第3部 政策面から見る関西産業

(注:図表3-2から図表3-5までは省略しています。トップページにアップロードしてるwordのデータには入ってるんで)

 

 
 この章では政策面から、現在の関西産業、及び関西経済について分析していく。産業発展には政策的な支援はつきものであり、特に現代社会においては必須である。そこからアプローチし、他の地域と比較検証をしていくことにより、関西経済の強み・弱みを考察する。
 
 
3-1 産業クラスター政策

 ここでは主に、経済産業局の「産業クラスター計画」が展開している各クラスターについて言及していく。

 
 
3-1-1 関西における産業クラスター展開
 
近畿地域では、第1期(2001~2005年)として「近畿バイオ関連産業プロジェクト」「ものづくり元気企業支援プロジェクト」「情報系クラスター振興プロジェクト」「近畿エネルギー・環境高度化推進プロジェクト」の4つのプロジェクトを展開してきた。
その第1期における事業成果と課題を踏まえ、第2期(2006~2010年)では、プロジェクトの再編、重点テーマによるクラスターの形成、選択と集中による事業展開、の3点によって、産業クラスターの成長を促進していこうとしている。
具体的には以下の3つがある。
 
・「関西フロントランナープロジェクト Neo Cluster」
(モノ作り、情報系、エネルギー分野を統合、近畿経済への波及効果の高い次世代産業を創出)
・「関西バイオクラスタープロジェクト Bio Cluster」
・「環境ビジネスKANSAIプロジェクト Green Cluster」
 
 これら3プロジェクトの活動を通じて、近畿地域が新事業・新産業が自律的に湧出する地域とし、日本経済の産業競争力に大きく貢献することを目指しているのである。


312 他地域のクラスターとの大まかな比較

図表31 各地域のクラスター一覧

出典:http://www.cluster.gr.jp/plan/index.html(産業クラスター計画)より作成


 

産業クラスター計画では大きく、ものづくり・IT・バイオ・環境の4分野でクラスターを分野分けしている。図表3-1を見ると、関西のクラスター政策は他分野に渡ってバランスよく展開していることがわかる。ものづくり・IT・バイオ・環境全ての分野をカバーし、広く進めていることが、関西のクラスターの特徴であるといえるだろう。また、第2期に突入したこともあってか、目的や方向性がより明確化されている。
 日本経済において主要な三大地域と言える、関東・中部・関西間で比較してみると、やはり上述のとおり、ものづくり関連のクラスターが多い関東・中部に対して、バランス良く全分野に展開しているのが関西のクラスターの特徴である。また、これら3地域の中で環境クラスターを展開しているのは関西のみである。人口過密地域において、環境分野の事業はこれから特に重要となってくる。いわゆる大都市である、政令指定都市が多く含まれるこの3地域の中で、関西のみが環境分野のクラスターを展開しているのは注視すべきところである。
 
 
3-1-3 分野別の考察
 
 次に、分野別に関西の3クラスターを具体的に考察すると同時に、他地域のクラスターと比較検証してみる。
 
○ものづくり、IT分野
 前章までで述べてきたように、関西には製造業が多い。例えば東大阪における製造業の中小企業集積のように、ものづくり分野を推進するための下地は整っている。業種が特化していないことは多彩な産業において独自性の高い企業が多いことでもある。また、個別に得意分野を持つ企業が集積していることから、他の企業や研究機関との連携が可能である。この2点から、クラスターとしてネットワークを形成することで、多彩なニーズに対応できる、強力な産業集積を生み出すことが可能である。一方課題としては、その多彩なニーズに対応するための機能や新技術創造への支援が不十分である、後継者・技術者不足であるなどが挙げられる。しかしこれらは逆に、人材育成機能、インキュベーション施設の整備など、クラスター政策によって改善可能である。
 このように、関西のものづくり分野はクラスター政策を行うのに非常に向いている。これに加えて「関西フロントランナープロジェクト」では、情報系産業分野、エネルギー分野を統合することで、次世代産業の創出を目指しているのである。具体的な事例では、航空機部品産業のクラスターを形成するプロジェクト、「次世代型航空機部品供給ネットワーク(通称OWO)」でがある。関西フロントランナープロジェクトでは「特定コミュニティ」の認定を受けている企業グループは多数に昇るが、OWOはその代表格として、精力的に活動を続けている。航空機産業は、ものづくりの世界においては最も高い品質や製造責任が求められる分野であり、ここに参入できればどんな産業分野でも通用する信頼性を勝ち得たこととなる。しかし、高い技術力を持っているとしても、中小企業が参入していくにはハードルが高い。これを乗り越えるために関西のものづくりの力を集結させるこのプロジェクトは、まさに産業クラスターの典型的なかたちであると言える。また、販路開拓支援の事例として、「情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)」がある。これは、ベンチャーや大学から製品や技術を、産業クラスター関係機関の推薦により大手IT系企業に提案する仕組みである。ベンチャー企業はリスクの高い商品化・市場投入をするのが困難なため、大手企業とコラボレーションすることが考えられるが、その際の、適当なコネクションがない、じっくり評価してもらえない、といった課題を解決するのに役立っている。また、「情報家電」分野だけではなく、IT分野やメカトロ分野及び素材など広く提案可能である。
このように、関西フロントランナープロジェクトは単なるものづくりだけではなく、複合的な形をとっているため、他のものづくり分野のクラスターと比較するのが難しい。あえて挙げるならば、現状では中部の「東海ものづくり創生プロジェクト」が近い形をとっている。豊田中央研究所を中心とした製造業の技術集積という背景や重点産業分野、クラスターの規模などが比較的近い。産業クラスター計画の第2期として、これからの発展を比較していくことで、この分野のクラスターのあり方が見えてくるかもしれない。
 
 
○バイオ分野
 この分野では多くのデータが入手できたため、定量的な比較を行う。またバイオ分野(=ライフサイエンス分野)は欧米などの諸外国でも力を入れているため、同時に海外のバイオクラスターのデータも記載して比較する。
 まず前提として、関西のバイオ分野の下地はものづくり分野よりも強固である。武田薬品工業などの全国トップレベルも含めた多くの製薬企業が集積しているだけでなく、外資系有力製薬メーカーも大阪・神戸等に進出しており、国際的にも医薬品関連産業集積拠点として知られている。また、大阪大学をはじめ有力な教育機関がそろっており、大学発バイオベンチャーも多く、その受け皿であるインキュベーション施設も充実している。
 以上の背景から、関西のバイオクラスターの競争力も実際に強い。いくつかの項目でそれを示し、クラスターの競争力・優位性の比較を行う。

 まず、各クラスターに集積するライフサイエンス研究者(大学、公的研究機関、企業研究者全てを含む)数について比較を行った(図表3-2)結果、日本の各クラスターは、他の地域と比較して、研究者の集積規模が大きいことがわかる。関西は関東に次ぐものの、世界と比べるとはるかに多くの数値を示している。
 次に、各クラスターに参加している研究機関数を比較した(図表33)ところ、研究者数同様、海外クラスターと比較して、日本の各クラスターの集積度が高いことがうかがえる。特に、名古屋大学等の研究機関が立地する中部(東海)と、大阪大学・京都大学・神戸大学等の研究機関が集積する関西の、2つのクラスターに立地する研究機関数は、米国メリーランド州、サンフランシスコ地域に匹敵する数となっている。こちらも関西は国内では2番手ではあるが、その優位性がわかる。
 続いて各クラスターに参加している企業数で比較(図表3-4)すると、こちらも関西は関東に続き2番手ではあるが、差はそれほど大きくはない。また、サンフランシスコの企業数が極端に大きいものの、世界的にも平均的なレベルには届いている。
 最後に各クラスターの売上高を比較(図表3-5、注:このデータは出所元が入手できたもののみであるため、比較対象が少ない)すると、関西は国内ではトップとなった。海外と比較してもサンフランシスコと同等の数値であり、十分に高い値であると言える。

 以上の結果から、関西のバイオクラスターの競争力・優位性は比較的高いことがわかった。特に売上高については、国内では群を抜いている。海外と比較しても遜色のないレベルであり、産業クラスターによるバイオ分野は、関西の強みと言ってよいだろう。
 
 
○環境分野
 環境分野のみを扱ったクラスターを展開しているのは、関西、中国、九州の3地域だけである。それぞれ、参加企業数は143、100、(約)300社であり、平成18年度実績としての新事業開始件数は253、260、121社となっている[1]。どちらも2番手ではあるが、数値としては低くはない。また前述の通り、関西には有力な大学が多くそろっているので、高度な先端技術を利用したエコ産業の排出が期待できる。1つ事例を挙げると、「微生物機能を用いた排水からのレアメタル回収技術開発の推進」がある。これはNPO法人資源リサイクルシステムセンターのバイオ環境WGで、排水中に含まれるレアメタルの一種セレンを、微生物を活用して回収する技術開発の取り組みである。推進にあたっては「平成19年度地域新生コンソーシアム研究開発事業」も活用し、大阪大学大学院池教授の指導の下、企業、大学、支援機関が一体となり実用化に向けて取り組んでいる。
 3-1-2で述べたように、環境分野は関東、中部では行われていない。好調の続くこれらの地域にはない分野として、関西の強みになり得る可能性は十分ある。
 
 
 
3-2 観光政策
 
 関西には観光地が多い。東京に次ぐ大都市である大阪はもちろん、歴史的文化財が多く存在する京都、奈良といった具合である。観光産業は地域のイメージがよくなるだけでなく、人が集まることで様々な波及効果が生まれ、経済の活性化にもつながる。そこで観光政策に着目してみる。
 
 
3-2-1 関西観光振興議員連盟
 
 まず、「関西(近畿)観光振興議員連盟」による関西の活性化に向けた観光政策である。関西観光振興議員連盟は、観光振興を素材とした関西活性化や広域連携を基本理念とし、議員や関係団体との意見交換や現地研究会を行い、関西観光宣言の発信、シンポジウム開催、各種出版物の発行により、国へ政策をアピールしている。そして、観光振興に関する統一条例の制定や東アジア各国へのプロモーション実施を提言している。3年にわたる議論の結果、次の4つの指針を開始することを決定した。
1、関西の持続的な発展を図るための連携を
2、戦略的な海外誘客の推進を
3、ホスピタリティの向上を目指した環境づくりを
4、将来の観光振興を担う人材育成を
1は、各府県の観光の経験、知識、情報を各府県間で交換し、地域連携することで観光振興を通じた持続的な発展に貢献するとしている。2は、関西はアジアとの歴史や交流が深いことからアジアを中心とした海外誘客を戦略的かつ多彩な事業展開、効率的な情報発信・PRを推進するとしている。3は、国内外からの旅行者に優れた利便性や快適性、安全性を提供することが、関西全体の心象を左右する重要な要素であるとし、交通体系の整備や施設のバリアフリー化、良好な景観の形成、災害時の観光客支援、案内やサインなどの情報提供基盤の充実、おもてなし意識の醸成など、関西機間との連携を図りつつソフト・ハード両面でホスピタリティの向上を推進するとしている。4は、地域規模の連携を進める中で新しい観光振興の将来を担う人材が不足しているとの認識から、大学等の高等教育機関における観光や地域文化関連の口座開設を通じて、地域における観光分野の人材やリーダーの育成を図るとしている。
 
 
3-2-2 京都の観光政策
 
 京都では、2007年9月より「歴史都市・京都の保全と再生」を目指して新景観政策を開始している。これは、近年の高層ビルの急増によって、京都の歴史的な景観が失われていっていることに危機感を持った京都市が打ち出した政策である。新景観政策の概要は、次の通りである。まず、歴史的な京都の町並みを保全するため、市街地のほぼ全域で建築物の高さやデザイン規制を強化する政策となっている。高さ規制を現行基準より1ランク引き下げるほか、和風の住宅デザイン基準も新たに導入し、屋上の広告看板を全面禁止するなど屋外広告物の規制も強める。これは、大都市で全市的に景観規制を強化する前例のない取り組みである。
 詳しい条例内容は次の通りである。高さ規制は市街地の約3割で強化する。従来の5段階規制を6段階に再編し、最も高い45メートルを31メートルに引き下げ、市中心部の幹線道路沿いの「田の字地区」などで適用。ビルやマンションなど最高でも十階程度に抑える。 デザイン基準の見直しでは「美観地区」「建造物修景地区」など従来の一種から5種の段階別規制を撤廃し、新たに「歴史遺産型」「岸辺型」など12の類型を設けた上で、76の地域別に細かく再編、拡大するほか、山麓部などで自然との調和を求める「風致地区」も範囲を広げる。 また、鴨川河川敷からの五山送り火の眺めなど38カ所の視点場を設定し、眺望を阻害する場合、建築物の高さやデザインも規制する。屋外広告は屋上設置と点滅照明による装飾を禁止するほか、面積の縮小や設置場所の高さ引き下げなどの基準も見直す。
 京都市は、今後、既存の建築物を建て替える場合は地域によって認定が必要になるとし、旧基準の屋外広告は最長でも7年後には撤去する予定である。 また、京都市は景観部門の職員を増強し、専門家から政策への助言を受ける仕組みも整えている。
 成果としては、不動産経済研究所が発表した11月のマンション市場動向調査結果によると、京都市内の新規販売戸数は前年同月比30.6%減の75戸であった。
 
 
 
3-3 企業支援政策
 
3-3-1 関西の優遇制度
 
 大阪府では以下の優遇制度がある。
 
先端産業補助金
大阪産業を牽引する先端産業の企業立地を促進するため、府内の補助対象地域に立地する企業が、バイオ・ライフサイエンス、ロボット、情報家電、新エネルギー等の分野のうち、先端と認める事業を行う際に必要となる経費の一部を補助するものである。具体的には「家屋や償却資産の取得にかかる経費の5%」「家屋賃料の50%」となる。これはシャープが利用している。
 
企業立地促進条例
平成19年4月制定。先端産業の誘致とともに、大阪でがんばる中小企業等を応援し、工場等の立地促進を図ることをしている。同条例の制定と併せて産業集積促進税制を改正し、市町村の工業振興やまちづくり施策と連携して、既存の工業集積の維持・促進を図ることを目的に、「第二種産業集積促進地域」の制度を創設した。この第1号として八尾市・堺市・高石市の地域を指定し、続いて東大阪市も指定された。
 
先端研究補助金
大阪には、ものづくりを担う幅広い産業と、大学や公共、民間の研究機関など、ものづくりを支える人的・技術的基盤が厚く集積している。このような大阪の強みを活かして、ものづくりを支える研究開発機能の集積を図るため、研究開発施設の新築・増改築を伴う投資に対し補助を行う。具体的には研究開発を行う家屋および償却資産の取得に係る経費の10%(最大1億)である。
 
 
3-3-2 企業誘致支援策
 
不動産取得税の軽減(産業集積促進税制)
 「大阪府創業及び産業集積の促進に係る法人の事業税及び不動産取得税の税率等の特
例に関する条例」を平成13年4月に施行。産業集積促進地域における土地や家屋の
取得に係る不動産取得を軽減する特例措置を設けている。(平成22年3月31日まで)
 
貸付料の減額制度(阪南港新貝塚埠頭)
 一定の要件を満たし、平成15年7月1日から平成25年3月31日までの間に締結する新規貸付契約について、貸付料の5年間分を1/2減額する措置を設けている。
 
 
3-3-3 企業誘致のあり方
第39回外資系企業の動向(経産省)によると外資系企業の都道府県別分布は2,230社中、東京都が1,564社(70.1%)、神奈川県が224社(10.0%)である。大阪は147社(6.6%)にしかすぎない。地方自治体としては、外資系企業の中でも製造業の誘致を望んでいる。雇用増を期待しているのであろう。また、外資系企業が工場を建てる場合の決定要因は「希望する敷地面積、建物面積が確保できる」が24.0%で最も高い比率となっている。
「外資系企業総覧」(2006年版)によると自動車部品、電気・同部品、機械・同部品、精密機器及び医療機器という、工場を持つ可能性が高い業種を調べると、外資系企業356社中工場を持つのは102社で、そのうち東京、神奈川に工場を持つのはそれぞれ5社と13社である。残りは全国に分散している。つまり本社は東京や神奈川に置くが、工場は広い敷地を安く手に入れることができる地方に置く。
 外資系企業が日本に進出する際のパターンとして「販売拠点を設立することにより、日本市場に参入する。その後、製造、サービス、製品開発と順次拠点の機能を揃えていく」という過程が、ジェトロが2005 年実施した「第11 回対日直接投資に関する外資系企業の意識調査」でわかる。
 つまり、進出当初は「販売拠点」からはじめても、その後「製造、サービス、開発」拠点と拡大している事実をみると、地方での外資誘致活動は販売拠点の誘致でも一向にかまわない。その後、製造拠点から開発拠点へと発展していくからである。地方の誘致活動は2 次投資の誘致に重点を置く方が展望が開ける。
 
 
 
秋学期以降の取り組み(武田の個人的メモ)
 
 3-2、3-3の内容の充実。この2項目は突貫で用意したのでほとんど未完状態です。具体的には他県の似たような事例と比較、さらに詳しい事例の列挙など。場合によってはまるまる別の内容に差し替えるかもしれません。

 3章の構成に関しては(内容が変わったとしても)3項目でまとめます。正直他の章と比べるとそんなに重要ではないし、比較的早めに終わると思うので、その分1章、2章の方に人手を回そうと思ってます(僕の独断です)。



[1]http://www.cluster.gr.jp/index.html、産業クラスター計画、平成20年7月25日


 

最終更新:2008年07月26日 21:02