情報官の戦い - 土場藩国

情報官にとっての武器はデータである。データを操り、そこから正解を導き出す。
藩国の頭脳である情報局も例外ではなかった。
ここの責任者である朱は、藩国のためになるようにと各地から情報を集めている。
わんわん帝国の資金の流れ、市場、各国の戦力データなどだ。

国内の情報と国外の情報のチェックを行う吏族とも親交が深く、彼女の情報と吏族の情報を照らし合わせて各地の戦力を分析対応するのがこの国の常であった。

今回ジェントルラットの亡命にいち早く気づいたのは彼女であった。
そして、真っ先に藩王代理に情報を提供した。
おりしも司令官に対する懲罰が来るかもしれないということで各国が戦々恐々とし次の矛先はどこかと探している最中であった。
連隊長をしていた国が滅ぶというのはすなわち、中隊長を輩出していた国事態にも何かあってしかるべき、ということである。

「この作戦だとどうだ？」
　一人を脱藩させ、一人を帝国から守るために彼女の情報に頼りきっていた。
　作戦を相談し、実際に行動に移してもらっている。
　すでに各部署の書類の偽造を開始しており、吏族の仕事のとりまとめにも入ってもらっている。
それでいて国としての仕事もこなしているのだから彼女の行動力には頭が下がる。
「悪くないと思います。ただ、失踪というのは少し…」
「死亡とするしかないか」
「今後も考えますと、それが妥当ではないでしょうか」
　ふ、と思い悩む。人を一人殺すか。
　生かすために殺す。

「しらいしは？」
「生きてますが」
「いや、そうじゃなくて…いやいい」
　何かを言いかけて止まる藩王代理。
　帝国からの干渉を避けるためとはいえ、彼を反逆者として確保していることには変わりない。
全てが終わったら酒でも送って謝らせようと思った。とくに藩王から重点的に。

「コーヒーです、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
　眠らずに作業を続ける藩王代理に、朱からコーヒーが差し出される。
　代理はそのまま一気に飲み押して、顔をしかめた。
（水が欲しい。）
明らかに飲み物を飲んで感じる感想ではない感想を抱く。
「な…んだ、コレ」
　まさかとは思うが、コップの底に赤い粉が浮いている。
「チリペッパーコーヒーです。お好きだと伺いましたが　高級品ですよ、ハバネロ」
「……い、いや。すまない。次からは普通のにしてくれ」
　咳き込みながら藩王代理が呟く。
「ヤツめ…」
　お決まりどおり藩王のホラであった。分かっててやっている気がするが気にせずに飲み干す。疲れているのだろう、眠気が飛んで丁度よかったという思考が浮かんで慌てて否定する。
完璧に遊ばれているような気がした。

藩王による都市の訪問。及びシュワの脱藩が開始されるまであと数時間を切っていた。