光を求めるように顔に張り付いた『物』をもぎ取る。
ふわふわとした感触とその奥に感じる硬い感触。
小動物だ、手のひらサイズではないがリスにしてはかなり大きい。
士の顔を覆えるほどの大きさのリスだ。
「なんだこれは……?」
「ナッツやないか!?」
士が頭をひねっていると、タコカフェに来た四人組の一人が反応する。
だが、今の声は確かに高めの声ではあったが、あの中に関西弁で喋るのは居ないはずだ。
じーっと、不審そうに見る士。
その視線に慌てたように二つ分けの少女、桃園ラブが口を開く。
「あ、あー! な、ナッツやんけー! どないしたんやぁ!?」
「そっちのペットか」
「え、あ、そ、その……え、ええ! そうなんですよー!」
「空から降ってくるのか、お前のペットは」
「ハハハハッハ! い、いやあ、居なくなったと思ったらお空を飛んでただなんてー!」
あからさまなほどの胡散臭い関西弁を操りながら、足元のフェレットを蹴飛ばす。
士は今気づいたが、先程から『何か』を風呂敷に包んだフェレットが四人組の足元に寄りそうように座っている。
士は顔面に張り付いた小動物を引き剥がし、その客へと向かって差し出す。
ナッツに顔面直撃を食らい、気が立ったのだろう。
店員から客への丁寧な言葉遣いではなく、いつもの不遜な口調で士は尋ねる。
四人組の客の一人、桃園ラブたちはその言葉遣いにむっと思う暇もなくナッツのことを誤魔化すためにシドロモドロになる。
その様子に眉をひそめながらも、別にナッツ返さない理由もないため投げつけるようにラブたちへと渡す。
(こらっ!タルト! 人前では声を出さないでって言ってるでしょ!)
(す、すんまへん……! でもナッツが……)
「……ん?」
だが、その瞬間に上空に銀色の陰りが見えた。
士はナッツを持ったまま目を細める。銀色の影はどんどんと近づいてくる。
また顔にぶつかるのか!?と若干顔をしかめるが、今度は顔に当たることなく士の目の前に現れる。
その影の正体は、士には見覚えのあるそれだった。
銀と黒という色合いの違いはあるものの、影は龍騎の世界で見た仮面ライダーナイトだ。
さらに同じ龍騎の世界のライダーである仮面ライダーゾルダも連れなって現れたのだ。
「ナイトにゾルダ? おいおい、ここはプリキュアの世界だろうが。それにその格好はなんなんだ」
士の呟きを無視するように銀色の銃士・仮面ライダーゾルダはカードを使用する。
ゾルダはそれだけでも強大な力を持つ銃のマガジンスロットに差し込む。
―――― SHOOT VENT ――――
ゾルダは上空から降ってきたキャノン・ギガキャノンを肩に装備する。
話をする気が毛頭もない二人のライダーの様子に、士は僅かに舌打ちをする。
仕方ないと呟きながら、士はホルダーから『ディケイド』のカードを取り出す。
ナイトとゾルダの心情は全く察することが出来ないが、敵意があることははっきりと分かる。
ならば、士も迎え撃つしかない。
「はぁ!」
だが、変身などさせるものかと言わんばかりにゾルダが装備したギガキャノンの二つの砲口が火を噴く。
無防備な人間程度ならば一撃で殺し得る威力のギガキャノン。
士の背後の木々を巻き込んで、爆炎と煙が上がる。
「店員さん!」
―――― KAMEN RIDE ――――
爆風から目を守るように手を翳したラブが叫ぶと、同時に爆発の中心から機械音が響く。
低い男性を思わせる、だが何処か人間味のない声。
その機械音と同時に、コツコツと小気味いい足音が響く。
――――― DECADE ―――――
「ったく……節操のない奴だ」
爆炎から現れたのは先程の顔立ちの整った長身の店員、門矢士ではなかった。
現れたのは、マゼンダ色と黒を基調としたスーツと装甲、そして仮面をつけた一人の戦士。
剣呑な雰囲気と飄々とした掴みどころのない雰囲気を併せ持つ、門矢士のもう一つの姿である仮面ライダーディケイドだ。
その姿を見たナッツが驚いたように声をあげる。
「ディ、ディケイド!?」
「プリプー!」
「うわ、シフォン!?」
ナッツの驚きの声に答えるように、一匹のフェレット、タルトの風呂敷の中から一人の赤ん坊が顔を出す。
と言っても、人間の赤ん坊ではない。まるで人形のような、ふわふわとした赤ん坊だ。
「でぃけいど……? ナッツさん、あの人のこと知ってるの?」
驚きに満ちたナッツの声にただならぬ気配を感じ取ったのか、祈里は説明を促す。
ナッツはコクリと頷き、冷や汗を流しながら本で得た知識を頼りに中学生にも伝わるように説明していく。
「確か古い本に詳しく書かれていたナツし、人づてにも聞いたことがあるナツ。
マゼンダ色と黒色のスーツを着た仮面の戦士……その名は世界の破壊者ディケイド。
同じように仮面をつけた戦士・仮面ライダーの世界を巡り、そのことごとく壊していくらしいナツ。
でも、本当に居るなんて……ただの作り話だと思ってたナツ!」
ナッツが説明しているうちにもディケイドはゾルダへと交戦し続ける。
ライドブッカーをガンモードへと変化させ、ゾルダを上回る機動力でポジションを変えながら銃撃戦を仕掛ける。
だが、ディケイドは若干違和感を覚えていた。
以前、龍騎の世界でゾルダの戦いを見たことがあるが、戦闘におけるポジショニングの上手さと銃撃の精密さが特徴的なライダーだった。
しかし、このゾルダは動きが鈍い上に直線的な攻撃しか行ってこない。
まるでゾルダらしくない動きだ。
恐らくこれは仮面ライダーではなく出来の悪いなにかだろうとディケイドは当たりを付ける。
「単なる出来の悪いレプリカか……なら直ぐに終わらせれてやる」
そう呟き、腿のホルダーから一枚のカードを取り出す。
赤い角と青い複眼が特徴的な、カブトムシを模しているであろうライダーのカードだ。
それを腰に巻いたディケイドライバーへと差し込む。
―――― KAMEN RIDE KABUTO ――――
機械音が響くと同時にディケイドが姿を変えていく。
カードに描かれていたライダーと同じ姿、仮面ライダーカブトへと姿を変えたのだ。
姿を変えた意味が分かったのか、ゾルダは焦ったようにギガキャノンを発射する。
だが、遅い。
ディケイドは一枚の『CLOCK UP』と書かれたカードをいつの間にか取り出し、トントンと指で側面を叩く。
そして、手首と肘の動きだけを使ってディケイドライバーへ投げ込むように差し込む。
―――― ATACK RIDE CLOCK UP ―――
その瞬間に、ラブたち一般人はもちろん同じライダーであるゾルダの目にすら追えないスピードでディケイドは移動する。
気づいたときには、超スピードでギガキャノンの砲撃を避けてなおかつ距離をゼロ距離まで詰めていた。
瞬きをしているだけで見逃しそうなほどのスピード。
―――― FINAL ATACK RIDE ―――
背後を見せた堂々とした姿でディケイドはカブトの仮面を模した絵が描かれたカードを取り出す。
それをやはりディケイドライバーへと投げ込む。
―――― KA KA KA KABUTO ―――
「はあ!!」
小気味の良い機械音が鳴り響く中で、勢い良く回し蹴りを行う。
仮面ライダーカブトの決め技であるライダーキックだ。
クロックアップにより回り込まれたゾルダがそのライダーキックを避けれる訳がなく、直撃を受け爆散する。
その戦闘を惚けた様子で眺めていたラブたちだったが、せつながいち早く事態を把握する。
とにかく敵意を感じないディケイドは今は関係ない。
それよりも敵意を剥き出しにしているナイトをどうにかしなければいけない。
「とにかく、私たちも戦いましょう!」
「ええ、分かったわ!」
「ナッツさんとタルトちゃん、シフォンちゃんは下がっていて!」
せつなの声にラブ、美希、祈里の三人が反応する。
そして携帯電話を思わせる変身アイテム・リンクルンを取り出し、鍵の形をしたもうひとつの変身アイテムであるピックルンを取り出す。
リンクルンに上部にある差込口にピックルンを差し込み、扉を開けるようにピックルンをひねる。
ピックルンによって開かれたリンクルンの中央に埋め込まれているボールを、四人全員が人差し指と中指を回転させる。
『チェインジ! プリキュア!』
『ビィート!アァ―ップ!』
その一言と共に、ピーチとベリーは前方へ走り出し、パインとパッションは下方へと落ちて行く。
光の中をそれぞれがそれぞれの方法で動いていく。
そして、その身体を包んだ光が四人の服を形作っていく。
髪、チョーカー、イヤリング、リストバンド、髪飾り、ブーツ、フリフリの服とスカート。
四人はそれぞれがそれぞれの順番で確かに『変身』していく。
変身し終わった四人が上空から落ちてきて、ブーツのかかとで地面を、トントン、と小気味の良い音を立てて四人が並ぶ。
「ピンクのハートは愛ある印!」
向かって右から二番目に立った長い髪を二つに分けたプリキュア――キュアピーチが両手の長い指でハートを作る。
そして手の皺と皺を合わせるように、パン!、と音を立ててハートを崩して手を打つ。
「もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望の印」
向かって左端のくるくるの青い長髪をしたプリキュア――キュアベリーが同じく長い指で胸の前にハートを作る。
そして、やはり手の皺と皺を合わせて手をたたき、踊るように一回転し。
「摘みたてフレッシュ! キュアベリー!」
「イエローハートは祈りの印!」
今度は向かって右端にいる、唯一短いオレンジ色の髪のプリキュア――キュアパインが両手で作ったハート。
それを崩しながら手を叩きながら、はしゃぐように回り始める。
「採れたてフレッシュ! キュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せの証!」
他の三人よりも早口で、真っ赤な服を着たプリキュア――キュアパッションが素早くハートを崩して手をたたく。
見様によっては天使の羽にも見えるボリュームのある髪が特徴的なプリキュアだ。
「熟れたてフレッシュ! キュアパッション!」
『レッツ! プリキュア!』
四ツ葉町に住み、管理国家ラビリンスと戦う四人組プリキュア。
それがラブたちの持つもうひとつの顔だ。
「こいつらがプリキュアか……雑誌に乗ってた連中だな」
ディケイドは呟き、腕を組んで試すような目をしながらタコカフェの屋台へともたれ掛かる。
仮面ライダーゾルダらしきものは龍騎の世界で見た時よりも弱かった。
士は見物に徹する。
新聞や雑誌ではイマイチ強さは分からないためディケイドとしてもプリキュアの強さが気になるのだ。
精々分かっていることなど、少女にしては勇ましいという程度だ。
バイト先のタコカフェに危害が出るようなら士が手を出せば良い。
店主が留守中にタコカフェが破壊されたとなれば、士のバイト代にも影響がある。
そう考えているうちにナイトがベルトから一枚のカードを取り出し剣、ダークバイザーの柄へと差し込む。
―――― TRICK VENT ――――
再び機械音が響き、ナイトの身体が四つに分かれる。
シャドーイリュージョン、機動力に優れたナイトの得意とする戦法の一つ。
これで一対一の形となった。
「はああ!」
プリキュアが勇猛果敢に攻め込む。
ピーチとパッションが直線的に進み、ベリーとパインが回りこむように左右に分かれる。
一対一ではなく四対四に持ち込むつもりなのだろう。
ディケイドの考えどおり、パッションが大きく跳躍し四人のナイトの後ろへと回り込む。
これでナイトたちは前方にピーチ、左方にベリー、右方にパイン、後方にパッションと囲まれた形となった。
それぞれのナイトがダークバイザーを持つ。
背中合わせに陣形を取り前方へと注意を向ける。
あくまで一対一に持ち込む腹なのだろう。
まず最初に動いたのはピーチだ。
ナイトの一人がピーチを迎撃するためにダークバイザーを振るう。
ピーチはそのダークバイザーを姿勢を低くすることで避け、ナイトの懐へと潜り込む。
その様子を見て、やはり動きが鈍い、とディケイドは思う。
プリキュアは確かに速いが、スピードならばナイトもそれなりのものだ。
いくら四人に増えても、これではプリキュアが勝つだろう。
「とりゃあああ!」
ピーチは肘をナイトの腹部へ叩き込む。
見兼ねたナイトの一人がピーチへと攻撃するが、陣形を崩すのはマイナスだ。
崩したナイトの前方にいたパッションが連鎖するように動き出す。
がら空きになった背後からの攻撃。
ナイトは避けきれずに直撃を受け、その瞬間だけでも四対二へと状況が変わる。
その瞬間を逃すような真似はしまい。
彼女たちもまた何度も戦闘を行ってきた戦士なのだから。
ディケイドの予想通り、隙を窺っていたベリーとパインも動き出す。
四方からの攻撃、しかも二人は体勢を崩している。
圧倒的にプリキュア側に有利な状況だ。
その有利な状況を崩さずにプリキュアたちは攻撃を開始する。
それぞれの目の前にいるナイトへと一撃を与える。
虚を突かれる形をなったナイトたちはその一撃を食らう。
そこで四人全員がナイトを一つの方向へと吹き飛ばす。
木々へとぶつかり、ナイトたちの動きが僅かに止まる。
その瞬間にリンクルンを取り出し、ボールを回転させる。
そうすることでリンクルンからそれぞれの必殺技をさらに強化させるアイテムを取り出すことが出来るのだ。
「届け! 愛のメロディ! キュアスティック! ピーチロッド!」
ピーチが持つキュアスティック、ピーチロッドは先端にハートをついた武器。
リコーダーのようについたボタン、そのボタンを指を滑らせながら押していく。
「響け! 希望のリズム! キュアスティック! ベリーソード!」
ベリーが持つキュアスティック、ベリーソードは先端にスペードがついた武器。
刀を構えるように腰だめに持ち、やはり指を滑らせてボタンを押していく。
「癒せ! 祈りのハーモニー! キュアスティック! パインフルート!」
パインが持つキュアスティック、パインフルートは先端にダイヤがついた武器。
フルートを吹くように唇へと持って行き、十の指を使ってボタンを押す。
「歌え! 幸せのラブソディ! パッションハープ!」
パッションが持つのは唯一キュアスティックではない、パッションハープという武器。
パッションは、そのハープを奏でる。
「吹き荒れよ幸せの嵐!」
その言葉と共に、ハープを天へと掲げる。
「プリキュア! ハピネスハリケーン!」
その状態で回転を始める。
そして、どんどんとハープを下ろしていく。
何度回転したか、胸元までハープが降りてきた瞬間。
彼女の回転は方向を変え、ナイトたちの方向へと突き出した。
『悪いの悪いの、飛んでいけ!』
その一方でピーチたちはキュアスティックで模様を描いていく。
「プリキュア! ヒーリングプレアー!」
「プリキュア! エスポワールシャワー!」
「プリキュア! ラブサンシャイン!」
ピーチはハートを、ベリーはスペードを、パインはダイヤを。
それぞれがキュアスティックで作った模様を目の前にあられる。
そして、その模様をキュアスティックで押し出すことで、その模様がナイトへと向かっていく。
『フレェェッシュ!』
ハート・ダイヤ・スペードと小さなハートの群れが四体のナイトに直撃する。
或いはピーチとベリーとパインのキュアスティックによる必殺技だけならば逃れることが出来たかもしれない。
だが、パッションのハピネスハリケーンがナイトの行動を阻害する。
そして、四人はそれぞれのキュアスティックとパッションハープを前へ突き出す。
円を描くように回してくことで、ナイトに直撃したハート/ダイヤ/スペードを巨大化させる。
『はあああああああ!!!』
先程の十代の半ばほどの少女が出したとは思えない、雄々しい声。
これがプリキュアの実力か、とディケイドは独りごちる。
ナイトの動きはイマイチだったが、それでも仮面ライダーだ。
それなりの実力は持っている。
一人で戦うよりも、複数で戦って実力を発揮するタイプなのだろう。
「仲間、か」
ディケイドはポツリと呟く。
共に戦い、励まし合い、困難を乗り越えていく。
言ってしまえば、仲間とはそいつの居場所だ。
「ふん……」
渡り鳥であるディケイドには、何とも言えない感情を覚える。
それがどんな感情なのかはイマイチ掴みきれない。
だが、それを考えるとどうも落ち着かない。
「駄目ナツ!」
そんな風にディケイドが考えているところを、何処からか声が響く。
方向は下方、先程ラブたちがペットだと言い張ったディケイドの顔面にダイブしてきた大型のリスだ。
そのリスは尋常ではないほどに焦り切っている。
『素晴らしい……!』
その瞬間に、プリキュアの攻撃を受けて弾かれたはずのナイトが声を挙げる。
いや、それはもうナイトではない。
水銀状の怪人へと変わっていったのだ。
「なっ……! この声!」
「そうナツ! こいつはあの時のアイツなんだナツ!」
ピーチの頭に過ぎったのは、あの時の水銀の怪人の姿。
アレはどんどんと力を吸収し、最後にはプリキュア全員でかからないと勝てないほどに強くなっていた。
まさか、キュアスティックでパワーアップした必殺技を吸収したのだろうか。
だとすると、不味い。
されるがままにピーチたちが主導権を握れていたのも、こちらに必殺技を撃たせる布石だったのだ。
『仮面ライダーカブトの力にパワーアップしたプリキュアの力……! 確かに頂いたぞ!』
興奮したような音色と共に水銀は空中へと消えていく。
このままでは大変な事になる。
あの時と、いや、下手をすればあの時以上の事件が起こってしまうかもしれない。
「早く皆と合流しないと!」
ピーチは慌てた音色で声を掛ける。
パインとパッションはうなづくが、ベリーだけが難しい言葉をして全く別の方向を見ていた。
その様子にピーチは不思議そうに小首を傾げる。
「どうしたの、ベリー?」
「……その前に、この人に話を聞いた方が良いと思うわ。ディケイド、だっけ?」
ベリーの視線の方向は腕を組んだ仮面の戦士、ディケイドが佇んでいる。
そう言えば先程襲ってきたフュージョンの姿も似たような姿だった。
「あの、貴方は……」
「ディケイドだ」
それだけで分かるか、とベリーは眉をひそめて低い音色でディケイドへと問いかける。
「貴方は何者なの? さっきの仮面の奴と、何の関係が?」
「……俺は仮面ライダーディケイド、さっきの奴は仮面ライダーナイトと仮面ライダーゾルダ」
「仮面、ライダー?」
パッションが不思議そうに呟く。
元・管理国家ラビリンスの一員として平行世界の存在を知っている彼女でいても知らない名だった。
その疑問に答えるように、ディケイドが口を開く。
「お前たちプリキュアと同じだ。様々な理由で敵と認識した者と戦う戦士……一括りで説明するのは難しいな」
「えっと、つまりディケイドさんは私たちの仲間、っていうことですか? 私たちと一緒に、さっきの仮面ライダーって言うのと戦ってくれるんですね」
仲間、パインのその言葉にディケイドはマスクの下の顔を歪める。
「やめろ、ムズ痒い。俺はただこの世界でやるべきことをやるだけだ」
「この世界でやること……?」
「プリキュアの世界に仮面ライダーが現れた……俺が現れたからか、それとも現れたものをどうにかするために来たのか。
いずれにせよ、タイミング的にも俺はその原因を探る必要があるってことだろう」
投げ捨てるように呟き、ピーチへと視線を向けた。
「他のプリキュアは何処だ、あの敵についても話してもらうぞ」
◆ ◆ ◆
「ふーんふふふーん♪」
赤桃色の髪をした少女が空を眺めながら、見るからにご機嫌な様子で歩いている。
その周りには同じ年頃の少女が六人、保護者らしき青年が一人だ。
彼女たちもラブたちと同じプリキュア、プリキュア5というグループだ。
先ほどの赤桃色の髪の少女が夢原のぞみ。
橙色の髪をした勝気そうな少女が夏木りん。
黄色の髪を二つにしたこの中で最も幼い容姿をした少女が春日野うらら。
緑色の髪をした落ち着いた少女が秋元こまち。
青色の髪をした年に不相応な落ち着きを持った少女が水無月かれん。
紫色の髪をした背伸びをしたような雰囲気を持つ少女が美々野くるみ。
そして、背の高い端正な顔立ちをした青年が小々田コージ。
彼女たちは傍目からでも分かるほどに、浮き足立った雰囲気が溢れている。
特に元から『抜けている』と言ってもいいほどののぞみなど見ていて危なっかしいほどだ。
「ちょっとのぞみ。あんまりはしゃがないでよ恥ずかしい」
のぞみを見てため息をつきながら、けれども嬉しそうにくるみが呟く。
諌めるというよりは軽口を叩くような、仲の近しい間柄だから口に出来る語調だった。
のぞみを特に怒るようなこともなく、笑いながら振り返る。
「ええー、だって久しぶりに皆に会えるんだよ? ナッツも一緒に来ればよかったのにー」
「ナッツなら後から来るよ、何でも休日の内にやりたい事があるって言ってたね。
大丈夫、シロップと一緒に来るから十分間に合うよ」
「そっかー! えへへ、どうせなら皆で会いたいしね! ……ってたぁ!?」
後ろ向きに歩いていた、人よりも数倍抜けているのぞみ。
そののぞみがそんな歩き方をしていたら通行人と当たってしまうのは当然と言えるだろう。
あちゃー、とのぞみの幼馴染であるりんは顔を抑える。
「こらぁ、のぞみ! すみません、友達が……」
「え、ええ、大丈夫ですよ」
のぞみがぶつかったのは髪の長い二十前後の女性。
門矢士と共に旅をしている光夏海だ。
夏海はなにか情報はないかと歩き回っているところをこうしてのぞみたちと出会ったというわけだ。
しかし、謝れると夏海としても困るところがあった。
何故なら夏海も周囲を見渡しながら歩いていたため、夏海の方にも僅かにも非があるのだ。
「すみません、この子ちょっとはしゃぎすぎちゃうところがあって……ほら、のぞみもちゃんと謝る!」
「ごめんなさい~……」
のぞみが頭を下げて、沈んだ声の調子で謝る。
夏海は、別に構いませんよ、となるべく明るめの声で答える。
そしてもう一度プリキュアのことについて探ろうと思い、七人組の横を通り過ぎて周囲を見渡す。
「……あれ?」
その周囲には、人っ子ひとり居なくなっていた。
おかしい。
確かにあまり一通りの多そうな道には見えない。
しかし、それでも車の一つも通っていないなんて事態があり得るだろうか?
夏海の頭が疑問符で占められる。
その瞬間だった。
保護者のように一番後ろで六人を眺めていた小々田が顔を歪める。
そして。
「なにか出たココ!」
そして、そんな言葉を発して、突然『ポン!』と漫画的な擬音を立てて小々田は姿を消す。
消えた!と思った瞬間、その足元に一匹の可愛らしい小動物がいた。
モフモフとした柔らかそうな大きな尻尾が特徴的だ。
「え? ええ? え?」
だが、夏海は可愛いと思うよりもさらなる混乱に陥ってしまう。
整った顔立ちをした青年が突如として可愛らしい獣へと姿を変えたのだ、混乱しない方がおかしい。
それに加えて、ココの視線を追うと何者かが立っていた。
先程、人が突如として消えたこの場に、だ。
しかもその何者かは夏海も知っている人間だった。
いや、正確に言うならば良く知っている人間に似た何かだった。
「仮面ライダーキバ!?」
そこに立っていたの特徴的なマスクと鎧を身に纏った騎士を思わせる男、仮面ライダーキバだ。
キバの様子とココの言葉、そして夏海の驚愕にただならぬものを感じたのだろう。
のぞみたちは一歩足を引き、素早く変身アイテムであるキュアモを取り出す。
「みんな、行くよ!」
『Yes!』
そして、のぞみの声と共に五人全員がキュアモのボタンを右、左、中央と押していく。
『プリキュア! メタモルフォーゼ!』
それぞれが光りに包まれ、胴、腰、腕、脚にその光が集まっていき、服を作り出す。
襟の立った二の腕までの袖の服と極端に短いスカート、その下にあるスパッツ。
それぞれが色違いに装着される。
「大いなる、希望の力! キュアドリーム!」
夢原のぞみ、大いなる希望の力・キュアドリームには白と桃を基調とした衣装。
「情熱の赤い炎! キュアルージュ!」
夏木りん、情熱の赤い炎・キュアルージュには白と橙を基調とした衣装。
「弾けるレモンの香り! キュアレモネード!」
春日野うらら、弾けるレモンの香り・キュアレモネードには白と黄色を基調とした衣装。
「安らぎの緑の大地。キュアミント!」
秋元こまち、安らぎの緑の大地・キュアミントには白と緑を基調とした衣装。
「知性の青き泉! キュアアクア!」
水無月かれん、知性の青き泉・キュアアクアには白と青を基調とした衣装。
『希望の力と奇跡の光! 華麗に羽ばたく五つの心!』
『Yes! プリキュア5!』
プリキュア5、それが凸凹な組み合わせの彼女たちが抱える共通の秘密。
そして、彼女たちと共にいる美々野くるみもただの人間でない。
何処からか取り出した、パレットのような形状をしたミルキィーノートを構える。
ピピピ、と備え付けの筆を使って右からボタンを押していく。
「スカイローズ・トランスレイト!」
大きな声と共に、くるみの身体が青い光に包まれていく。
やはりプリキュアたちと同じようにその光は服へと形を変えていく。
「青い薔薇は秘密のしるし!」
くるみは胸に手を当て、人撫でする。
すると唐突にリボンに青い薔薇が咲き誇る。
「ミルキィローズ!」
ミルキィローズ、美々野くるみがキュアローズガーデンの青い薔薇の力によって戦う力を得た姿。
単純なカタログスペックならばプリキュア5よりも高く、単独で敵組織の幹部を撃退できるほどの力を持った戦士である。
「プリ……キュア……!?」
夏海はその揃った姿を見て驚いたように呟く。
探していたプリキュアが現れた。
突然起こった目の前の出来事が信じられないのだ。
「ココ様、後ろに下がっていてください! 貴女も!」
ローズはココと夏海に後ろに下がるように言う。
ココも自分が力をもっていないことを自覚しているため、素直に後ろへ下がる。
夏海もなにがなんだか分からないまま、ココと同じように後ろに下がる。
そして、揃った姿でキバを見据える。
キバはベルトに一本の鍵を差し込むことで剣を召喚し、その右腕に鎖が巻き付いていく。
仮面ライダーキバ・ガルルフォーム。
剣を使った近接戦闘を得意とする、機動力とキック力に優れたフォームだ。
身を低くしたまま剣を構えたキバが俊足で移動する。
片手で持った剣を、まず近くに居たレモネードへと振るう。
「きゃあ!」
レモネードは驚いたように悲鳴を上げながら必死で避ける。
近接戦闘はあまり得意ではない。
元々必殺技の性能ゆえかミントと共に他のメンバーのサポートをすることの方が多いレモネードだ。
「とりゃあ!」
そこへ助け舟に入るようにドリームが飛び蹴りを入れる。
だが、ガルルフォームは機動力に優れている。
ドリームの蹴りは空振りに終わった。
とは言え失敗したわけではない、レモネードが距離を取ることが出来た。
そして、ドリームがキバとレモネードとの間の壁となる。
その瞬間にレモネードは腕を目の前で交差させる。
そうすることで胸の蝶と両手の甲の蝶が光を放ち、レモネードの周囲に数えきれないほどの黄色い蝶が現れた。
「プリキュア! プリズムチェーン!」
プリキュア・プリズムチェーン。
幾つもの蝶が鎖を形作り、相手に絡みつくレモネードの必殺技だ。
そのプリズムチェーンがドリームの後方からキバへと向かって放たれていく。
足元に巻きつかれ、キバは大きく体勢を崩す。
その隙を逃しはしない。
アクアがレモネードと同じように胸の前で腕を交差させる。
レモネードの黄色い蝶とは違い、アクアの周囲に出てきたのは水流。
「プリキュア! サファイアアロー!」
アクアがその水流で弓と矢を作り出し、素早く撃ち放つ。
キバは左手に持ったガルルセイバーを左手へと移し、鍵を取り出しベルトへと差し込む。
その瞬間、ガルルセイバーを銃へと形を作る。
銃、バッシャーマグナムでキバはサファイアアローを撃ち落とす。
「はああ!」
しかし、僅か生じた隙に後頭部へとドリームとローズが蹴りを叩き込む。
二人の体重を乗せた蹴りにキバ・バッシャーフォームは大きく身体を傾かせる。
その隙を逃さないとドリームとローズは追撃を狙うが、キバはバッシャーマグナムを連射し追撃を逃れる。
未だにプリズムチェーンで固定されたままだが、バッシャーマグナムによる牽制で距離を稼ごうとする。
「プリキュア! エメラルドソーサー!」
だが、そのバッシャーマグナムによる射撃はミントの作った薄いが固い盾に防がれる。
足をチェーンに結ばれている以上、機動力を使って移動することは不可能。
ミントのエメラルドソーサーに防がれると思いながらも、バッシャーマグナムを連射する。
「プリキュア! ファイアーストライク!」
その隙に放たれるのは、ルージュの炎のボール。
足元に作り出されたその炎球は、サッカーボールのようにルージュによって蹴り出される。
避けることが出来ない上に、バッシャーマグナムを撃っても威力が足りない。
サファイアアローを打ち落とした時のように連射出来れば迎撃も可能だが、この状況では振り向いての一発が限度。
ならば、とキバはベルトに鍵を差し込む。
バッシャーマグナムは巨大なハンマー、ドッガハンマーへと形を変える。。
それを両手で持ち、振り返りながら大きく振り切る。
ドッガハンマーがファイアーストライクにブチ当たる。
「なぁっ……!?」
そして、ドッガハンマーによりファイアーストライクが『打ち返される』。
必殺技を放った後だけあって簡単に動ける姿勢ではない。
「ルージュ!」
そこに助けに入るのはドリーム。
ファイアーストライクの破壊力は仲間であるドリームも良く知っている。
ルージュを押し倒す形で庇う。
「大丈夫!?」
「ありがとう、ドリーム!」
幸い、ファイアーストライクをかすりもしなかった。
そのことにドリームが『ふう』っと息をついた瞬間。
「きゃああ!」
レモネードの悲鳴が響く。
何が起こった、とドリームは視線を移す。
そこには脚に引っかかったプリズムチェーンを手に取り、レモネードを振り回すキバ・ドッガフォームの姿があった。
ドッガフォームは腕力と防御力に特化したフォームだ。
機動力とチームワークによる攻撃を得意とするプリキュア5には、迎え撃つのに適したドッガフォームで行くべきだと思ったのだろう。
ドリームはそれを見て立ち上がり、手の甲の蝶を光らせる。
パワーにはパワー、向こうが迎え撃つと言うのならばこちらから向かっていってやるという腹づもりなのだ。
視線を夏海とココを守るように立っているローズへと動かす。
その意味をローズは理解したのか、頷いて一歩前に出る。
ドリームが走り出す。
光はさらにまし、ドリームの目の前に巨大な蝶が現れる。
その蝶へとドリームは手を差し出し、脚を強く蹴り出して飛び出す。
「プリキュア! シューティングスター!」
それがドリームの必殺技、プリキュア・シューティングスター。
桃色の蝶と共に、宙を飛び突進する技。
だが、キバはドッガハンマーを振るいドリームのシューティングスターを打ち返した。
そのままにドリームは建物の壁へと打たれる。
「ローズ!」
「ええ、任せなさい……!」
ドリームは痛みに耐えながらも、ローズに合図を出す。
その瞬間にローズがミルキィノートを取り出す。
必殺技の用意だ。
プリキュア五人分の力を持つと言うローズの必殺技ならば、キバを一撃で葬り去ることが出来る。
「邪悪な力を包み込む、薔薇の吹雪を咲かせましょう!」
キバが一息ついた瞬間、ローズの高らかな言葉が響く。
マズイと思い距離を取ろうとするが、いつの間にかレモネードだけでなくルージュ・ミント・アクアまでもがプリズムチェーンを抑えている。
さすがに四人のプリキュアの力となるとドッガフォームと言えども上回ることは出来ない。
「ミルキィローズ・ブリザード!」
キバの身体を、一輪の巨大な青い薔薇が包み込む。
それはキバの身体を浄化して行き、砕いていった。
「えっ……?」
その瞬間、プリキュア5とキバの戦いを呆気に取られて見ていた夏海が不思議そうに呟く。
他の人は気付かなかったのだろうか、と周囲を見渡すが不審そうにしているプリキュアはいない。
夏海の目には、キバが口元に笑みを浮かべながら水銀のように溶けていくのが見えたのだ。
最終更新:2010年01月30日 21:42