「ミル!」
そして、それを見届けた瞬間、ポン、という小気味の良い音がなる。
何が起こったのかと視線を音の方へと向けると。
紫の髪の少女が、真っ白な長い耳の人形のような可愛らしい動物へと姿を変えていた。
この美々野くるみという少女、本来の姿をココやナッツと同じパルミエ王国の住民なのだ。
キュアローズガーデンに咲く、奇跡の青い薔薇の力で人間になれるだけ力をつけただけ。
なので、力を使い果たしてミルクという本来の姿へと戻ってしまうのだ。
「え、ええええ!?」
「あたたた……えっと、大丈夫ですか?」
ドリームは強かに打ち付けた腰をさすりながら、動揺しきった夏海へと話しかける。
だが、夏海は惚けた顔をして特に反応を示さない。
ドリームは顔をのぞき込むようにして、夏海の顔の前に手をぶらぶらとさせる。
「あのー、大丈夫ですかー?」
「え、あ、プリキュア!?」
「はい、えーっと、その、このことはご内密に……」
一方でアクアは先程からローズがココと一緒に守っていた女性、光夏海へと話しかける。
だが、夏海が驚いたようにプリキュアと尋ねてきたことに動揺する。
プリキュア5も新聞には乗っているが、学内新聞だ。
ピーチたちと比べると知名度も低い。
だが、何時までも照れているわけにはいかない。
コホン、と可愛らしい咳をレモネードがした後にアクアが真面目な表情で話しかける。
「仮面ライダー、ってなんなんですか?」
夏海が口走った『仮面ライダー』という言葉。
そんなことはプリキュアたちは知らない。
コワイナーやホシイナーと同等以上の力を持っていたあの敵。
未知の敵が現れたのだ、情報を集めたがるのは当然のことと言えよう。
ドリームは知識は足りないと思ったのか口を挟まない。
ただ、他のプリキュアと共に新たな敵がいつ現れても良いように身構えている。
「え、えーっと、その、仮面ライダーっていうのは……そうだ! 早く士くんに知らせないと!」
「士、くん?」
夏海が唐突に出した名前に、アクアは不思議そうな顔になる。
慌てるように夏海はアクアたちに背中を見せて走り出す。
「タコカフェっていうお店に知り合いが居ます! そこに知り合いが居て――――」
タコカフェ、夏海がそう言った瞬間に。
『タコカフェ!?』
「ココ!?」
プリキュア5とココがその言葉に予想以上の反応を示した。
◆ ◆ ◆
「うーん! 今日もいい天気で絶好調なりー!」
電車から四人の少女が降りてくる。
長い髪をした少女が二人と、短い髪の少女が二人。
その中で最も背の高い綺麗なおでこをした長い髪の少女、霧生薫が前に歩く少女へと尋ねる。
「ここが他のプリキュアのいる場所なの……?」
「うん! タコカフェって言う屋台で待ち合わせしてるんだ!」
その疑問の声に短い髪の眉毛が少し太い少女、日向咲が元気よく答える。
薫は、そう、と冷たいようだが確かに期待のあふれた声で呟く。
「満さん、パン焼いてきたんだね」
その横で笑いながら長い黒髪の少女、美翔舞が隣の少女へと話しかける。
「ええ、どんな人かは会ってみないと分からないけど……仲良くなりたいしね」
柔らかい表情をしながら手に持ったバスケットを持ち上げた少女は霧生満。、
背も少しだけ低く、この中では唯一前髪でおでこを隠している。
「チョココロネならなぎささんが喜ぶと思うよ!」
満が笑顔なのが嬉しいと言わんばかりに、咲もこれ以上がないほどの笑みを浮かべる。
どの少女も嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに笑っている。
何も知らない人間から見れば微笑ましい光景であるが、当事者たちにとってただ笑いあうだけでも大変な道程であった。
彼女たちは海原市に住む女子中学生。
会話から分かるように、四組のプリキュアの一組である。
正確に言えば薫と薫の隣にいる咲とは違う短い髪の少女、霧生満はプリキュアではない。
それどころか彼女たちは滅びの力を操るダークフォールというプリキュアと敵対する側の人間だった。
紆余曲折あったものの二人は人と交流することで人と共に生きる喜び知り、プリキュアと和解できたのだ。
「っと、ごめん君たち!」
そんな笑いあってる四人に声を掛ける一人の青年。
スマートなバイクに跨り、手には雑誌と新聞が握られている。
先は不思議そうな顔をして振り返る。
「はい? なんですか?」
「ここからサンクルミエール学園と四つ葉町ってところにはどう行けばいいかな?」
ヘルメットを脱ぐと、咲たちと遜色のない爽やかな笑みを浮かべた青年の顔。
青年の名は小野寺ユウスケ。
プリキュアの情報を求めて、上の二つへと向かおうとしていたところなのだ。
咲は嫌な顔をせずに、ニコリと笑って西へと向かって指を指す。
「ここからだと遠いですけど、サンクルミエール学園にはここから先に行けば……」
ユウスケはメモを取り出し、咲の言葉を記していく。
サンクルミエール学園も四つ葉町もそれなりの距離があるらしい。
とは言え、スーパーマシンであるトライチェイサー2000ならば十分に行き来できる距離だ。
メモをしまい、ユウスケは咲へと礼を言う。
「ありがとう、長い時間を取っちゃってごめんね」
「いえいえ……って、どうしたの? 満、薫?」
咲は少し照れたように笑っていたが、ふと黙り顔を強ばらせた満と薫に気づき不思議そうに尋ねる。
満と薫は咲の言葉を聞いても、顔の強ばりを取らない。
それどころか強引に前に出る。
「み、満さん? 薫さん?」
「気をつけて……変な感じがする」
「人が消えたわ」
その言葉にユウスケと咲と舞は周囲を見渡す。
いつの間にか、駅前に群がっていた人々は姿を消している。
そんな駅前に、突如二つの影が現れていた。
その二つの影が目しできるようになった瞬間に
何故ならば、その二人はユウスケにも見覚えのある姿だった。
「ギルスに……G3、X!?」
それは色合いがないものの、確かに『仮面ライダーアギト』の世界で見たライダーだった。
その二人のライダーはユウスケの反応など気にもとめずに、G3-Xがサブマシンガン、GM-01スコーピオンを連射する。
まだ変身もしていないユウスケと、まだ年若い四人の少女に向かってだ。
「なっ……って、ええ!?」
思わず姿勢を低くするが、その頭の上に銃弾は通りはしなかった。
何事かと目を開けると、そこには服を変えた満と薫が立っていた。
鮮やかな服から、暗い色合いのネックセーターと長いロングスカート。
二人は手を前にかざして、赤黒いバリアを張っていたのだ。
仮面ライダーG3-Xと仮面ライダーギルスはそれぐらいは承知のうえだ、と言わんばかりに動じていない。。
G3-XがGM-01スコーピオンで連射してくる攻撃を、満と薫が滅びの力を使った防御障壁で防ぐ。
コンクリート道路を抉り取る一撃でも砕かれないその障壁はスコーピオンの銃撃にヒビすら入れない。
とは言え、咲や舞を庇ったままではこの防御障壁を解くことが出来ない。
G3-Xとギルスもこのままでは千日手になると感じたのだろう。
ギルスは腰を落として身構え、G3-Xは新たに超高周波ブレードであるGS-03デストロイヤーを取り出す。
その様子に、先程のスコーピオンによる銃撃以上の攻撃が来ることを察する。
咲と舞も剣呑な雰囲気を感じ取り、お互いに顔を合わせる。
「舞! フラッピ!」
「ええ、咲! チョッピも!」
『分かったラピ!』
『任せるチョピ!』
ギュッとお互いの手を握り、クリスタルコミューンを取り出す。
二人はクリスタルコミューンの姿をしている泉の里の精霊、フラッピとチョッピの力を借りることで変身するのだ。
上部に備え付けられたボールを一回転させ、次は円を作るように大きくクリスタルコミューンの持った手をまわす。
『デュアル・スピリチュアル・パワー!』
同時に発したその変身のスイッチの言葉と共に手を前方へと伸ばす。
そして、光がその身体を包んでいく。
天へと登り、落下していく。
「未来を照らし!」
「勇気を運べ!」
光が例のごとく服へと変わっていく。
咲は輝くような黄色を基調とした服とスパッツ。
舞は煌めくような白を基調とした服と天女のような肩飾り。
「天空に満ちる月! キュアブライト!」
「大地に薫る風! キュアウィンディ!」
キュアブライトとキュアウィンディ、滅びの力の化身ダークフォールと戦うプリキュアである。
精霊の力を用いて中遠距離攻撃と防御に優れた、肉弾戦を得意とする物が多いプリキュアにしては珍しいプリキュアだ。
『ふたりはプリキュア!』
その言葉と共に、二人は目つ気を鋭くしたまま、ギルスとG3-Xへと指を向ける。
「聖なる泉を穢すものよ!」
「あこぎな真似は、およしなさい!」
力強い瞳だ、楽しみにしていた再開の日に邪魔をされたのだから当然だろう。
「これが……プリキュア!」
ユウスケは歩みを止め、ぼうっと二人を眺めてしまう。
プリキュアは妙な存在感を持っていた。
それは今まで見てきた仮面ライダーのほとんどが成人していたということもあるのだろう。
中学生ほどの少女がそのままの姿で戦うことに戸惑っているのだ。
「ムープ! フープ!」
「ムプ!」
「フプ!」
ユウスケが呆気に取られていると、突如人魂のような小さな妖精が現れた。
その人魂、ムープとフープが手を上げて大きく叫ぶ。
「月の力!」
「風の力!」
『スプラッシュターン!』
ムープとフープが小型のデスクトップ型パソコンのようなスプラッシュ・コミューンへと身体を移す。
そして、ワイヤレスのキーボードが回転し、ディスプレイから光が放たれる。
その光は真っすぐにブルームの腰へ、イーグレットの左手首へと向かっていく。
光の正体はプリキュア・スパイラル・リング。
プリキュアの能力を底上げし、強力な必殺技を放つことが出来るアイテムだ。
そのスパイラルリングが装着されたのを確認し、ブライトはウィンディへと目で合図する。
「行こう! ブライト!」
「ええ、ウィンディ!」
そのブルームの言葉と共にプリキュアは大きく跳躍する。
G3-Xとギルスは二人の姿を目で追う。
高い、跳んだと言うよりも飛んだと言い換えた方が良いかもしれない。
それもそのはず、彼らは世界の何処にでもいる精霊の力を使って空を飛んでいるのだから。
「薫!」
そのプリキュアに気を取られている隙に、満と薫が左右へと分かれる。
速い。
ギルスたちは反応は出来たものの、直ぐさまに攻撃に移ることが出来ない。
満と薫の手に赤黒い光が走る。
G3-Xの攻撃を防いだバリアと同じもの。
ギルスは嫌な予感を感じ取ったのか、満へと攻撃を仕掛ける。
そのギルスの行動に合わせるようにG3-Xは薫へとGS-03デストロイヤーを持ち走り出す。
ブライトとウィンディは超上空。
あの距離からの攻撃、何が来るかは二人は分かっている。
だからこそ、満と薫の側にいることがなにより安全だと判断したのだ。
まさか仲間が巻き添いになる可能性を考えずに攻撃は仕掛けてこないだろう。
ブライトとウィンディはプリキュアでは数少ない、長距離砲台。
その攻撃は強力かつ反撃不能なものだ。
G3-Xの武器ならば迎撃も可能ではあるが、ギルスの触手では到底届かない。
ギルスの拳が満を襲う。
だが、満はギルスの言葉に手を添えて背中を見せる。
それだけで回転する形となり、回し蹴りを撃った。
ギルスの顎が跳ねる。
が、ギルスはそこで終わらずに顔が上空を見たままにもう一度拳を振り下ろす。
あくまで攻撃を避けるための動きから行った無理やりな攻撃だったため威力が低かったのだろう。
しかし、防御をしている。
誘ったのだ、ギルスの攻撃を。
ギルスの腹部に大きな衝撃が走る。
あの赤黒い光による攻撃だと悟るよりも早く吹き飛ばされる。
「かっ……!」
「くはぁ……!」
腹部だけでなく、背後からも衝撃が走る。
G3-Xも同じように薫の赤黒い光弾で吹き飛ばされたのだ。
そして、直ぐ様に満と薫が巨大な光弾でギルスとG3-Xを包む。
最初にG3-Xの攻撃を防いだ障壁だ。
G3-Xがスコーピオンを取り出し、二発三発と銃弾を撃つがピクリともしない。
「はあああああ……!」
その一方でブライトは上空で力を貯めている。
黄味がかった緑色の精霊の力を込めた光の円、それをどんどんと巨大化させていく。
何かのレンズのようだが、大きさは直径五メートルほどの大きさになっている。
ギルスとG3-Xにもこの四人が何を狙っていたかを理解した。
満と薫が足を止め、ブライトとウィンディが砲撃を決める。
単純だが決まってしまえば強力な戦法だ。
「風よ!」
その間に、後方に備えていたウィンディが暴風を振り下ろす。
立ち上がることが困難なほどの風だ。
或いはギルスとG3-Xが本気で攻撃すれば破滅の力でのバリアも破ることが出来たかもしれない。
だが、ウィンディが放った暴風により動くことすら難しい状況となっている。
「はあああ!」
光の円が直径で10メートルほどの巨大なものになった瞬間。
その円が、浮き出るように楕円を描き。
「っ!」
「ああ……!」
光が飛び出した。
ギルスとG3-Xはその光に押しつぶされる。
暴風は防御することすら許さず、彼らの足を止める。
さらに周囲に張られたバリアは天へと向かって攻撃することすら許さない。
「ブライト!ウィンディ!」
薫は二人へと叫びかける。
まだ、ギルスとG3-Xは生きている。
ブライトとウィンディはゆっくりと頷き、地上へと降り立つ。
地上に降りた二人はスパイラルリングの側にあるリングを取り出した。
そして、ブルームはベルトに、イーグレットはブレスへとリングを装着する。
目を閉じ、ブライトは手を地面へ、ウィンディは空へと向ける。
呼応するように光が溢れ出す。
世界のあらゆる物に住む、精霊の光だ。
ブライトたちは精霊の力を借りて攻撃を放つことが出来る。
今の光はこれまでのそれとは比べ物にならない。
つまり、威力も比べ物にならない、ということだ。
「精霊の光よ! 生命の輝きよ!」
ウィンディの高い声と共に、地面と空から溢れていた光がベルトとブレスへ集まっていく。。
G3-Xとギルスはそれが強大な力の前触れだと直感的に理解する。
だが、満と薫の作った滅びの力によるバリアにより大きく移動することが出来ない。
「希望へ導け! 二つの心!」
手につけられたハートのアップリケからいくつもの光が飛び出していく。
そしてその光は、ブルームとイーグレットの目の前に二つの円を作る。
それがブルームたちの身体の8割を覆うほどの巨大な円になった瞬間に。
『プリキュア! スパイラルスター!』
バッと勢いよく握り合っていた手を解き、大きく後ろへと振りかぶる。
『スプラァァッシュ!』
二つの水流が混じり合い、一つの螺旋を描く光線へと変わっていく。
G3-Xとギルスへと前方へと届いた瞬間に、それぞれが螺旋状ではなく別れることになった。
直撃するのではなく、まるで包み込むように水流が広がる。
滅びの力ではなく、精霊の力に二人は包み込まれてゆく。
ギルスとG3-Xは浄化された。
それを眺めていたユウスケは素直に感嘆の情を覚える。
四対二とは言え、相手は仮面ライダー。
それを圧倒したのだ。
四人全員が中距離・遠距離戦闘型。
だがG3-Xは近距離よりも銃器での遠距離戦闘方が優れており、
それぞれの役割をそれぞれがこなしていた。
幾ら仮面ライダーと言えども、このコンビネーションとスペック相手ではたとえ数が整っても簡単に勝てはしない。
「危ない!」
「え?」
ユウスケはチームワークの取れた戦闘を離れたところから見ていた。
故にユウスケは気づくことが出来たのだ。
遠くから距離を取っていたからこそ、背後から襲いかかろうとするアナザーアギトの存在に。
「変身!」
先程までは存在しなかった腰元のベルトに握りこんだ左拳を添え、右腕を前方に差し出して横一文字に動かしながらユウスケは走り続ける。
そして、一文字が完成すると同時にベルトに添えた左拳へと右拳を持っていく。
それがブルームたちがクリスタルコミューンを交差させるのと同じ変身に必要な動作、ユウスケが変身するためのスイッチだ。
このスイッチを入れることによってユウスケはただの青年から、グロンギと戦うための戦士・仮面ライダークウガへと姿を変えることが出来るのだ。
「はぁ!」
赤い鎧と黒いスーツ、そして金の装飾を施した赤い複眼の戦士。
マイティフォームのままに、クウガはプリキュアたちに奇襲をかけようとしていたアナザーアギトを殴り飛ばす。
アナザーアギトの頬へと直撃したそのパンチの威力は凄まじく、アナザーアギトは縦回転しながら吹き飛んでいく。
その感触にクウガは違和感を覚える。
ライダーにしてはひどく軽いのだ。
「こいつ……そんなに強くないのか!?」
「え? え? ええ!?」
「貴方は……?」
顔に多大な疑問の色を貼りつけたまま、ブルームはクウガを見つめ続ける。
そんな風にブルームが驚いている横で、イーグレットがクウガへと尋ねる。
クウガは拳を見つめていたが、そのイーグレットの声にハッとしたように顔を向ける。
「俺はクウガ。ちょっと訳があって、その、別の世界から来たんだ」
「別の世界って、フラッピたちと同じような?」
「いやあ、なんて言えば良いのか……とにかく俺はいろんな世界を巡って旅をしているんだ」
シドロモドロになりながらも、クウガは自身の状況を掻い摘んで説明していく。
今の敵は仮面ライダーキバと言い、クウガが旅をしてきた世界の戦士だったこと。
自分たちは様々な世界の崩壊を防いできたこと。
他にも門矢士と光夏海という旅の仲間が居ること。
先の経験から、この世界にライダーが現れたのは恐らく自分たちが関わっているだろうということ。
「ひょっとすると、海東さんがまたなにか絡んでいるのかも……」
「かいとう?」
「俺と同じ、仮面ライダーの一人なんだ。仲間、というと少し違うのかもしれないけど」
海東大樹、仮面ライダーディエンドの考えていることはクウガには理解できない。
悪い人間ではない、とは思う。
だが、無条件に助けてくれるようなタイプの人間だとも思えないのだ。
他に気になることといえば、今のG3-Xとギルスとアナザーアギトはまるで銀細工のような姿だった。
ディエンドが召喚するライダーはあのような姿ではない。
シンケンジャーの世界と同じようにディエンドライバーを取られた、というわけではないのだろう。
だが、今は考えている場合ではない。
クウガは変身を解き、小野寺ユウスケへと姿を変える。
そして慌てたようにプリキュアへと言葉をかける。
「とにかく、今は士の所に行こう! 多分、アイツか君たちプリキュアを中心に事件は起こるはずだから!」
「でも私たちも早く他のプリキュアと合流しないと……」
ユウスケの提案にイーグレットが答える。
どうやらこのプリキュアの中では、イーグレットが頭脳を担当しているようだ。
「大丈夫、士はこの近くにあるタコカフェって言うところに居るんだ! そう時間はかからない」
ユウスケはバイクに跨り、ヘルメットを被りながら言う。
この四人は空を飛べる、一直線にタコカフェへと向かえばバイクで向かうユウスケと同じ時間につくだろう。
場所を説明しようと、地図を広げるが四人は声を揃えて驚いたように声を発した。
『タコカフェ!?』
四人の言葉が一斉に放たれる。
いきなりなんだ、とユウスケは動揺する。
そこで少し慌てているような、恥ずかしがるように頭を掻きながらブライトは答える。
「えっと、私たちの行こうとしていたところも、その、タコカフェでして」
◆ ◆ ◆
「ありえなぁーい!」
茶色に染まった短い髪が風に揺られながら、美墨なぎさはカモシカのような健脚で走っていた。
後ろから追ってくるのは、濁った銀色で作られた色の塗られていない未完成の絵のような怪人。
その名は仮面ライダーパンチホッパーと言うのだが、仮面ライダーとは全く縁のないなぎさは知らない。
なぎさに分かるのは奇天烈な格好をした男が、一切の言葉を発さずに襲いかかってきたことだけだ。
ラクロスで鍛えた俊足が虚しく感じるほどのスピードで迫ってくるパンチホッパーに対して、とにかく地の利を活かして逃げ回る。
たった一人のなぎさにはそれしか出来ないのだ。
「だから昨日は早く眠れって言ったんだメポー! ほのかと早くに会ってたらこんなことにならなかったメポ!」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃない! 久しぶりに皆に会えるって思ったら興奮して寝れなかったんだもん!」
裏路地に入り息を殺してパンチホッパーが何処かへ言ったのを見送る。
すると、小声で怒鳴という器用な真似をしている声がなぎさの腰元から響く。
腰元にぶら下げた、一見玩具に見えるそれは実は一つの生き物。
光の園と言う異世界からなぎさの前に現れた『選ばれし勇者』メップルなのだ。
本当の姿は薄いオレンジ一色の人形を思わせる姿である。
なぎさとの相性は良くも悪くも似たもの同士で、こうして口喧嘩をすることが多い。
「とにかくほのかの所に行かないと……!」
「だーかーらー! 早起きしてればこんなことにはならなかったんだメポ!」
「うっさいわねえ! それは分かったって言ってるでしょ!」
そんなことを言いながら、携帯としか見えないハートフルコミューン状態のメップルへと怒鳴りつける。
ちなみにこのなぎさ、率直に言っておツムはあまりよろしくない。
おまけに似たもの同士と説明した通りメップルもなぎさと同じようにおツムは残念な出来である。
その二人が激情のままに怒鳴りあっていれば当然、潜めていた声も大きくなる。
「……」
まだ口喧嘩をしようとしていたが、壁にもたれかかるように座り込んでいたなぎさに影が差し込む。
その影に気づいた瞬間、なぎさはもちろんメップルも口が止まる。
なぎさとメップルはゆっくりと、出来れば見たくないなー、と思いながら首を動かす。
先程まで喧嘩をしていたとは思えないほど、シンクロした動きだ。
やはり似たもの同士である。
「はっ!」
だが、そんな感想など抱いていないのだろう、いつの間にか現れたパンチホッパーは気合の一声と共に拳を振るう。
その勢いよく放たれた拳はなぎさの頭上にある壁へと突き刺さる。
ヒビを入れたのではなく、貫いたのだ。
それだけでパンチホッパーのパンチの威力がよくわかる。
「なあぁ!」
「逃げるメポー!」
なぎさは慌てた様子で四つん這いになりながら裏路地を走り出す。
ゴミ箱を蹴り飛ばしたり、猫を踏みそうになったがそんなことは関係ない。
後ろから追いかけてくるパンチホッパーの怖さと言ったら、そんな世間体がどうでもよくなるほどだ。
やがて、なぎさが裏路地を抜けて閑散とした住宅街に出ると、メップルが弾んだ声をあげる。
「メポ! ミップルとポルンとルルンの気配がするメポ!」
「ホント!? やったぁー、これでなんとかなるよぉ!」
その言葉になぎさも釣られるように弾んだ声を上げた。
彼女は抜けていると言うわけではないが、基本的に楽天家である。
それにほのかと共ならば、戦う力を得ることが出来る。
「そこを曲がったところだメポ!」
メップルの言葉に脚が軽くなる。
ラクロスで鍛えた健脚を最速で飛ばし、角を曲がる。
そこには、見慣れた二人の少女の姿が。
黒い長い髪をした利発そうな少女、雪城ほのかと金色の光るような髪をしたおさげの少女、九条ひかり。
なぎさの親友にして仲間である少女。
特にほのかと一緒ならばなんでもできると思えるほどの間柄だ。
だからこそ、見つけたときには考えるよりも早く大声でその名を叫んでいた。
「ほのかぁ! ひかりぃ!」
「なぎさ!?」
「なぎささん!」
角から現れたなぎさの姿にほのかとひかりも声をあげる。
なぎさは嬉しそうな顔をするが、瞬時に顔を歪める。
ほのかとひかりも走っている。
そして、なぎさと同じように、背後には、銀色の怪人、仮面ライダーキックホッパーがいた。
喜びの表情を歪ませ、半ば目に涙をにじませながら、なぎさは叫んだ。
「ありえなぁーい!」
「なんでなぎさも追われてるの!?」
ほのかもなぎさの背後から現れたパンチホッパーの姿にほのかも叫びを上げる。
結果、なぎさたちはキックホッパーとパンチホッパーに挟み撃ちにされることになった。
「ありえない……なんでこんなことになってるの!? 今日は大事な日だっていうのにー!」
「知らないよ……でも、今はとにかく!」
そう言ってほのかは腰に下げていた携帯電話状の変身アイテム、ハートフルコミューンを取り出す。
それはなぎさの相棒メップルと同じ希望の姫君ミップルの姿。
なぎさも頷き、ハートフルコミューンを手に持つ。
「ロプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その瞬間に、上空から声が響いた。
ハートフルコミューンを動かす手を止め、なぎさとほのかはその声が響く上空を眺める。
聞き覚えのある声だ。
そう思った瞬間になぎさの顔面に柔らかいものがぶつかる。
衝撃に尻餅をつく。
なぎさは顔にぶつかった物をむしりとる。
「なによこれぇ……ってシロップ!?」
「ひどい……! 血が出てる……!」
なぎさの顔にぶつかったのは、シロップと言うペンギンを思わせるぬいぐるみのような動物。
この前の事件で出会った仲間の一人だ。
シロップの両腕からはひどく血が出ていた。
その様子になぎさたち三人は顔をしかめる。
「ロ、ロプぅ!?」
シロップも何か言おうとしていたのか、仮面ライダーを見て怯えたようになぎさの胸の中に逃げ込む。
明らかに恐怖に満ちた様子。
そのシロップの様子になぎさは感づく。
シロップにこの傷を与えたのは目の前のライダーだと。
「まさか、アンタたち!」
「許さない……!」
なぎさとほのかは目を合わせて、力強く頷く。
全てを食い尽くす力と二年もの間を戦った二人には言葉は要らなかった。
ハートフルコミューンにカードを差し込み、手をかざす。
そうすることでハートフルコミューンは光となり天空へと登っていく。
光が登っていく様子を見た後に、なぎさとほのかは手を繋ぐ。
そして、空いた片方の腕を大きく天へと捧げると。
『デュアル・オーロラ・ウェーブ!』
上空から降り注いだ光に包まれた。
その光の中を二人は上昇していく。
光がフリルのついたかわいらしい服へと変わっていく。
なぎさの服は黒を基調として桃の装飾をあしらった短いスカートとスパッツ、そして肩にかかる程度の長さの袖。
ほのかの服は白と基調として青い装飾をあしらった膝丈のスカートと、なぎさと同じく肩にかかる程度の長さの袖。
上空で変身した二人はものすごいスピードで落下していく。
なぎさはバタバタと脚をもたつかせながら、ドンッッッ!!、と激しい音を立てて着地。
ほのかは対照的に静かに着地し、されど衝撃を逃がすようにもう一度ジャンプをして月面宙返りを行う。
「光の使者、キュアブラック!」
「光の使者、キュアホワイト!」
なぎさとほのか、全てを食い尽くす力と戦う全てを生み出す力を持つ戦士プリキュア。
美墨なぎさ、キュアブラック。
雪城ほのか、キュアホワイト。
光の園の希望である二人だ。
『ふたりはプリキュア!』
強い言葉で自分たちの名乗りあげを済まし。
やはり強い目でパンチホッパーとキックホッパーへと指を指す。
「闇の力の僕たちよ!」
「とっととお家に、帰りなさい!」
一方でひかりもポシェットの中から携帯電話のタッチボードのような変身アイテム・タッチコミューンを取り出す。
ひかりはメップルやミップルと同じ、光の園から現れた『未来へ導く光の王子』ポルンと力を合わせて変身するのだ。
そして、蓋を開いて手で撫でていく。
ひかりもプリキュアではないが、志を共とする光の園のクイーンの『生命』だ。
「ルミナス! シャイニングストリーム!」
ひかりの言葉と共に、タッチコミューンから光が放たれる。
その光はやはり身体を包んでいき、服を形作る。
鮮やかな桃の布地と金色の装飾を施した衣装となる。
そして手元には特徴的な、桃色のハートの形をしたハーティエルバトンを持っている。
「輝く命、シャイニールミナス!」
九条ひかりがタッチコミューンにより変身したプリキュアではない光の戦士、シャイニールミナス。
「光の心と光の意志……全てを一つにするために!」
キュアブラック、キュアホワイト、シャイニールミナス。
ザケンナーが登場する際には、他の人間が眠ってしまうため知名度にしては低いが、高い実力を持つプリキュア。
「ルミナスはシロップをお願い!」
「分かりました!」
ブラックはルミナスに声をかけ、腕の中のシロップをルミナスへと渡す。
ルミナスはサポートに優れている戦士だ。
特にバリアも張れることが大きい。
「よぉっし!」
ブラックはポキポキと手を鳴らした後に、腕を前方へと持ってきてファイティングを構える。
ホワイトも僅かに腰を落として、ホッパーズの攻撃へと身構える。
先に動いたのはパンチホッパー。
建物をも砕くその拳をホワイトへと放つ。
だが、ホワイトは背中を見せるようにしてその拳を交わし、振り向きざまに後ろ回し蹴りを叩き込む。
ホワイトの蹴りで前のめりになったパンチホッパーに追い打ちをかけるためにブラックも蹴りを狙うが、キックホッパーの蹴りによって邪魔される。
瞬間、次は一人自由なブラックがキックホッパーの追撃を防ぐために殴りつける。
パンチホッパーとキックホッパーは距離を取り直す。
そして、二人はベルトについたバッタの脚を引っ張り身を低く屈める。
銀色の光が足元へと届く。
―――― RIDER JUMP ――――
―――― RIDER JUMP ――――
その瞬間、機械音が響く。
何かが来ると、今までの経験でブラックとホワイトはそれを確かに感じる。
だが、ホッパーズは低い体勢のまま高くジャンプした。
五メートルは超えているであろう垂直跳び。
そして空中でベルトのバッタを叩く。
―――― RIDER KICK ――――
――― RIDER PANCH ――――
機械音がもう一度響いた瞬間に、ヒヤリと二人の背筋に嫌な汗が走る。
ライダーキックと、ライダーパンチ。
間違いなくキックホッパーとパンチホッパーの最大火力だろう。
「だああああああああ!」
「はああああああああ!」
ブラックはパンチホッパーのライダーパンチを、ホワイトはキックホッパーのライダーキックをそれぞれ迎撃する。
ライダーパンチへと力任せに拳を叩きつけるブラック。
強い威力を持つ二つの拳がぶつかったことにより、衝撃で周囲の建物の窓が割れる。
お互いが強く歯を食いしばり、その拳を押し込んでいく。
力と力、技術の入る余地のない戦い。
「とりゃああああ!」
その拳のぶつけ合いに打ち勝ったのはブラックだった。
思いっきり拳を振り抜き、ライダーパンチを吹き飛ばす。
そして、空いた腹へと蹴りを叩き込む。
テクニックではプリキュアの中でも若干劣る部類に入るブラックだが、ことスピードとパワーに関してはトップクラス。
蹴りでも吹き飛ばなかったパンチホッパーへと固く握りしめた拳を振るっていく。
一撃、パンチホッパーの足が地面から離れる。
二撃、パンチホッパーの身体が前かがみになる。
その二撃でパンチホッパーのガードが完全に消えたことを察したブラックは拳を思いっきり振りかぶり。
「とうりゃああああああああ!!!」
威勢の良い雄叫びと共に、弾丸のように拳をパンチホッパーの腹部に叩き込む。
吹き飛び、建物に埋め込まれるパンチホッパー。
上方より襲いかかるライダーキックに、ブラックとは対照的に自身の体を回転させながら迎え撃つホワイト。
キックホッパーのホワイトの突然の奇行に若干動揺の色を見せるが、既に新たな攻撃に変える時間はない。
そのままに全力でライダーキックの動作へと移るが、ホワイトは回転しながら右手をキックホッパーの左足へと添える。
そして、そのライダーキックの威力で右手が強く押されてさらにホワイトの回転は激しくなる。
「ふっぅ!」
だが、ホワイトの回転とは対照的に、ライダーキックの威力は完全に流される。
非力な印象をあたえるホワイトだが、こと肉弾戦におけるテクニックにおいては他の追随を許さない。
現にキックホッパーのライダーキックもホワイトから外れ、地面へヒビが作っただけだ。
ホワイトはライダーキックが外れたことによって生じた隙を逃しはしない。
がら空きになった首へと後ろ回し蹴りを叩き込む。
「はああああああ!」
完全な不意打ちとなったその一撃にキックホッパーの膝は折れる。
それだけではホワイトは終わらせない。
追撃の腹部へのトーキック。
そして、体がよろけた瞬間にキックホッパーの左足を掴む。
力任せではなく、キックホッパーの体重移動に合わせて脚を大きく上へと上げる。
崩れるキックホッパーを、持てる力を振り絞りパンチホッパーが埋め込まれた建物へと向かって投げつける。
パンチホッパーとキックホッパーが同方向にいる。
ブラックとホワイトは顔を合わせて、合図を送る。
二人は手と手を繋ぎ、空へと向かって大きく腕をあげる。
「ブラック、サンダー!」
「ホワイト、サンダー!」
その叫びと共に、天から雷が落ちてくる。
ブラックには黒い雷が、ホワイトには白い雷が。
二人が雷に呼応するように光を纏う。
「プリキュアの、美しき魂が!」
「邪悪な心を、打ち砕く!」
ギュッと、強くお互いの手と手を握り合う。
そして空いた手、雷のたまった腕を突き出す。
『プリキュア! マーブルスクリュー!』
一年前の二人ならばここで終わりだった。
だが今の二人はここからまだ動作が残っている、より強い必殺技を放つために必要な動作が。
ぐっと勢いよく腕を引き、その手に雷がより強く渦巻いていく。
『マックスー!』
そして、もう一度だけ、腕を勢いよく突き出した。
溜まりに溜まった雷が二人の手から飛び出す。
螺旋を描くように黒と白の雷が混じり合っていく。
やがて螺旋は巨大な一つの雷となり、キックホッパーとパンチホッパーへと向かっていく。
もちろんホッパーたちもただで直撃を受けるつもりはない、腕を前へと出してマーブルスクリューを受け止める。
だが、弱りきったパンチホッパーとキックホッパーでは止めることは出来ず。
二人の仮面ライダーは光へと帰っていった。
「ふう……」
ブラックは長く息を吐いて身体をリラックスさせる。
スポーツをしているため疲れている身体にはどうすれば良いのか知っているのだ。
「ルミナス、シロップは!?」
「大丈夫です、傷はひどいですが直ぐに治療すれば……」
「ま、待つロプ……!」
ルミナスの腕の中でシロップは呻くように言葉を振り絞る。
声を出すのはやめた方が……とルミナスは言いそうになるが、シロップの様子に切迫したものを感じ言葉を止める。
まだ腕が痛むのだろう、シロップは顔を歪ませながらも
「大変ロプ……敵が、敵が現れたロプ……早く、タコカフェに……」
「タコ……?」
「カフェ……?」
「タコカフェに何があるんですか!? シロップさん!?」
◆ ◆ ◆
『プリキュアの力と仮面ライダーの力……素晴らしい……!』
街の超上空で、仮面ライダーディエンドの姿を取ったフュージョンが呟く。
先程、回収したプリキュアの力と仮面ライダーカブトのライダーキック。
ディエンドの力と相まって、それはまるで暴れるようにフュージョンの身体を駆け巡っていた。
フュージョンはニヤリと笑みを浮かべ、両手を前に出す。
幼児を列に真っすぐと並ばせる際に教える、『前ならえ』の状態。
そして、その手と手の間に一つの赤黒い球体を創りだす。
『もう一度』
フュージョンがそう言葉を発した瞬間に、球体は凄まじい速度で落下する。
ただ落下するだけでは出しようがない速度。
その速度で落下した球体は、地面に染み込むように広がっていく。
建物を、植物を、動物を、人間を。
全てを巻き込んで、広がっていく。
フュージョンの目的、全てを一つにするという目的を果たすために動き出した瞬間。
『全てを、一つに……!』
それは、空が黒い雲に覆われた瞬間だった。
To be next ―――――――――――――――――――――――――――
最終更新:2010年01月30日 21:40